転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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68話 強襲! フレイザード

「魔物と同じ道を歩むくらいなら、人間として飢えて死にましょう!」

 

レオナ姫は、塔に駐留するパプニカの兵達を前に、団結することの必要性を説いていた。それは、数少ない食べ物をめぐって奪い合いを始めたパプニカの兵達を諌めるために放った言葉だった。

 

パプニカの兵達は、レオナ姫の前向きな明るさと、そのリーダーシップに希望を捨てずにいた。

 

しかし、突如としてその希望を打ち砕く声がバルジの塔内に響きわたる。

 

「クックックック! つまらん仕事だと思っていたが、小娘にしてはなかなかの統率力じゃねえか! こいつは思ったより、でかい獲物だったかもなぁッ……!」

 

「何者だ!」

即座にパプニカ王国の誇る3賢者の2人、アポロとマリンがレオナ姫の前に出る。

 

「俺の名は、氷炎将軍フレイザード! 勇者じゃなくて残念だったな、お姫さんよ!」

 

それは、地底魔場の闘技場に姿を現した氷炎将軍フレイザードであった。

 

フレイザードは、側にいた2人のパプニカ兵をその両手で掴み、左手でつかんだ兵士は炎で、右手でつかんだ兵士は凍気でその全身を包み込んだ

 

「ぎゃあー!」

 

「ぐあー!」

 

炎に包まれた兵士と、氷漬けにされた兵士が苦悶の声を上げる。

 

「スタン! レスター!」

2人の兵士の名をアポロが叫ぶが、既に2人は絶命したのか返事を返すことは無かった。

 

「おのれー!」

フレイザードによってボロ雑巾のようにうち捨てられた2人の亡骸を見て、アポロが激高する。

 

「アポロ、落ち着いて!」

そんなアポロを、マリンが冷静になるように諭す。

 

しかし、その間にもフレイザードは次の行動に移っていた。

フレイザードは凍気と炎を併用した攻撃により、パプニカ兵士の纏う鎧の強度を低下させた上で、まさに鎧袖一触の如くレオナ姫を守る兵士を打ち倒していく。

 

アポロはマリンの言葉に幾分冷静さを取り戻し、フレイザードが巧みに金属の弱体化を誘発した

攻撃を行っていることに気がついた。

 

「マリン! 俺は右半身の氷部分を狙う! 君は左半身を!」

「分かったわ、アポロ!」

 

そして、アポロは右半身に対して火炎呪文(メラゾーマ)を、マリンは左半身に対して氷系呪文(ヒャダルコ)を唱えた。

 

しかし、フレイザードはそれを左右の手を交差し、左半身の炎の手で火炎呪文(メラゾーマ)を、右半身の氷の手で氷系呪文(ヒャダルコ)を受け止める。

 

「「な!?」」

 

「カーカッカッカ! こいつは良い。パワーを分けてくれるというわけかい?」

 

自分達の魔法で逆に敵を強化してしまい、悔しげに呻くアポロとマリン。

 

 

「カッカッカッ! 弱い、弱すぎるぜー! さあ、今度はこちらの番だ!」

フレイザードはそう叫び、口から炎の息をレオナ姫達に浴びせかける。

 

しかしそれに対して、アポロは咄嗟に防御光幕呪文(フバーハ)を唱えてその攻撃を防ぐことに成功する。この防御光幕呪文(フバーハ)の魔法は、3賢者でもアポロにしか使用できない高度な魔法であった。

 

「カッカッカ。防御光幕呪文(フバーハ)を使うとはなかなかやるじゃねえか。だが、これならどうだ?」

 

フレイザードは、自身の左手を顔の前に持ち上げ、一本一本の指に炎の塊をチロチロと灯していく。

 

「クックック……! さあ、喰らいな! ――五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)!!」

 

その声と共に突き出したフレイザードの左手から、巨大な5つの火の玉がとぐろを巻きながら、レオナ姫達に襲いかかる。それは、フレイザードの必殺の一撃、火炎呪文(メラゾーマ)の5発同時発射であった。

 

「くっ! 防御光幕呪文(フバーハ)!」

 

