転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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79話 閑話② 忘れがたき記憶 side ダイ

side ダイ

 

 

「ゴメちゃん……。ポップもマァムも、俺をおいて勝手に修行に行っちゃってさ、酷いと思わない?」

「ピィ、ピィ!」

 

俺がゴメちゃんにそんな愚痴を零すと、ゴメちゃんもやっぱり寂しいのか、『そうだ、そうだ』と言わんばかりにテーブルの上で体を震わせた。

 

ここは、パプニカ王城内の食堂だ。さっきまでレオナと一緒に朝食をとっていたけど、そのレオナは朝食後すぐに迎えに来たアポロさん達に執務室に連れて行かれた。

 

本当だったら、ポップとマァムも一緒に食事をとっているはずなんだけど、ポップは2日前から、マァムは昨日からそれぞれ泊まりがけで修行に行っていて、まだ戻ってきていない。

 

ポップはマトリフさんのところに行くって言っていたから、多分バルジ島付近のどこかの島にいるんだと思う。マァムは、パプニカ西部の森の中で武術の修行をするって言っていたから、今頃森の中だろう。

 

はー……。今日何度目かのため息を付いた時だった。不意に、がらんとした食堂に聞き慣れた声が響いた。

 

「あれ? ダイだけか? マァムはどこかに行ったのか?」

 

俺はすぐに顔を上げて、食堂の入り口を見た。そこには、以前は付けていなかったマントを羽織ったポップがいた。やった、ポップが帰ってきてくれた! 俺はさっきまでの憂鬱な気分が吹き飛んで、思わず顔がほころんだ。

 

「お帰り、ポップ! マァムは、昨日から森に修行に行ったきりだよ。ポップは、もう修行は良いの?」

 

「ああ、ただいま、ダイ。そうだな、俺の方の修行は一区切りついた感じだな。マァムは、森か……。なんか、どんどんマァムが野生化していっている感じがするが、大丈夫かな? そのうち、森の猿を友達だとか言って連れてきそうだな……」

 

ふふふ。またポップがマァムの事をそんな風に言っている。そんな事をマァムが聞いたらとんでもない事になるって知っているだろうに、本当にポップは懲りないな。

 

「ダイの方はどうだった?」

「うん、もう空裂斬は完璧に出来るようになったよ。後、紋章の力も大分思い通りに引き出せるようになってきた」

「おっ、それは良いな。ダイの地の力に、紋章の力が上乗せされたら、鬼に金棒だな」

 

ポップが言ったように、クロコダイン戦や、バルジの島での戦いで発動していた紋章の力を、俺は意識的に使いこなせるようになろうと特訓していた。そのおかげか、時間はかかるけれど、強く意識する事で額に紋章を浮かび上がらせる事が、だんだんとできるようになってきた。

 

だけど、俺は思う。普通の人間は、額に紋章なんて浮かばない。どうして俺にだけ紋章が浮かぶんだろう? 俺はこれまでの戦いで、この紋章の力にずいぶんと助けられてきた。だからこの紋章が嫌だとかは思わないけれど、どこか不安になる。

 

ポップやマァム、レオナ達と違う自分に……。

 

俺がそんな事を考えていると、ポップがじっと俺を見つめている事に気がついた。するとポップは、突然俺の肩を抱いて耳打ちした。

 

「……なあ、ダイ。ちょっと2人だけで、キャンプに行かないか? 今日は天気も良いし、最高のキャンプ日和だぜ?」

 

「キャンプ? 野営のこと? 修行に行くの?」

 

「違う、違う。修行じゃないよ。ただ遊びに行こうって言っているのさ。釣りをしたり、水遊びしたりだよ。夜は釣った魚を焼いたりして自由に過ごす。どうだ、ゴメもいかないか? 米料理、いっぱい作ってあげるぞ」

 

「ピピピィー♪」

 

ははは。ゴメちゃん、よっぽど嬉しいのか、ポップの周りをパタパタと飛び回っている。釣りか。楽しそうだな。俺は頭の中に、デルムリン島を流れている小川でよくやっていた釣りを思い浮かべた。うん、久しぶりにやってみたいな。

 

「うん、行きたい! あ、でも、ポップと俺とゴメちゃんの3人で良いのかな? レオナとかマァムとか誘わなくて……」

 

「良いんじゃねえの、たまには。男には男どうしの付き合いって奴があるのさ」

 

ポップは片目を瞑っていたずらっぽく言ったけど、俺はそのポップの言葉に思わず吹き出した。

 

「あはは。ポップ、そんな事言ってロモスででろりん達と出かけた時は、後でマァムにもの凄く怒られていたじゃないか」

 

「馬鹿! 誰のせいだと思っているんだよ! たく、今度行く時はダイも連れて行って、共犯にしてやるからな。そんな事より、早速行こうぜ! パプニカの北西に綺麗な湖があるらしいんだ。そこに行ってみないか?」

 

「うん、分かった! あ、ちょっと待って! 部屋に戻って剣を取ってくるね!」

 

「いらんいらん、剣なんて! 鎧もだ。俺達は遊びに行くんだ。剣じゃなくて、釣り竿借りていこうぜ。バダックさんに言えば一通り揃うだろう」

 

