転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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GWですね。今日中に5章は全て投稿予定です。大丈夫です、計画的投稿です。


71話 氷魔の塔の戦い

船が、波を掻き分けて猛スピードで進んでいる。激しい縦揺れと共に、俺の顔には時折波の飛沫がふりかかる。

 

黒く大きなシルエットのバルジの島の東西に、白く輝く塔と煌々と燃え上がる塔が屹立しているのが、ここからでも見て取れる。徐々にそのシルエットが、俺の視界を埋め尽くしていく。バルジの島が目前だ。

 

しかし、俺達の乗っている船は一向にスピードを落とす事なく前進し続けている。俺は思わず、頬がヒクついた。このまま進めば、船は海岸線の岩場にすさまじいスピードで激突し、粉々になるのは必至だろう。

 

「たあぁー! 真空呪文(バギ)!」

その危険性に気がついたダイが、船を減速させるため真空呪文(バギ)を唱えだした。俺がやってもよかったんだけど、確かこの経験を経てダイは真空呪文(バギ)の魔法を覚えたはずだ。だから俺は、原作通りダイに任せる事にした。

 

隣の船でも同じようにアポロさんが真空呪文(バギ)の魔法を唱えて、船を減速させようとしている。

 

さあ、どちらの真空呪文(バギ)の力が上かな? 俺は他人事のように、その様子を眺めていた。

 

ああ、やっぱり駄目だ。どちらの船も十分な減速ができないまま、もう岩場が目の前に迫ってきた。俺は船の後尾から、そっと飛翔呪文(トベルーラ)を唱えて一人船を離れた。

 

(皆、骨は拾ってやるからな……)

 

――ドガーン!!

 

そして、船のスピードが早すぎて減速が間に合わないままダイ達の乗る船は、岸壁に激突してしまった。氷で作った船は粉々に砕かれ、その破片が周囲に散乱している。隣の船も似たようなものだった。皆まるで漫画のように宙を飛び、砂浜に頭からダイブした。

 

まあ、これはお約束というか様式美のようなものだから、重傷を負った人間はいないだろう。俺は、『ダイの大冒険』という物語に敬意を表して、このお約束のイベントを発生させていた。

 

「い、痛たたた……」

 

ダイが、涙目になりながらも起き上がってきた。他のメンバーも同じような感じだ。心なしか皆が、『一人だけで逃げたな』というジトッとした目を俺に向けている気がするが、俺はあえてそれに気がついていないふりをした。いや、だって痛いの嫌だし……。

 

 

さあ、ここからが本番だ。

 

俺達は軽く打ち合わせをした後、それぞれの担当する塔目指して別れた。俺とダイ、マァムのパーティーは氷魔の塔を担当して、レオナ姫達は炎魔の塔だ。

 

各塔には魔王軍が待ち構えているだろうが、確か原作では、氷魔の塔には魔軍司令ハドラーが、炎魔の塔には妖魔師団長ザボエラと魔影軍団長ミストバーンが待ち受けていたはずだ。

 

どちらも強敵には違いないが、ハドラーの方がより脅威度が高いと思った俺は、何も言わず氷魔の塔を受け持つことにした。

 

ダイとマァムが先頭を駆けている。氷炎結界呪法の影響範囲をギリギリ外して海岸線を走っているから少し大回りではあるが、この調子なら後30分もしないうちにたどり着けるだろう。時刻は深夜だが、今日は満月のため月明かりでよく見える。

 

 

 

 

 

そして、その30分後、俺達は氷魔の塔手前の藪の中にいた。思った通り、塔の周囲には塔の警護のためと思われる大量のブリザードがいた。そして、多数の『悪魔神官』に『さまよう鎧』も。

 

ん!? 『悪魔神官』に『さまよう鎧』だって? これって、まさか……。

 

 

「ヒーヒッヒッヒッ! 来おったな、勇者どもよ!」

 

「……」

 

――! 突然、上空から甲高い不愉快な声が俺達に発せられた。

 

ちっ、既に向こうには気づかれていたか。それに、やはりこいつらは……。

 

「ロモスの城では世話になったのう……。お前達に受けた屈辱を晴らすため、儂が直々にやってきたのよ。ほれ、あの時受けた傷もようやく癒えたわ」

 

