「――
レオナの放った炎の塊が空中にいたガーゴイルに直撃し、火だるまとなって地上に落下する。その横では、同様にアポロの放った
「さあさあさあ、ガーゴイル共め。来るがよい! 我が豪剣の錆にしてくれるわ!」
その前方ではバダックが威勢よく剣を振り回しているが、誰にとって幸か不幸かその剣の錆になるべき魔物の群れのほとんどは、既に絶命していた。
それをもたらした人間はバダックの更に前方にいた。
「ギャアー!」
最後に残った1匹のガーゴイルが、断末魔の悲鳴を上げながら地面にひれ伏す。その周りには既に、両手の数ではきかない程の数のガーゴイルが息絶えていた。
息絶えている魔物の中心で、1人の戦士が剣を軽く振ることで、その刀身についた魔物の血を拭い取っている。
「この辺りにいたガーゴイルは皆倒せたようね。ヒューイ、ご苦労様。皆も怪我はないかしら?」
レオナがその戦士、ヒューイにそう問いかける。アポロ、エイミ、バダックも周囲を警戒しながら集まってくる。
「……俺に怪我はありません、レオナ姫」
「嘘よ! ヒューイ、あなた私を庇った時に、左肩に傷を負っていたじゃない!」
ヒューイがそうレオナに返すが、異議を唱えたのはエイミだった。
その声に皆がヒューイの左肩を見る。確かにヒューイの服の左肩の周囲には赤い血がまとわりついていた。あまりにヒューイがその傷を気にしていない様子だったため、エイミ以外の人間はこれを魔物の返り血だと思っていた。
しかしよく考えると、ガーゴイルの血は緑色のためこれは確かにヒューイの流した血だと皆が気がついた。
ここは、小舟が着いた海岸から炎魔の塔に向かう途中にある森の中だった。炎魔の塔に向かっている最中に、上空で周囲を警戒していたガーゴイルに見つかりレオナ達は奇襲を受けていた。その際、エイミがガーゴイルの
「ちょっと、ヒューイ。怪我をしたんなら、したと言ってよね。ほら、回復魔法をかけるから肩を見せてみなさい」
レオナはそう言ってヒューイの左肩に手を置こうとする。
しかしヒューイは、そんなレオナの手を失礼にならない程度の強さで阻んだ。
「……いえ、この程度の怪我は怪我のうちに入りません。レオナ姫の魔力は、アポロ達を回復することに使用してください。……俺などには必要ありません」
「む……」
そのヒューイの物言いに、レオナはカチンとして眉を額に寄せた。特に『俺などに……』という所にだ。彼女は、自分自身を卑下するような物言いを好まない。
「……分かりました。では、私は回復魔法を使いません。ですが、エイミ。あなたが代わりにヒューイの傷を癒やしなさい」
「はい、姫!」
エイミは、主君のその言葉に嬉々として返事をする。そして、「いや、俺は……」となおも抵抗の様子を見せるヒューイの意思など知ったものかとばかりに、ヒューイの肩に手を置いて
ヒューイの怪我をした肩を、緑色の優しい回復魔法の光が覆う。その回復魔法が施されている間、ヒューイは不承不承とした顔でその様子を見つめていた。
「ははは。まあヒューイも慣れるんだな。パプニカでは、姫やマリン、エイミ姉妹の傍若無人ぶりは他国に鳴り響くほどだったからな」
「おお、そうじゃ、アポロ様のいうとおりじゃ。儂なんぞどれほど姫の無茶に振り回されたことか……」
「あら、そんなことないわよ。私なんて深窓の令嬢と他国に噂されるほど、おしとやかな美少女として知られているはずよ♪」
「そうよ、アポロ。姉さんはともかく、私は虫も殺したことが無いぐらいおしとやかなんだから。ヒューイが誤解しちゃうじゃない。そういう言い方はやめてくれる?」