その後、俺達はバダックさんに釣り竿を2本借りて、ポップの言っていた湖に向かった。

 

 

 

 

 

「うわー、綺麗な湖だね。この湖、なんていう名前なんだろう?」

俺は、目の前に広がる大きな湖に圧倒されていた。ここは、パプニカの町を出てから北西に約1時間の所だ。ここから見える範囲では、俺達以外には誰も見当たらない。

 

俺達は、ポップの瞬間移動呪文(ルーラ)で一度パプニカの町のすぐ近くにあるアシムの港町に移動して、そこで魚や貝等の食材を購入した。アシムの港町は、パプニカ奪還前は住民が皆逃げ出していて誰一人いなかったけど、今は皆戻ってきていて、港町らしい活気で賑わっていた。

 

何故かポップは、アシムの港町の桟橋の上で頭を掻きながら、嫌そうな顔をしていた。何か嫌な思い出でもあるのかな?

 

その後は、俺がポップをおんぶする形で、ポップの飛翔呪文(トベルーラ)で空を飛んでここまでやってきた。この飛び方に最初は驚いたけど、前にマァムを修行場所まで送る時にこのやり方で空を飛んだみたいで、ポップによるとこの体勢が一番効率が良いらしい。

 

マァムを修行場所まで送って行った時って言えば、俺がロモスのお城で見た時はポップが颯爽とマァムの手を引いて飛び立って行った姿だったけれど、あれからすぐにマァムにおんぶしてもらっていたなんて。

 

俺は、その光景を想像して思わず吹き出してしまい、笑いが止まらなくなった。最後には「笑いすぎだ!」って言われて、ポップに頭を叩かれてしまった。だって、おかしいんだもん。ゴメちゃんも、コロコロと笑っていた。

 

 

「バダックさんが言うには、パトス湖っていう名前らしいぞ。よーし、ダイ。早速釣りをしてみようぜ」

 

ポップが竿を2本持ってきてくれたから、アシムで購入した釣り用の餌を針につけて、湖に垂らした。

 

湖畔に、ポップと2人並んで足を投げ出して座った。水面に浮かんだ浮きは、なかなか沈まない。

 

穏やかな時間が過ぎていくのを俺は感じていた。俺は、デルムリン島を出てからこれまでで一番心が落ち着いていくのを感じていた。

 

ああ、良かったな、遊びに来て。多分ポップは、俺が少し疲れている様子に気がついて、このキャンプという名の遊びに誘ってくれたんだろう。俺は、チラッと隣に座っているポップの顔を覗き見た。

 

すると、ポップは手は竿から離していないけれど、時折うつらうつらしている様子だった。ポップも疲れていたんだろうな。俺は、ポップの竿を握っている手をじっと見つめた。

 

ポップの両手は、バルジの島での戦いの後、とても傷ついていて見るのも痛々しいくらいだった。マァムもポップがバルジの塔に戻って直ぐに気がついてベホイミをかけたけど、もう処置が遅かったみたいで傷跡は綺麗にならなかった。

でも本人は、これは偉大な魔法使いの勲章のようなものだから気にしないでくれって言って、全く気にもとめていない様子だった。

 

マァムはポップのその言葉に、『気にしないわけないでしょ!』って怒っていた。俺もその通りだと思う。どうしてポップはそう自分を……。

 

ポップは、俺や仲間のために自分が傷つく事を気にしない。手だけじゃなくて、ポップの胸には、あの時ハドラーの攻撃から俺を庇った時に付けられた傷がくっきりと残っている。

 

マァムもフレイザードとの戦いの時に、俺に空裂斬を習得するのを優先するように言って、自分は俺の盾になってフレイザードの攻撃を受けた。

 

レオナ……。すごく偉い立場なのに、昔デルムリン島で会った時のままの態度で俺に接してくれる、大事な友達だ。

 

ポップやマァム、レオナは、俺の正体がもし人間じゃない何かだったら、俺から離れていってしまうんだろうか。

 

そうなってしまったら、俺は――。

 

「ピィー、ピィー!」

 

突然ゴメちゃんが大声を出して、俺はハッとした。竿の先を見ると、浮きが水中に沈んで凄い力で何かが糸を引っ張っていた。

 

「――お、大きい!」

 

「ダイ、糸を緩めろ! 切られるぞ! 大物だぞ、頑張れ!」

ポップも俺たちの様子に目を覚ましたのか、隣でエールを送ってくる。

 

「う、うん! くっ……」

俺は竿を持って行かれないように必死で力を張るけど、加減が難しい。力を入れすぎるとすぐに糸が切れそうだし、入れないと水中深く潜られていきそうだ。

 

そのまましばらく水中の何かと糸の引っ張り合いをしていると、突然その何かが水面上に大きくジャンプした。

 

それは大きな魚だった。だけど、その魚の口にかかっていた針はそのジャンプの拍子に外れてしまった。ああ、逃げられちゃったな、と思ったその時、ゴメちゃんがその魚に向かって飛びついていって、空中で口に魚を咥えた。

 

「でかした、ゴメ! そのままこっちに持ってきてくれ!」

ポップが大喜びでゴメちゃんを褒め称える。

 

 

ゴメちゃんは、魚を口に咥えたまま上手に陸上まで運んで、その魚を放した。魚はビタンビタンと湖畔の上で飛び跳ねている。

 