俺達が上空を見上げると、空中に低身長の爺さんのような外見をした魔族が浮かんでいた。そして、そいつは甲高い声を上げながら右手を持ち上げている。

 

そうだ、こいつはロモス王国で世話になった妖魔師団長ザボエラだ。そして、隣にいるのは……。

 

「ヒッヒッヒ。こやつは無口じゃからのう。儂から紹介してやるとしよう。此奴は、魔影軍団長ミストバーンよ」

 

「……」

 

やはりミストバーンか。初めて見るな。足下まで届くほど長く白いローブを頭から着用していて、その容貌がうかがえない。ていうかそもそも、何か黒い霧のような物がローブの下のミストバーンの身体全体を包みこんでいて、その姿がさっぱり分からない。

 

うーん、なんなんだろうな、こいつは。他の軍団長は、バラン戦までに比較的描写があるから、その性格まである程度把握できているんだが、こいつだけは……。

 

確か、『大魔王様のお言葉は全てに優先する』という台詞を吐いていたような……。

 

つまり、大魔王バーンに対する忠誠心は並々ならぬものがあるということだろう。後は、ヒュンケルの闇の師であり、ヒュンケル同様、闘魔傀儡掌に注意と。それと、さほど重要ではないが恐ろしく無口という事……か。

 

……何故無口なんだろうな? 性格かな?

 

「ザボエラ! ロモスでは、よくも爺ちゃんを! 今日こそお前を倒してやる!」

 

「キッキッキ。ロモスでは頭の足りんクロコダインのお陰で、思わぬ不覚を取ってしもうたわ。お陰で、そこのお前を手に入れるはずじゃったのに、それもできんかったわ。じゃが、今からでも構わんぞ。どうじゃ? 大人しく儂のもとにくれば、お前好みの女をあてがってやってもよいぞ?」

 

ザボエラは、俺の方を見てそう勧誘する。

 

ちっ、まだ俺を捕らえることを諦めていないのかよ。勘弁してくれよな、こんな性格のねじ曲がった爺さんに粘着質に絡まれるのなんて御免だぞ。

 

「馬鹿じゃないのか? そんな誘惑に乗る俺じゃ――」

 

「どんな女でも良いのじゃぞ。そうじゃ、エルフなんぞどうじゃ? エルフの女は美しいぞー」

 

……え? エルフいんの? この世界に? 嘘だろ。聞いてないよ。もしかしてもしかすると、永遠の乙女みたいなエルフ? 耳長いのかな? あ、でも貧乳かな? うわー、見てみたいな、どこにいるのかな。

 

ヤベッ、急にテンションが上がってきた。

 

「そ、その話、詳しく――」

 

――グフッ!

 

お、おう……。お、俺の脇腹に、……マァムの肘鉄が飛んできた……。い、息が出来ない。苦しい……。

 

「ちょ、マ、マァム……。お、俺は、情報収集のために、あえて会話を続けようと――」

 

「――ふん!」

マァムは冷たい目で俺を見返す。えー、だってエルフだよ? 中二病の俺にとって、その言葉はちょっとパワーワード過ぎたんだよ……。

 

「ヒッヒッヒ。まあ良いわ。おまえ以外にも別の実験材料が手に入ったからの」

 

……何? 聞き捨てならないな、それは。

 

「おい、ザボエラ。お前、いったい誰を実験材料にしたって――」

 

「キヒヒッ。そんな事はどうでも良い事じゃ。さあ、妖魔師団の者どもよ。こやつらを始末してしまえ!」

 

ザボエラのその声に従い、氷魔の塔周辺にいる魔物が向かってきた。

 

ちっ、仕方ない。やるしかないな。それに、こいつらがここに来たと言う事は、向こうにはハドラーが向かったと言う事だろう。俺は、人数的には炎魔塔に向かったパプニカ組の方が多いが、それでも戦力的にはダイのいるこちらの方が上回っていると考えていた。

 

魔王軍がハドラーという最大戦力をあちらにぶつけてきているのなら、こちらを早く片付けて向こうに駆けつけないと、まずい事になりそうだ。

 

 

 

 

