転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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75話 フレイザードとの再戦

「ダイ君! マァム!」

 

フレイザードのいるバルジの塔目指して駆けていたダイとマァムの耳に、2人を呼ぶ声が聞こえてきた。その声はちょうど三つ叉になっていた道の反対側、炎魔の塔の方向に伸びていた道の先から発せられていた。

 

2人がそちらに顔を向けると、ちょうどレオナ、アポロ、エイミ、バダックの4人がこちらに向かってきているところだった。

 

ダイとマァムは互いに顔を見合わせて、炎魔の塔に向かったメンバーが無事だったことに安心した。一人を除いてだが……。

 

「レオナ! 皆、無事だったんだね! でもヒューイは?」

 

「ヒューイなら向こうに残ったわ。後から来る敵を食い止めるためにね。それとダイ君。向こうにはすごく強い増援があったわよ」

 

そしてレオナは、クロコダインが増援に来てくれた事をダイとマァムに話す。

 

 

 

「そうか……。クロコダイン、生きていたんだ。それで俺達を助けに来てくれたんだ。嬉しいな」

 

「クロコダイン……、良かった。ふふ、今頃ポップは大喜びしているでしょうね」

マァムは、クロコダインに出会ってはしゃいでいるであろうポップの姿を想像して、思わず口元が緩んだ。ポップは、ロモスでの戦いの時からクロコダインの事を認めていた。それはまだクロコダインが敵という立場だった時でもだ。

 

マァムも、クロコダインが仲間になってくれた事を心から喜んでいた。あの時、クロコダインがザボエラの卑怯な手段を止めてくれなかったら、ポップはロモスで魔王軍に連れて行かれていたかもしれない。もしそんな事になっていたらと想像するだけで、マァムは心の底から寒気が走った。

 

「ポップ君が大喜びって、どういう事? ポップ君は一緒じゃないの?」

 

「ポップは、その炎魔の塔に加勢に行ったんだ。だから、ヒューイの事はもう何の心配もいらないよ」

ダイはレオナにそう返事を返した。実際ダイは、ヒュンケルにクロコダイン、ポップが揃っているであろう向こうの戦場に何の不安も抱いていなかった。

 

「そうなの、ポップ君が……。エイミ、良かったわね。ポップ君が向こうに加勢に行ってくれたのなら、きっとヒューイは大丈夫よ」

レオナは、背後のエイミを振り返ってエイミを力づけた。それは、エイミがクロコダインという強力な増援はあったものの、先ほどの巨大な爆炎を見てヒューイの身を密かに案じていることに気づいていたからだった。

 

「はい、姫! ――って、な、何を言っているんですか、姫!? わ、私は別にヒューイの事は!」

思わずレオナに返答したエイミだったが、自身の隠していたはずの心の内を読まれた事に気がついて、エイミはそれを慌てて否定した。

 

「はー……。見ていてバレバレなんですけど……。まあ良いわ、そんな事より私達は早くバルジの塔に向かいましょう! もう正午までいくらも時間がないわ」

 

既に夜は完全に明けており、その太陽が最も高い位置に上がるまで、もういくらも時間が残されていないように思えた。

 

 

ダイ達がバルジの塔直下についたのは、それからすぐの事だった。塔直下には、フレイムとブリザードの大群がおり、ダイ達を見て一斉に攻撃態勢を取った。

 

「貴様達! よくもここまでたどり着いたな。だが、ここから先には行かせんぞ!」

 

大勢のフレイムとブリザードがダイ達に襲い掛かるが、今この場には、エレメント系の魔物に有効な攻撃手段を持つ3人の賢者がいた。

 

ダイが放ったバギで魔物の動きを拘束している間に、レオナ、アポロ、エイミがそれぞれの弱点となる魔法を放つ。更にそれにマァムも魔弾銃で追い打ちをかける。

 

「ウギャアアアアアーーーッ!!」

「アギャォオオオオーーーッ!!」

 

瞬く間にフレイムとブリザードは消滅していった。

 

「へへっ……。皆で力を合わせりゃ、何とかなるもんだね……!」

 

ダイの言葉に、レオナ達も顔を見合わせて微笑んだ。

 

 

 

「さあ、行きましょう!」

マァムが、周辺に魔物がいなくなった事を確認し塔に近づく。

 