「やったね、ゴメちゃん!」

「ピ、ピィー!」

 

俺はゴメちゃんと手を合わせて喜び合った。

 

 

 

 

 

焚き火に炙られて、魚の焼けるいい匂いが漂ってくる。俺達はあの後遅くまで釣りをしたけれど、釣れた魚はゴメちゃんが手伝ってくれたあの1匹だけだった。でも、釣れない、釣れないと言いながら、ポップとゆっくりおしゃべりができたから、俺はそれだけで満足だった。

 

「ははは。念のためにアシムで食材を調達しておいて良かったな。もう少しで1匹の魚を3人で分け合う羽目になっていたぜ」

 

「うん、本当だね。俺もうお腹ペコペコだよ。そろそろ、この魚は焼けたんじゃない?」

 

「ああ、良いんじゃないか。それは、ダイとゴメで食べなよ」

 

「ピィー、ピィー♪」

ゴメちゃんが翼をパタパタと動かして喜んでいる。ふふふ。この魚を捕った立役者はゴメちゃんみたいなものだから、ゴメちゃんにも食べてもらわないと。俺は、焼けた魚をお皿の上に置いて、ゴメちゃんの分をよそった。

 

「ポップは食べないの?」

 

「ああ、今作っている料理が出来たら、そっちを一緒にいただくさ。よしっ、良い感じだ! さあ、2人とも、こっちも食べてくれ。シーフードパエリアの出来上がりだ!」

 

そう言ってポップが俺とゴメちゃんの前に置いた大きな鍋の蓋を開けると、それは、たくさんの魚や貝が黄色いご飯の上に乗った料理だった。

 

「うわー、すごく美味しそう! この黄色いのって、カレーライスに使っているお米なの?」

 

「ああ、そうさ。カレーライスとはまた違った、お米を使った料理さ。おにぎりが好物のゴメなら、こいつも気に入るんじゃないか?」

 

「ピピピィー♪」

ゴメちゃんがポップの周りを嬉しそうに飛び回る。

 

「ははは。分かった、分かった。ちゃんと分けるから、皆で食べよう」

 

 

皆で食べたパエリアという料理は、すごく美味しかった。ゴメちゃんも、その小さな体の何処に入るのかなっていうくらい食べていて驚いた。俺も、何度もおかわりしていただいた。

 

それは多分、この料理の美味しさもあったんだと思うけれど、ポップやゴメちゃんとキャンプをしながら一緒に食べているっていう雰囲気もあったんだろう。こんなにも魔王軍の事を考えずに過ごしたのは、いつ以来だろうと俺は思った。

 

 

 

 

 

俺は今、ココアという名前の飲み物を飲んでいた。これは、ポップが貴重品なんだぜって言って作ってくれたものだ。初めて飲んだけど、甘くて温かくてとても美味しい飲み物だと思った。ゴメちゃんは俺の隣で、昼間にはしゃぎすぎたのか、ご飯をたくさん食べた後ずっと眠っていた。

 

 

「……なあ、ダイ。お前、今何か悩んでいる事があるだろう?」

俺には苦いとしか思えないコーヒーを美味しそうに飲んでいたポップが、焚き火を挟んだ反対側から俺に話しかけた。

 

「……」

俺はそのポップの言葉に咄嗟には返事を返せなかった。ポップはそんな俺をチラッと見た後、言葉を続けた。

 

「……その悩みってさ、おおかた、自分が何者なのかっていう悩みじゃないのか?」

 

「――! どうして、分かるの?」

 

「そりゃー、分かるさ。俺はお前の相棒だぜ?」

 

やっぱりポップは勘が鋭いな。

 

「……うん。俺、額の紋章を意識的に出す修行を始めて、凄く思ったんだ。俺っていったい、何者なのかなって? その、もしかして、……人間じゃないのかなって」

 

「……それで、人間じゃなかったら、俺やマァム、姫さんが離れて行くんじゃないかってか?」

 

「――! うん……」

俺は、今俺が一番心配している事をポップに言い当てられて、思わず頷いていた。

 

「そうか……。うーん、ダイの悩みも分からないでもないけど、なんていうのかな。もしダイが人間じゃなかったとして、どうして俺達が離れていかないといけないんだ? それだったら、俺はゴメやクロコダインのおっさん、ブラスさんとも友達づきあいできないって事にならないか? そもそもエウレカの里の皆を含めたら、俺の友達の大半は人間じゃないぞ」

 

そうか、ゴメちゃんやクロコダインも人間じゃない。だけど、ポップはそんな2人ととても仲がいい。それに、ポップは故郷の村の近くに住む魔物とも友達だ。よくポップから、パンやセリーヌ、スラリン、ホイミンといった魔物の名前を聞く。

 

「逆に聞くが、ダイ。お前、俺がもし魔物だったり、そうだな、……もし人生を2回経験しているようなおかしな奴だと聞いたら、俺から離れていくのか? 俺を友達とは思ってくれないのか?」

 

「そ、そんな事、思わないよ! 俺、ポップがどんな奴だったとしても、ポップの事が好きだよ! 大好きだよ! だって、ポップは優しいし、頼りになるし、俺の事をいつも見守ってくれる、その……あ、兄貴みたいに思っているから」