 

~~~~氷魔の塔~~~~

 

「ポップ、どうする!?」

 

ポップはダイの言葉に一瞬逡巡するが、すぐに返事を返した。

 

「まずは雑魚を片付けよう! ザボエラとミストバーンの動きに気を配りつつ、あの敵集団の中に飛び込むんだ。そうすれば、同士討ちを警戒して大技は撃ってこれないはずだ!」

 

「分かった(わ)!」

 

ポップ達は、向かってくる魔物の集団に自分達から飛び込んでいった。既にポップにより全員に防御力変動呪文(スクルト)敏捷力変動呪文(ピオリム)の魔法がかけられており、防御力と敏捷性は平常時より向上していた。

 

ポップは乱戦のただ中に飛び込んだ事になるが、向かってくる魔物はポップにとってそれほど強力な魔物ではなかった。ポップは魔力の温存を考えているのか、自身で作り出した氷の棍を振るって、悪魔神官達を主に接近戦で打ち据えていく。

 

そして、マァムとダイはポップ以上に縦横無尽に動き回って敵を倒していた。

 

マァムは、ブリザードに対しては炎を纏わせたメタルフィストで攻撃し、さまよう鎧に対してはそのまま殴りつけることでその鋼鉄の鎧を粉砕していった。

 

ダイも大地斬でさまよう鎧を一撃で何体も倒し、時折放たれる悪魔神官からの魔法攻撃は海波斬で迎撃する。

 

そうして戦い始めていくらもしないうちに、突如上空に強烈な冷気と共に氷雪の嵐が渦を巻き始めた。

 

「ヒーヒッヒッヒ。同士討ちを警戒して大技を撃ってこない? 甘いのー。こやつらは、儂にとって只の駒よ! さあ、儂のかわいい駒と一緒に氷漬けになるがいいわ! ――氷系呪文(マヒャド)!!」

 

ザボエラのその詠唱と共に、上空よりダイ達を中心に捉えた巨大な氷雪の嵐が降り注いだ。

 

 

……だが、地上で上空より落ちてくる氷雪の嵐を見上げた賢者は、この事態を最初から予測していたかのように、ニヤッと笑みを浮かべた。

 

「――だよな? 俺も、お前がそういう手段に出る奴だと言うことは最初から分かっていたさ。ダイ、マァム、俺の傍に! ――防御光幕呪文(フバーハ)!」

 

ポップは左手を上空に突きだし、防御光幕呪文(フバーハ)を唱える。直後その左手から青色をした光の粒子があふれ出し、その粒子が3人を包み込むように半球状の光幕を構成する。

 

その半球状の光幕は、直後に周囲一帯を襲った氷雪の嵐による冷気を完全に遮断していた。彼らの周囲の悪魔神官や、さまよう鎧が次々と凍り付いていく中、光幕の内部には一切の冷気の侵入を許していない。

 

「――な、何じゃと! 何という速さと光幕強度の防御光幕呪文(フバーハ)じゃ! しかも魔法を防ぐとは!?」

 

妖魔師団長ザボエラも、魔王軍内において並び立つ者のいない絶大なる魔法力を誇っている。そのザボエラから見ても、目の前の賢者が唱えた防御光幕呪文(フバーハ)の魔法は異常であった。

 

その展開速度と光幕強度も目を見張るほどのものだったが、特に異常なのはその効果だった。通常防御光幕呪文(フバーハ)の魔法は炎や氷雪のブレス攻撃を防ぐための魔法であり、火炎魔法や氷結魔法に対しては全く効果がないわけではないが、その効果は大幅に減じられる。

 

しかし、目の前で展開されている防御光幕呪文(フバーハ)は、その効果を減じられるどころか完璧なまでに自身の放った氷結魔法の最上位呪文 氷系呪文(マヒャド)による氷雪の嵐を防いでいた。

 

「ぐぬぬぬ……」

 

今更ながらにザボエラは、ロモス王国で目の前の男を虜囚にできなかった事を悔いていた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

俺は、防御光幕呪文(フバーハ)の光幕の中で上空の二人の軍団長を見つめながら次の一手を考えていた。ミストバーンは、戦いの最初から今まで一切の動きを見せていない。それは、まるで俺達の手の内を直接確認しようとしているかのようだった。

 