アポロとバダックは、その2人の女性の言い分に思わず顔を見合わせて苦笑した。バダックは何度もレオナ姫に城から脱走された事を、アポロは先ほど魔法が使えないなら直接、と小剣を手に取りガーゴイルに斬りかかっていたエイミを思い出していた。
ヒューイの肩の怪我が癒えたのを確認して、レオナが皆に声をかける。
「さあ、グズグズしてはいられないわ。もう敵には発見されちゃったわけだし、全速力で炎魔の塔に向かいましょう」
その言葉に皆が頷き、炎魔の塔に駆けだした。
ヒュンケルはその最後尾を駆けながら、この地点にガーゴイルが配置されていた事の意味を考えていた。ガーゴイルは、魔軍司令ハドラーの直轄部隊のはずだったと……。
炎魔の塔には、多数の魔物がその守りについていた。フレイムの大群はもとより、上空にはガーゴイル、地上にはアークデーモンの集団が大挙していた。
レオナ達は、その様子を森の中の茂みから伺う。
「思ったより数が多いわね。それに、あの鉄球を持った魔物はいったい……」
「あの魔物はアークデーモンです、姫。力が強く、爆裂呪文も扱う危険な魔物です。しかし、アークデーモンは地上ではほとんど確認されていない魔物なのに、あの数はいったい……」
アポロが、アークデーモンの数のあまりの多さに驚く。
「ふーむ、あの魔物の中を突っ切って炎魔の塔まで向かうのは、なかなか骨が折れそうじゃの。どうしたものかの……」
「レオナ姫。まず俺が一人で奴らの中に飛び込む。その騒ぎの隙に、姫達は大きく迂回して背後から炎魔の塔へ向かうというのは、どうだろうか?」
「……却下よ。はー……、まったくヒューイ。あなたね、いい加減自分を一番危ない所に置こうとするその癖を直しなさい」
レオナは、軽い頭痛を覚えながらヒューイのその提案を退ける。彼女は今更ながらに、数時間前にポップと別れる際に言われた言葉を思い出していた。
『ヒューイは、とにかく自分を大事にしない奴だ。多分死ぬ直前まで、いや死ぬ瞬間まで自分が怪我をしているという事を隠すような奴だから、よく気をつけて見ておいてやってほしい』
そう言われた時は、そんな馬鹿なとも思ったが、今ではその言葉が正しいことをレオナも理解していた。
この場所に到着するまでにも何度か魔物との遭遇戦があったが、ヒューイはとにかく無茶をする。
その近接戦闘力は、確かにアバンの使徒の長兄の名にふさわしく圧倒的だった。彼は敵を発見するなりそのただ中に飛び込み、ほとんどの敵を一人で倒していた。レオナ達の援護は全く必要ないとばかりに。
おかげでここまで、レオナ達はほとんど魔法力を消耗せずに済んでいるが、戦闘終了後彼自身に回復魔法を使用する事まで拒み続けるのには、さすがのレオナも閉口した。幸い彼は女性には強く出ないため、ほとんど強制的にエイミを彼の管理係に任命してこれまで対応させてきた。
今もレオナの隣で、エイミが目を吊り上げて「そんな無茶な作戦をさせるわけがないでしょう!」とヒューイに詰め寄っている。そのヒューイは、何故反対されるのか分からないといった表情でいる。
その様子を見て、ふとレオナは(あれ、もしかしてエイミって……)と思ったが、今は非常事態のため、からかうのは後にしようと思った。
「バダック。爆弾は2個あったわよね?」
「ん? おお、ありますぞ姫。ポップ君達の方には必要無いと言われたのでな、2個とも儂が持っておりますぞ」
「じゃあ、こんな作戦はどうかしら……」
レオナは皆に作戦を説明し、皆の了承を得たことからその作戦を実行に移すことにした。若干一名、自分の作戦の方が自分以外の皆が危険になる可能性が少ないと最後まで訴えていたが、多数決によりその作戦は却下されていた。
――ズドーン!
