転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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69話 バルジの島からの脱出

「ひえー! フレイムの大群が迫ってきおるぞ!」

 

俺が、マァムやダイに引きずりこまれるように気球の籠に身体を滑り込ました時、既に気球にはフレイムの大群が追いすがってきていた。バダックさんが、その様子を見て悲鳴を上げる。

 

「ポップ、大丈夫!?」

マァムが回復呪文(ホイミ)をかけてくれるが、火炎呪文(メラゾーマ)によって負った全身を襲うやけどの痛みは、なかなか引いていかない。だけど、今はそれを気にしている場合じゃない。

 

「だ、大丈夫だ。そんなことより、早くこの島から離れて結界内から脱出するんだ」

 

俺達の乗った気球から20mほど離れたところを、もう1つの気球が漂っている。あちらには、エイミさんとヒューイ、それに意識のないアポロさんとパプニカ兵が乗っている。

 

俺は痛む身体にむち打って、両手を突き出す。そして、自身の乗っている気球と、離れたところにある気球の両方に突風呪文(パキ)の魔法を唱えた。

 

これによって幾分は気球の進むスピードが増したが、フレイムはその速度以上に追いすがってくる。エイミさんや、レオナ姫まで氷系呪文(ヒャド)の呪文を唱えてフレイムを抑えようとするが、いかんせんその数が多い。

 

だけど、もう少しだ。もう少しで結界の外に出られる。

 

そう考えていると、明らかに体内に魔力が戻ってきたのを感じた。よしっ、結界の外に出た!

 

「ポップ! 早く回復魔法を!」

 

ダイが俺にそう声をかけるが、そんな事より今はフレイムをなんとかする方が先だ。俺は静かに目を閉じ、集中する。両手から、氷の結晶が次々と漏れ出す。俺は、十分魔力が貯まった事を確認し、魔法を発動した。

 

「――氷系呪文(マヒャド)!」

 

俺は左右両手からそれぞれ氷系呪文(マヒャド)を発動して、俺たちの気球とヒュンケル達の気球に追いすがっていたフレイムを一網打尽にした。

 

「ギャー!」

突然の氷雪の嵐に飲み込まれたフレイムの集団は、炎の形状のまま白く凍り付き、そのまま絶命して海に落下していった。その魔法の効果が途切れた後、気球に追いすがってきていたフレイムの集団は、ただの1体も空に浮かんでいなかった。

 

「おお、やったぞ! 大したもんじゃ、ポップ君!」

バダックさんが小躍りせんばかりに喜んでいる。

 

しかし、まだ危機が去ったわけではなかった。

 

俺達の気球も、もう1つの気球もその空気で膨らませている球皮の部分に火がついてしまっている。そのため、徐々に空気が漏れていき、高度が下がっていく。

 

俺は必死に周囲の景色に目を走らせた。どこだ、どこにマトリフ師匠はいる!? マトリフ師匠なら、きっと俺達のこの戦いを目にして何らかのアクションを取ってくれるはずだ。

 

俺がそんな希望を抱いて目を凝らしていると、無数にある大小の島の一つから突如爆裂呪文(イオ)らしき爆球が打ち上がり、大きな音を発して爆裂した。

 

――あそこか! 感謝します、マトリフ師匠!

 

「ダイ、マァム! 隣の気球と急いで連結してくれ! 連結でき次第、瞬間移動呪文(ルーラ)で飛ぶ!」

 

「「分かった(わ)!」」

 

ダイとマァムは籠に備え付けられているロープを用意し始めた。

 

俺はその作業を2人に任せ、ひたすら先ほど爆裂呪文(イオ)の爆球が打ち上げられた島を凝視していた。

 

その間も徐々に気球の高度は下がっていく。そして今、気球はちょうどバルジの大渦の真上に達していた。バルジの大渦は、そのあまりの渦の巨大さから、周囲の海面より遙かに低い位置で漏斗状に渦を巻いている。

 

直ぐに気球は、その大渦の漏斗状になっている所に突入し、周囲の視界は完全に海水によって遮られてしまった。とんでもない大渦だ。海がまるで壁のように周囲を覆っている。駄目だ、こんな光景を見ていたら集中出来ない。

