転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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82話 超竜軍団の襲来

俺は、百貨店の4階の壁に設置されている窓枠に足を乗せて、ダイ達を振り返った。

 

「じゃあ、ダイ、マァム。ヒドラの相手は任せたぞ。俺もドラゴンを始末したら駆けつけるから、無理しなくて良いからな」

 

「うん、分かった」

「ええ。ポップも気をつけて」

 

俺は、2人に防御力変動呪文(スクルト)敏捷力変動呪文(ピオリム)の魔法をかけた後、その窓枠から飛翔呪文(トベルーラ)で空に飛翔した。

 

さあ、まずは原作ポップもやったように、5匹のドラゴンを郊外に引っ張っていきますかね。俺は町を破壊しつつ迫ってくるドラゴンの前に体をさらけ出し、その注意を俺に引いた。

 

「ガァアアー!」

 

「さあ、こっちだ! 遅れないようにしっかりついて来いよ!」

 

 

 

 

 

「ダイ、私達も行きましょう!」

 

「うん! じゃあ、レオナも気をつけて!」

 

「ええ、分かっているわ!」

 

ダイとマァムも、ポップが先ほど飛び立った窓枠に足を乗せ、宙に体を投げ出した。マァムは百貨店の壁と隣の建物の壁との間を飛び跳ねながら降下し、ダイもマァムほどの身軽さではないものの地面に着地した。

 

百貨店の周辺は、逃げ惑う人々でパニック状態だった。既に5体のドラゴンは、ヒドラと分断されベンガーナの郊外に向かっている様子だった。ポップの誘導が効いているのだろうと思った2人は、未だ町の中心部で暴れているヒドラに向かって駆けた。

 

ヒドラは、首が5つもあるドラゴンの上位種と言っていい魔物だ。それぞれの首が火炎を吐き、その鱗は鋼鉄よりも堅いと言われている。

 

マァムは、ヒドラに向かって駆けながら、腰に吊していたメタルフィストを手に取り右手にはめた。おそらくヒドラに対しては、ポップに新しく込めてもらった魔法の力が必要になるだろうと思いながら。

 

ヒドラは周囲の建物を押しつぶしながら、百貨店前にある噴水広場まで到達していた。何が目的なのか、5つの首がそれぞれ炎のブレスを無秩序に吐いていた。

 

2人は互いに目配せして、ヒドラに飛びかかった。

 

ヒドラの首の1つが2人に気づき、その炎のブレスを2人に向けた。それに対してダイは咄嗟に腰の剣に手をやり、抜刀の姿勢から一息に剣を抜き放った。

 

「――海波斬!」

 

ダイの剣から放たれた高速の斬撃が、ヒドラの放ったブレスを一刀両断する。そしてその両断されたブレスの間からマァムが矢のようにそのヒドラに肉薄した。

 

「――ハァアー!!」

 

メタルフィストを握りしめたマァムの右拳が、ブレスを放ったヒドラの顔面にヒットした。それは、ヒドラの頭部にまるで巨大な鋼球を叩き付けたかのような衝撃を与え、その頭部を大きく揺さぶるほどの一撃だった。打突の瞬間、そのマァムの右拳からは黒い粒子が放出されていた。

 

自身の一撃により目を回したヒドラの首を、油断なく見つめるマァム。その右拳からは既に黒い粒子は放出されていない。先ほどの攻撃の瞬間生じた黒い粒子は、ポップがパプニカでメタルフィストに新しく込めた重圧呪文(ベタン)による余波とも言えるものだった。

 

マァムは、ポップの書いた説明書きの内容を思い出していた。それは、打突の瞬間にメタルフィストに込められた重圧呪文(ベタン)の魔道具を発動させる事で、自身の拳の重みが増幅され、通常の3倍程の衝撃を敵に与えられるというものだった。

 

説明書きの最後に、『つまりマァムの体重が70kgだとすれば、それが一瞬200kgオーバーになるようなものだよ』と書かれていた事を思い出し、乙女の尊厳にかけてこの戦いの後ポップと一度じっくりと話し合う必要があると考えていた。

 

「はあー! 大地斬!!」

 

――グシャ!