突然、炎魔の塔を守る魔物達のただ中に巨大な火球が出現し、轟音と爆風が吹き荒れた。それは、レオナ達が放った一発の爆弾による衝撃だった。フレイムにとって火は脅威では無かったが、突然発生した爆風により吹き飛ばされる。
そして、そうやって出来たスペースに、レオナ達が走り込む。
周辺の魔物が慌てふためいている間に、レオナ達は敵の大群の半ばまで突破していた。
「――海波斬!」
ヒュンケルが先頭に立ち、炎魔の塔までの間に立ち塞がる魔物を海波斬の衝撃波で一掃する。
その衝撃波の後を追いかける事で、レオナ達はどうにか炎魔の塔に爆弾が届く地点までたどり着くことに成功した。
「バダックさん! 爆弾を! ――
エイミが、再び周囲に集まり始めたフレイムの大群に対して氷結魔法を唱えて対抗する。
「おお! 今取り出すわい! よし、アポロ様、これに火を!」
アポロが、バダックから手渡された爆弾にメラで火を付けようとした時だった。
アークデーモンの集団の背後から、異様な魔力の高まりと大気の振動が彼のもとに伝わり、思わずアポロは爆弾を取り落としてしまう。
その兆候を、心当たりのある人物の極大呪文の詠唱によるものと察したヒューイは、集団の前方にとっさに飛び出す。
その行動とほぼ同じくして、突如轟音と共に凄まじいまでの爆発力を圧縮した光弾が、ヒューイ達目がけて戦場を貫いた。
「――海波斬!!」
ズガァーーーン!!
咄嗟にヒューイはその光弾に対して海波斬を放つが、海波斬によって生じたソニックブームは、光弾を完全に断ち切る事が出来ず、霧散する。
そして、若干威力をそがれた光弾がヒューイ達を襲い、それが着弾した瞬間巨大な爆発がその場で発生した。
「きゃあーーー!!」
「姫ー!!」
「な、何じゃこれはー!?」
余りの爆発の威力に、吹き飛ばされるレオナ達。
凄まじい程の爆風が戦場を過ぎ去った後、爆心地にはレオナ達がうめき声を上げながら横たわっていた。
そして、この惨状をもたらした存在が、アークデーモンの集団の後ろから徐々に姿を現す。
それは、魔軍司令ハドラーだった。
「チッ、ダイ達のいる塔は、向こうだったか。ザボエラめ、誤った情報を伝えおって。仕方あるまい。つまらん仕事だが、パプニカ王国の最後の王族だけでもこの手で始末しておくとしよう。クックック」
ハドラーは、前方で横たわる人間達を見やり宣言する。
「くっ……。ハドラー! ――やはり貴様がここに!」
そのハドラーの姿を見て、剣を杖に立ち上がったヒューイが叫ぶ。
レオナ達も、ふらつきながらも徐々に立ち上がり、戦場に現れたかつての魔王の姿を見て戦慄の表情を浮かべた。
「ハ、ハドラーですって……? じゃあ、こいつがかつての魔王……」
「な、何という禍々しさだ。こんなやつが……」
レオナとアポロがハドラーの姿を見て、呻くような言葉を発した。エイミとバダックは声もなくハドラーを見つめている。
「ほう……。俺の
ハドラーは、先ほど自身が放った
だが、こやつのこの目……。どこかで……。
「ハドラー様。この程度の相手に、ハドラー様ご自身が手を下される必要はございません。ここは我々にお任せください」
ハドラーの周囲を固めるアークデーモンの一体が、鉄球を振り回しながら好戦的な笑みを浮かべている。魔界より連れられてきていたアークデーモンの集団は、戦いに飢えていた。
「良いだろう・・・・・・。だが、あの小娘はパプニカの王族だ。あの小娘だけは逃がすなよ」
ハドラーは目の前の戦士に興味を持ちながらも、ダイやポップ程の強者ではないだろうと判断し、その対応を部下に任せた。
「ははっ!」
ハドラーの許可を得たアークデーモンの集団が、レオナ達に迫る。
「アポロ達はレオナ姫を中心に守りを固めろ!」
それを見たヒューイが、アークデーモンの集団に突っ込んでいく。
「ヒューイ、回復を! ――ああ、もう!」
ヒューイの管理係であるエイミが、回復も受けずに敵中に突貫するヒューイに思わず声を上げる。