3賢者筆頭格のアポロがその攻撃に対して、再度防御光幕呪文(フバーハ)を展開する。しかし、アポロの展開したその防御光幕呪文(フバーハ)は、フレイザードの放った五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)に対しては余りにも無力だった。

 

一瞬、防御光幕呪文(フバーハ)による光幕が効力を発揮したものの、すぐにガラスが割れるかのような甲高い音が響き、アポロやレオナ姫を含めたパプニカ兵士達にその5発の火炎呪文(メラゾーマ)が襲いかかる。

 

「ぐあぁっー!」

「きゃあー!」

 

すさまじい業火にさらされ、悲鳴を上げるレオナ姫やパプニカの兵達。皆、激しいダメージを受けて起き上がることすらできない。

 

「クックック……。多少はやるかと思ったが、賢者といってもこの程度かよ。拍子抜けも良いところだぜ」

 

フレイザードは倒れたレオナ姫のもとに歩み寄る。そして、足下にうずくまるレオナ姫を見下ろし、氷で構成された自身の右手に槍状の氷の塊を創出した。

 

「最後に何か言い残すことがあれば、聞いてやるぜ?」

 

「必ず現れるわ! あんた達に牙をむく者達が! 人間が誇りを失わない限り……!!」

レオナ姫は、フレイザードを睨み付け気丈に言い返すが、フレイザードはそんな彼女の言葉をあざ笑う。

 

「……ケッ! 呆れた気丈さだぜ!! これから死ぬっていうのによ! あばよ、お姫様! せいぜい気取りながらあの世へ行きな!!」

 

フレイザードの右手に握られた氷の槍が振り下ろされる。

 

――その時だった。

 

突然フレイザードの右肩に、パプニカ王家の紋章が刻まれたナイフが突き刺さり、その行動を阻害した。

 

「な、何だと!? こいつは、まさか!?」

 

フレイザードは、驚愕しつつ天井に続く梯子に目をやる。

 

そこには、自身が地底魔場の闘技場で始末したはずの勇者と賢者がいた。

 

「ダイ君!」

レオナ姫は、たくましく成長したダイの姿に喜色を浮かべた。

 

 

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「ダイ! 俺はレオナ姫の守りにつく! フレイザードをいったん後退させてくれ! 直にマァム達も来るから、無理に突っ込まなくて良いからな!」

 

「分かった!」

 

ダイは俺の指示にそう返事を返し、フレイザード目掛けて突っ込んでいく。

 

「貴様! どうして生きてやがる!」

 

フレイザードは自身に突き刺さったナイフを振り払い、その右手にあった氷の槍をダイに投げつける。しかしダイは慌てることなく、その氷の槍を右手に発動させた火炎呪文(メラ)で相殺し蒸発させて防いだ。

 

「レオナに手を出したら、ただじゃ済まさないからな!」

 

そう気炎を上げたダイは、鋼の剣を振りかぶってフレイザードに切りつける。

 

俺はその様子を横目に見ながら、レオナ姫の前に移動した。前方に倒れている2人の兵士は残念だがもう駄目だ。1人は黒焦げ、もう1人は氷漬けになっていて既に絶命していると一目で分かる。黒焦げの遺体から発せられる異臭が鼻を漂う。……きっついなー。こんな匂いに慣れたくはなかったな……。

 

俺は、このフロア全体を視界に収めた。他の兵士は、鎧や武器を失っていてダメージを受けてはいるものの、かろうじて命は取りとめているように見える。だけど、何をされたのか火傷がひどい。急がないと……。

 

「タァー!」

ダイは上手くフレイザードをパプニカの兵士達から遠ざけるように立ち回っている。上手くなったな、ダイ。

 

「クッ! 死に損ないめー! だったらもう一度これを喰らわせてやるぜ! メ・ラ・ゾー・マ!

思いのほかダイを手強いと感じたのか、フレイザードが左手の指に炎を1本ずつ纏わせ始めた。

 

――! あれは!

