転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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74話 激突 極大閃熱呪文(ベギラゴン)

~~~~炎魔の塔 倒壊直後~~~~

 

クロコダインは、隣に立つ黒髪長髪の青年に声をかける。

 

「それで、何故そのような格好をしているのだ、ヒュンケル?」

「……ふっ。気がついていたのか?」

「当然だ。いかに魔法で姿形を変えていても、その闘気までは変えられん。闘気を操る俺が、お前の闘気を見誤るものか」

 

「さすがだな、クロコダイン。……この格好はあくまで今だけの事だ。パプニカの奪還が成されれば、俺はこの国に対して行った事の報いを受けねばならん……」

 

ヒュンケルは、バルジの塔に向かったレオナ達の方を振り返り、そう呟いた。クロコダインは、そのヒュンケルの様子を見て、この男も不器用な事よと心の中で呟いた。

 

「しかし、ヒュンケル。お前の人間に対する恨みは相当なものがあったと思うが、いかにして変節したのだ?」

 

「ふ……。お前と同じようなものさ。ポップに殴られ、ダイ達に諭されたのさ」

 

「ぐわっはっはっ! お前もポップにやられた口か! 俺もあいつには、ロモスで頭をガツンと殴られた気がしたわ。おかげで、それで俺の目も覚めたのだがな! わっはっはっ!」

 

 

 

そんな会話を2人が交わしていると、うず高く積まれた炎魔の塔の瓦礫が、ガラガラと音を立てて崩れ始めた。

そして、瓦礫の下から現れたのは、先ほどの炎魔の塔の倒壊に巻き込まれたハドラーだった。

 

「ふふふ……。ハドラー殿、いや、ハドラー。ずいぶんと寝坊をしていたようだな?」

 

「ハドラー、よく生きていてくれた。あの程度の事で死んでもらっては、俺が困るからな」

 

「お、おのれー!! クロコダインばかりか、ヒュンケル、貴様まで生きていたとは!! しかも、そのように姿形を変えてまで、人間に取り入っているとは! 小賢しい真似を!」

ハドラーが、血走った燃えるような目をして、2人に怒号を浴びせる。

 

「ふっ。勘違いをするな、ハドラー。この格好はあくまで、ポップの提案に乗ったまでのこと。だが、その必要ももはやあるまい。さあ、ここからは容赦せんぞ。覚悟しろ、ハドラー!!」

 

ヒュンケルはハドラーにそう言い放ち、ポップにかけられた変身呪文(モシャス)の魔法を自ら解いた。途端にヒュンケルは、黒髪長髪の姿からハドラーのよく知る姿に変貌する。

 

 

「くっ! な、何をしておるか、貴様ら! こやつらは裏切り者の軍団長だ!! この場で処刑せよ!」

 

そのハドラーの言葉にこれまで遠巻きに様子を見ていたフレイムやアークデーモン、ガーゴイルといった魔物が空と陸から襲いかかる。

 

「良いだろう、かかってこい! 貴様らごときに、この獣王を止められると思うな!」

「ここから先は一歩も通さん! 死にたい者から来るがいい!」

 

戦うべき場所を見いだしたクロコダインと、正体を晒したヒュンケルの強さは圧倒的だった。ヒュンケルの間合いに入ったアークデーモンは、即座に一刀両断にされる。クロコダインの獣王痛恨撃改め、獣王会心撃は空から襲いかかるガーゴイル、フレイムの群れを一網打尽にする。

 

その2人の元軍団長の強さに、いかにハドラーの檄が飛ぼうとも次第に魔物達が怯え始めた。

 

「ええい、貴様ら、何をしておるか! 早くかからぬか!」

 

 

 

たった2人で、魔王軍を圧倒するヒュンケルとクロコダイン。しかし、そこに突如として魔影軍団長ミストバーンが宙に現れた事で状況が一変する。

 

「この気配! ――ミストバーン! 貴様、いつの間に!?」

ヒュンケルが、自身の闇の師ともいえるミストバーンの気配にいち早く気づき、宙を見上げた。

 

「ミストバーンだと! 貴様もこの島に来ていたのか!」

 