「ガッハッハ! たかが人間が、死にに来たか! ――! な、何!?」
アークデーモンは突っ込んできた人間を一撃で殺すべく鉄球を投げつけたが、その人間は驚くべきことにその鉄球を受け止め、逆にアークデーモンに投げ返してきた。その鉄球の直撃を受けたアークデーモンは、背後に吹っ飛んでいく。
その隙にヒューイは空高く跳躍し、直上からアバン流刀殺法『大地斬』を放ち、アークデーモンの集団を吹き飛ばす。
一方、レオナ達は互いに壁を作り、迫り来るフレイムの大群に対抗していた。敵は大群ではあったが、賢者であるレオナ達にとってエレメント系の敵であるフレイムは与しやすい。そして、ここまで魔法力のほとんどを温存できていた事もレオナ達に有利に働いていた。
その戦いの最中、突如として、島の反対側にそびえ立つ氷魔の塔が、音を立てて崩れ落ちた。
「姫! 氷魔の塔が崩れ落ちていきますぞ!」
「ええ! ダイ君達がやってくれたんだわ!」
その様子を見て、レオナ達が歓声をあげる。
「な、何だと! 氷魔の塔が崩れた!? おのれ、ザボエラにミストバーンめ! 一体何をやっているのだ!」
ハドラーも遠くにそびえ立つ氷魔の塔が崩れ落ちるのを目にし、その塔の守りについているはずの配下に激高した。
「くっ! 何をしておる! ガーゴイル共よ! お前達も前に出て、さっさとパプニカの娘の首を獲らぬか!」
ハドラーは、背後に控えていたガーゴイル達にも戦いに加勢するよう指示を出す。その指示を受けて一斉にガーゴイル達がレオナ達目がけて殺到した。
「――ちっ! レオナ姫! 新たな敵が! ――! ぐっ!」
ヒューイがその動きに気がつき対処に入ろうとしたが、そのヒューイの腕にアークデーモンの鉄球が巻き付いた。
「フッフッフ。行かせはせんぞ、人間」
「――邪魔をするな!」
しかし、次々にヒューイの体には鉄球が巻き付けられ、次第にヒューイは身動きがとれなくなっていった。
「き、来おったな! ガーゴイル共め! このパプニカ一の剣豪バダックの剣の冴えを見るがよい!」
迫り来るガーゴイルの大群に対して、バダックがレオナの盾となる位置で剣を構える。
しかし、誰がどう見ても多勢に無勢な状況であり、アポロとエイミは、レオナ姫をこの場所からどう逃がすかを考え始めた。
その時だった。迫るガーゴイルを睨んでいたバダックの目の前で、不意に地面に影が差した。不思議に思いバダックが上空を見上げると、巨大な岩石が宙に浮かぶガーゴイルの更に上空より落ちてくる所だった。
――ズシーン!
その巨大な岩石は、周囲に凄まじい振動を与えながらガーゴイルの群れの一部を押しつぶして止まった。押しつぶされたガーゴイルが既に息絶えていることは明らかだった。
「だ、誰だ! このような真似をするのは……!?」
一瞬呆然自失したハドラーは、このような真似をした存在を探し、声を荒げた。
「――俺だ!!」
その声は、戦場となっていた広場より高い位置にある崖の上から響いた。そこには、朝日を背景に、一体のリザードマンが仁王立ちしていた。
「き、貴様はクロコダイン! 生きていたのか!? い、いや、それより、なぜ貴様がダイ達に与するような真似を……!?」
「久しぶりだな、魔軍司令殿……。俺はロモスでダイやポップと戦い、俺自身の誇りを取り戻した。六大軍団長としての俺はあの時死んだ! 死の淵より蘇った俺は、俺の誇りを取り戻してくれたポップ達と共に戦うと決めたのだ!!」
「な!? くっ、お、おのれ! 裏切り者めが!!」
ハドラーは、自身が軍団長として取り立てた男の裏切りに、憎悪の目を向けた。
「なんちゅう怪力じゃ……。あんな大きな岩を放り投げてくるとは……」
バダックは、崖の上に仁王立ちするクロコダインを見て、驚嘆の声を上げる。
「彼がクロコダイン……。ダイ君達が、ロモスで戦った……」
「しかし、姫。あの男、魔王軍を離反したようですが、信用しても良いものでしょうか?」