 

「ダイ! 俺の後ろに!」

 

その声に、ダイは直ぐにバックステップで俺の後ろに移動する。フレイザードがそれを放ったのは、ダイが俺の後ろに移動したタイミングとほぼ同時だった。

 

「喰らいな! ――五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)!!」

 

「――防御光幕呪文(フバーハ)!」

 

俺はフレイザードの五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)に対して、防御光幕呪文(フバーハ)で対抗する。

 

「いけない! それでは駄目だ!」

 

苦しげに倒れている人達の一人から、そんな声が飛んだ。パプニカ3賢者の一人アポロさんだろうか? 

 

だが、大丈夫なはずだ。

確かに防御光幕呪文(フバーハ)は、ブレス攻撃は防げても魔法による攻撃はほとんど防げない。しかし、俺の防御光幕呪文(フバーハ)は呪文の術式をいじっている特別製だ。

魔法力で遅れをとらない限り、魔法による攻撃が俺の防御光幕呪文(フバーハ)をぶち抜くことはない。実際、デルムリン島ではハドラーの火炎呪文(メラゾーマ)を俺は防御光幕呪文(フバーハ)で防いでいる。

 

「カーカッカッカ! 馬鹿め! 吹っ飛びな!」

 

五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)が俺の展開した防御光幕呪文(フバーハ)と激突する。瞬時に狭い塔の最上階に凄まじい勢いで炎が燃えさかり、なおも収まりきらない炎が窓や天窓から勢いよく噴出する。

 

そして、徐々に俺の展開した防御光幕呪文(フバーハ)が押され始めた。光幕の隙間を突破した熱気が、僅かに俺の頬を舐める。

 

――ちっ、確かに大した威力だ。ハドラーの火炎呪文(メラゾーマ)はこれで防げたんだがな……。

 

だが、俺にはまだ余力があった。俺は右手で放出している防御光幕呪文(フバーハ)の威力を、現時点で防御光幕呪文(フバーハ)に対して行える魔力圧縮限界である3倍にまで跳ね上げた。そうすることで、ようやく五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)の威力を完全に遮断することができた。

 

よし、これで安定した。もう俺の頬には、熱気は届いてこない。

 

俺は防御光幕呪文(フバーハ)を維持しつつ、保険として残しておいたもう1手、左手を背後のレオナ姫達に突き出して、広域回復呪文(ベホマラー)を唱える。

 

俺の左手から放出された緑色をした優しい光の粒子が、レオナ姫を始めとする負傷した兵士達に降りかかる。

 

「こ、これは……」

「広域回復呪文なんて、聞いたことが無いわ……」

背後にいるアポロさんとマリンさんらしき男女から、そんな感嘆の声が上がる。

 

そして、五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)の脅威が途絶えたタイミングで、俺は防御光幕呪文(フバーハ)の展開を解除した。

 

五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)に絶対の自信を持っていた様子のフレイザードが、そんな俺達の様子を見てわなわなと震えている。

 

……甘いな、フレイザード。高々生まれて1年足らずの生命体が、純粋な魔法戦で俺に勝てると思うなよ。

 

「し、信じられねえ! 俺の五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)を防いだだと! たかが人間のくせに!!? ――!」

 

「――フレイザードォッ!!」

 

自身の必殺の攻撃を防がれ動揺の見えたフレイザードに、突如ヒュンケル、もとい、ヒューイが斬りかかった。

 

どうやら気球組もたどり着いたようだ。続いて、マァムとエイミさんが天井に空いた穴から降りてくる。その後ろには、バダックさんとその他の兵士の姿も見える。

 

「バダックさん! ここは大人数では戦えません! バダックさん達は上で待機をお願いします。それと、負傷者が大勢います。もう一つの気球にも火を入れておいてください!」

 

俺はバダックさん達に声を張り上げる。俺の声が聞こえたらしいバダックさんは、「分かった!」と答えて屋上に戻っていく。

 

その間にダイは、ヒューイと共にフレイザードに斬りかかっていた。

 

「ポップ! ――レオナ姫は!?」

 

俺の隣に来たマァムがレオナ姫を心配していたから、俺は視線でレオナ姫を指し示して、無事だと伝えた。

 