 

「ははは。兄貴か。それは嬉しいな。じゃあ、俺もその言葉をそのままお前に返そう。俺もお前の事が大好きだよ。ダイのその純粋な目に俺は何度も救われた。お前を見ていると、俺は自分の心が洗われていくように感じるよ。……俺も、お前の事を弟のように思っているよ」

 

「……ほ、本当? じゃあ、ポップは俺がもし人間じゃなかったとしても、俺の事を嫌いになったりしない……? 離れていったりしない……?」

 

「しないな。天地がひっくり返っても絶対にしない。少なくとも、ダイが人間じゃなかったからという理由でダイを嫌いになったり、離れたりはしない。……そうだな、もし俺がダイを嫌いになるとしたら、この前みたいにキスマークのついたカードを、マァムに渡す袋の中に入れられたりした場合だな」

 

「――そ、それはポップが悪いんじゃないか! マァムに内緒で、へんなお店に行ったりするから……!」

 

「馬鹿! いくら文字が読めなくたって、キスマークがついたカードを説明書と間違える奴がどこにいるよ!?」

 

俺達はその後言い争いになった後、どちらからとなく吹き出すように笑い合った。

 

「「あははは……」」

 

俺は笑いすぎて、思わず目から涙が出てしまった。ポップはいつもそうだ。俺が何かに悩んでいると、そんな悩みは小さな悩みだ、っとばかりに、笑い飛ばす。

 

……俺は、心からポップに出会えて良かったと思った。

 

 

 

 

 

「……なあ、ダイ。話を戻すようだけどな、自分が何者なのかを確認する事自体は、悪い事じゃないからな?」

 

「どういう事?」

 

「ブラスさんにデルムリン島で聞いたよ。お前の名前は、まだ赤ん坊だったお前をくるんでいた揺り籠に『D』という頭文字が刻まれていたから、ダイという名前にしたって」

 

その話は俺もじいちゃんから聞いたことがあった。『D』という文字に続く言葉はかすれて読めなかったから、じいちゃんはまだ赤ん坊の時に捨てられた俺の名前を、『D』で始まるダイという名前にしたって言っていた。

 

「木の股から赤ん坊がポンポンと産まれてくるわけじゃないんだ。ダイにだって、両親はいたんだ。いや、今もいるかもしれない。ダイ、お前は自分を捨て子だと思っているかもしれないけどな、捨てる子に名前をつける親はいないぞ。お前の両親はお前に確かに愛情を注いで、お前に『D』で始まる名前をつけていたんだ」

 

「……俺に愛情を」

 

「そうだ。お前は間違いなく両親から愛情を注がれていたんだ。だから、お前が自分が何者なのか知りたいという事は、お前の両親を知ることにも繋がるんだ。……自分の事を知り、両親の愛情を知れよ、ダイ。それが、愛情を注がれた息子の義務ってものだと俺は思うよ」

 

ポップは俺にそう言って、コーヒーを口に含んだ。両親の愛情……。俺は、肉親とも言えるじいちゃんの愛情を感じて、今までデルムリン島で生きてきた。だけど、俺の本当の両親も、俺に愛情を注いでいてくれたんだろうか。俺を手放さないといけない何かが、両親にあったのだろうか。

 

ポップの話を聞いて、俺は両親を知るためにも、自分自身の事を知りたくなった。もう、知った後の事に何の不安もなかった。

 

だって、俺がたとえ何であろうと、ポップは、……ポップだけは俺から離れていかないって分かったから。

 

 

 

 