「…………」

ミストバーンは、ヒュンケルとクロコダインの問いに、無言で答える。そして、おもむろに両手を2人に対して突き出し、その手から黒い蜘蛛の糸に似た何かを放った。

 

直後、黒い雷撃のような衝撃が二人を襲う。

 

「ぐあぁ!? こ、これは、闘魔傀儡掌!? ――おのれ、ミストバーン!」

「ぐぉお! ――こ、この衝撃は!? か、身体が動かん!」

 

 

「おお! よくやった、ミストバーン! よし、そのままそいつらを拘束しておけ!」

 

ハドラーは、突如現れ憎い裏切り者共を拘束したミストバーンに、歓喜の声を上げる。そして、自身はその両手に紅蓮の炎の放出を始める。その炎は、ハドラーの右手と左手の間で半円状にとぐろをまいていた。

 

「くっ! い、いかん! あの魔法は、まさか!?」

「ぐ、ぐぉおー! ――だ、だがこの拘束が!」

その様子を見てヒュンケルとクロコダインは焦りの表情を浮かべるが、ミストバーンの放った黒い拘束は依然として続いていた。

 

「クックック……。貴様達は大魔王バーン様から授かったこの魔法で、処刑されるのだ。これ以上の処刑方法はあるまい」

 

ハドラーは2人に対してそう死刑宣告を行い、両の手の平を自身の胸の前で組み合わせた。

 

「死ねぃッ!! ――極大閃熱呪文(ベギラゴン)!!!」

 

ハドラーの組み合わせた両の掌から、紅蓮の炎がとぐろを巻く閃光が二人に放たれた。それは、地上界及び魔界を合わせても使用できる術者が片手の指で数えられるほどしか存在しない最高難度の魔法、極大閃熱呪文(ベギラゴン)だった。

 

――ズガァーン!!

 

紅蓮の炎が、空を覆うかと見まがうほど高く立ち上る。更にその炎は着弾地点から放射状に広がり、周囲の森を一瞬で焼き払っていく。

 

その圧倒的な爆風と炎が過ぎ去った後、地表には満身創痍のヒュンケルとクロコダインが横たわっていた。

 

「く、くはっ! なんという威力だ……! こ、これでは……」

「ぐ、ぐぉお! か、身体が動かぬ……!」

 

2人共どうにか身体を起こそうとするが、極大閃熱呪文(ベギラゴン)の直撃によるダメージは甚大で、もはや立ち上がることすらできない状態であった。

 

「クックック……。まだ息があったか。さすがは元軍団長共よ。だが、もはや俺が直接手を下すまでもあるまい。お前達、一度に殺すなよ。せいぜい、いたぶってやりながら殺すのだ」

 

ハドラーは、配下にそう命じながら宙を仰ぎ見た。そこに、先ほどまでいたミストバーンの姿は、既に無かった。

ちっ、ふらっと現れてはいつの間にか消えおって……。ハドラーは、先ほどミストバーンに助力してもらった事など忘れて、そう毒づいていた。

 

 

ハドラーの言葉を受けたアークデーモン達は、狡猾な目をしてそれぞれ爆裂呪文(イオ)の爆球を作り出し、横たわるヒュンケルとクロコダインに対して放つ。それに追随するように、フレイムの集団も上空から火炎魔法を放つ。

 

至近で爆発する衝撃に、ヒュンケルの身体が路上の石のように飛ばされる。クロコダインはそんなヒュンケルの盾になろうとするが、そのクロコダインも全身傷だらけの状態であった。

 

「くっ! す、済まぬ……、ヒュンケル。来援しておいて、このざまとは……!」

 

「な、何を言う、クロコダイン。お前が来てくれなければ、レオナ姫共々俺達はとうに死んでいた! 感謝する、獣王!」

ヒュンケルはクロコダインにそう返すが、彼には既に起き上がる力すら残っていなかった。

 

「む、無念……。この身体があと少し動けば……。 ……? 静かになった?」

 

 

そう、いつの間にか、戦場は静寂が支配していた……。

 

クロコダインは、先ほどまで自身の至近で発生していた爆裂呪文(イオ)による爆発音が聞こえなくなり、代わって不意に訪れた静寂に戸惑いを覚えた。

 

ヒュンケルも同様に、いったいこれは、と顔を上げた。すると、ヒュンケル達とハドラー達の間に巨大な氷の壁が立ち塞がっており、その氷の壁がアークデーモンやフレイムによる魔法攻撃を防いでいた。

 