俺の広域回復呪文(ベホマラー)によってダメージから回復したレオナ姫が立ち上がり、状況を確認する。

「あなた達は、ダイ君の仲間・・・…で、良かったのかしら?」

 

「ええ、私達はダイと同じくアバン先生の弟子です。エイミさんの案内でここまで来ましたが、まさかこんな事になっているなんて……」

 

マァムはレオナ姫にそう返事を返し、フレイザードと戦っているダイとヒューイを見つめた。その目は、隙があれば2人の加勢に行こうと伺っている目をしているが、中々そのタイミングを掴めないようだ。

 

多分マァムが躊躇しているのは隙というより、スペースの問題なんだろう。先ほどバダックさんにも言ったが、この塔の最上階は戦場とするにはちと狭すぎる。

 

「焦らなくて良いよ、マァム。ここは狭すぎる。ヒュンケ、じゃなかった、ヒューイとダイのどちらかが負傷して後退してきた時に、代わってやると良い」

 

「ええ、それもそうね」

マァムはチラッと俺の方を見て俺の意見に同意する。

 

「レオナ姫。非常時ですので、礼儀は不問で願います。武器と鎧を破壊されて戦えない兵士の皆さんを、今のうちに屋上に避難させていただけませんか? ここにいては危険です。……それと、レオナ姫も一緒に屋上に避難を」

 

俺はレオナ姫にそう提案した。

俺の本心としては、既にここはフレイザードによって詰まされている戦場だから、最終的な撤退に向けた動きをとったに過ぎない。

 

ダイかヒューイが空裂斬を習得できていれば、この場でフレイザードを倒すという選択肢もあったんだが、無いものねだりしていても仕方ない。

 

あとはせめて、レオナ姫が氷漬けにされるという展開だけでも避けておきたい。

 

「……分かったわ。ですが、私は最後までここに残ります。助けに来てくれたダイ君や貴方たちをおいて、自分だけ先に逃げるなんて事は私にはできません」

 

レオナ姫は、自分の意思は絶対曲げないという強い眼光で俺を見つめた。……綺麗な目をしているな。どこか、ダイの目をほうふつとさせる目だ。

 

うーん、まあ、仕方ないか。レオナ姫は、戦う姫さんだもんな。

 

本当の事を言うと、高貴な王族なんだから後ろに控えておいてもらわないと前線の俺達がやりにくくて仕方ないんだが、これはこれで好感が持てるし、今は議論している時間も無いしな。

 

 

「クッ! 勇者に加えて、これほどの戦士まで助力してやがるとは! あの賢者といい、やっかいな奴等が集まってやがる!」

 

俺はフレイザードのその言葉に、前線に意識を戻した。

 

フレイザードが思わずそう言葉を発せざるを得なくなるほど、奴は追い詰められているようだ。

 

奴の左半身に猛攻を浴びせているのはヒューイ(ヒュンケル)だ。フレイザードはヒューイの正体をヒュンケルだと気づいていないようだが、ヒューイはそんな事はお構いなしとばかりに斬りかかっている。その手に握られている剣こそ通常の鋼の剣だが、練達の剣技によりフレイザードに反撃の機会すら与えることなくその全身を切り刻んでいる。

 

そしてダイは火炎剣を駆使してフレイザードの右半身を責め立てている。何度か奴の右手をその火炎剣で切り落としているが、奴も即座に切り落とされた腕を復元し対応している。

 

「貴様らー! ――これならどうだ!!」

 

フレイザードは2人との接近戦を嫌い、最上階の壁際に後退する。そして、氷に覆われている右手をダイ達の方に向ける。

 

「2人まとめて氷漬けにしてやるぜ! ――五指氷結弾(フィンガー・アイス・バレッツ)!!」

 

五指氷結弾(フィンガー・アイス・バレッツ)だと!? 俺は原作でも見たことのなかった五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)の氷結版とも言える攻撃に驚いた。

 

まずい、この位置では前方にいるダイとヒューイに対する防御が間に合わない!