アポロが、クロコダインの巨体を見上げて主君に警戒を促すが、いつの間にか彼らのもとに近づいていたヒューイが、その必要は無いとレオナ達に告げた。
「……心配はいらん。あの男は、自身の誇りにかけて一度口にした事は必ず実行する。俺達は、万の援軍を得たに等しい」
レオナは、そのヒューイの言葉に頷きを返した。実のところ、レオナはヒューイの言葉を聞く前から、この戦場に突如として現れたクロコダインの事を信用するつもりでいた。それは、自身の人を見る目の確からしさを信じていたからでもあった。
そのクロコダインは、地響きを立てて戦場に乱入する。
「クロコダイン! 炎魔の塔を砕かねばならん! 手を貸してくれ!」
ヒューイはクロコダインにそう大声を張り上げる。クロコダインは、ヒューイに目をやり、少し訝しげに見た後、声を上げた。
「承知した!! では、俺の後ろに付いてくるがいい!」
クロコダインは、炎魔の塔目指して突進を始めた。その行く手に塞がるは、魔界の強者アークデーモンの集団であったが、クロコダインにとってはただの路上の石ころでしかなかった。
クロコダインが腕を一振りするだけで立ち塞がるアークデーモンが吹っ飛び、上空から襲いかかるガーゴイルに対しては真空の斧で風の刃を発生させ迎撃する。
いかに大軍とはいえ、クロコダインの突進力には無力であった。そして、クロコダインの後ろには、レオナ達が続く。ヒューイは殿を務め、皆が一丸となって炎魔の塔を目指す。
「クロコダイン、あなたの事はポップ君から聞いているわ。敵ながら尊敬に値する武人だと。来援いただいた事、パプニカ王家を代表して、心より感謝します」
「ぐわっはっは、ポップめ、そんな事を! いや、感謝には及ばん、姫よ。俺は、俺の誇りを取り戻してくれたあいつらに対して恩返しがしたいだけよ! さあ、遅れずに付いてこい!」
クロコダインは、ようやく武人として戦うにふさわしい戦場に立てたと、高揚する思いを抑える事ができなかった。
しかし、そのクロコダインの進撃を押しとどめるべく、突如ハドラーがクロコダインの前に立ち塞がる。
「これ以上はいかせん! 貴様さえ倒せば、後は雑魚ばかりよ! 裏切り者め! ――死ねい!!」
ハドラーは両手よりヘルズクローを出現させ、クロコダインに襲いかかる。
「――む! 来るか、魔軍司令殿!」
クロコダインは、真空の斧でハドラーのヘルズクローを防ぐ。しかし、スピードでクロコダインを上回るハドラーは、振るわれる真空の斧をかいくぐって、クロコダインに手傷を負わせてゆく。
「――くっ! やりますな! 俺の鋼鉄の身体に傷をつけるとは!」
「フハハハ! これが裏切り者の末路よ! 死ねい、クロコダイン!!」
ハドラーは、止めとばかりに右手をクロコダインの顔面に突き入れる。
――グシャッ!
「な、何だと!?」
しかし、驚いたのはハドラーだった。
ヘルズクローが突き込まれる寸前、クロコダインは左手でそのヘルズクローを受け止めていた。ハドラーのヘルズクローは、完全にクロコダインの左の掌を貫いている。
しかし、ただそれだけだった。
「ば、馬鹿な! くっ、ぬ、抜けん……! ――ガァッ!?」
ハドラーは、クロコダインの左手に突き刺さったままのヘルズクローを抜こうとするが、その前にクロコダインの左手がハドラーの右手を包み込み、その凄まじい握力で締め付けた。ハドラーの右手が、メキメキと鈍い音を上げる。
「……魔軍司令殿。しばらく会わぬうちに、お忘れか? 俺達軍団長は、それぞれの得意とする分野では、あなたすら上回る力を持つと言う事を!」
そうやってクロコダインはハドラーの右手を締め上げると同時に、自身の右手に握った真空の斧をハドラーの腹部に振るう。
「――ガハァッ!!」
その一撃に、苦悶の声を上げて後退するハドラー。
「お、おのれ、クロコダイン! ――ならばこれを喰らえ!」
ハドラーの両手から、放電するように爆球が出現する。そして、その左右の爆球が合わさった時、更に巨大な光弾が両の掌を包み込むように発生した。