その状況に戸惑う2人に対して、このような戦場に似つかわしくない暢気な声が、突如彼らの頭上からかけられた。

 

 

「もしもーし、お二人さん。もしかして、優秀な後衛をお求めではありませんかね?」

 

彼らが驚きの表情で上空を見上げると、そこには……ニヤッと不適な笑みを浮かべた賢者がいた。

 

 

 

戦局は、再び変わろうとしていた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「もしもーし、お二人さん。もしかして、優秀な後衛をお求めではありませんかね?」

 

俺は、地表で這いつくばっているヒュンケルとクロコダインにそう声をかけた。2人は驚きの表情で俺を見上げている。既に2人には、広域回復呪文(ベホマラー)を重ねがけしている。まだ2人は、自身の怪我が回復した事に気がついていなさそうだけど……。

 

俺は飛翔呪文(トベルーラ)を解除し、地表に降り立った。ヒュンケルは、変身呪文(モシャス)の魔法が解けているな。自分で解いたのかな? まあ、こいつの事は今はどうでも良い。

 

それよりこっちだ。俺は、ともすればニヤニヤしそうになる自分を必死に押し殺しながら、クロコダインに声をかけた。

 

「おっさん! よく来てくれたな。待ってたんだぜ!」

 

そう声をかけて、俺はクロコダインに抱きついた。抱きつくといっても、クロコダインは上背があるから、俺はクロコダインの鎧の腹部に両手を広げてくっついた格好だ。当然おっさんは、俺ごときが抱きついたところでビクともしない。

 

やっべえ、俺、全くニヤニヤ顔を抑えられてないぞ。

 

「――お、おっさん!?」

クロコダインがそんな声を上げたのを、俺の耳が捉えた。何だよ、散々待たせたんだからな、それだけは譲れないぞ。

 

俺はクロコダインの鎧にうずめた顔を上げて、クロコダインに文句を言った。

「何だよ? ロモスでは、あんだけ俺に迷惑をかけたじゃないか。俺におっさん呼びされる事ぐらい、許容しろよな?」

 

おっさんは、俺の言葉に目を白黒させていたが、直ぐに豪快に笑い出した。

 

「ぐわっはっはっ! そうか、それもそうだな! それなら仕方あるまい! わっはっは!」

 

良かった、本当に良かった。やっとおっさんと肩を並べて共に戦うことができる。俺は思わず涙ぐんでしまった。

 

 

「くっ! ポップ!! き、貴様、どうしてここに……!?」

 

ちっ、せっかく久しぶりにハッピーな気分だったのに、こいつの声で急に現実に戻されちまったじゃないか。

ハドラーが氷の壁の向こうで、何か喚いているな。ていうか、こいつ俺の名前を覚えているのかよ。お前が覚える必要がある名前は、ダイだけだろうに。勘弁してくれよ。

 

俺は名残惜しかったが、おっさんの腹から身体を離した。

 

「さて、お二人さん。俺はちょっちあの元魔王のハドラーに貸しがあるから、これから一戦交えるつもりだけど、二人はもう年で疲れたというんなら、後ろで横になってくれていてもいいぜ? どうする?」

 

俺のその言葉に、ヒュンケルとクロコダインが不敵な笑みを浮かべる。

 

「ふっ。俺はクロコダインと違っておっさんではないからな。お前と共に戦わせてもらうとしよう。それに、俺もハドラーに対する貸しではお前に負けていないつもりだ」

 

「俺もだ。おっさん呼びは許したが、まだまだ身体は若いままよ! どこぞの元不死騎団長のように軟弱な身体はしておらんからな! がっはっはっ!」

 

くっくっく……。二人とも実に仲の良いことで。あー、これもう全然負ける気がしないや。残念だったな、ハドラー。お前、ここで死ぬかもよ?

 

「OK! それじゃあ、サクッと終わらせてダイ達を追いかけようぜ! ――防御力変動呪文(スクルト)! ――敏捷力変動呪文(ピオリム)!」

 

さあ、第2ラウンド開始といこうか、ハドラー!!

