転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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76話 パプニカ、奪還!

~~~~バルジの塔~~~~

 

 

「ポップ! 良かった、無事だったんだね! ヒューイも良かった。あっ、クロコダイン! レオナから聞いたよ! 皆を助けてくれてありがとう!」

 

俺達が瞬間移動呪文(ルーラ)でバルジの塔直下に着くなり、ダイがそう言って満面の笑みで迎えてくれた。

 

あれ? もしかすると、戦闘の真っ最中かもしれないと警戒して来てみたが、ずいぶん空気が弛緩しているな。もしかして、もうフレイザード倒しちゃってる?

 

俺があたりを見渡すと、そこにはダイとマァム、それにダイの側をパタパタと飛んでいるゴメしかいなかった。レオナ姫達はどこだろう? ダイのこの様子だと無事だとは思うが……。

 

「ポップ、お疲れ様。あれから向こうでまた大きな爆発があったから心配していたのよ。無事で良かったわ」

マァムも俺達に、朗らかな笑顔を向けた。

 

「ああ、ありがとう。マァム達も無事で良かった。それでマァム、フレイザードは? 姫さん達は?」

ゴメは、俺の周りを嬉しそうに飛び回っている。ふふ、ゴメもミストバーンに体当たりしてくれたり、よく頑張ってくれたよな。俺はゴメの水滴型の身体を軽く撫でた。

 

「レオナ達なら、マリンさんを救いにさっき塔の中に入っていったわ。フレイザードは……」

 

 

マァムが語ってくれた内容によると、フレイザードはダイが空裂斬を習得した事で打倒できたらしい。そして、その後ミストバーンが現れてフレイザードにおかしな鎧を与えたようだが、その姿になったフレイザードすら地・海・空の技を修めたダイが放ったアバンストラッシュにより撃退したようだ。

 

うん、色々戦闘に参加したメンツが変わっていたが、大きな流れは変わらなかったようだ。それなら安心だ。

 

「そうか……。凄いな、ダイは。もう俺なんかが、あれこれダイに口出しする必要もないほどレベルアップしたんだな」

俺は、ヒューイやクロコダインと楽しげに談笑しているダイを見て、目を細めた。デルムリン島を出た直後は、ダイを育てるための戦いをしたいなんて偉そうな事を言ったが、あれから1ヶ月も経っていないというのに、もうどの口が言うんだというレベルになってしまった。俺とダイの力は、もう完全に逆転している。

 

あまりのダイの成長の早さに、手のかからなくなった我が子を逆に寂しく思う親の気持ちが分かったような感傷を抱き、少し寂しくなってしまった。

 

「何言っているのよ。いくらダイが強くなったって、ポップがダイにとっての目標なのは変わらないと思うわよ?」

 

「目標? いやいや、そりゃあ前は俺の方が強かったのかもしれないけど、もうとっくにダイは俺を追い抜いているぞ」

たとえ俺が色々な魔法を使えるといっても、ダイの開眼したアバンストラッシュの攻撃力には、叶わない。ていうか、そうでなくては困るからな。

 

「だから、そんな単純な話じゃなくって、ポップは私達の――」

 

「ポップ! マァム、凄かったんだよ! フレイザードの五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)を足でエイヤーッて蹴り飛ばしてさ!」

ダイが突然、俺とマァムの間に割って入ってきた。お、おお、元気だな、ダイ。

 

「け、蹴り飛ばしてはいないわよ! あれは、その……うん、私なりの大地斬と海波斬みたいなものよ」

 

「へー、そんな蹴り技を覚えたんだ。凄いな、マァム。それもブロキーナ老師の所で習ったのかい?」

 

「ええ、本当は父さんが使っていた技なんだけど、それを老師が見た事があるからって、私に教えてくれたの。剣と拳の違いはあるんだけど、構えとか闘気の溜め方とか共通する部分はあるから」

 

そうなのか。俺は知らないが、それじゃあ原作でマァムが武闘家に転職した時は、その技をひっさげて再びパーティーに加入したのかもしれないな。

 