俺は、最初からザボエラが味方を巻き込んで、何らかの魔法を放ってくる事を予測していた。昨日からの連戦続きで魔力量に不安のあった俺は、それをそのまま利用しようと考え、あえて敵中に飛び込んでいた。お陰で労せずして、ほとんどの悪魔神官と、さまよう鎧はこのザボエラの放った氷系呪文(マヒャド)によって全滅しようとしている。

 

――良し! 俺は決断した。

 

「ダイ、マァム! 俺はしばらく魔法戦に集中する! すまないが、2人にはその間の防御を頼む! ブリザードは、まだまだ元気だからな!」

 

2人が俺の言葉に頷き、俺を挟むような態勢を取る。その様子を横目で確認しながら、俺は右手に魔力を集中させた。直後にその右手の掌から、あふれ出すように炎が放出され始める。ダイとマァムが、その俺の右手から発せられる熱気に驚いたように、少し俺との距離をとった。

 

「すまないな、2人とも。直ぐに放つから我慢してくれ……」

 

俺はそう2人に詫びて、その炎を更に凝縮させていき、最終的に大人の体格ほどもある火の鳥にその姿を変えさせた。

 

「さあ、行け! ――火炎呪文(フェニックス)!!」

 

俺の右手から放たれた火の鳥は、防御光幕呪文(フバーハ)の光幕を内側からすり抜け、吹き荒れる氷雪の嵐すら意に介さず、ザボエラ目指して飛翔した。

 

「な!? そ、その魔法は、まさか!? ――ええい!」

 

ザボエラは地上に放出していた氷系呪文(マヒャド)の標的を、自身に向かってくる火の鳥に変更しこれを迎え撃とうとする。

 

しかし、氷雪のエネルギーを内包した白い魔力光と火の鳥が激突する寸前、火の鳥がその魔力光の外縁部を螺旋を描くように回転し、術者であるザボエラのもとに迫った。

 

「――な、何じゃと!? 火炎が何故このような動きを!?」

まるで生きているかのように氷系呪文(マヒャド)を躱して自身に迫りくる火の鳥を見て、ザボエラが驚愕の声を上げる。

 

「――い、いかん!」

 

もはや氷系呪文(マヒャド)では火の鳥を抑えきれないと判断したザボエラは、火の鳥の直撃を受ける寸前で飛翔呪文(トベルーラ)によって躱そうとするが、氷系呪文(マヒャド)を放っていた右手が火の鳥の直撃を受けてしまった。

 

ザボエラの右手の肘から先が、一瞬で燃え尽き消失する。

 

「ギャアァアー!! ――そ、蘇生したばかりの儂の腕をよくもぉッ!!!」

 

ザボエラの絶叫が戦場に木霊した。

 

そして俺は、火の鳥の勢いを衰えさせぬまま上空で旋回させ、先ほどから一切の挙動を見せないミストバーンに向かって加速させた。

 

「……」

ミストバーンは、自身に向かってくる火の鳥を静かに見つめている。

 

そして唐突に、ミストバーンは向かってくるその火の鳥に対して、自身の纏っている白いローブの胸元を大きくはだける行動をとった。

 

このミストバーンの行動に、俺は困惑した。この行動は、何かおかしい。嫌な予感がよぎった俺は、ギリギリの所で火の鳥をミストバーンに激突させる事を回避させた。

 

そしてそのまま、火の鳥を氷魔の塔の基礎部に向かって加速させた。

 

 

――ズガーン!

 

 

直後、大きな音を立てて火の鳥が氷魔の塔に激突する。

 

すると、氷魔の塔の基礎部から大量の水蒸気が噴き上がり、基礎部がグラグラと揺れ始めたかと思うと、次第にその揺れが塔全体に波及していき、最終的には氷魔の塔がガラガラと音を立てて崩れ落ちていった。

 

砕けた氷魔の塔の破片が、まるでダイヤモンドダストのように周囲を覆う。

 

「やった! さすがポップだ!」

ダイが歓喜の声を上げる。

 

「ええ。これで残るは炎魔の塔だけね!」

 

俺は、当初の目標であった氷魔の塔を破壊した事にまずは安堵しながらも、先ほどのミストバーンの行動を訝しんでいた。あいつは、明らかに火炎呪文(フェニックス)を避けるのではなく、受け止めようとしていた。

 