 

俺は目を閉じて、先ほど見た島の光景を頭に思い浮かべていた。

 

「ポップ、連結できたわよ!」

マァムが俺にそう声を張り上げる。俺はその声に、右手をわずかに挙げて返事を返した。集中だ、集中しないと瞬間移動呪文(ルーラ)で飛べない。

 

俺は先ほどの島の光景を頭に思い浮かべ続ける。もう少しだ。もう少しで捉えられる。周囲は、渦によって発生した轟音が轟いている。マァム達が、俺の集中を乱さないよう固唾をのんで俺を見守っているのを感じる。

 

急げ急げ急げ急げ急げ急げ……! 

 

――捉えた!

 

「しっかり籠に捕まるんだ! 飛ぶぞ! ――瞬間移動呪文(ルーラ)!!」

 

そして、俺達の乗った気球は、渦の中からかろうじて、先ほど見た島に瞬間移動呪文(ルーラ)で脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~遡ること5分前~~~~

 

ゆったりとしたローブを羽織った1人の高齢の男が、自身の住まう島の砂浜に立っていた。その男の名はマトリフと言った。かつては、人間界における魔法使いの頂点に立つとまで言われた男だった。

 

マトリフは人間達の権力争いに嫌気がさしてこの無人島に住んでいたが、今日は朝からバルジ島から発せられる騒がしさに閉口していたところだった。

 

そして、今彼はバルジ島から2つのパプニカ王国所有の気球が飛び出し、それをフレイムの大群が追いすがる様子を眺めていた。

 

マトリフは、その様子を冷めた目で見ている。マトリフがその気になれば、いかに大群といえどフレイムの集団など物の数ではなかっただろう。しかし、彼は悟っていた。助力したところで人間はすぐにその恩義を忘れて、横暴な態度をとる。特に王族に連なる人間は、と。

 

だが、マトリフがさすがに目の前で死なれるのは寝覚めが悪いと考え、あのフレイムの集団だけでも消し去ってやろうかと考えていた時だった。

 

突如、マトリフの魔法使いとしての血が騒ぐ光景が展開された。

 

2つの気球のうち、片方から氷結魔法の最上位呪文 氷系呪文(マヒャド)が発せられたのだ。ただ、それだけならマトリフの好奇心をそこまで刺激はしなかっただろう。

 

しかし、その氷系呪文(マヒャド)は2発同時に発せられていた。

 

これはどういうことか。ただ単純に氷系呪文(マヒャド)を使いこなす人間が2人いたということか。いや、違う。あの氷系呪文(マヒャド)は同一人物が放ったものだ。

 

マトリフがそう考えたのは、先ほどの氷系呪文(マヒャド)の魔法の特徴が2発とも全く同一だったからだった。

魔法というものは、呪文の術式に全く手を加えない場合、威力の差こそあれど誰が唱えてもほとんど性質は変わらない標準的な発動が成される。だが、魔法技術の高い一部の魔法使いは、呪文の術式に手を加えて、自身に最も適した魔法となるよう、それをアジャストさせる。

 

事実マトリフも、自身の有している魔法のほとんどに手を加えている。マトリフに言わせると、そういった調整を行わない魔法使いなど、素人も同然と言ったところだった。

 

先ほどの氷系呪文(マヒャド)は、標準的な氷系呪文(マヒャド)の魔法より攻撃範囲が2割ほど減少していたが、逆に攻撃範囲内の呪文の威力は2割ほど向上していたように見える。マトリフはその1点だけで、先ほどの氷系呪文(マヒャド)を放った魔法使いが対集団戦ではなく、対個人戦を念頭に入れているとまで推測していた。

 

そんな特別な調整がなされた氷系呪文(マヒャド)を、複数の人間が発動すると言うのはあり得ない。間違いなく同一の人間が同時に魔法を放ったのだ。

 

……おもしれえ。

 

マトリフの知る限り、自分以外に2つの魔法を同時に扱いうる魔法使いは存在しなかった。

 