「そうか、お父さんの使っていた技か。お父さん、喜んでいるだろうな。マァムが自分の技を受け継いでくれて」

 

「ふふ、ありがとう、ポップ! ――あ! ポップ、ダイ! マリンさん達が出てきたわよ!」

 

俺とダイはその声に、塔の扉を振り返った。

 

本当だ。アポロさんがマリンさんに肩を貸しながら現れた。マリンさんも疲労の色は見えるが、こちらを見て笑顔を見せているから、どうやら大丈夫な様子だ。

その後ろからは姫さんやエイミさん、バダックさんが続いている。

 

おや? エイミさんは、ヒューイの顔を見るなりヒューイの所に駆けていった。

 

姫さんとマリンさん、アポロさんが、俺の前にやってきた。

 

「ポップ君、どうもありがとう。おかげでマリンもこの通り無事に助け出すことができたわ。それにフレイザードを倒し、パプニカの奪還もできたわ。……心から、ありがとうと言わせていただくわね」

姫さんが俺にそう感謝の言葉を告げる。

 

「私からも改めてお礼を言わせてくれ、ポップ君。君と、君達アバンの使徒の手助けがなければ、マリンを助け出す事はできなかった。心から君達の協力に感謝する」

 

「ありがとう、皆さん。そして、ごめんなさい。私なんかを助けるために危険な真似をさせてしまって……」

マリンさんも、アポロさんに肩を借りながら俺達に感謝の言葉を発した。

 

「良いんですよ、マリンさん。元々俺達も魔王軍に対抗するためにこの地に来ているんですから。だから、フレイザードを倒す必要もあった事ですし、目的が重なっていたんです。気にしないでください」

 

マリンさんは俺の言葉に、肩を借りていたアポロさんからそっと身体を離した。

 

「……ポップ君。あなたの、『必ず助けに来る、諦めないで』と言う言葉が、私にあの呪法に耐える力を与えてくれたわ。……本当に……ありがとう……」

 

そう呟くように言ったマリンさんは、俺の身体をふわっと抱きしめた。うわっ、マリンさん、めっちゃ良い匂いする……。しかも意外に胸が大きい……。俺はマリンさんの突然の行動に驚きつつも、(役得だな、これは)とありがたく受け取っていた。耳に、「あらー? これはライバル出現かしら?」などとはしゃぐ、どこかのお姫様の声が聞こえてくる。

 

だが、俺のこの至福の時間は長くは続かなかった。

 

――ぐぇッ! 俺は突然、背後から首根っこを誰かに引っ掴まれて、マリンさんから引き離された。

 

「い、良いんですよ、マリンさん! ポップは、マリンさんが綺麗だったから助けに行くって言ってただけの、ただのスケベですから! こんな奴の事、気にしないで下さい!」

 

「――だ、誰がスケベだよ! 俺は、誰が氷漬けになっても助けに行ったよ! 人聞きの悪い事を言うな!」

さすがにスケベと言われたら俺も反論せざるを得ない。俺はまだ、クールイケメン計画を諦めていないんだ。俺は締められた首をさすりながら、マァムに反論する。

 

「だってポップ、アポロさんだったら助けに行かないって言ってたじゃない!」

 

「いや、そりゃ行かないけどさ! でも、それはさすがに比較対象が悪すぎるだろう!」

 

「おい、ポップ君! それは一体どういう意味だ!?」

 

「どういう意味も何も、アポロさん、いきなり俺の首絞めてきたでしょうが!」

 

「い、いや……、あ、あれはマリンの事で動揺していてだな……!」

 

「アポロ、私のためにそんなに動揺したんだ……」

 

「あ、いや……、そ、そういう訳では……!」

 

「あらあらー、何だかとっても面白い状況になってきたわね。うふふふ……」

 

うふふふ、じゃねえよ、姫さん! 何を目をキラキラさせて俺達を見つめているんだよ。姫さんの参入によって、この場はカオスになりつつあるようだった。

 

 

 

 

 

ヒューイは、レオナ姫やアポロ、マリンの感謝の言葉を受けるポップ達から少し下がった位置でその様子を見ていた。当然ながら、自身にはそのような感謝の言葉を受ける資格が無いと考えていたから。

 