 

~~~~一方、その頃のパプニカ王城~~~~

 

 

「どうして、ダイ君までいなくなるのよー!!」

 

レオナは、荒れていた。復興に向けて動き出したパプニカでレオナが判断せねばならない事は山積みされていて、連日政務に忙殺されていた。

 

そんな彼女にとって、気の置けないダイを始めとするアバンの使徒と共に取る朝食、夕食の時間は、激務の中のほんのひとときの憩いの場とも言えた。しかし、2日前からポップが消え、昨日はマァムが消え、そして今日にいたっては、彼女にとって一番の癒やしとも言えるダイ(+ゴメ)までが気が付いたら消えていた。

 

そのため、レオナは共に食事をしてくれる者のいないガランとした食堂で吠えていたのだった。

 

その消えた理由が魔王軍打倒に向けた修行のためだというなら、まだレオナもかろうじて我慢ができただろう。ここパプニカは、ダイ達アバンの使徒の活躍で奪還できた。しかし、まだ北の大陸では激戦が続いており、そこでもアバンの使徒の力は必要とされるだろう。彼らが力をつけるために修行に明け暮れるというのなら、一国の為政者として何も言うことができない。

 

だが、ダイのいなくなった理由を知っているらしいバダックに、何処に修行に行ったのかとレオナが聞くと、こう回答された。

 

「ダイ君なら、ポップ君と一緒に湖にキャンプに行きましたぞ。修行? いやいや、ダイ君は剣も鎧も持って行っておらん様子。代わりに竿を貸してくれと言っておったので、今頃釣った魚で一杯やっておるのではないですかの。あの湖で捕れた魚は旨いですぞ。ハッハッハ」

 

それは、あまりにもレオナの神経を逆撫でする答えだった。竿? 釣った魚で一杯? 自分はこんなにも忙しく日々を過ごしているというのに、あの2人ときたら暢気に魚釣りに行ったというのか。

 

しかも自分を一切誘いもせずに? 思わずレオナに、2人に対する殺意が芽生えかけた。

 

「ふ、ふふふ……。首を洗って待っていなさいよ、ダイ君、ポップ君。私も絶対に……」

 

 

 

 

 

マァムは、森を抜けて平野部に出た所で強い日差しを感じ、思わず手を上空にかざした。ここは、パプニカの町の西に位置する森林地帯と平野部の境だった。マァムは2日前から、この森林の中にある滝壺で一人修行を行っていた。

 

もともとブロキーナ老師のもとで修行を行っていた時も、滝壺でよく修行をしたものだった。バダックさんに、立派な滝壺がこの森林地帯の奥にあると聞いていたため、この地に来て2日間修行を行っていたが、一定の成果が得られた事からそろそろパプニカに戻ろうと帰路についた所だった。

 

ポップはもう、マトリフおじさんの所から戻ってきているかしら。ポップはすぐに無茶をするから、修行でまた傷が増えていないと良いけれど。

 

そんな事を考えながら歩いていると、不意にマァムの足下に大きな円状の影が差し、日差しが和らいだ。おかしいなと思い、空を見上げると、そこにはマァムのよく知った人物が手を振っていた。

 

「マァムー! こっちこっち!」

 

それは、パプニカ王国第1王女レオナだった。

 

 

 

 

 

「レオナ、本当に気球を持ち出しちゃって大丈夫だったの? バダックさん達、怒っているんじゃない?」

 

「平気よー。この気球はパプニカのものなんだから、パプニカの王女である私が使っても何も問題ないわよ」

 

そう言って胸を張るレオナを見て、マァムは思わず肩をすくめた。聞けばレオナは、今日の朝こっそりと屋上に設置していた気球を奪って、この場所までやってきたらしい。

 

「でも、マァムと入れ違いにならなくて良かったわ。バダックから大体の場所は聞いていたけど、詳しい場所は分からなかったし」

 

「はー……。それで? レオナは、ポップ達がキャンプをしている湖に行って、どうしたいわけ?」

マァムは、気球から見えるゆっくり流れる眼下の景色に目をやりながら、レオナに訪ねる。

 

「もちろん、私達もキャンプに参加するのよ。あっ、仕事はちゃんとやってきているわよ。少なくとも明日の午前中までは私がいなくても大丈夫なはずよ」

 

レオナのその言葉は、ある意味間違ってはいなかった。昨夜密かにこの計画を練った後、夜遅くまで書類と格闘し、1泊程度なら自分が抜けても問題ない状態にしてきた自負が彼女にはあった。

 

マァムはレオナのその返事にやれやれと肩をすくめながら、遠くに見える海に目をやった。その海と陸の境にあたる海岸線に、見覚えのある町がある事にマァムは気がついた。少し考えて、その町はこのホルキア大陸に瞬間移動呪文(ルーラ)でやって来た時に到着した港町だと、マァムは気がついた。

 

マァムはあの誰もいない港町での事を思い出していた。星明かりが海に反射して幻想的な光景の中、誰もいないあの町で私はポップと2人きりだった。

 

「はー……。いい雰囲気だったのに……。……ポップの馬鹿……」

 

マァムは、ポップと見つめ合った時の事を思い出し顔を赤らめたが、その後のあの紙を読んだ時の事も同時に思い出してしまい、思わずポップを罵倒していた。

 

しかし、マァムはあの時少しだけホッとした気持ちになった事も事実だった。あの紙のおかげで、その先を確かめずに済んだ。もしその先に進んでいたら、私はポップにはっきりと拒絶されてしまっていただろうから。まだ終わりにしたくない。いつか終わりが来るとしても、もう少しこの気持ちを抱かせてほしい、と。

 

そんなマァムの物憂げな表情を、その手の話が好きなレオナが見過ごすはずが無かった。

 

「なになに、マァム。あの町に何か良い思い出があるのかなー」

 

レオナが実にいい笑顔でマァムに問いかける。思わずマァムはのけぞり、しまったという表情をしたが、もう遅かった。

 

「ふふふふふふ……。このパプニカの恋愛王と呼ばれたレオナ様に何でも相談してみなさい、マァム。まだポップ君達の所に着くまでは、たーっぷり時間があるんだから」

 

幾分、お付きのバダックの影響が感じられる口調で迫ってくるレオナに対し、狭い気球の籠の中で逃げ場のないマァムでは太刀打ちできるはずもなかった。

 

 

 

 

 

「なるほどねー。せっかく、良い雰囲気になったのに、そんな事でおじゃんになった訳ね。ポップ君も詰めが甘いわね、全く」

 

その巧みな話術で、マァムから全ての事情を聞き出したレオナはそう言い放った。既にマァムは真っ赤な顔をしてそっぽを向いていた。

 

「ふふふ。でも、マァムのポップ君一途な様子は、お姉さん見ていて微笑ましいわー」

 

誰がお姉さんだ、お姉さんは私だ! と、思いながらマァムは無駄な抵抗を試みる。

 

「わ、私は別に、ポップの事は同じ仲間として、彼の、ご、極一部を尊敬しているだけで……!」

 

「でも、だったらポップ君がそのバニーガールのお店に行ったとしても、別にマァムが怒る必要ないじゃない? ただの仲間だったら、別にポップ君が何してようがいいわけでしょ?」

 

「う……」

マァムは、レオナのその言葉にぐうの音も出ずに押し黙ってしまった。

 

「ふふふ。正直になりなさい、マァム。そんな奥手なマァムに、良い考えがあるわよ」

 

何だろう……。マァムは、レオナのその言葉に一瞬だけ期待を抱いたが、すぐにそれが間違いだったと知る事になった。

 

「それはね、……マァムがバニーガールの姿になってあげたらいいのよ♪」

 

「――そんな事、するわけないでしょ! レオナの馬鹿!」

 

 

 

 

「ねえ、マァムー。機嫌直してよー。ごめんってばー……」

 

「ふんっ……。レオナに話した私が馬鹿だったわ……」

 

マァムの怒りはまだ収まっていなかったようだった。

 

「うーん……。でもさ、マァム。私達、今魔王軍と戦っているわけじゃない。こんな事を言うのは嫌なんだけど、アバン先生の事もあるし、私達いつ死んでしまってもおかしくないわけじゃない。伝えたい事があるなら、伝えられるうちに言っておいた方が良いと思うわよ……」

 

そのレオナの言葉にマァムは、レオナも突然にして父親を魔王軍との戦いで亡くしていたことを思い出した。そして、レオナの言うとおりだと思った。私達アバンの使徒は、既に魔王軍の標的となっている。私の事はともかく、ダイやポップは魔王軍にとって最も邪魔な存在になっているかもしれない、と。

 

「うん……。ありがとうレオナ。ごめんね、レオナ。レオナも辛い思いをしているのに……」

 

「良いのよ、マァム。あ、見えてきたわよ、マァム。あれがパトス湖よ。さあ、ダイ君達はどのあたりにいるのかしら! 待ってなさいよー!」

 

レオナのその様子に少しだけ笑みを浮かべたマァムは、眼前に見えてきた大きな湖に目をこらした。レオナじゃないけれど、マァムも自分に一声もかけずに男だけで遊びに出かけたポップ達に文句を言ってやろうと思っていた。

 

 

 

 

 