俄然その魔法使いに興味を持ったマトリフは、爆裂呪文(イオ)の魔法を唱え、それを島の上空に打ち上げて爆発させた。

 

さあ、ここに来て見やがれ……

 

マトリフは、先ほどの見事な氷系呪文(マヒャド)を放った魔法使いが、瞬間移動呪文(ルーラ)の魔法を使えないなどとは微塵も考えていなかった。

 

瞬間移動呪文(ルーラ)の魔法と言うのは、ただでさえ使用できる人間の限られる高度な魔法だ。その上、一度行った事のある場所ならともかく、遠くから見ただけでそこに移動できる人間となると更に限られてくる。自身をその場所に置いた時に見える空間を認識できる、いわゆる空間認識能力の高い人間でなければ、見ただけで移動することなど出来ない。

 

だが、マトリフはその点についても全く心配をしていなかった。会話すら交わしていないまだ見ぬ魔法使いの力量を、マトリフは既にほぼ正確に洞察していた。

 

……ほら、早くしろよ。

 

マトリフは舌なめずりをしながら、その魔法使いが瞬間移動呪文(ルーラ)でこの島に来るのを待っている。既に気球の籠の部分は海面より下の大渦の中に落ち込んでいて、その姿が見えない。

 

 

その時、一筋の光がバルジの大渦の中から発せられ、そして、その光はマトリフの目の前の砂浜に着弾した。

 

マトリフはそれを見て、ニヤッと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

う、うーん。いちち……。

 

気が付いたら俺は、瞬間移動呪文(ルーラ)の着地の衝撃で気球の籠から身体を投げ出されたのか、砂浜に転がっていた。緊急避難だったから、軟着陸をするなんていう余裕が無かったからな。

 

だけど、首を見回すと2つの気球が砂浜に横倒しになっている様子が見えるから、無事に瞬間移動呪文(ルーラ)で移動が出来たんだろう。

既にヒュンケルやダイをはじめとする数人が立ち上がろうとしている様子が見て取れる。

 

俺も、口の中に入り込んだ砂利を唾と共に吐き出しながら、よろよろと立ち上がろうとした。

 

だが、俺は立ち上がった途端、誰かに押し倒されて再び砂浜に横たわることになった。

 

――ぐっ! い、痛てえ……。火傷を負った背中を砂浜に叩きつけられて、無茶苦茶痛いって。あまりの痛みに、俺は一瞬意識が遠くなりかけてしまった。

 

だけど、俺の胸ぐらをつかんで馬乗りになっている人間に身体を揺さぶられて、逆に俺は意識を取り戻した。

 

俺に馬乗りになっている人間は、アポロさんだった。

 

「どうして、あの時マリンを見捨てて逃げるなんて事をした!? 君ならマリンだって救い出せただろう!」

 

「……ア、アポロさん。あの時は、残ったメンバーで逃げ出すことが限界で――」

「嘘だ!」

 

……嘘じゃねえし。俺だって、助けられるものなら助けたかったよ……。俺は頭をガクガクと揺すられ、背中から感じる痛みと相まって意識が朦朧となってきた。

 

「――やめて!」

マァムの声が俺の耳に聞こえた。

 

突然、俺に馬乗りになっていたアポロさんが俺から離れてくれた。それは、アポロさんが自発的にそうしたのではなく、先ほど声を上げたマァムがアポロさんの首根っこを掴んで俺から引き離してくれたからのようだった。

 

「ポップはまだ、さっきの闘いで負った怪我も回復していないんです! 乱暴にしないでください!」

 

マァムは、横たわる俺の傍に座り込んで俺の身体を抱きしめてくれた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

アポロは、目の前の少女に突然ふり払われてしまっても、なおも怒りの矛先を向けていた少年に喰ってかかろうとした。

しかし、突然「――アポロ!」と名前を呼ばれ背後を振り返ると同時に、その彼の名を呼んだ少女にアポロは頬をはたかれてしまった。

 

呆然とするアポロ。

 

アポロの頬をはたいた人間は、アポロの仕えるべき主レオナだった。

 