 

ダイが、ヒドラの1匹の首に大地斬を放ち、その首を両断した。これで残るヒドラの首は、未だに目の回している首を含めて残り4つとなっていた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「お母さん、しっかり!」

 

10歳前後のように見える少女は、母親の手を引いて大通りを駆けていた。周囲は、突然の魔物の来襲に逃げ惑う人達で溢れかえっていた。魔王軍が侵攻を開始したとは聞いていたが、ベンガーナにこれほど魔物の脅威が迫ったことはこれまでになく、少女は初めて見る巨大な魔物の姿に蒼白になりながら逃げていた。

 

「きゃっ!」

母親が悲鳴を上げて倒れ込む。手が離れた少女は母親の側に駆け寄った。母親の右足は、飛んできた瓦礫が当たったのか紫色に変色していた。満足に走れなくなった事を悟った母親は、「あなただけでも先に逃げなさい!」と大声を上げた。

 

「でも、お母さん!」

 

どうしても母を置いていく事が出来ない少女は、母親に肩を貸しよろめきながらも立ち上がる。しかし、足を踏み出そうとした少女は、背後からこれまでに感じた事の無い強烈な臭気と熱気を感じ、思わず振り返った。

 

そこには、獰猛な目を爛々と光らせて彼女達を見つめる、家の屋根をも超える巨体のドラゴンがいた。

 

「ひっ!?」

 

腰が抜けたように座り込む親子。ドラゴンのその大きな口からは、火の粉がチロチロと舞っていた。少女の体ほどもありそうなドラゴンの鼻の穴が、大きく広がった。鼻から息を強く吸い込んだのだ。

 

「お母さん、怖い……」

親子は互いを庇うように抱き合って、最後の瞬間をせめて見ずに済むようドラゴンから顔を背けた。

 

ゴォォォォ!

 

彼女達の耳に、ドラゴンが炎のブレスを吐いたであろう音が届いた。ギュッと強く互いの身体を抱きしめる2人。しかし、ブレスの音は聞こえるものの、いつまで経っても熱い炎はやってこない。

 

恐る恐る少女が目を開けて振り返ると、彼女達の盾になる様にバンダナを額に巻いた少年がドラゴンの前に立ちはだかっていた。その少年は薄緑色の服を着て、背中には白いマントがなびいていた。

 

「魔法使い……様?」

 

その少年の前方には、いつの間に出来たのか青白い氷の壁が屹立しており、それがドラゴンの放った炎のブレスを受け止めていた。

 

その氷の壁に命を救われたのは彼女達だけでは無かった。親子の周辺で同じように腰を抜かして座り込んでいた住民達から、感嘆の声が漏れ聞こえた。

 

「氷の……壁。おい、もしかしてあの子って、ロモスで噂になっていた例の氷の……」

 

「い、いや、しかしまだ子供じゃないか。あんな子供が魔王軍と……?」

 

皆の視線をその背中に受けていた少年は、不意にこちらを振り返り「早く向こうへ!」とドラゴンと反対の方向を指差した。少女はその声にハッと我に返り、母親に視線を向けた。その母親は、信じられない様に自分の足を見つめていた。先ほど紫色に変色していた母親の足は、何故かそれが嘘だったかのように治っていた。

 

「お母さん、行こう!」

 

少年の声に、皆がその場から蜘蛛の子を散らす様に逃げて行く。少女もその場から逃げ出そうと母の手を取って足を一歩踏み出すが、命を救ってくれたその少年に一言だけでもお礼を伝えようと振り返った。

 

しかし、その時には既に少年は空に飛びあがっており、ドラゴンの注意を引く様にその姿をドラゴンの前に晒していた。

 

「ほら、大人しく着いて来いって言ってんだよ!」

 

いつかあの少年に直接お礼を言える日が来るのだろうか。そんな事を考えながら、少女は母親を促して駆けた。

 

 

 

 

 

俺は、眼下でこちらを見上げる5匹のドラゴンを見下ろしていた。時折炎のブレスを俺に向かって放つが、俺はそれを飛翔呪文(トベルーラ)で余裕を持って躱す。

 

ここはすでにベンガーナの町の郊外にある広場だ。途中、ドラゴンに余所見をされて危なく炎のブレスで焼き殺される寸前だった住民もいたが、何とかここまで引っ張って来れた。ここなら、俺の呪文の余波を喰らって傷つく人も建物も無い。

 

よし、ここで片をつけよう。

 

俺は右手に魔法力を集中し、眼下のドラゴンの集団にその魔法を叩きつけた。

 

「――重圧呪文(ベタン)!!」

 

――ズシンッ!