もしかすると、あいつには魔法が通用しない? いや、それだけならともかく、魔法を反射したりすることも可能なのか? 確かめたいな……。

 

「く、くくぅー! おのれー! 良くも塔をー! ミストバーン! お主も少しは闘わんか!」

ザボエラは右手を失った痛みに身体をもだえながら、先ほどから一向に行動を起こさないミストバーンを非難する。

 

そのザボエラの非難の声を受けてではないだろうが、突然ミストバーンは右手の指を俺に向けた。

 

そして、この戦場に現れてから初めてその重い口を開いた。

 

「あの方と同じ呪文を……。……その罪、万死に値する……!」

 

 

 

あの方と同じ? 罪と言ったのか、こいつ? ――!

俺は、そのミストバーンの言葉の意味を一瞬考えたが、直後に俺を襲った攻撃にすぐにそれどころでは無くなった。

 

突然ミストバーンの指先が、俺の胸元めがけて伸びてきたのだ。

 

「うぉッ! ――危ねえ!」

 

俺はとっさにその攻撃を背後に飛んで躱した。危なかった……! 距離があって助かったぜ。――! とっ! まだ来るか!!

 

立て続けにミストバーンの指先が俺を襲う。こいつ、何でこんなに激怒してんだよ!? 感情を滅多に現さない奴じゃなかったのかよ。俺はただ、火炎呪文(メラゾーマ)を唱えただけだろうが!

 

「おい! 万死に値するってどういう意味だよ! 俺の火炎呪文(フェニックス)に何か文句でも――!」

 

しまった! ――地中から爪が伸びてきやがった! 俺は、自身の胸に下から迫る鋭い爪を走馬灯のようにゆっくりと感じていた。

 

――刹那。

 

「――危ない、ポップ!」

 

ダイがその爪の前に立ち塞がり、その鋼の剣の刀身でミストバーンの鋭利な指先を受け止めてくれた。そしてマァムは、ミストバーンの次の攻撃を警戒して俺の横につく。

 

「助かった、ダイ!」

俺は、寸前で攻撃を防いでくれたダイに礼を言った。

 

だが、ミストバーンの攻撃はこれで終わりではなかった。俺達が1箇所に集まるのを待っていたかのように、ミストバーンが次の手を放つ。

ミストバーンの左手の指先から突然黒い雷撃のような攻撃が放たれ、一瞬にして俺達全員を拘束した。

 

「ぐうあぁ! ――し、しまった! 警戒していたのに!」

 

「あ、ぐぅぅ!」

 

「きゃああ! う、動け……」

 

畜生! こいつは、ヒュンケルの闘魔傀儡掌の広域展開版かよ! 何という速さと影響範囲だ! こ、これでは……!

 

 

「ぐぅうー! ダ、ダイ! 光の闘気だ! ヒュンケルと戦った時と同じようにそれで打ち破るんだ!」

 

「う、うん――。や、やっているけど、あの時よりこれは……! あ、ぐあぁ――!」

 

ちっ! この威力は、ヒュンケル以上だ! 頼みのダイが、闘気を集中する事ができない……!

 

――頼む、ダイ! お前にしか、こいつは破れないんだ! 俺は、黒い稲妻が激しくスパークする脳裏で必死に訴えていた。

 

「……死ね……」

 

身動きのとれない俺達に対して、ミストバーンが再び鋭利な爪を伸ばす。その矛先は、もちろん俺だ。――畜生! こいつ、どれだけ俺に激怒してんだよ!!

 

ヤバイっと思った瞬間、突如ダイの鞄の中から金色に光る物体がミストバーン目指して飛び出した。

 

それは、ゴールデンメタルスライムのゴメだった。

 

「ピイー!」

 

勇ましい声を上げながらゴメは、ミストバーンの頭部に体当たりを行う。

 

その体当たりは、ミストバーンにダメージを与えられた様子は無かったが、俺に迫っていた爪の矛先を、ほんの少しだけずらす事は出来ていた。俺の身体のすぐ横の虚空を、掠めるように貫く鋭利な爪。

 

た、助かった……。ありがとう、ゴメ。

 

しかし、勇敢なゴメの行動もそこまでが限界だった。無言のまま振るわれたミストバーンの掌打により、ゴメが地表に叩きつけられる。

 