しかし、突如地中より手が飛び出し、そのマァムの左足を掴んだ。

 

「クハハハハーーッ!!」

 

地中より現れたのは、フレイザードだった。

 

「人質抱えてのんきに最上階で待っているなんざ、性に合わないんでな……! そおらッ!! これで1人殺した―!!」

 

フレイザードはマァムの足を掴んだまま振り回し、その頭部を地面に突き立っている氷の氷柱に叩きつけようとした。

 

「――何すんのよ!」

 

しかしマァムは、空中で自由な方の右足で自身を掴んでいるフレイザードの手を蹴りつけた。

 

――グシャッ!

 

鈍い音を立ててフレイザードの右手が砕けた。

 

「な、何だと!?」

 

思わぬ反撃にフレイザードは驚愕した。今の奇襲は完全に成功したと思っていたから、なおのことだった。

 

フレイザードの奇襲を躱したマァムは、即座にフレイザードと距離を取り、体勢を整えた。

 

「フレイザード! 結界はもう解けているんだ! お前に勝ち目は無いぞ!」

ダイは剣を構えてフレイザードにそう宣言する。

 

しかしフレイザードは特に慌てることなく、現れた勇者一行(パーティー)の姿を見渡す。そして、ニタッと狡猾な笑みを浮かべる。

 

「ヒャハハハ! 威勢の良い事を言っているが、お前らこの間の賢者がいねえじゃねえかよ! そんなメンツでこの俺様に勝とうだなんて、随分俺も甘く見られたもんだなー!」

 

フレイザードは、昨日の戦いで小賢しい動きをされた賢者を最も警戒していた。炎による攻撃も、氷による攻撃も即座に対処しきったあのやっかいな賢者。あの賢者さえいなければ、何とでもなる。

 

「そら、これでも喰らいな! ――氷炎爆花散!」

その言葉とともに、フレイザードの身体から無数の細かい岩石が弾け飛び、ダイ達に襲いかかった。

 

「きゃー!」

「ぐはっ!」

その攻撃を受けたレオナ達は、苦悶の声を上げながら後方に吹き飛ばされた。先の一戦では、このフレイザードの攻撃をポップの魔法によって防いでいたが、今の彼らにこの攻撃をしのぐ手段は無かった。

 

「クックック。他愛もねえなー! 結界が解けたと言っても、この程度かよ! これじゃあ、あの小賢しい賢者1人の方がまだ手ごわかったぜ!!」

 

フレイザードは、よろめきながらも立ち上がろうとしているレオナ、アポロ、エイミを見下ろし、そう嘲笑した。

 

しかしアポロはその言葉に激高する事無く、視線を素早くレオナ、エイミに走らせる。レオナとエイミがそのアポロの視線を受け、僅かに頷いた。

 

意図を伝えたアポロはフレイザードに対して火炎呪文(メラミ)を放つ。同時にエイミは氷系呪文(ヒャダルコ)を放った。

 

フレイザードは自身に向かってくる火炎と氷雪による攻撃を見て再び嘲笑した。

 

「ヒャーハハハ! 馬鹿じゃねえのか、手前ら!! もう忘れたのかよ! そらよ!」

 

フレイザードは、昨日のバルジの塔最上階での戦いと同じく、左右の手を交差してその攻撃を受け止めた。

 

しかし、突如そのフレイザードの氷の半身目がけて一条の閃光が走った。

 

それは、レオナの放った閃熱呪文(ギラ)の閃光だった。両手で火炎呪文(メラミ)氷系呪文(ヒャダルコ)を受け止めていたフレイザードには、その僅かにタイミングのずらされた攻撃を避ける術が無かった。

 

威力、早さとも申し分ない閃熱呪文(ギラ)は、フレイザードの氷の右腕に直撃し、一瞬で右腕の一部を蒸発させた。

 

「グォォォー! 良くもやりやがったな! 調子に乗るんじゃねえー! カアァーッ! ――!?」

 

3人の賢者による連携に見事に出し抜かれた格好のフレイザードが、血走った目で炎のブレスを放った。

 

だが、そのブレスが発せられようとした瞬間、フレイザードの目の前にある物が投げ込まれていた。

 

それは、炎魔の塔で使用できなかったバダック特製の爆弾だった。

 