「無事だったのね、ヒューイ。良かった……。怪我はしていないかしら?」

エイミが、そんなヒューイに駆け寄り声をかけた。

 

「ああ、怪我なら先ほどポップが癒やしてくれたから問題ない」

 

エイミはヒューイのその言葉を聞いて安心すると同時に、ヒューイの怪我は自分が癒やしてあげたかったな、とほんの少しだけ思った。

 

「それなら良かったわ。あなたは怪我をしても言わないから心配していたけれど、ポップ君が見てくれたのなら安心ね」

 

「……ああ。君も大丈夫だったか? フレイザードとの戦いは激戦だったと聞いたが」

 

「え、ええ! 大丈夫だったわ。そ、その、心配してくれて……ありがとう」

エイミは、他人に感心のなさそうなヒューイに心配された事に舞い上がっていた。

 

「あ、あの、ヒューイ! もし良かったらだけど、パプニカに戻ったら、ふ、2人で食事でも、……そ、その、どうかしら?」

それは、エイミにとって勇気を振り絞った一世一代のお誘いだった。

 

そんなエイミの並々ならぬ気合いの籠もった誘いだと知ってか知らずか、ヒューイは少し首をかしげた後、返事をした。

 

「……ああ。パプニカに戻ったら1つだけやらねばならぬ事があるが、その後でも君の気持ちが変わらないようなら、食事に付き合おう」

 

「ほ、ほんとうに!? じゃあ、楽しみにしているわね!」

エイミは舞い上がっていたため、ヒューイの『食事に付き合おう』という言葉だけに反応し、そう返事をした。

 

 

 

 

 

「クロコダイン、じゃったの。儂の名は、バダックじゃ。あの時はゆっくり話す暇も無かったが、改めて儂達に助力してくれた事、心より感謝するぞ。……ありがとう」

バダックは、見上げるほど上背のあるクロコダインに対して、改めてそう感謝の言葉を贈っていた。

 

「爺さん……。いや、気にしないでくれ。あの時も姫に言ったが、俺は俺の誇りを取り戻させてくれたあいつらに恩返しがしたくて、この地に来たまでよ。礼には及ばん」

クロコダインは、バダックからの感謝の言葉に、遠くで談笑しているポップ達の姿を見つめながら返事をした。

 

「誇りを? お主ほどの武の者でも、誇りを失うことがあったのかの?」

バダックは、目の前の男の言葉が信じられなかった。それほど、この男の佇まいには威風堂々という言葉が似合っていたからだった。

 

「ん? そうだな……。話すと長くなるが、俺はロモスでやつらに対して肉親を人質に取るなどという非道な行いに加担してしまった。しかし、戦いの最中、ポップに『いい加減目を覚ませ!』と怒鳴りつけられてしまった。あの言葉は利いたよ。頭をズシンと殴られた気がした。だが、そのおかげで俺は、武人の誇りを取り戻す事ができたのさ」

 

クロコダインは、バダックに返答しながらあの時のポップの事を考えていた。

互いにほとんど知らなかっただろうに、何故かポップは、俺の事を本当はそんな卑怯な真似をする奴では無いだろうと、勝手に信じ切った目で俺を睨み付けていた。

 

あのような非道な行いに加担した俺に対して、お前は本当はそんなやつじゃないだろう、とその瞳が訴えていた。あの時の俺は、そのポップの瞳に映った威風堂々とした俺自身の姿に、かつての俺を思い出したようなものだった。

 

そして、ダイ達に敗北した後……。クロコダインは、ガルーダに掴まれてその身を運ばれようとしていた時、自身の体を癒やす優しく暖かい光が全身を覆った事に気がついた。

既に目を開けることすらできないほどの致命傷を負っていたその体に、その暖かい光はあまりにも尊かった。

 

誰がその光を与えてくれたのか、考えるまでもなかった。クロコダインはその時、誰ともなく涙を流していた。そして、必ず生き抜き、いつかポップのためにその命を投げ出そう。クロコダインはそれだけを思い、ロモスの奥地でその怪我を癒やしていたのだった。

 

バダックは、そのクロコダインのポップを見つめる目を見て、クロコダインのポップに対する気持ちを察した。

 