 

直後に発生する半球状の重力磁場。5匹のドラゴンはその重力磁場に捕らわれ、声を上げる暇もなく押しつぶされていく。

 

まだだぜ。原作でのポップは、確かここで数匹のドラゴンを仕留め損なったはずだ。そしてその仕留め損なったドラゴンは、その後町に乱入した。

 

確実にお前達はここで仕留める。俺は、これでもかというほどの重力磁場を展開し、確実にドラゴンを圧縮していった。

 

 

 

……これぐらいでいいだろう。ドラゴン共は、その身体の厚みを通常の1/4程に圧縮され完全にペシャンコになっている。恐らく身体中の骨は粉々に砕けている事だろう。遠巻きに、こちらの様子を伺っている人達がいるな。鎧と剣を装備している所を見ると、町の守備隊だろうか。後は彼らに任せておいて大過無いだろう。

 

さあ、彼らの事よりダイ達が心配だ。中心部に戻るとしよう。俺は、町の中心部に視線を移し、そのまま飛翔呪文(トベルーラ)で飛翔した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

マァムとダイは、確実にヒドラを追い詰めていた。先ほどマァムの放った豪破一闘による衝撃波で1体の首がその根元から吹っ飛び、残るは3本という状況だった。2本の首を失ったにもかかわらず、ヒドラはまるで痛みを感じていないかのように、その戦意を失っていなかった。

 

まるで錯乱しているかのように首を振り、足を踏み鳴らすヒドラ。そんなヒドラに対し、マァムが右拳から黒い粒子を後に残しながら再び加速した時だった。ヒドラの尾が傍の建物をなぎ払い、逃げ遅れていた1人の女性にその瓦礫が降りかかろうとしていた光景を、マァムの目がとらえた。

 

次の瞬間、マァムはヒドラへの攻撃を取りやめ、とっさに女性に降りかかる瓦礫に拳を打ち込み、それを粉々に打ち砕く。

 

その行動によって、逃げ遅れていた女性はその場から逃げ出す事ができたが、逆にマァムは無防備な姿をヒドラの前に晒してしまっていた。

 

そして、その隙をヒドラはついてきた。

 

「――あうっ!」

 

ヒドラはその長い首で、マァムの全身を締め上げる行動に出た。その首に捕らわれたマァムは、どうする事もできず苦悶の声を上げる。

 

「マァム! くっそー!」

 

そのマァムの窮地にダイが駆けつけようとするが、残る2体の首が互いに牽制する事でダイを近づけさせない。

 

「ぐ、ぐうう……。ダ、ダイ……!」

 

その圧倒的な力により全身を締め上げられるマァムは、ダイに助けを求める。

 

その姿を見てダイは、額に力を集中させた。それは、今こそこの力を使う時だという判断だった。

 

 

 

 

そして、(ドラゴン)の紋章がダイの額に浮かび上がった。

 

「マァム! 今行く……!」

 

そうマァムに声をかけ、ダイがマァムを捉えた首目がけて突進する。その動きを阻害しようと残る2体の首が炎のブレスを吐きかけるが、驚異的なまでに身体能力が上昇したダイはそのブレスをかいくぐった。

 

そして、マァムを捉えている首の根元に対して、アバン流刀殺法 大地斬を繰り出し、その首を根元から断ち切った。ようやく全身の拘束から解放されたマァムが、荒い息をつきながら地面に膝をつく。

 

「マァムは、回復を優先するんだ! 残りの相手は俺がする!」

 

「……わ、分かったわ、ダイ」

 

マァムもダメージを受けた今の自分では足手まといになると考え、前線からいったん下がって、自身に回復呪文(ベホイミ)の魔法を唱え始めた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

バタ、バタバタ……。

 

ベンガーナの上空を吹く風に煽られ、師匠から譲り受けた魔道士のマントがなびいていた。

 

俺は今、ベンガーナの町の中心部上空にいた。ちょうど百貨店の直上という所か。さきほど、遠目にマァムがヒドラの首に締め上げられている所を目にし、一瞬ヒヤッとしたがすぐにダイがその拘束を解いたため、今は町全体を俯瞰できる高度に滞空していた。

 

ヒドラの残る首は2つ。マァムは戦線離脱したが、ダイは(ドラゴン)の紋章を発動している。油断はいけないが、ここからの逆転はもう無いと思って良いだろう。

 

俺は町全体を見渡し、他に異変が無い事を確認できたため、ダイ達の下に向かおうとした。

 

 

 

しかし、俺の耳は突如、俺よりさらに上空の高高度から飛来してくる何かの風切り音を捉えた。

 

――何だ!? 俺は即座に直上を見上げた。点のように見える……。いや、違う! それは、俺めがけて一直線に駆け下りてくるサタンパピーの集団だった。

 

こいつら、いったいいつから!? 数が多い! 20、いや30体はいるんじゃないのか!?