炎のブレスと爆弾が接触した瞬間、凄まじい爆炎がフレイザードを中心に発生した。その爆風はフレイザードばかりか、その周囲にも影響を及ぼし、ダイ達も吹き飛ばされる。

 

爆風に煽られゴロゴロと転がりながらも、バダックが腕まくりして声を張り上げた。

 

「やったぞーい! まだ使うチャンスがあるかもしれんと、拾ってきておって良かったわい!」

 

しかし、バダック以外のメンバーにとっては、この一撃は想定外過ぎたようだった。爆風にたなびく髪を手で押さえながら、エイミはバダックに声を張り上げる。

 

「ちょっとバダックさん! あんな危ない爆弾放り投げるなら、先に言っておいてください!」

 

「そうよ、バダック! 何て事するのよ! 耳が馬鹿になったじゃない!」

レオナも耳を押さえながら抗議の声を上げた。

 

ダイとマァムは、互いに顔を見合わせてやれやれと言う顔で肩をすくめた。

 

 

 

 

 

徐々に爆炎が収まり、視界が晴れてくる。ダイ達はフレイザードを警戒し再び全員が警戒態勢を取った。

 

煙が晴れた後、そこには身体全体を覆っていた炎と氷のほとんどを吹き飛ばされ、岩石状の身体がむき出しとなったフレイザードが立っていた。相当のダメージを負っていることが一目でわかるほど、衰弱している。

 

しかし、フレイザードの目はまだ死んでいなかった。

 

「くっ……! この俺がこれほどのダメージを受けるとは……。もう容赦はしねえ。こうなったら俺の最終闘法で手前らを皆殺しにしてやる……!!!」

 

そう言葉を発したフレイザードは、自身の胸にかけられていたメダルを引きちぎった。

 

「メダルを……!? 奴め、いったい何をするつもりだ!」

 

アポロが、フレイザードの行動の意図が読めず、困惑の声を上げた。

 

「クックック……。お前達には、分からねえだろうなぁ! こいつはバーン様から賜った栄光のメダルよ!」

 

「栄光のメダル……。じゃあ、そのメダルを捨てたと言う事は……!」

 

「そうだ、パプニカの姫さんよ。俺にはもう過去の栄光はいらねえ……。新たな勝利を掴むために、俺は命をかけるのさッ!!」

 

「危ない! 皆、伏せて!!」

フレイザードの身体が発光した瞬間マァムが警告の言葉を発するが、その声は僅かに間に合わなかった。

 

 

 

ドカーーーン!!!

 

 

 

凄まじい爆発音と共にフレイザードの身体が無数の細かい弾丸と化し、ダイ達に襲い掛かった。氷炎爆花散と異なり、弾丸爆花散は、その弾丸自体に意思があるかのように執拗にダイ達に襲い掛かる。

 

「きゃぁぁー!」

「ぐわぁあー!」

「な、何じゃ、これはーー!」

 

この攻撃に対し3賢者が呪文で、マァムが魔弾銃で応戦するも、標的が細かく分裂しているため有効なダメージを与える事ができない。ダイも果敢に大地斬を放つが、やはり標的が小さすぎ、思うようなダメージを与えることが出来ないでいた。

 

 

 

 

どれほど時間が経過しただろうか。弾丸の嵐が過ぎ去った後、この場に両の足で立っている者はいなかった。それを確認したフレイザードは、再び細かな岩石を集積した。だがその姿は、炎も冷気も纏っておらず岩石が剥き出しの状態であった。

 

炎のエネルギーも、氷のエネルギーも尽きかけたフレイザードが思わずふら付く。

 

「くっ! さすがに消耗が激しいぜ……! だが、それだけの価値はあったようだな! クハハハハハッ!!」

 

フレイザードは勝利を確信し、高笑いをする。

 

 

しかし、そんなフレイザードに対し、よろめきながらもダイとマァムが立ちあがった。

 

「ほう……。まだ立ってくるか……! だが、そんな身体でいったいどうするつもりだよ?」

 

 

マァムもダイも承知していた。禁呪法生命体であるフレイザードを倒すためには、アバン流刀殺法の最高奥義を会得しなければならないと言う事を。

 