 

フレイザードの右手から放たれた五指氷結弾(フィンガー・アイス・バレッツ)は、5条の氷雪の気流が絡まりあいながら2人に直進する。

 

しかし、俺の心配を余所に、ダイとヒューイは落ち着いていた。

 

「――ダイ!」

 

「うん、分かってる!」

 

ダイの返事にわずかに口角を上げたヒューイは、ダイと並んで同じ体勢をとった。

 

「「――アバン流刀殺法 海波斬!!」」

 

息の合った口上と共に放たれた2つの海波斬の衝撃波が、間近まで迫っていた五指氷結弾(フィンガー・アイス・バレッツ)を切り払った。そして、その威力はなおもとどまらずフレイザードに迫る。

 

「ウ、ウゥオッ!!?」

 

フレイザードの胴体に2つの衝撃波が直撃し、まるで十文字の形のように胴体に深く傷跡が刻まれた。

 

「――ガ、ガフッ!」

フレイザードの口から、血ではない何かエネルギーの塊のようなものが吐き出される。そして、攻撃を受けた胸部からは岩塊と氷塊がボロボロと崩れ落ちていく。

 

すっげえな……。海波斬の同時発動なんて初めて見たぞ。俺は一瞬、空裂斬を習得していない現状でも、もしかしたら勝てるのかもと思ってしまった。

 

 

……しかし、さすがにそれは甘かったようだ。

 

「クッ! や、やりやがるぜ。伊達にクロコダインやヒュンケルを破ってきたわけではないということか……!」

 

いや、そのヒュンケルは今お前の目の前にいるんだけどね……。

 

「……仕方ねえ、やはりこれを使うしかねえようだな」

 

フレイザードはニヤッと笑みを浮かべた。

 

――やはり、あれをやるつもりか!

 

「ダイ、ヒューイ! いったん下がれ! フレイザードは何かやるつもりだ!」

 

俺の言葉に、ダイとヒューイは互いに顔を見合わせ、俺達のところに戻ってきた。

 

「クックック……。まさかお前達がここまでやるとはな。だが、それもここまでだ! ――氷炎爆花散!!」

 

ズガァーン!!

 

フレイザードの身体から、一斉に全方位に対して細かな岩石が射出された。

 

「――! 氷系壁呪文(アイスウォール)!!」

 

それに対して俺は瞬時にフレイザードと俺達の間に氷の壁を出現させ、その無数の岩石による直撃を防ぐ。氷の壁にビシビシと細かな岩石がめり込んだが、貫通はしていない。

 

よし、どうにかこの攻撃によってダメージを受けることだけは防げたようだ。だが……。

 

「ケッ! 相変わらずやっかいな賢者だぜ! だがなー、てめえのその小賢しい振る舞いもこれまでだ!」

 

ゴゴゴゴゴ……

 

フレイザードのその言葉と同時に、バルジの塔の最上階を大きな揺れが襲う。

 

「な、何だ、この揺れは一体!?」

 

「見て、アポロ! あそこに炎を纏った塔が現れたわ!」

 

「姉さん! こっちには氷の塔が!」

 

パプニカ3賢者がバルジの塔から見える光景に驚きの声を上げる。ダイ達も驚きと共に外を見渡している。

 

「クックック……。さあ、楽しいショータイムの始まりだぜッ! こいつは、氷炎結界呪法!! もはや手前らにゃ打つ手はねえ!」

 

やはり発動してしまったか。俺は、自身の魔法力に著しい制限がかけられたことを悟っていた。

 

「氷炎結界呪法だと!?」

ヒューイが声を荒げる。おや、長髪のヒューイの姿が一瞬ぼやけて見えた。あっ、まずい。これは想定していなかった。氷炎結界呪法の影響で、変身呪文(モシャス)が解除されかかっている。

 

俺はヒュンケルにかけている変身呪文(モシャス)の魔法の維持に魔力を多めに注ぎ、どうにか解除されることを防いだ。

 

くっ、ただでさえ魔力の制限がされている中、これはなかなかきついな。

 

「そうだ! この結界陣の中においては、俺以外の奴は力も呪文も全て封じられてしまうのさ! そら、こんな風にな!」

 

フレイザードはそう言い放ち、俺達に突っ込んできた。

 

「――チィッ!」

 