「ゴメ!」

「ゴメちゃん!」

「ゴ、ゴメちゃん! こ、このー! よくもゴメちゃんを!! うおぉー!!!」

 

地面に打ち据えられたゴメを見て、ダイが激高する。その額には、いつの間にかドラゴンに似た紋章が浮かび上がっていた。

 

「――!」

「な、何じゃ、あの紋章は! え、ええい! これでも喰らえ、火炎呪文(メラゾーマ)!」

 

突如としてダイの額に浮かび上がった紋章にミストバーンとザボエラは驚愕する。そして、その額の紋章が一際輝いたと思うと、ダイの全身から漲った闘気がミストバーンの放った闘魔滅砕陣による黒い拘束を打ち払った。

 

「良くやった、ダイ! ――氷系呪文(ヒャダイン)!」

ダイと共に拘束から解かれた俺は、自身に放たれた火炎呪文(メラゾーマ)による攻撃を氷系呪文(ヒャダイン)で迎撃する。

 

「お、おのれー! 今少しだったというのに……。一体何じゃったんじゃ、あれは!?」

「……」

 

再び振り出しに戻った戦場で、俺はダイとマァムに小声で声をかける。

 

(ダイ、マァム。2人でミストバーンの相手をしてくれないか? 無理に倒そうとしなくていいぞ。あいつはまだ力の底が見えないから、それを確認するだけで良い。俺はその間にザボエラを倒す)

 

(うん、分かった)

(分かったわ。無理をしちゃ駄目よ、ポップ)

ダイは、気絶したゴメを鞄の中に優しくしまいながら返事を返す。

 

(分かっているさ。じゃあ、頼むな、2人とも)

 

 

 

 

相談の終わった俺は、ザボエラ目がけて飛翔呪文(トベルーラ)で飛翔した。

 

「―! ぬう、小癪な小僧め! ――爆裂呪文(イオラ)!」

 

ザボエラは、地上より迫る俺に対して瞬時に5つの爆球を創出し放ってきた。それに対して俺も、ザボエラと同じく5つの爆球を作りだし迎撃する。

 

ドドドドドーーーーーン!

 

俺とザボエラの間で5つの爆球同士がぶつかり合い、ビリビリと大気が震えるような振動が俺を襲った。

 

この魔法発現速度と威力は……。なかなかやるな、妖魔師団長ザボエラ。そういえば、こいつとサシでやり合うのは初めてだな。しかし、こいつは戦場に出てこず陰で暗躍されている時の方が怖い。むしろこうやって、戦場に立っている時の方が好機と言える。

 

絶対にこの戦場から逃がさない。お前は、ここで確実に殺すぞ……!

 

俺は飛翔呪文(トベルーラ)でザボエラに肉薄した。彼我の距離が縮まる。しかしザボエラは、接近する俺の姿を見てニヤッと不愉快な笑みを浮かべた。

 

「間合いに入りおったな! 喰らえぃッ! ――即死呪文(ザキ)!」

 

「――何!? ちぃッ!」

 

「ヒーヒヒヒ……! 即死呪文(ザキ)を喰らった事があるかのう? そおら、死の囁きがお前の直ぐ傍まで来ておるぞぉ!」

 

俺の周囲を、黒い霧がとぐろを巻き始める。

 

即死呪文(ザキ)を喰らった事があるかだと!? 俺にそれを言うか! 俺がどれほど、あの時の事を悔いているか……!

 

俺は、黒い霧が俺の周囲を完全に覆ってしまう前に、ザボエラに対してお返しとばかりに呪詛の言霊を発した。

 

「人を呪わば穴2つだな、ザボエラ! そら、お返しだよ! ――即死呪文(ザキ)!」

 

目には目を、歯には歯を、だ。俺もザボエラ同様即死呪文(ザキ)の呪文を唱えた。こいつを唱えるのは初めてだな。やれやれ、まさか使う機会があったとは。

 

俺の呪詛の言霊に呼応して、ザボエラの周囲にも俺と同様に黒い霧が発生する。

 

「な、何じゃとぉッ! 貴様、勇者一行(パーティー)のくせに、即死呪文なんぞ使いおって、恥を知らんのか!!」

 

「生憎だったな。俺は勝つためなら、どんな手段だって取るつもりなんでね。ていうか、恥だのなんだのは、お前にだけは言われたくねえんだよ!」

 

どの口が言っているんだよっ、たく……!

 

