転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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80話 閑話③ 再会を信じて side メルル

side メルル

 

 

――ガタッ、ガタガタ

 

時折、ガタンっと下から突き上げるような振動を感じる。

 

私は今、お婆様と共にリンガイア王国とベンガーナ王国の境にあたる峠を越えようとしている。もちろんお婆様と2人だけで移動をしているわけではなく、ベンガーナの町に向かう隊商の皆さんに同行させてもらっている。そして、今は私もお婆様も隊商の方の荷馬車に乗せてもらっている。

 

5年前にポップさんから頂いたネックレスは今でも私達の旅の大きな助けとなっていて、頂いてからこれまで、私達は魔物にほとんど遭遇した事が無かった。あと、悪い人にもだ。

 

だけど、1ヶ月ほど前から世界は突然変わってしまった。

 

凶暴な魔物が増え、その魔物が徒党を組んで人間に襲いかかってくるようになった。この1ヶ月というもの、少しずつネックレスの効果が及ばないような魔物が増えてきてしまった。凶暴な魔物が近づいてくると、ネックレスの裏に刻まれて水色に発光している呪文が見る見るうちに灰色に変色していく。

 

それでも私達はこの呪文の発色の変化で、多少なりとも凶暴な魔物の襲来を予期する事ができ、旅の一つの行動指針とする事ができていた。

 

このネックレスが無ければ、私達はとうに魔物に襲われて死んでいたかもしれない。私はいつもこのネックレスに目を落とすたびに、これを授けてくれたポップさんに心の中で感謝をしていた。

 

ポップさん……。5年前にランカークス村で出会った同い年の男の子。元気にしているだろうか?

 

私は、空を見上げてポップさんの事を考えていた。

 

ポップさんは、今はアバン様に弟子入りをしてランカークス村を旅立っているようだった。アバン様には私もお会いした事があった。あれは、4年ほど前にベンガーナの町で占いを始めようとした初日の事だった。私はその時の事をよく覚えている。物腰の柔らかい、包容力のある方だった。私は、旅に出たポップさんの事が心配だったけれど、あの方と一緒なら大丈夫かもしれないと安堵した事だった。

 

2人が旅をしている事は、ある立ち寄った町で冒険者の装いをした人達が2人の噂話をしていた所に、偶然遭遇した事で知った。

 

その噂は、ある町では魔物に攫われた女性を救出した、ある港町では町を悩ましていた魔物を討伐した、などだった。私はそれからも旅の途中で時折2人の噂話を聞くことがあり、そういったポップさんの噂話を聞くたびに胸が温かくなった。

 

その噂話で語られるポップさんの姿は、私が5年前にお会いしたポップさんの姿と重なって脳裏に浮かんだ。ああ、変わっていないな、と。5年前に、見ず知らずの私を、身を挺して助けてくれた時のまま変わっていない。その事を私はうれしく思った。

 

でも、その噂話には時折信憑性のないほら話も混じっているようだった。一番信憑性のないほら話は、ある町にポップさんの婚約者がいるらしいというものだった。その話を私に熱弁してくれた商人の方は、『嘘じゃない! 彼はその女性からミサンガまで受け取っているんだ!』と言っていた。

 

本当だろうか? 確かにミサンガを受け取ったという事は、いつかその女性を迎えに行くと約束している事を意味する。

 

私は首元にかけているネックレスに目を落とした。はー……。思わず深いため息をついた。どうして私は、5年前にポップさんにミサンガを渡さなかったんだろう。そのほら話の事を思い出す度に、私は後悔の念に苛まれる。

 

いつかポップさんとお会いした時に、本当にポップさんの手首にミサンガが巻かれていたらどうしよう。

 

……燃やす? 

 

ううん、何を考えているの、メルル。ミサンガを燃やしたって何にも解決しないわ。それに、ポップさんが誰を好きになっても良いはずじゃない。ポップさんは私に何も約束していないんだから。ポップさんは、私にまた会おうと言っただけだ。

あ、でもポップさんは別れ際に私の事を抱きしめてくれた。あれは何かの約束を意味しないだろうか?

 

……やっぱり、燃やす?