 

 

 

 

 

戦闘開始の号砲は、クロコダインが放った。クロコダインは、必殺の獣王会心撃(いつの間に改名したんだ?)を氷の壁越しにぶっ放して、砕いた氷の欠片までも闘気流に巻き込みそれを敵陣に叩きつけた。闘気流と氷の弾丸の直撃を受けた魔物の集団は、まるで散弾銃でも喰らったかのように穴だらけになって吹っ飛んだ。

 

そしてヒュンケルは、その闘気流を追いかけるかのように敵陣に切り込んだ。途端にヒュンケルを中心に血風が舞い上がる。

 

俺はといえば、上空から襲いかかるガーゴイルとフレイムに対して得意の氷系呪文(ヒャダルコ)を放ち対処をしつつ、時折おっさんとヒュンケルの背後から迫る魔物には、氷の槍を操作して突き殺していく。まあ、今の2人にはそんな援護すら必要なさそうな様子だったが。

 

俺の魔法力は、ここに来る前に飲んだ『エルフの飲み薬』の効果で全回復しているから、全く心配をする必要が無い。

 

ていうか、あの薬、絶対に賞味期限を過ぎていたはずだ。飲んだ瞬間、俺は全身を襲う凄まじい倦怠感に思わず膝をついてしまった。

とっさに自身の体に診断呪文(インパディ)をかけると、身体中に訳の分からない謎のウイルスが増殖していたから、直ぐにそれを同じく医療魔法の医療呪文(ベホマメント)で治療した。

おかげでどうにか立ち直ることができたが、医療魔法を開発していなかったら、俺下手したら死んでいたからな。

 

俺はあの時、もう2度とマトリフ師匠の口車に乗って、訳のわからないものを口にするのはやめようと固く誓った。

 

「――ポップだ! あの魔法使いを狙え! 奴さえ始末すれば、こいつらは回復する術を持たん!」

 

ハドラーが俺を指さして、自身が連れてきていた全軍に俺を攻撃するよう指示を発した。だから、俺の名前を覚えているんじゃねえよ。今からでも忘れてくれないかな……。『わすれろ草』ってこの世界あったかな? あ、いや、あれは別の作品だったか……。

 

俺のそんな心の声に関係なく、魔物の軍団が大挙して殺到してきた。

 

うん、作戦として後衛から潰すというのは間違ってはいない。俺だって敵がそういう布陣だったら、まずその指示を出すだろう。

 

だが、そう上手くいくかな? 今の俺には……。

 

「――面白い! ポップを攻撃したくば、まずは俺を乗り越えていくしかないぞ! 獣王のこの壁、簡単に破れると思うなよ!!」

 

「――ブラッディースクライド!! 向かってくるというのなら、ちょうど良い! 貴様ら、まとめて魔界に突き返してくれる!」

 

クロコダインとヒュンケルが、俺の前で鉄壁の陣を敷いている。地響きをあげて突進してきた魔物の集団が、2人の間合いに入った途端まるでダンプカーに跳ねられたかのように吹っ飛ばされている。

 

とんでもない安心感だ。ダイとマァムには悪いが、これほどの安心感は今までに感じたことがない。アバン先生でもどうかというレベルだ。

さすがは、元百獣魔団長と元不死騎団長だ。俺は、2人が踏ん張っているその頭越しに爆裂魔法を次々と敵後方に放ち、アークデーモン達をすり潰していった。

 

「ええい! 役立たず共め! もう良い!! 俺自ら奴らに引導を渡してくれるわ!」

こちらの前衛を突破できず、目標である俺に全く接敵できないでいる配下に苛立ちの声を上げたハドラーは、両手に紅蓮の炎を纏わせた。

 

――むっ! あれは!? その独特の予備動作でハドラーが放とうとしている呪文を察知した俺は、前衛の2人に声を張り上げた。そして同時に俺はその呪文に対抗するため、己の魔力を体内で練り始める。

 

「ヒュンケル! おっさん! またあれが来る! 俺の後ろに!!」

 

俺の切迫した声を聞いた2人は、即座に俺の背後に移動した。

 

急げ、急げ、急げ。ハドラーの魔力の高まりは、既に臨界点に達しようとしていた。

 

「これで3人まとめて始末してくれるわ! 死ねえッ!! ――極大閃熱呪文(ベギラゴン)!!!」

 

――ドォンッッッッ!!!!