「くっ……。ダイ! 空裂斬よ! 空裂斬を使って、フレイザードの核を攻撃するしかないわ」

 

「うん、分かった!」

ダイはマァムにそう返事を返し、ポップと行った船上の訓練の時と同様、目をつぶり集中を始めた。

 

しかしフレイザードは、そんなダイの動きを見逃していなかった。

 

「カーカカカ! 何をするつもりかは知らんが、俺がおとなしくそれを見ているとでも思ったかよ!」

 

フレイザードは握りしめた左手の指を1本ずつ立ち上げていった。そう、一言ずつメラゾーマと呟きながら。

 

「――! いけない! その技は…・・・!」

その技の恐ろしさを身をもって知っているアポロが叫ぶ。

 

その声にダイは、思わずフレイザードのコアを特定するための集中を解いて対応しようとするが、その動きをマァムが制止する。

 

「駄目よ、ダイ! あなたは空裂斬を放つことだけに集中するの! あれは私が防ぐわ!」

 

マァムはそう言って、ダイを除き倒れたままの仲間達の先頭に立った。

 

ダイはそのマァムの言葉に、ただ頷きを持って返した。マァムならきっと防いでくれると信じて。

 

「カーカッカッカ! 小娘ー! あの賢者ならいざ知らず、お前程度がこいつを防ぐだと! その思い上がりを後悔して死んでいきな! さあ、燃え尽きろッ!! ――五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)!!」

 

フレイザードの左手より放たれた5発の火炎呪文(メラゾーマ)が、互いに螺旋状に回転しながらマァムに迫り来る。

 

地面に横たわったままのアポロが、無駄と承知しつつ防御光幕呪文(フバーハ)を唱えようとするが、それをレオナがそっと止めた。レオナの目は、先頭に立つマァムに注がれていた。

 

 

 

 

 

マァムは思い出していた。母の言葉を。父ロカは、マァムがまだ物心がつく前に原因不明の病気で亡くなった。しかし、母は常々マァムに語って聞かせていた。いかに父ロカが強かったかを。

 

ロカは、カール王国騎士団の団長を務めていたが、アバンの魔王討伐の旅にその立場を捨てて同行した。魔王軍との戦いでは何度もアバンの盾となり、愚直に敵の攻撃にその身をさらした。

 

そしてその放つ強力無比な一撃は、カール王国の伝統必殺剣。

 

その一撃は敵の放った攻撃魔法を一刀両断し、なおも敵に甚大なダメージを与えたという。母は、その威力をアバン流刀殺法大地斬と海波斬を合わせたものに匹敵したと、何度も何度もマァムに目を輝かせながら語って聞かせてくれた。

 

この場にポップはおらず、ダイはダイにしか出来ない事を成そうとしている。では、私は? マァムは自問する。ここでポップやダイに頼っているようでは、いったい何のために彼らのもとを離れて武闘家としての修行を積んだというのか。彼らと肩を並べたい。そう考えて行動したのではなかったのか。

 

マァムは自身に向かってくる紅蓮の炎を見つめる。それは5つの炎が渦をなしていた。しかし極限まで集中していたマァムには、その炎の渦の一筋一筋がはっきりと見えていた。

 

『……マァム。父さんのその技の名前はね……、きっといつかあなたにも……』

 

 

……見ていて、父さん!

 

マァムはその両足を地面にしっかり踏みしめ、迫る五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)に対して仁王立ちする。既に満身創痍の状態のマァムの全身から溢れんばかりの闘気がみなぎる。それは、闘気を扱えないレオナ達ですら視認できるほどまでに圧縮された闘気だった。その闘気が次第にマァムの右足に集中していく。

 

マァムの右足は今、目も眩まんばかりに輝いていた。アバンがもしもこの光景を目にしていたら、そのマァムの姿にかつて自身が最も信頼を寄せていた戦友の姿を、重ね合わせた事だろう。

 

……次の瞬間、マァムは右足を横薙ぎに振り切った。

 

「カール騎士団正統! 初撃!! ――豪破一闘!!!」

 

直後、マァムの右足から衝撃波が放たれた。

 

その衝撃波は、五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)による5つの火炎呪文(メラゾーマ)の急所を完全に両断し、さらにその先のフレイザードに一撃を与えていた。その一撃は、フレイザードが核を破壊しなければ倒せない禁呪法生命体でなければ、確実に倒していたほどの威力だった。