「落ち着きなさい、アポロ! あの時撤退の決断をした彼の判断は、正しかったわ。あの場にそのまま留まっていたら、今頃私達は全滅していたわ。……少し頭を冷やしなさい、アポロ」

 

レオナにそう諭されたアポロは、呆然としながら先ほど自身が暴力をふるった少年を振り返った。

 

しかし、その少年との間には2人の人間が立ちふさがる様に立っていて、その2人とも厳しい目でアポロを見つめていた。

 

「ポップに乱暴したら、いくらレオナの仲間でも許さないぞ!」

「あいつの判断は間違っていない。俺達が今こうして生きていられるのは、あいつのおかげだ」

 

その2人の厳しい眼光に思わずアポロは俯いた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……たく、島にやって来るなり仲間割れしやがって。あまり騒々しいようなら島から叩きだすぜ、手前ら」

 

突然そんな声がアポロとダイ達の隣から聞こえた。自分達以外から発せられたその声に皆が驚き、皆が一様にその声の発せられた方向に顔を向けた。

 

そこには、魔術師の出で立ちをした1人の高齢の男性が立っていた。

 

 

 

ああ、やっと会えた。原作と同じ出で立ちだ。この人が、大魔道士マトリフで間違いない。俺は、初めて会うその世界最高の魔法使いに感激していた。

 

「……お、おじさん? マトリフおじさん? そうでしょ、マトリフおじさんでしょ?」

マァムが俺を押し抱きながら、マトリフ師匠に問いかける。

 

そうか、マァムはマトリフ師匠と知り合いだったな。

 

「ん? おお、お前マァムか? 大きくなったなー!」

 

そう言ってマトリフ師匠は、俺達の所まで走ってくるなりマァムのお尻を撫で回し始める。すごい早業だな。あれ、今魔法を使った形跡が……。

 

「――な!? いきなり何すんのよ!」

 

突然の事に驚いたマァムがマトリフ師匠の頭部に殴りかかるが、それを魔法使いらしくない機敏な動きで躱すマトリフ師匠。

 

そして躱されたマァムの拳は、そのまま俺の腹部に命中する。

 

「――ごふぅっ!?」

 

「え!? あ、ご、ごめんなさい、ポップ!」

 

俺はあまりの痛みに、危うく胃の中の物を全部吐き出してしまう所だった。な、なんでマトリフ師匠のセクハラの余波を俺が受けなきゃなんないんだよ!

 

「マァム、この人の事を知っているの?」

ダイがマァムにそう問いかける。いや、ダイ、そんな事より俺の心配をしろよ。明らかにさっきのアポロさんに倒された時より、ダメージを受けているんだぜ。

 

「ええ、この人は――」

 

「思い出した! マトリフ! この方はかつてパプニカ王家に仕えておったマトリフ殿じゃ!」

 

バダックさんがマトリフ師匠を思い出したようだ。そうだよな、バダックさんほどの老練の戦士なら確かにマトリフ師匠の事を知っていてもおかしくはないか。俺は痛む腹を押さえながら、そんな事を考えていた。

 

「ほう……。俺の事を覚えている奴がいたかい?」

 

「大魔道士マトリフ……。私も、かすかにですが覚えています。全ての魔法使いの頂点に立つとまで謳われた人物。父が、あなたに申し訳ない事をしたと常々申していました」

 

「ふーん……。父、という事はお嬢ちゃん、あんたは……」

 

「はい。私はパプニカ王国第1王女レオナです。ここで、マトリフ殿に会えた幸運に感謝します」

レオナ姫は惚れ惚れするような所作で、マトリフ師匠に挨拶をした。そして、俺達の方に振り返り同じように挨拶をした。

 

「遅くなりましたが、皆さんにも、感謝を。危急の事態を救っていただきありがとうございました」

 

「そんな、良いよ、レオナ」

ダイは急に改まった言い方になったレオナに照れたようにする。

 

「……礼には及ばん」

「ええ、私もよ。無事でよかったです」

 