ヒソヒソヒソヒソ……。おっと、俺の脳裏に不気味な声が響き始めた。何か得体の知れない不気味な存在に、俺は心臓を鷲掴みされたかのように感じる。くっ! こいつは気持ち悪いな! しかし、ザボエラの方を見やると、奴も同じようだった。ザボエラはきつく目を閉じ、脂汗を額にビッシリと浮かべて、必死に死の誘惑から耐えている。

 

俺とザボエラの、それぞれの死の誘惑への抵抗は、わずかに俺の方が早く打ち勝つ結果となった。

 

耳障りなヒソヒソ声と黒い霧が晴れた俺は、間髪を入れずにザボエラに再び突進する。そして瞬時にザボエラに接近し、右手に持った氷の棍で打ち据える。

 

「――グ、グボアッ!」

 

片手を失い、懐に入られたザボエラにはそれを防ぐ手立てがなかった。上下左右より棍の攻撃をくらい、最後に直上より頭部への棍の一撃を喰らった事で、地面に叩きつけられるザボエラ。

 

それを上空から見た俺は、氷系呪文(ヒャダルコ)を唱えて自身の左手前方に13本の氷の槍を発現した。

それは俺にとって、手数の多さと殺傷能力という点において最も信頼する魔法だった。

 

明確な殺意を持って俺は叫ぶ。

 

「――行け!」

 

その声に呼応し、13本の氷の槍が一斉にザボエラ目指して加速した。

 

「――ヒ、ヒィイ!  こ、こうなれば、仕方あるまい! 出でよ、デルパ!」

 

ザボエラは左手に魔法の筒を握りしめ、叫んだ。

 

その途端、ザボエラの前方に白い煙が立ち上る。そして、その白い煙の中で輪郭のみうっすらと見える何者かが、右手に持つ剣らしき物を振るって13本の氷の槍全てを砕き割った。

 

「何!?」

 

突然現れたザボエラの助っ人に、思わず俺は驚愕の声を上げた。

 

次第に白い煙が晴れ、そこに現れたのは頭から足の先まで漆黒の鎧を纏った黒衣の騎士だった。

 

 

 

 

 

誰だ? 俺はザボエラの盾となるように現れた黒衣の騎士を凝視した。原作ではこんな奴は現れなかったはずだ。

 

「ヒーヒッヒッヒ。まだ調整が済んでおらなんだので使うつもりはなかったが、念のために持ってきておいて良かったわ。さあ、ザイード! やつを始末してしまえ!」

 

「はい、父さん」

 

ザイードと呼ばれた黒衣の騎士は、その右手に構えた剣をゆらりと構えた。そして突然飛翔呪文(トベルーラ)を使用し、俺に突進する。

 

――こいつ! 飛翔呪文(トベルーラ)を使うのか! 想定していなかった事態に、俺は一瞬動きが止まってしまった。

 

やばい! 黒衣の騎士は一瞬で俺の懐に入り、剣を振り下ろしてきた。それに対して俺は、かろうじて氷系壁呪文(アイスウォール)を剣と俺との間に構築してその直撃を防ぐ。

 

直後氷系壁呪文(アイスウォール)は砕かれたが、その剣速が減じられている間に俺は、再び黒衣の騎士と距離をとった。いや、右手からわずかに出血している。危ないところだった……。

 

「ポップ! 大丈夫!?」

 

ダイがこちらを見て大声を上げたので、俺は左手を挙げて問題ないと返事をする。チラッとミストバーンの方を見ると、ちょうどマァムが放った魔弾銃、おそらく火炎呪文(メラミ)だと思うがそれを身体で受け止めてはね返すところだった。

マァムは……。よかった、マァムも様子見のつもりだったのだろう。余裕を持って打ち返されたその攻撃を躱している。

 

ちっ、しかし、やはりミストバーンには魔法が通じないどころか、魔法をはね返す能力があるようだ。しかも、今の様子を見ると増幅している気配があるな。……やっかいな。

 

と、いけない。まずはこちらの対処だ。俺は目の前にいる黒衣の騎士に意識を戻した。俺はこいつが魔法の筒から現れた直後から、奇妙な違和感を抱いていた。さきほど不覚を取りかけたのも、その違和感に気をとられたという事も実はあった。

 

何故だ? 俺は何故か、こいつのたたずまいに懐かしさを感じる。