 

ハドラーの両の掌から、紅蓮の炎を纏った閃光が俺達目がけて放出された。その閃光は、射線上にいた魔物を瞬時に蒸発させ、全く威力を減ずることなく俺達に迫ってくる。

 

しかし、俺もその時にはもう自身の放つ呪文のセットアップを終えていた。そう、俺の両手にもハドラーと同様紅蓮の炎が纏われていた。

 

「――な、何!? まさか、貴様も!!?」

 

「当然だろう!! アバン先生の仇を、ここで取らせてもらうぞ、ハドラー!! ――極大閃熱呪文(ベギラゴン)!!!」

 

 

――ドンッ!!!

 

 

互いの放った極大閃熱呪文(ベギラゴン)が、両者の中間地点で激突する。以前ハドラーとは、デルムリン島で閃熱呪文(ベギラマ)同士の撃ち合いをしたが、今回はその比ではないほどの衝撃が発生している。大地は地響きを始め、激突部から発生している無数の火花のように見える閃光はそれ自体が閃熱呪文(ギラ)に近い威力を持ち、運悪くその閃光の流れ弾が直撃した魔物が絶命していく。

 

「ば、馬鹿な!? 俺の極大閃熱呪文(ベギラゴン)は、大魔王バーン様よりいただいたものだぞ! それを……!」

 

「――それがどうした! 俺の極大閃熱呪文(ベギラゴン)は、人間界最強の大魔道士マトリフ直伝だ!!」

 

 

 

 

極大閃熱呪文(ベギラゴン)同士の激突は、当初はほぼ拮抗していた。だが、その拮抗が10秒ほど続いた頃、俺の方に異変が生じ始める。

 

極大閃熱呪文(ベギラゴン)を放出している俺の両の掌から、ブスブスという音と共に徐々に肉の焼ける嫌な臭いが漂い始めたのだ。

 

ちっ、やはりそうなるか……。予期していた事とはいえ、俺は両の手に感じ始めた火傷の痛みに僅かに顔をしかめる。

 

その様子を見て、俺の隣でヒュンケルがブラッディースクライドの構えを取った。確かに今その技を放てば、労せずしてハドラーに勝利できるかもしれない。だが、俺は……。

 

「――手を出すな、ヒュンケル!」

俺は目線だけはハドラーを睨んだまま、ヒュンケルにそう声を張り上げた。

 

「しかし、ポップ……」

 

「これは、俺の闘いだ! 頼む、手を出さないでくれ!」

ヒュンケルは俺の言葉に一瞬逡巡した後、剣を下ろして構えを解いてくれた。

 

「無粋な真似をした。……許せ、ポップ」

 

「いや、良い! ああ、だけど念のために二人は俺から離れていた方が良いかもな……」

俺の掌は、相変わらずブスブスと嫌な音を立てている。

 

俺がそう言うや否や、クロコダインが俺の隣でどっかりと胡坐をかいて腰を下ろした。そしてヒュンケルは、剣を大地に突き刺しその場で仁王立ちする。

 

「うわっはっは! 俺達三人は一蓮托生よ! ポップ、お前のやりたいようにやれ!! どのみち俺の命は、ロモスでお前に預けておるわ!!」

 

「俺もだ。お前と共に逝くのなら、それでも構わん」

 

お前ら……。ありがとうな。この戦いが終わったら、酒を飲みながら桃園の誓いでも交わそうぜ。

 

「クックック。愚かな奴らよ。三人まとめて消え去るが良いわ!」

ハドラーが、俺の両の掌を見て自身の極大閃熱呪文(ベギラゴン)が優勢と判断したのか、俺をそう嘲笑する。

 

 

 

 

……だが、違うな、ハドラー。お前は間違っているぞ。

 

 

俺がマトリフ師匠から受け継いだ極大閃熱呪文(ベギラゴン)は、最初からこういう調整が施された魔法だ。極大閃熱呪文(ベギラゴン)を構成する膨大な呪文の中には、もともと術者の射出点つまり両手を防護する術式が組み込まれている。

 

だが師匠の極大閃熱呪文(ベギラゴン)は、その術式を極限まで削り落として、両手の防護を最小限にしてしまっている。

 

何故か?