「そういう訳にはいかないわ、ダイ君。……ポップ君で良かったかしら。あなたにも感謝と、そして謝罪をさせていただきます。アポロが大変失礼な事をしました」

 

おっと、レオナ姫は俺にもご丁寧に挨拶と謝罪をしてくれた。ダイとは昔馴染みなんだろうが、俺にとっては雲の上の王族だからな。

 

原作知識で気さくな姫さんという事は知っているが、いきなり砕けた口調は出来ないな。

 

俺は失礼にならないよう、先ほどマァムに殴られた腹の痛みを押し殺して(火炎呪文(メラゾーマ)による火傷より痛いんだけど……)、立ち上がって返礼した。

 

「……いえ。彼の怒りも理解できますので。自分こそもっとうまく立ち回っていれば、彼女も救えたかもしれませんでした。申し訳ありません」

実際、あの時俺には、幻惑呪文(マヌーサ)でフレイザードを攪乱するという発想が出来なかった。

 

「いいえ。あなたは、あの時取れる最善の行動をとってくれました。心より感謝を。アポロ。あなたからも謝罪を」

 

アポロさんは、レオナ姫に促される形で俺の前に来る。マァムが少し警戒する様子を見せたが、大丈夫なはずだ。俺の知っているアポロさんは、ちょっと頼りないが気さくな良いお兄さんと言う印象だ。さっきは、ただ取り乱しただけだよな。

 

「先ほどは済まなかった。心より謝罪する」

俺の予想した通り、アポロさんは冷静さを取り戻してくれたようだ。深く俺に頭を下げて謝罪をしてくれた。

面倒だけど、今後彼らと対等に付き合っていくためにも、この謝罪はなあなあにしてはいけない気がするな。

 

「謝罪を受け入れます、アポロさん。それと、氷漬けになったマリンさんはまだ生きている可能性があります。あまり猶予は有りませんが、それでももう一度態勢を立て直して、バルジ島に救出に行く事は可能です。その救出には俺も行きますから、まだ諦めないでください」

 

「――! ほ、本当か? 本当にまだマリンは生きているのか?」

 

「本当です。俺は、バルジの塔を脱出する前に直接あの氷に触れて確かめました。あの氷はフレイザードを倒すことで溶かすことが出来ます。だから、諦めるにはまだ早いです」

 

「ああ、姐さん……。良かった……」

エイミさんも顔を手で押さえて泣き出さんばかりに喜んでいる。そんなエイミさんをレオナ姫が慰めるように肩を抱き寄せていた。

 

俺達と一緒に脱出してきた兵士の皆さんも俺の言葉に安心したようだ。マリンさんって、人気者なんだな。

 

ただ、俺の先ほどの言葉は、フレイザードがマリンさんに人質としての価値を見いだしている事を前提としている。……頼むぞ、フレイザード。俺の、必ず助けに行くという言葉を耳にしたはずだ。早まるんじゃないぞ……。

 

 

「手前らが何を言っているのかさっぱり分からねえぜ……。とりあえず、ここじゃあ何だから中に入りな。話はそれからだ」

 

 

マトリフ師匠が俺達を洞窟の中に手招きしてくれたので、俺達全員は大人しく付いていく事にした。

 

……あ、マトリフ師匠がヒューイの姿を見て首を傾げた。これは、変身呪文(モシャス)がばれたな。さすがは大魔道士。わずかな魔法の残滓に気づかれたか。

 

そして、その後俺の顔をギロっと睨んだから、俺はこっそりと人差し指を立てて口の前に当てておいた。

 

それを見てマトリフ師匠は、うさん臭そうな顔で俺を見て、とりあえず何も言わずに洞窟に入って行ってくれた。

 

さあ、これまでの事、バルジ島での事、その先の事、更には魔法契約の手ほどきと、マトリフ師匠とはたくさん話し合いたいことがある。

 

俺は気合いを入れながら、皆の後に続いて洞窟に入って行った。

 

 

 

 