 

「ガ、ガハァッ!! ば、馬鹿な!! こんな小娘にまで俺の切り札が破られるとは……! だ、だが、残念だったな! お前達がいくら俺を攻撃したって、核さえ無事なら俺は―― !?」

 

マァムから加えられた一撃によろめくフレイザードの前に、目を閉じたままのダイが立ちはだかる。その剣は納刀されており、ダイは幾分前傾姿勢で抜刀の体勢をとっていた。

 

「マァム、ありがとう……。おかげで、フレイザードの核の位置を掴むことができたよ。後は俺に任せて」

 

「ええ、任せるわ、ダイ」

マァムはそのダイの様子から、空裂斬が完成を見た事を悟っていた。

 

 

ダイは、バルジの島に再突入する直前の空裂斬の修業に協力してくれたヒュンケルの言葉を思い出す。

 

『空裂斬は、悪のエネルギーに正義のエネルギーをぶつけて悪を滅する技……。故に俺には究められなかったのだ。心の目で悪のエネルギーを感じるのだ』

 

先ほどマァムがダイに与えた貴重な時間で、既にダイはこの場にいる全員の生命エネルギーを捉えていた。もちろん暗黒のエネルギーも……。

 

 

 

「バカが! そんな夢みたいな技で俺の秘技が破られるものかよ! そら、ボロ雑巾にでもなりやがれェッ!!!」

 

再びフレイザードが弾丸爆花散を放ち、無数の弾丸がダイを襲う。この攻撃は、マァムの攻撃によって弱ったフレイザードにとっても、まさに命がけの攻撃だった。

 

だが、ダイはたとえフレイザードの姿が無数の細かな弾丸と化していても、正確に核の位置を把握していた。それは、凄まじい殺気を巻き散らしてダイに迫っていた。

 

故にダイは、自身の剣の柄に添えた手に僅かに力を入れた。

 

 

「こいつが……! こいつが……!! こいつがフレイザードだぁーーーーッ!!! ――空裂斬!!!!」

 

刹那、駆け抜けざまに抜刀し、無数の弾丸と交差するダイ。

 

周囲を一瞬静寂が包み込んだ。

 

そこには、抜刀の姿勢のまま佇むダイと、再び岩石を集積したフレイザードの姿があった。

 

「へっ……! 驚かしやがって! どうやら不発に――!?」

 

背後を振り返ったフレイザードは驚愕する。何故ならそこには自身の核が浮かんでいたからだった。

 

抜き放った剣を「カシン」と静かに納刀するダイ。同時に、宙に浮かぶ小さなフレイザードの核がピシと音を立て割れた……。

 

 

「切った……! 手ごたえあり……!!」

 

未だ両の目を閉じたままのダイが、そう手ごたえを口にする。そしてその言葉が正しかった事を証明するかのように、フレイザードが悲鳴を上げる。

 

「グワアァァァーーーッ!! や、やべえ! 左右の身体が維持できなくなってきやがった! こ、このままじゃあ……!!」

 

突如大きな音を発し、フレイザードの氷の右半身と炎の左半身が分かたれた。

 

即座にレオナが叫んだ。

「――! アポロ!」

 

「――火炎呪文(メラゾーマ)!」

 

アポロの手から放たれた火炎呪文(メラゾーマ)が、フレイザードの氷の半身に着弾する。直後、凄まじい蒸気を発しながら氷の半身が蒸発していく。

 

「ゲェッ!!! や、やめろ、やめてくれェッ!!」

 

炎の半身のみとなったフレイザードは、もはや勝機は無いと見てダイ達に命乞いをする。

 

もはやフレイザードの命は、風前の灯だった。

 

 

 

しかしそこに、突如として現れたのは、魔影参謀ミストバーンだった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

はー……。俺は若干、いや、実の所かなり落胆していた。それは、先ほどの極大閃熱呪文(ベギラゴン)による攻撃でハドラーを仕留めきる事が出来なかったからだった。

 

極大閃熱呪文(ベギラゴン)がハドラーに直撃した瞬間を、俺は吹き飛ばされそうになりながらもしっかりと見届けていた。

 