 

それは、そうして生まれた呪文の余白部に、より極大閃熱呪文(ベギラゴン)の攻撃力を増すための術式を組み込むためだ。

 

 

『ポップ。俺の極大閃熱呪文(ベギラゴン)は、術者の事を考えずに殺傷力だけを増した特別製だ。取り回しと安全性を考えたら、標準型の極大閃熱呪文(ベギラゴン)を覚えた方が良いんじゃねえのか?』

 

『何を言っているんですか、マトリフ師匠。俺は師匠の弟子になったんですよ。師匠の数十年にわたる研鑽の結晶ともいえる極大閃熱呪文(ベギラゴン)を覚えないで、一体何を覚えると言うんですか』

 

『ちっ、手前はアバンに似て馬鹿野郎だな……』

 

俺は、マトリフ師匠にこの魔法を教えてもらった際の事を思い出していた。自己の防御を犠牲にしてまで、より強力な魔法に仕上げたこの呪文。正直この調整によって上昇した攻撃力は、100が101になるかどうかというレベルなのかもしれない。だが、師匠はその1つを上げる為に長い年月をかけて研鑽を積んできたんだ。

 

極大閃熱呪文(ベギラゴン)を射出している俺の両の掌が、ケロイド状に変質する。これは、回復魔法をかけても跡が残るかもしれないな。ふふっ、師匠の手と同じだな。自己を犠牲にしてでも、仲間のためにより強力な魔法を行使してきた証。

 

……ハドラー。お前はその魔法をバーンから伝授された時、どこまでその呪文に込められた意図をくみ取ったんだ? ただ漫然と、最強の魔法を伝授されたと浮かれていただけじゃないのか?

 

俺は違うぞ。魔法だけでなく、その呪文の中に込められた師匠の想いもひっくるめて、俺は伝授されているんだ。

 

ここで負けたら、俺は一生あの人を師匠とは呼べねえんだよ!!

 

 

「――負けるもんかよ、ハドラー!!」

 

 

 

最初は僅かに。しかし、徐々にその違いが現れてきた。明らかに俺の極大閃熱呪文(ベギラゴン)が、ハドラーのそれを凌駕し始めたのだ。

 

今度は、ハドラーが狼狽の声を上げる。

 

「な、ば、馬鹿な! ――俺の極大閃熱呪文(ベギラゴン)が押されるだと!!? たかが人間が、俺の魔法力を上回るはずが……!!?」

 

 

一進一退を繰り広げていた俺の放った極大閃熱呪文(ベギラゴン)が、ハドラーのそれを徐々に押し戻し始めた。

 

……まだ分かっていないようだな、ハドラー。この極大閃熱呪文(ベギラゴン)の撃ち合いは、俺とハドラーの戦いでは無いという事を。

 

「違うな、ハドラー! 俺の魔法力がお前を凌いだんじゃない! これは、大魔王バーンと大魔道士マトリフの魔法技術の差さ!」

 

「――貴様!! バーン様の魔法技術が、たかが人間に劣ると言うか!!?」

 

「ああ、劣るね! 魔界の神だか何だか知らないが、バーンが玉座に座ってふんぞり返っている間に、俺の師匠はその一生の全てを魔法技術の研鑽に費やしてきたんだ! 師匠のその一生は、漫然と生きてきたバーンの何千年に決して負けてないんだよ!!」

 

「ぐっ! き、貴様――!!」

 

そして、突然均衡した天秤がハドラーの方へと傾いた。

 

均衡が崩れた後は、一瞬だった。俺の放った極大閃熱呪文(ベギラゴン)が、猛烈な勢いでハドラーに襲い掛かる。

 

「ウ、ウォォォォー!! こ、こんな事が!!」

 

目もくらむような閃光が発せられたかと思うと、凄まじい量の炎と爆風が辺りを覆った。俺は思わずその爆風に吹き飛ばされそうになったが、とっさにおっさんがその大きな体を盾にして庇ってくれた。

 

 

 

 

俺達が、爆風が収まった後前方を見やると、極大閃熱呪文(ベギラゴン)が直撃した地点を中心に、隕石でも落下したのかと見まがうほどのクレーターが出現していた。

 

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