「……ふむ、しかしクロコダインよ。お前さんはやはり大した男だな。生きておれば、時に誰しも道を踏み外してしまうことはある。大事なのは、その事に気づくかどうか、そして、気づいた後どうするかじゃ。お前さんは、ポップ君に気づかされた後、再びこれまでの自身の生き様に戻る選択をしたんじゃろう? それは、自分の過ちと向き合うとても苦しい選択じゃったと思うが、よく決断したの……」

 

「……爺さん。……ありがとう」

クロコダインは、バダックのその言葉に、包み込まれるような温かみを感じ、ごく自然にバダックに頭を下げていた。

 

「はっはっはっ。なあに、年寄りの戯言よ。お前さんも一緒にパプニカに戻るのじゃろう? 祝勝会でポップ君も交えて酒を飲み交わそうぞ。なあ、クロコダイン!」

バダックは、クロコダインの鋼鉄の身体をバシバシと叩きながら、そう陽気に笑った。

 

 

 

 

 

俺は、皆が互いの無事を確認し合っている様子を見つめていた。クロコダインはバダックさんと、ヒューイはエイミさんと、ダイとマァムは、姫さん、アポロさん、マリンさんと会話している。

姫さんに何を言われているのか、マァムとマリンさんの顔が赤い。実を言うと、俺もついさっきまで姫さんのからかいの的になっていたのだが、今はどうにか逃げ出す事が出来ていた。

 

しっかし、俺、今回少し目立ってしまったかもしれないな……。ハドラーが俺の名前を憶えていた事も驚いたが、今回の件であいつ俺の名前を絶対に忘れなくなったよな。はー……。

 

そういえば、初対面のミストバーンからも随分怒りを買ったんだよな。何でだろうな? 俺、特にあいつを煽るような事はしてないはずなんだけどな。結局フラフラと戦場を彷徨った挙句消えて行ったが、あまり根に持たず怒った事を忘れてくれていると良いな。

 

 

 

 

 

「……よう、うまくやったようだな」

 

俺は、不意に上空よりかけられたその言葉に、思考を中断し空を見上げた。そこには、マトリフ師匠が不敵な笑みを浮かべて浮遊していた。

 

「師匠……。はい、誰一人欠けることなくマリンさんを助け出すことができました。魔王軍もハドラー、ザボエラ、ミストバーンという幹部クラスが待ち構えていましたが、どうにか撃退できました」

 

「ほう……、ハドラー。ちっ、奴には俺も貸しがあったんだがな。奴がいると分かっていれば、俺も行ったものを。……おい、きっちりと取り立てたんだろうな?」

 

師匠は地上に降り立ち、俺を睨み付ける。

 

「ええ、しっかりと利子まで含めて取り立てましたよ……」

俺は、師匠に見えるように自身の両手を見せた。その両の手には、師匠の手同様にミミズが這ったような火傷跡が残っていた。

 

「――! お前、使ったのか!?」

 

「ええ、早速使わせてもらいました。でも師匠、やっぱり師匠の魔法は凄いですね。師匠の極大閃熱呪文(ベギラゴン)は、大魔王印の極大閃熱呪文(ベギラゴン)を圧倒していましたよ。まあ、最後は逃げられちゃいましたけど」

 

「けっ! あったり前よ! 俺様を誰だと思ってんだよ! 俺は、人間界最強の大魔道士マトリフ様だぜ……!」

師匠は言葉とは裏腹に、心底嬉しそうに身体全体で喜びを現している。

 

「よしっ! 次はお前に、俺特製の極大爆裂呪文(イオナズン)を教えてやるぜ! 今度は、こいつをハドラーに喰らわせてやりな! 次は逃がすんじゃねえぞ!!」

 

「良いですねー! あ、でも師匠、その前に例の『お触りの魔法』を教えてくださいよ。俺、あの魔法が気になって気になって夜も眠れないぐらいで……」

 

「馬鹿野郎! あの魔法は、極大爆裂呪文(イオナズン)より難しいんだよ! 俺が、あの魔法を開発するのに何年かかったと思っているんだ! お前にはまだ10年早え!」

 

「マジですか!?」

嘘だろ!? お触りの魔法ってそんなに難しいの!? ていうか、あんなしょうもない魔法(いや、ある意味神魔法とも言えるが)の開発に、そんなに時間かけてんの!?

 

ごめん、ハドラー。やっぱり師匠の一生は、バーンに負けている気がしてきたわ……。

 

 

 

 

 