 

はー……。私はこの日何度目かのため息をまたついてしまった。この事を考え始めると、私の思考はいつも堂々巡りに捉われてしまう。私に攻撃魔法の素養がなくて良かったと、心から思った。

 

いつかポップさんと再会できた時に、衝動的に行動を起こす事だけは避けられるから……。

 

 

「おーい、お嬢ちゃん。魔道具の様子はどうだい? 変わりないか?」

 

「え!? ――あ、は、はい、少しお待ちください! えっと、はい、大丈夫です。変わりありません」

 

「そうか、それなら良かった。何か変化があったら教えてくれよな。まあ、もうすぐリンガイアを抜けてベンガーナに入るから、それほど凶暴な魔物は出ないと思うが、一応な」

 

「はい、分かりました。すぐにお伝えします」

 

私は、この隊商の隊長に急に問いかけられて驚いてしまった。いけない。私達がこの隊商への同行を許されているのは、このネックレスの効果に価値を見出してくれているからなのに。

 

私は、気を引き締めてネックレスに注意を戻した。隊長の言うように、そろそろベンガーナに入るはずだから魔物の数は減ると思うけれど、油断は禁物だ。

 

私達は、つい先日までリンガイアの町にいたけれど、2週間ほど前にその町を発っていた。理由は、すさまじい悪寒を私とお婆様が共に感じたからだった。私とお婆様には、ある種の予知能力が備わっていて、その力を使ってこれまで魔物に襲われる町や村から事前に逃げ出す事で危機を免れていた。

 

事実、私達が発った後それほど日を置かずして、リンガイアの町はドラゴンの群れに襲われて国王陛下を始めとして多くの住民が殺されてしまったそうだ。

 

私はリンガイアの町を離れる際、お婆様には嫌な顔をされたけれど、お世話になった方々や周りの方に逃げた方が良いと伝えた。

 

……でも、皆私の話を聞いてくれなかった。ここは城塞都市だから安全だ、北の勇者様がいらっしゃるから、などと言って。あげくには、そんな事を言うような子は不気味だから、この町から早く出て行けと罵倒する人もいた。

 

……また私は、逃げただけだった。

 

 

 

「またあの子の事を考えておったのかい?」

目を瞑って眠っていたように見えたお婆様が、私に話しかけた。

 

「お婆様……。起きていたんですね。ええ、ポップさんと、それとリンガイアの町の事を……」

 

お婆様は少し背を起こして、遠くに目をやった。その方向には、リンガイアの町があるはずだった。

 

「リンガイアの町で懲りただろう、メルル。人は自分の信じたいものだけ信じるのさ。他人がいくら言ったところで、無駄さ。儂らは、上手く滅びゆく町から逃げ出す事ができた。それで良いじゃないか」

 

「……でも! でも、そうやって逃げてばかりいて、どうなるんですか!? いつかはその逃げ出す場所も無くなるじゃないですか! ポップさんなら……! ポップさんなら、私達のように逃げ出すのではなく、きっと立ち向かったはずです、お婆様!」

 

私は思わず、お婆様に反論してしまった。そう、ポップさんならきっと逃げ出す事なく立ち向かうはずだ。

 

「ああ、そうだろうね。あの子ならきっと勇敢に立ち向かった事だろうさ。だからこそ、儂らは逃げていいんじゃよ。儂らが逃げている間に、あの子のように勇敢な人間がきっと魔王軍を倒してくれる。ああ、それからこれはメルルに言っておらんかったの。先ほど立ち寄った村で聞いた話じゃがの、ラインリバー大陸のロモス王国が魔王軍に勝利したそうじゃ。そして、その勝利の立役者の1人が、今や『氷の賢者』と呼ばれる額にバンダナを巻いた少年じゃったそうじゃよ」

 

「――ポップさん! そ、それでポップさんは、その後何処へ!?」

 

ポップさんの噂はここ最近耳にしていなかった。私は、ポップさんに何かあったのではないかと心配していたけれど、そうか。ラインリバー大陸に渡っていたのか。

『氷の賢者』……。ポップさんに、とってもお似合いの呼び名だ。私は、あのライオンヘッドに襲われた際に、ポップさんが私を守るために出してくれた氷の壁を思い出した。

 