極大閃熱呪文(ベギラゴン)の超高熱が一瞬でハドラーの下半身を蒸発させ、その熱はもう少しでハドラーの2つある心臓付近まで達しようとしていた。

 

しかしそこで黒い霧のような何かが現れ、それがハドラーの身体を包み込んだかと思うと、直後に消え去ったのを俺は確かに見た。人間だったなら、間違いなく致命傷を負わせられたと思うが、相手はハドラーだ。まず間違いなく生きている。

 

畜生……。やっとアバン先生の仇を取れると思ったんだけどな……。もう少しでハドラー滅殺という最大の原作改変、いわゆるジャイアントキリングを起こせたというのに。ついてないな……。

 

はー、まぁ仕方ないか。終わった事を嘆いていても始まらないしな。次は絶対に、2つあるという心臓を燃やし尽くしてやろう。覚えていろよ、ハドラー。

 

気持ちを切り替えた俺は、周囲を改めて眺め見た。

 

ハドラーの配下であった魔物は皆消え去っている。これは完全に極大閃熱呪文(ベギラゴン)による一撃のためだろう。ここでの戦闘は終わったと考えて良さそうだ。

 

次に俺は、ヒュンケルとおっさんの状態を確認した。おっさんはほとんど傷らしい傷は負っていないように見えるが、ヒュンケルはそれなりに負傷しているようだな。それもそうか、今のヒュンケルは鎧の魔剣を装備していないから、紙装甲のようなものだ。早く怪我を癒やしてやろう。

 

 

「どうだ、ヒュンケル。傷は癒えたと思うけど、まだ痛むところはあるか?」

俺はヒュンケルの身体に触れていた手を離して、念のために確認をした。

 

「いや、問題ない。すまない、ポップ」

 

 

「そうか。それなら今からダイ達と合流するから、また変身呪文(モシャス)をかけておくぞ」

 

バルジの塔での戦闘がどうなっているか、気がかりだからな。ダイは、空裂斬をちゃんと会得できたんだろうか。

 

俺がヒュンケルに再び変身呪文(モシャス)の魔法をかけると、ヒュンケルは再び黒髪長髪の青年に姿が変わった。今からはヒュンケルではなく、ヒューイと呼ばなきゃな。あ、おっさんにも注意しておかないと。

 

ん? どうした? ヒュンケル、いやヒューイが何やら態度を改めて俺に正対したぞ。

 

「……ポップ。レオナ姫達と合流してからではゆっくり話す暇が無いだろうから、今のうちに伝えておく。アバンの残した『魂の貝殻』を俺に渡してくれた事、俺の目を覚まさせてくれた事、そして俺に最後の戦場を用意してくれた事、心から感謝する。……大魔王バーンの力は強大だ。だが、俺はお前ならきっと大魔王を打倒できると信じている。お前の力で、ダイやマァムを勝利に導いてやってくれ」

 

おいおい、これじゃあまるで辞世の句じゃないかよ。やめてくれよ、俺はまだここをヒュンケルの最後の戦場にするつもりはないんだよ。お前には、これからもバリバリ現役で働いてもらわなきゃいけないんだからよ。

 

「ヒュンケル……。俺もレオナ姫に事情を話すからさ。どうにかして、俺もおまえの罰を肩代わりさせて貰えるよう頼むから――「駄目だ!」」

 

――! ヒュンケルは強い言葉で、俺の口を閉ざした。

 

「頼む、ポップ。お前に俺の罪を背負わせる事だけは、俺にさせないでくれ。そんな事をさせてしまっては、俺はますますあの世でアバンに顔向けができなくなる……」

 

「ヒュンケル……」

 

「ふむ……。なあ、ヒュンケル。俺は男の価値と言うのは、どれだけ過去へのこだわりを捨てられるかで決まると思っている。たとえ生き恥を晒し、万人にさげすまれようとも、己の信ずる道を歩めるならそれでいいじゃないか……」

 

「クロコダイン……。ありがとう、友よ。その言葉だけいただいておく」

 

俺はクロコダインと目を合わせた。駄目だ、やはり俺達ではヒュンケルを翻意させられそうにない。

 

俺は、遠くに見えるバルジの塔に目をやった。

 

頼むよ、レオナ姫。こいつの固く凍った心の氷を、溶かしてやってくれ。

 

……頼むよ。

 

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