~~~~鬼岩城~~~~

 

「あ……、あううっ……!!」

「ま、まさか、……ハドラー様!!?」

 

ハドラーの親衛隊であるガーゴイルIとガーゴイルHが、魔軍司令にのみ許された椅子に座るハドラーを見て、驚愕の声を上げている。

 

「……どうした!? 何か用か!!?」

 

ハドラーのその怒気を纏った言葉に、ガーゴイル達は直立不動で弁明する。

 

「いっ……いえっ!!」

「失礼いたしました」

 

ガーゴイル達はそう答え、逃げるように部屋から退出する。扉の向こうでは、ガーゴイル達がガクガクと震えていた。

 

「バ……バ……バ……、馬鹿なっ!! た……確かに、なっ……亡くなられたはずだっ……!!」

「そうとも……。ハドラー様は胸から下をベギラゴンの炎で焼かれ完全に消失していたはず……! い、いったい何故!!?」

 

 

そのガーゴイル達の抱いた疑念は、当のハドラー自身が抱いていた。

 

ハドラーは右手に酒の入ったワイングラスを握りしめて、1人自問自答していた。

 

(……何故俺は蘇ったのだ……!!? 俺は確かにあの瞬間極大閃熱呪文(ベギラゴン)の直撃を受け、命絶えたはずだったものが……。それに……)

 

ハドラーは、自身の顔に手を当てる。

 

(気のせいか……。顔の黒い模様が一回り大きくなったような……)

 

「……それは暗黒闘気の影響だ……」

 

「ミ……ミストバーン……!!」

 

突如自身の背後からかけられた声に驚いたハドラーが振り返ると、そこには魔影参謀ミストバーンが静かに佇んでた。

 

「そ……そうか……! 貴様があの瞬間、俺を極大閃熱呪文(ベギラゴン)による爆炎から救ったのだな!? その上、暗黒闘気の魔力によって俺を蘇生させたのか!!」

 

「……」

 

「い……言われてみれば何か凄まじいパワーが全身にやどったような……。死ぬ前よりも強靭な肉体に生まれ変わったのか……!!? クックック……。礼は言わんぞ、ミストバーン。よくぞ俺のために働いた……!」

 

「礼などいらぬ……。それがバーン様がお前に与えた肉体の秘密……。たとえ死しても、私やバーン様の暗黒闘気がある限り、何度でも蘇る。以前よりはるかに強い力を備えてな……。ハドラー、これだけは覚えておくがいい。お前の肉体は、我が全能なる大魔王バーン様のものなのだ。お前には生死を選ぶ権利すらない。……ただ修羅のごとく戦うのだ……。お前の主、バーン様のために……」

 

「……望むところよ……!!」

 

「……もう一つ……。先の戦いでお前を救ったのは私ではない……」

 

「――!? 待て、ミストバーン!」

 

しかしミストバーンはハドラーの制止の声を聞かず、影のように消えて行った。

 

(ちっ、ミストバーンめ。しかし奴め、終始無言のはずの影の男が随分おしゃべりになってきおったな……)

 

 

 

 

 

カツーン……。カツーン……

 

鬼岩城内の仄暗い通路を、僅かに衣音と靴音だけを響かせてミストバーンが歩みを進めていた。

その時、ミストバーンの背後から声を掛ける者がいた。

 

「ウフフフフ……。ハドラー君も堕ちる所まで落ちたね。まさか勇者でもない、たかが賢者1人に敗れるとはね。僕があそこで彼を助けなかったら、バーン様の計画が全て水泡に帰する事になりかねなかったよ。もっとも、その方が全ての不安要素が一度に片付いて、逆に良かったのかもしれないけれどね。クスクスクス」

 

その声の主の姿は陰に隠れており、場所に似つかわしくない興に入った声だけが仄暗い通路に響いていた。

 

「愚かな……。そのような計画から外れた結果を、バーン様がお望みになると思うか……」

 

「分かっているさ。だから僕が君の頼みを聞いて、わざわざ仕事以外の手伝いをしたんじゃないか。少しは感謝してくれたまえ。それよりミスト、しばらく会わない間に君、随分とおしゃべりになったんだね。ウフフフ。良い傾向だと思うよ」

 

「……ならお前に、本来の仕事を与えよう……。……その賢者を消せ……。あれはバーン様のお目汚しとなる男だ。……生かしてはおけん……」

 

「ウフフフフ……。君がそれほど感情をむき出しにするとは珍しい。随分とその賢者が君の癇に障ったと見えるね。うん、なかなか楽しめそうだ。……その依頼、承ったよ」

 

 

 

その言葉と同時に、男の気配は消えていた。

 

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