先ほどの氷の槍を打ち払った剣筋。それに先ほどの声。どこかで聞いたことがある気がする。

 

ザイード……。その名前には覚えがない。だけどこいつは……。

 

「何をしておる、ザイード! 早くそやつを始末せんか!」

 

「はい、父さん」

 

そうザボエラに返事を返したザイードが再び俺に迫ってくる。俺はそれを、飛翔呪文(トベルーラ)で後方に下がりながら閃熱呪文(ギラ)を放ち迎撃する。

 

しかしザイードは、俺の放ったギラを巧みに剣を操ることで弾いてなおも接近する。だったら、これならどうだ! 俺は右手をザイードに突き出し、閃熱呪文(ベギラマ)を放つ。

 

高熱の閃光は俺の狙い通り、ザイードの鎧の胸部に命中する。そしてその勢いのままザイードは、背後にある大岩に叩きつけられた。

 

俺は自身の与えたダメージ量を量るため、その様子をじっと観察する。

 

ザイードが軽く首を左右に振りながら、立ち上がってきた。ふむ、魔法による影響は内部にはなかったように見えるが、岩とぶつかった際の衝撃は感じているようだな。

 

しかし、この仕草……。やはり見覚えがある気がする。……これは確かめる必要があるな。

 

俺はザイードと同じく地上に降り立つ。

 

そして、ダメージから回復したザイードが再び俺目がけて突進を始める。振りかぶった剣は、白い輝きを発している。この輝き……。

 

『私も目にしました。あれは、闘気剣ですね』

 

『まあ、私の奥義であるアバンストラッシュに似た技ですね。自身の闘気を剣に伝えそれで敵を切る。ポップの使った地竜閃と原理は同じですよ』

 

『彼の闘気剣はかなりのものです。……それだけに、指導を断られたのは惜しいですね。彼ならきっと更なる高みに登れたでしょうに』

 

アバン先生の言葉が脳裏に思い浮かぶ。何故俺は、今こんな記憶を思い出している? 

 

 

俺は、予定していた魔法の射程範囲に入ったザイードに対して魔法を発動した。

 

「姿を見せてもらうぞ、ザイード! ――重圧呪文(ベタン)!!」

 

『ズシン!』という音と共に途端に高重力波がザイードを中心に展開され、地面は上空から何か重たい物質を押しつけられたかのように半球状にひび割れていく。

 

「――グ、グウゥ!」

ザイードはその重力波の中心から逃れることできないようで、完全にその歩みが止まっている。

 

「な、何じゃその魔法は!?」

 

ザボエラが俺の魔法を見て驚愕の声を上げる。

 

俺が師匠から教えてもらったこの重力魔法は、大気の重力加速度を増幅させる魔法だ。通常地球上でかかる1Gの重力を、魔法によって数倍に変動させる。物理学の発達していないこの世界で、本当によくこんな魔法を師匠は開発したものだ。あの人は、本当の意味で天才だと思う。

 

しかし、原作ポップも言っていたが、この魔法はえらく燃費が悪いな。俺は、昨日からの連戦続きで自身の魔法力の限界が近い事を感じていたため、勝負を急いだ。それに、下手に時間をかけると、ザボエラあたりがまた邪魔してくるからな。

 

今奴の周囲の大気は5Gになっている。つまり、やつの体重が60kgだとすれば、その体重は5倍の300kgに感じている事になる。契約したばかりでまだ十分にこの魔法を使いこなしていないから今の俺には5Gが限界だったが、どうにかこれで足止めができてよかった。

 

俺は重圧呪文(ベタン)を発動している右手ではなく、左手で爆裂呪文(イオ)を発現し、その爆球をやつの頭部を覆っている兜の周辺で爆発させた。

 

よし、うまくいった。やつの頭から兜が外れて地面に落ちる。

 

 

そして現れたその素顔は……やはり俺の想像した人物だった。

 

 

 

そう、そこにいたのは、かつてリンガイア王国で出会った、北の勇者ノヴァだった。

 

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