~~~~パトス湖~~~~

 

「ピピィー!」

「あははは。やったな、ゴメちゃん! よーし、俺も、――! ご、ごぼごぼごぼ……!?」

 

俺はゴメちゃんに水をかけられてやり返そうとしていた矢先に、急に足を引っ張られて水の中に引きずり込まれてしまった。水中で目を開けると、ゴメちゃんも水の中に引き込まれてしまって目をパチクリしていた。

 

それをやった人間を、俺はもちろん分かっていた。

 

水の中で俺はゴメちゃんと目を合わせて、絶対にやり返してやるっという意思を持って、お互い見つめ合った。

 

「やったなー、ポップ!」

「ピィ! ピィ!」

 

俺とゴメちゃんはすぐに水面に顔を出して、水面に浮かんでいたポップに仕返しのために水をかけた。

 

「わっぷ! ははは、ごめん、ごめん! あはは、ゴメも悪かったって!」

 

キャンプ2日目、俺達はパトス湖で水遊びをしていた。それは、せっかく水中用のパンツも持ってきているんだから、水遊びしようぜっていうポップの提案からだった。

 

俺達は、今日は午前中いっぱいここで遊んで、午後からパプニカのお城に戻るつもりだった。本当はもう1日くらいここで遊んで帰りたかったけれど、あまりパプニカを離れるとレオナが怒りそうだったからだ。

 

俺達がそんな風に気ままに水遊びしていると、突然上空から俺達に声がかかった。

 

「見つけたわよー、ダイ君、ポップ君! 私達を除け者にしておいて、自分達だけで楽しんでいるなんて、いい度胸じゃない! 私達も混ぜなさーい!!」

 

それは、レオナの声だった。俺が上を見上げると、大きな気球が浮かんでいた。その気球のかごの中からレオナが身を乗り出すように叫んでいた。そして、その隣ではマァムも手を振っていた。

 

 

「やれやれ、うるさいのが来たな……。仕方ない、ダイ。もう1日ここでキャンプしていくか!」

ポップが空を見上げながら俺にそう言った。

 

俺も、ポップのその言葉に無条件で賛成していた。

 

 

 

 

 

真っ暗な静寂に包まれた湖畔で、パチ、パチと木のはぜる音が、時折聞こえてくる。

 

「……全く、この私を置いて勝手に遊びに出かけるなんて、いい度胸しているわよ」

 

「まだ言っているのかよ、姫さん。姫さんだって、湖で十分遊んだじゃないか。いい加減機嫌直したらどうだ。ほら、この魚も良い具合に焼けたよ。マァムもどうぞ」

 

「それとこれとは話が別よ! 何度だって言ってあげるわよ、全く……。あ、美味しい! バダックがこの湖の魚は美味しいって言っていたけど、本当ね!」

 

「ありがとう、ポップ。――! 本当、すごく美味しいわ」

 

「ははは。昨日は1匹しか釣れなかったけど、今日は大漁で良かったよ。ああ、もうすぐアクアパッツァも出来るから、そっちも良かったらどうぞ。ダイも食べているか?」

 