「儂が聞いた商人の話では、南のホルキア大陸に渡ったらしいと聞いたがの」

 

「ホルキア大陸……」

 

私は、お婆様の言葉に思わず俯いてしまった。もしかして、ポップさんがこの大陸に来ているかもしれないと思ったのに。

 

でも、やっぱりポップさんは、ポップさんだ。ポップさんは、今世界規模で発生しているこの魔王軍の脅威に立ち向かっているんだ。

 

私はこの時、心に決めた。もう逃げるのは嫌だ。お婆様のお言葉に刃向かう事になってしまうけれど、私はもう逃げたくない。

 

だって、私は私にできるやり方で、ポップさんの役に立ちたいから。逃げていたら、私はいつまでもポップさんの隣に立つ事ができない。あの時の私は、ポップさんの後ろで庇われるだけの子供だった。――もう、そんなのは絶対に嫌!

 

 

ただ、私は思った。実は、私は今向かっているベンガーナの町で、何か自身にとって転機となる出会いが待っている予感を感じていた。それは、いつもの悪寒を伴う予感とは全く異なり、何か心が温まるような感覚を伴った予感だった。

 

だから私は、密かにポップさんとベンガーナの町で5年ぶりに再会できる事を期待していたけれど、今ポップさんはこの大陸にはいないらしい。

 

じゃあ、この気持ちは何だろう。一刻も早くベンガーナの町に向かいたいと思っている、この私の逸る気持ちを後押ししているものは、いったい何なんだろう。

 

私は、まだ見ぬベンガーナの町の方角に目をやった。

 

 

 

 

 

ベンガーナの町が遠目に見えてきた。後は、この丘を下ればいいだけだ。幸い、ベンガーナ国に入ってからは魔物と遭遇する事なく、ここまで来る事ができた。

 

何があの町で私を待ち受けているんだろう。私を捉えるあの予感は、日増しに強くなっていた。

 

私が、ベンガーナの町並みを丘の上からしばし見下ろしていると、突如南の空から一条の光が私達の遙か上空を通過し、その光はベンガーナの町の中に消えていった。

 

あれは、もしかして瞬間移動呪文(ルーラ)の光かしら? 瞬間移動呪文(ルーラ)を使える人間はめったにいないけれど、私はずっと昔に一度だけ瞬間移動呪文(ルーラ)の光を見た事があった。

 

おそらくあれは、瞬間移動呪文(ルーラ)の光で間違いないと思う。そして、その光は私達の南の空からやってきた。

 

南……。ここギルドメイン大陸の南には海を挟んでホルキア大陸がある。

 

もしかして……。 

 

私は一刻も早く、ベンガーナの町に入りたいと思った。

 




はい、これにて5章完です。ここまでお読みいただいた読者の皆様、本当にありがとうございます。もしよろしければ、感想などいただけますと大変嬉しいです。

次は6章 竜の騎士を予定しています。6章の目玉は何といっても、ダイ大史上最大の激戦とあの少女の本格登場です。激戦の方は、言わずもがなですね。これがゲームだったら、放り投げたくなるほどの高い壁がポップ達を待ち受けます。

そしてもう一つは、あの少女の登場で始まるポップを中心とした人間模様。ここで宣言しておきます。あの少女が登場していきなりですが、ポップ周りの人間模様は6章で方向性をはっきりつけるつもりです。命の切った張ったをしている中で、あまりポップをフラフラさせたくは無いので。
ある特定のカップリングが気に入らないという意見を他投稿で玉に見かける事もありますが、本作もそうなるかもしれません。ですが、これは私の2次小説ですので、もう私の好きなように書かせていただこうと思っています。開き直りです(笑)

それでは、また例によって少し充電期間を置いてから、投稿を始めさせていただきます。4章から5章の時ほどは間を空けないつもりですが、ちょっとよく分かりません。
(最近PS5を手に入れ、ホグワーツに旅立つ日が増えておりますので……。申し訳なし……!)

また戻ってきましたら、どうぞよろしくお願いします。
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