「くっそー!」

 

「ポップは後ろに下がって! ――はぁっ!」

 

ダイ達前衛組がそれを迎撃しようとするが、さすがにこれほど力を削がれているとなると、防戦一方になっている。

 

俺は背後を振り返る。一般兵の人達はすでに屋上に待避ができているようだ。今この場にいるのは、俺達4人とレオナ姫、3賢者の合計8人。おっと、後はダイの鞄に潜んでいるゴメもいたな。

 

「レオナ姫。この状況では撤退するしか手はありません。俺達がどうにか持ちこたえますので、先に退去を。エイミさん、皆さんもお願いします!」

 

エイミさんが俺の言葉に賛同してくれた。

 

「姫様。ここはポップ君の言葉に従いましょう。いったん、引いて体勢を立て直すべきです」

 

「しかし、エイミ! 仲間の仇が目の前にいるのだぞ! あと少しだったというのに……!」

 

残念、アポロさん。確かにあと少しではあったが、そのあと少しが遠いんだ。

 

「アポロさん。さすがにこの結界の中では、そのあと少しを埋めることができません。レオナ姫、決断を!」

 

俺はレオナ姫に決断を迫る。この結界が発動した以上、一刻の猶予も無い。俺のその言葉にレオナ姫は頷いた。

 

「……分かりました。撤退しましょう。ですが、ポップ君だったわね。あなた達も必ず一緒に脱出を」

 

「ええ、俺達も直ぐに撤退します。さあ、レオナ姫も――」

 

俺の言葉を遮り突如フレイザードが突進してきた。

「逃がす訳ねえだろうがよ! ここまで仕込んだんだ。お姫様だけでもその首をもらっていかなきゃ、俺の立場がねえんだよ!」

 

俺が前線を振り返ると、ダイ達は何をされたのか分からないが、皆壁際に吹き飛ばされている。

 

ちっ、こちらの意図に気づかれたか!

 

俺は即座に氷系壁呪文(アイスウォール)の魔法を唱えてフレイザードの動きを阻害する。しかし、かろうじて発動はしたもののなんて壁の薄さだ。これでは、持たない!

 

「レオナ姫、早く! 長くは持ちません!」

 

「分かったわ!」

 

レオナ姫は自身がまず撤退しないと俺達が撤退できないと理解したのだろう。天井から垂れ下がっている縄ばしごに足をかける。それに3賢者も続く。

 

「逃がすかよ!! 喰らいな、火炎呪文(メラゾーマ)!」

 

――しまった! この状況であれは防げない! その火炎呪文(メラゾーマ)の炎は、俺の展開していた氷の壁を瞬時に蒸発させ、俺達に襲いかかった。

 

「きゃあーー!」

 

「ぐあぁッ!」

 

バルジの塔屋上に火炎呪文(メラゾーマ)の炎が轟々と音を立てて燃えさかった。

 

くっ、俺もその炎に吹き飛ばされて壁にたたきつけられた。レ、レオナ姫は? 3賢者は?

 

――しまった! レオナ姫のすぐそばにフレイザードがいる。そのフレイザードは、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべて、右手に氷の槍を構えている。

 

させるかよ! 俺はとっさに魔法を詠唱する。

 

爆裂呪文(イオラ)! ちっ、出ないか! ――ならば、爆裂呪文(イオ)!」

 

俺の放った爆裂呪文(イオ)の爆球がフレイザードの側頭部に直撃するが、その行動を阻害するには至らない。

 

駄目か! そう思った時だった。

 

「姫! お逃げください!」

 

突如マリンさんが、レオナ姫とフレイザードの間に盾になるように入った。その直前、俺はマリンさんが何かの魔法を使ったのを見た。あの魔法は……。

 

「邪魔だ、女ー! 俺が用があるのは、そのお姫様だけなんだよ!!」

 

そう叫び、フレイザードは手に持った氷の槍を、……マリンさんに突き刺した。

 

しまった! あれは致命傷だ。俺は、目の前でマリンさんを助けられなかった事に一瞬頭が真っ白になってしまった。

 

……? いや、違う、マリンさんは出血していない。しかし、氷の槍は確かにマリンさんの腹部に突き刺さり、徐々にその氷の影響範囲が広がっていく。

 

――まさか!?