「うん、いただいているよ! ポップも焼いてばかりじゃなくて、ちゃんと食べてね」

 

今俺達は、焚き火を囲んで晩ご飯を食べていた。あの後、レオナやマァム達も交えて水遊びしたり、釣りをしたりした。

 

レオナが水遊びの最中に刺激が足りないって言うと、ポップがすぐに湖に大きなくるくるした物を氷で作ったのには驚いたな。『うぉーたーすらいだー』って言っていたけれど、とても楽しくて、レオナだけじゃなくてマァムも俺も夢中になって遊んだ。

 

どうしてポップは、あんな見た事も無い遊びを思いつくのかな? 色々な国の事を知っているレオナも、こんな遊びは見た事も聞いた事も無いって、首を傾げていた。

 

 

 

 

「ねえ、ポップ君。この戦いが終わったらさ、パプニカに仕官しない? ポップ君は賢者なんだし、賢者といえばやっぱりパプニカじゃない? 働きやすい職場だと思うわよ」

 

レオナが、焼けた魚をほおばりながらポップにそう声をかけた。

 

「残念。俺の仕官先はもう決めてあるんだ。まあ、向こうが雇ってくれるかどうかという問題はあるけどね」

 

「え!? ど、どこよ、ポップ君!? あ、まさか出身国のベンガーナ!? やめておきなさいよ、あんな軍事オタクの国! 絶対にパプニカの方が良いわよ。高給出すわよ!?」

 

「嫌だよ。パプニカに仕官したら、上司が姫さんって事だろう? バダックさんやアポロさん達を見ていると、毎日姫さんに振り回される未来しか思い浮かばないよ」

 

「ぐ、ぐぬぬぬ……!」

 

あははは。レオナがポップの答えに悔しそうにしている。うん、俺もポップの言うとおりだと思う。レオナのいるパプニカじゃあ、周りが大変そうだ。

 

でも、そうか……。ポップも、この旅が終わったらどこかに行ってしまう事になるのか。俺は当たり前の事を思い浮かべて、少し寂しくなった。

 

「それより、マァムはどうするんだ? マァムだってこの戦いが終わったらどこかで働くんじゃないのか?」

 

「え、私? 私はまだそんな事考えたこともなかったわ。まずは一度ネイル村に戻って、後はロモスの町で何か仕事を探したり、かな」

 

「そうか。マァムなら、ロモスの町で武術道場でも開いて師範をするなんていうのも似合いそうだけどな」

 

「え? 私が師範? ふふふ。そんなの無理に決まっているじゃない」

 

マァムはポップの言葉を笑って否定したけれど、俺は面倒見のいいマァムならそれも似合いそうだと思った。

 

 

 

 

「さあ、美味しい食事もいただいた事だし、次は音楽ね」

 

食事を終えたレオナが、気球の籠の中を漁って、リュートを持ち出してきた。そんなのまで持ってきていたんだ、レオナ。

 

「おいおい。遊ぶ気満々で来たな、姫さん」

 

「あら、釣り竿に水中パンツまで持ってきているポップ君には言われたくないわね。さ、ポップ君。また演奏よろしくね。今夜は踊りたい気分だから、ノリのいい曲を所望するわ」

 

「はいはい。姫の仰せのままに」

 

ポップは苦笑いを浮かべながら、レオナからリュートを受け取った。そして、ちょうど座るのに良さそうな大きさの石の上に腰を下ろした。

 

レオナは、何やらマァムに(この機会を逃しちゃ駄目よ!)と耳打ちしていた。何を逃したら駄目なんだろう?

 

 

 

「ノリの良い曲か……。ああ、じゃあ、この曲が良いかもな。~~~~~~♪ ~~~~~~♪」

 

レオナの顔を見て、何かを思いついた様子のポップはそう言って、リュートを弾き始めた。わー、たくさんの音が踊り出したような、すごく楽しい曲だ。

 

「ふふ。初めて聞くけど、なかなか良い曲じゃない。さ、ダイ君、早速踊りましょう!」

 

レオナは突然俺の手を取って、前に連れ出した。

 

「え、ちょ、ちょっとレオナ! 俺、踊った事なんて無いよ! 無理だって!」

 

「良いのよ、踊れなくたって。ここには私達以外誰もいないんだから、気にしない気にしない。ほら、マァムもゴメちゃんと踊ったらどう?」

 

「ふふ。それもそうね。ゴメちゃん、私も初めてだけど、私と踊ってくれるかしら?」

 

「ピピピィー!」

あは、ゴメちゃんも大喜びで翼を優しく握ったマァムの手を握り返している。

 

 

 

 

「いい曲だったわ、ポップ君。今のも旅の吟遊詩人が教えてくれた曲かしら?」

 

「ああ、そうだよ。『おてんば姫の行進』っていう曲だよ。姫さんにぴったりだっただろう?」

 

「どこがぴったりなのよ!? ――失礼ね!」

 

レオナはポップにそう言って詰め寄ったけれど、俺とマァムとゴメちゃんは曲のタイトルを聞いて大笑いをしていた。本当だ。レオナにぴったりの曲だ。

 

「あははは。じゃあ、次の曲は……」

 