「下らぬ人間共に味方した己を悔いて死ね、クロコダイン! ――
ハドラーの両手から放たれた
「……悔いるだと? それは無いな、魔軍司令殿。俺は二度と後悔するような生き様はせんと、あいつに誓ったのだ。これが、決別の証よ、ハドラー!! ――獣王痛恨撃!!」
直後、クロコダインの左手から圧縮された闘気流が発せられた。
極大の名を冠する爆裂呪文と闘気法の奥義ともいえる武技の激突は、全く互角に思われた。
「な、何だと!? お、おのれクロコダイン! ここまで俺に楯突くとは!!」
「ぐっふっふ。ハドラーもなかなかやるではないか。だが、一つ思い違いをしているな。こちらにはもう一人、俺以上の強者がいるという事を」
「――何!?」
ハドラーがその言葉に驚愕の声を上げて、クロコダインを凝視する。そのクロコダインの横には、一人の戦士が手に持った剣を突きのような姿勢で構えていた。その構えは!? ハドラーは、驚愕と共にその戦士の姿を凝視した。
「き、貴様!? ――まさか!!?」
「ハドラーよ。今更、師の仇などという資格は俺にはない。だが、我が父バルトスの仇は取らせてもらうぞ! ――ブラッディースクライド!!」
その戦士、ヒューイの放った貫通力を内包した闘気剣が、クロコダインの衝撃力を内包した闘気流と合わさる。その闘気の嵐は、ハドラーの放った
その一撃は、一瞬で炎魔の塔の基礎を破壊し、直後、塔全体がガラガラと音を立てて崩れ落ちていった。
「やったわ! これで結界が消えたはず! アポロ、姉さんを助けにいけるわよ!」
「ああ! 後は、バルジの塔にいるフレイザードを倒せさえすれば!」
エイミとアポロが、崩れていく炎魔の塔を見上げて歓声を上げる。
バダックも同様に歓声を上げるが、同時にクロコダインに対して意見も述べた。
「お主、凄まじい威力の技じゃったが、“痛恨撃”とは名前が物騒でいかんのぉ! “獣王会心撃”とでも改名したらどうじゃ!?」
「ぐわっはっはっ! そいつぁ良いな!! ありがとよ、爺さん……!!」
そんなやりとりをしている2人の横で、ヒューイがレオナに声を発した。
「レオナ姫。炎魔の塔は崩れました。後は俺とクロコダインに任せて、レオナ姫達は先にバルジの塔へ行ってください!」
「でも、ヒューイ! まだここには、たくさんの敵が……!」
レオナは周囲を見渡してヒューイの言葉に反論するが、ヒューイはそれを退ける。
「目的を見失ってはいけません、レオナ姫。我々の目的は敵を倒すことではなく、氷漬けになったマリンを助け出す事。ダイ達もバルジの塔を目指しているはずです。時間がありません。俺達が敵をここでくい止めます。どうか、お先に!」
レオナはヒューイの言い分が正しいことを理解した。確かに自分達の目的は、氷漬けになったマリンを助け出す事。そのために、ここで敵の足止めをする者を残し、残りのメンバーで先に進む事は正しい選択だ。
そして、クロコダインもその考えを後押しする。
「そうですぞ、姫。我々もこやつらを片付けたら直ぐに向かいます。一足先に向かっていただきたい」
レオナは一瞬逡巡した後、二人に告げる。
「分かったわ。私達は先に向かいます。でも、2人とも絶対に無事でいること! 良いわね?」
そう言いながらレオナは、ヘルズクローによって傷つけられたクロコダインの身体に、回復魔法をかける。
「これはこれは、かたじけない、姫! 何、はるばるここまで来たのだ。ポップ達の顔を見るまでは死にはせんよ!」
「必ず後から追いかけます。お早く!」
レオナは2人に頷きを返して、アポロ達を振り返り、先に進むことを伝える。
そして、レオナ、アポロ、エイミ、バダックは先に進む。エイミは最後尾を駆けながら、一度だけ背後を振り返った。
するとどういうわけか、黒髪長髪だったヒューイの姿が、エイミの目に一瞬白髪に見えた。
しかしエイミはそれを目の錯覚と考え、ヒューイの無事を言葉にすることなく密かに祈り、前を向いた。