 

「マリン!」

 

「姉さん!」

 

アポロさんとエイミさんが徐々に氷に覆われていくマリンさんを見て、声を張り上げる。しかし、この事態に驚いているのは俺達だけでは無かったようだ。

 

 

「な!? お、俺は、確かにお姫さんに呪法をかけたはず……! そ、そうか……! 女ー! 貴様、俺に幻惑呪文(マヌーサ)をかけやがったな!!」

フレイザードは、徐々に氷に覆われていくマリンさんを憎悪の目で見る。

 

そうか、この事態はフレイザードにとっても想定外の状況なのか。マリンさん……。あの一瞬でそこまで考えて幻惑呪文(マヌーサ)を唱えていたのか。

 

「マ、マリン……。そんな……!?」

フレイザードの足下に横たわるレオナ姫が、徐々に氷に覆われていくマリンさんを見て、悲壮な声を上げた。

 

マリンさんが作ったこのわずかな時間! 無駄にするわけにはいかない!!

 

「――突風呪文(パキ)!!」

 

俺は魔力消費量の少ない突風呪文(パキ)を側面からフレイザードに叩きつけ、動揺していたフレイザードの身体を壁際まで吹き飛ばした。

 

「な!? く、て、てめえ!!」

 

そして俺は、レオナ姫とアポロさん、エイミさんのもとに走り寄り、かろうじて発現できるホイミで彼らの傷を癒やす。反対側の壁際では、マァムが同じくホイミでヒューイとダイの傷を癒やしている様子が見える。

 

そして、俺達のすぐ側には、完全に凍りづけになってしまったマリンさんがいた。

 

「皆さん! いったん引きましょう! 今戦っても全滅するだけです! それではマリンさんは救えません!」

 

「な!? マリンを置いていくというのか!? そんな事、できるものか!」

アポロさんが驚きの声を上げ、俺の言葉に反論する。

 

「この状況では、マリンさんを助け出す事は不可能です! いったん退却して、改めて――」

 

――! ちっ、フレイザードが再び向かって来た。言い争っている場合じゃない。まずこちらを対処しないと!

 

「――氷系呪文(ヒャダルコ)! くっ、出ないか!! ――いや、出ないじゃない、……出すんだ!! ――氷系呪文(ヒャダルコォ)!!」

俺は脳の血管が焼き切れるかとも思えるほど魔法発現に集中し、かろうじて5本の氷の槍を発現させることができた。

 

「――当たれぇ!」

その氷の槍を即座にフレイザード目がけて射出する。

 

「カッカッカ! そんな魔法が効くかよ!」

フレイザードは、俺のその氷の槍に対して氷に覆われた右手を盾に防ごうとする。

 

だけど、……そんな事は百も承知だ! 俺はその5本の氷の槍をなんとか制御して、フレイザードの氷に覆われた右手による防御を躱した。そして、氷の槍をそのまま炎に覆われた左半身に叩きつける。

 

ズドドドッ!

 

「グッ! ――カ、カハァ! て、てめえ!」

 

よし、かなりのダメージを与えられたようだ。それに1本の槍はフレイザードの左足を貫通して、そのまま足を床に固定させることに成功した。

 

それを好機と見たか、アポロさんがフレイザードに立ち向かっていこうとする。駄目だ、アポロさんは目の前でマリンさんが氷漬けにされた事で、冷静な判断が出来ないでいる。

 

この貴重な時間は攻撃のためではなく、撤退のために使うべきなんだよ!

 

――ああ、もう! なんで原作でマァムがダイにやった事を、俺がやらなくちゃならないんだよ!

 

「すみません、アポロさん! ――睡眠呪文(ラリホー)!」

 

「なっ!? ……くっ。何を……」

アポロさんは、自身に睡眠呪文(ラリホー)の魔法をかけられたことに驚いたように俺を振り返るが、直ぐに俺の魔法が効果を発揮しその場に崩れ落ちるように眠り始めた。

 

よし、これ以上は俺もダイ達も持たない。限界だ!