 

~~~~鬼岩城 心臓(ハート)の間~~~~

 

 

鬼岩城 心臓(ハート)の間には、今、魔軍司令ハドラーと竜騎将バラン、妖魔師団長ザボエラがいた。

 

妖魔師団長ザボエラが、先ほどのハドラーの言葉が信じられないとでも言いたげな表情で問い返した。

 

「ハ、ハドラー様……! い、今、何と……!!?」

 

「総攻撃をかける!! 奴らは間違いなく次の攻撃で、バルジの島の炎魔塔と氷魔塔の破壊を狙ってくるはずだ! その時奴らの戦力は分断される。そこへ、残る全軍団を集中させ、一気に奴らを始末するのだ!」

 

ハドラーは再度、そう声高に宣言した。

 

「ふむ……。しかし、肝心の人質はパプニカの王族では無いと聞いておりますが、果たして勇者達が罠と知りつつ集まってきますかな?」

 

竜騎将バランが、冷静に意見を述べた。その意見にハドラーは口角を上げた。

 

「問題ない……。フレイザードからは、奴らは絶対に再度バルジの島に来ると報告が上がっている。そして俺も、その判断を支持する。アバンもそうだったが、奴らは甘っちょろい感傷で行動する信じられんほどの下等生物だからな」

 

「なるほど……。アバンにも、その弟子にも会ったことのない私などが、口を出すことではありませんでしたな。失礼した」

 

「いや、かまわぬ」

 

「し、しかし、ハドラー様。奴らが必ず来るとして、その状況を作ったのはフレイザードのはず。手柄にうるさいあの男が我らが参入する事に納得しますかな?」

 

フレイザードの気性の激しさを良く知っているザボエラが、そうハドラーに問いかけた。

 

「その心配には及ばん。あいつは伝説の禁呪法によりこの俺が生み出した怪物。俺の言葉には刃向わん。それに、今回はあいつから援軍を要請して来たのだから、なおさらよ」

 

「フ、フレイザードが自ら援軍を要請? それはまた、あの者らしからぬ事を……」

 

ザボエラが、援軍を要請するフレイザードの姿が想像できず、思わずそう呟いた。

 

「うむ……。ダイと等しく警戒すべき敵として、ポップなる賢者の存在は承知していたが、それに加えて凄腕の剣士までダイに味方しているらしい。クックック……。フレイザードめ。よっぽど先の闘いで奴らに煮え湯を飲まされたと見える」

 

「……ほう、凄腕の剣士。それは面白い。では、その者の相手は私に任せてもらおう……!」

 

同じ剣士として、その凄腕の剣士とやらに興味の出たバランはそう告げ、もはや用は無いとばかりに、その場を去ろうとする。

 

……しかし。

 

「ま……待てバラン! お前には別にやってもらいたいことがあるのだ」

 

そのハドラーの言葉に足を止めるバラン。

 

「何だと?」

 

「実はミストバーンの担当しているカール王国がなかなかの手練れ揃いで手こずっておるのだ。よって、お前にはそちらに向かってもらいたい」

 

「……たった今、“残る全軍団”と言われたはず! それに各戦線の侵攻よりも勇者打倒が優先されるのではなかったのか……!?」

 

そのバランの言葉に、ハドラーは苦々しげに押し黙る。それは、ハドラー自身も、自らの言葉の矛盾に気が付いていたからだった。

 

「それとも……そのダイとかいう小僧と私が出会ってはまずい理由でもあるのかね……?」

 

バランのその言葉に、ハドラーは僅かに顔を強張らせた。

その事にバランも気が付いたが、組織における序列の重要さを認識していたバランは、それ以上自己を主張する愚を悟り、『指示通りカール王国に向かう』とハドラーに告げ去って行った。

 

その様子に安堵の息を吐いたハドラーは、その場に残っていたザボエラに命じた。

 

「ザボエラ、ダイの向かう塔が分かれば俺に伝えよ。分かったな?」

 

「は、ははー。承知いたしました」

 

そう言って頭を下げたザボエラはしかし、ハドラーに見られぬよう狡猾な笑みを浮かべていた。

 

(ダイの側には、必ずあの賢者がいるはず……。あやつだけは儂の手で……!)

 

 

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