「全くもう、皆して笑って……。後で覚えていなさいよ。あ、待って、ポップ君。次は私が演奏するわ」

 

「え、レオナもリュートが弾けるの?」

俺はレオナのその言葉に驚いて、思わず問いかけた。

 

「あら、失礼しちゃうわね、ダイ君。これでも私はパプニカの王女なのよ? 淑女の嗜みとしてリュートを習った事だってあるわよ」

 

「ははは。姫さんが淑女だったら、世の中の女の子はみんな淑女になる――、痛っ!」

 

「また死罪になりたいようね、ポップ君?」

 

レオナは、ポップの額に手元にあったスプーンを投げつけて、リュートを弾き始めた。

 

「いちち……。どこの世界にスプーンを投げつける淑女がいるんだよ、ったく。ははは、でも良いね。楽しくなってきた。それじゃあ、マァム、お手を拝借」

 

そう言ってポップは、変に格好をつけた仕草でマァムに手を差し出した。

 

「え? ふふふ。きちんとエスコートしてね、ポップ?」

 

「それはちょっと無理かな? 俺もまともに踊るのは初めてだから。だけど、今は楽しんだ者勝ちだと思うよ」

 

「それもそうね。楽しみましょう」

 

俺がチラッとレオナを見ると、レオナはマァムに親指を立ててニコッと笑っていた。……?

 

マァムとポップは、時々互いの足を踏んだりしながらも楽しそうに踊り始めた。俺もゴメちゃんと手をつないで踊った。

 

「あははは。ポップ君、何よ、その踊り! そんな踊り、初めて見たわよ!」

 

「何よ、とは失礼な。これは、フォークダンスと言う古式ゆかしい踊りだよ」

 

「でも、レオナ。踊ってみると、この踊り、覚えやすくてとっても楽しいわよ」

その言葉通り、マァムは笑顔でポップと手を繋いで、くるくると回っている。

 

「面白いわ! ダイ君、次は私とそれをやるわよ!」

 

 

 

「あはは。ゴメちゃん、楽しいね」

「ピィ、ピィ!」

 

俺がゴメちゃんの翼を握って、他人から見たら滅茶苦茶としか見えない踊りを踊っていたら、隣で踊っているポップとマァムの会話が少しだけ聞こえてきた。

 

(ねえ、ポップ。あなた、こんな自分も大怪我を負うような魔法を、これからも使うつもりなの?)

 

(……必要に迫られたらね)

 

(痛くないの? どうしてもっと、自分の体の事を考えないの?)

 

(そりゃあ、ちょっとは痛いさ。だけど、そうだな……。それを使わずにダイやマァム達が怪我をするよりは、それを使って自分が怪我をする方が、俺が気分的に楽だから、かな……。だからこれは、俺が自分のためにやっているのさ。マァムが気にする事じゃないよ)

 

(……ポップは、本当に馬鹿ね……)

 

(それ、よく言われるな……。もしかして、俺、褒められてる?)

 

(褒めてないわよ、馬鹿! …………あ、あの、ね。で、でも、私は……そんなポップだから…………す、好「ギィィィーーッ!」)

 

急にガラスを爪で引っ掻いたような凄い音がして、思わず俺はゴメちゃんと繋いでいた手を離して、耳を押さえた。ポップとマァムも同じみたいで、蹲って両手で耳を押さえていた。

 

耳を押さえていたポップが大声を上げた。

「どうやったら、リュートからそんな不快な音が出るんだよ!?」

 

「ごめんなさーい! ポップ君達が、アンニュイな雰囲気だったでしょ? だから盛り上げてやろうと思って頑張ったら、指がつりそうになっちゃって変な音が出ちゃったのよ。あ、あはははは……」

 

「あはははじゃないよ、全く。だいたい俺達がいつアンニュイな雰囲気になったよ! なあ、マァム」

 

「……え、ええ。も、もうレオナったら、耳がおかしくなったじゃない……」

 

「あははは。だから、ごめんってば! さ、もう一度演奏するから、さっきの続きしちゃってよ、続き♪」

 

「出来るわけないでしょ、馬鹿!」

 

 

その後も、俺達はなんだかんだ言いながらも踊った。

レオナの演奏はポップほど上手ではなくて、それからも時々変な音が聞こえてきて、踊る俺達も全然踊ると言えたようなものじゃ無かった。

 

だけど、そんな事は俺達には何も関係なくて、ただ笑い声を上げながら踊った。その後も、ポップとレオナは交互に演奏をして、夜が深まって行った。

 

時折レオナとポップも2人で踊った。その時は、俺とマァム、ゴメちゃんがお鍋やお皿をスプーンやフォークで叩いて変な演奏をバックに2人して踊っていたけど、皆それでもとても楽しそうだった。

 

ポップが、いつもの全てを受け止めてくれる優しい笑みを浮かべている。マァムが、ポップの演奏に穏やかな表情で耳を傾けている。レオナが、王宮では見ないような裏表の無い笑顔を振りまいている。ゴメちゃんが、その翼の繊細な動きで踊りを表現している。

 

 

 

俺は、この夜の出来事を一生忘れないと思う。たとえ何があったとしても。

 

だって、この記憶は、どうしてだか思わず泣きたくなるぐらいの俺の宝物になったから……。

 

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