 

「――撤退だ! 異論は認めない! ヒューイ、マァム、アポロさんを頼む! ダイはレオナ姫の側に!」

 

俺の言葉にダイ達が頷きで返す。

 

レオナ姫もマリンさんを置いていく事に葛藤がありそうな様子だが、この戦局を維持することがもう限界だという俺の判断を支持してくれたのだろう。ダイと合流して、天井から吊されている縄ばしごに向かった。

 

俺は氷漬けにされたマリンさんに手を触れる。通常の氷ではないな。やはりフレイザードを倒さなければ助け出せそうにない。しかし、分厚い氷の塊の奥から、かすかに心臓が鼓動している事を俺は確認した。

 

「必ず助けに来ます。どうかそれまで諦めないで……」

俺は氷の塊に額を押し当て、マリンさんともう一人に聞こえるように思いを口にして伝えた。

 

「ポップ、早く!」

 

縄ばしごの最下段に足を掛けたマァムが俺を呼ぶ。俺は踵を返してマァムのもとに急いだ。

 

だが、――!

 

「ガアアァー!」

突如フレイザードが雄叫びを上げた。

俺の氷系呪文(ヒャダルコ)の稼いだ時間は、そこまでだったようだ。ダメージから回復したフレイザードが俺達を、いや、俺を睨み指を突きつけて叫ぶ。

 

「ようやく分かったぜ。勇者一行(パーティー)の要はお前だ! 小賢しいお前だけは、ここで始末してやるぜ。――火炎呪文(メラゾーマ)!」

 

――! うっ、フレイザードの左手から放たれた火炎呪文(メラゾーマ)の炎が、とぐろを巻いて俺に向かってくる。俺はそれに対して氷系呪文(ヒャド)の魔法を唱えて対抗したが、すぐに火炎呪文(メラゾーマ)に押し負けてしまい、その炎は俺に直撃した。

 

「――ぐはっ!」

俺は全身を炎に打ち据えられ、後方に吹っ飛ばされる。しかし、幸いにも後方にはマァムがいた。

マァムが身を乗り出して俺に手を差し伸べてくれ、どうにか俺の体を支えてくれた。

 

「バダックさん! 出して!」

マァムが上空を仰ぎ見て、大声を上げる。

 

「おお! 分かった! しっかり掴まっておるんじゃぞ!」

 

その声とともに、俺を抱えたマァムは、縄ばしごに捕まったままの状態で、バルジの塔の最上階を脱し、そのままバルジの塔の上空に浮かび上がった。

 

 

 

 

 

「チィッ! 逃がしたか! おい、炎魔の塔のフレイム達よ! 奴らを島から逃がすんじゃねえぞ! 追撃しろ!」

 

フレイザードは、バルジの塔の最上階から、塔から次第に離れていく2つの気球を忌々しげに睨みながら配下に指示を出した。

バルジの塔の最上階は、先ほどまでの激闘がまるで無かったかのように静まりかえっていた。

 

フレイザードは、その塔の最上階で一人取り残された氷漬けの女のもとに歩み寄った。そして、右腕を振り上げた。それは、氷漬けになった女を粉々に砕くためだった。

 

この時、その腕を振り下ろされていたら、氷漬けにされたマリンの命はそこで失われていただろう。

 

しかし、フレイザードは思案していた。この女に、人質としての価値はあるのかと。幻惑呪文(マヌーサ)の魔法で幻惑され、王族の娘ではなく、一臣下に過ぎない女を凍り漬けにしてしまった。奴らは危険を冒してまで、この女を助けるためにもう一度この島に来るのか……。

 

先ほどの奴らのこの女に対する執着……。小賢しいあの賢者の言葉……。

 

『必ず助けに来ます。どうかそれまで諦めないで……』

 

来るかもしれない……。フレイザードは、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。

 

「クックック。お前にはまだ人質としての価値がありそうだな。もう少しだけ生かしておいてやるよ。カッカッカッカ!!」

 

 

バルジの塔の最上階に、フレイザードの笑い声が響いていた。

 

 

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