 

――ちぃっ、時間差攻撃かよ!

 

俺は生意気にも時間差攻撃をしかけてくる敵の知能に毒づきながらも、冷静に対処方法を頭に思い描いていた。

 

30体以上のサタンパピーの集団。俺と敵以外何もない領域。彼我の距離も十分だ。

 

ああ、この状況はロモスと同じだ。つまり、……十分対処可能という事だ。

 

 

俺は背を地上に向け、身体ごと上空より飛来してくるサタンパピーの集団に向き合った。

そして、静かに精神を集中した。右手に氷結系魔法特有の氷の結晶が次々と発生し、左手には、真空魔法の刃を封じた風が渦を巻き始める。

 

さあ、後はこの両手の魔法を合成するだけだ。それで『氷刃嵐舞 氷系真空呪文(マヒアロス)』が発生し、奴らを一網打尽にできるだろう。

 

 

 

だが、そう考えていた俺の脳裏に、1つの疑問が生じた。

 

 

『何故、敵は時間差攻撃など行ったんだ?』

 

 

それを行う事自体は良い。敵だってそれぐらい考える奴はいるという事だろう。だが、この時間差攻撃は、いったい何を意図したものなんだ? そもそも意味があったのか? 

 

高高度に待機させていたサタンパピーの集団を、俺がこの空域にいない間にダイやマァムにぶつけていれば、もっと魔王軍にとって有利な戦いを展開できていたはずじゃないのか? わざわざ、俺がこの空域に戻って来たタイミングで仕掛ける必要は無いじゃないか。

 

そこまで考えた時、俺ははたと気がついてしまった。

 

 

……こいつらの標的は、最初から俺だったんじゃないのかという事に。

 

狩っているつもりが、いつの間にか狩られる側に回っていた……?

 

ツツーと、俺の頬を冷たい汗が伝った。まずい、サタンパピーの集団がもう目の前だ。今すぐ両手の魔法を合成しなければ、乱戦に突入してしまう。

 

……考えるのは後だ。折角の有利な状況を捨ててしまうつもりか? まず氷系真空呪文(マヒアロス)の魔法で、こいつらを一網打尽にしてから考えよう。

 

くっ、だが……。

 

30体以上のサタンパピーの集団。邪魔するもののない広域殲滅魔法に最適な領域。その魔法を発動するのに十分な彼我の距離。あまりにも、前回と似かよったこの状況。

 

この、いかにも広域殲滅魔法を使うのにおあつらえ向きの状況に、俺の脳裏は何故かさっきから警鐘を鳴らしているんだ。

 

これでは、まるで誰かに『さあ、条件は整えたんだ。使ってみたまえ』と言われているような……。

 

 

 

……そして俺は決断した。

 

 

俺は両手の魔法を解除し、右手に氷系呪文(ヒャダルコ)の魔法だけを唱えて、突進してくるサタンパピーの集団を迎え討った。

 

そう、俺は乱戦を選択した。

 

13本の氷の槍を俺は右手で操作し、迫ってくるサタンパピーに対して弾幕を張る。大丈夫だ。接近してくる奴に優先して槍を叩きつけて行けば、敵は徐々に弱っていくはずだ。

 

地上のヒドラは気になるが、そちらを気にしている余裕は俺には無かった。もう、あちらはダイとマァムに任せる。

 

 

「ギャアァー!」

 

俺に突進を仕掛けてきた4、5体のサタンパピーに氷の槍が突き刺さり、苦悶の声を上げる。

 

よし、次だ! 俺は上空に目をやって、急降下してくる2体のサタンパピーに意識を向けた。

 

だが、先ほど俺が深手を負わせた複数のサタンパピーの身体を、突如緑色の光が包み込んだ。

 

「――何!?」

 

その光は俺のよく知るものだった。俺の叩きつけた氷の槍によってサタンパピーの身体に空いた穴が、徐々に塞がっていく。

 

「くそっ! サタンパピーは広域回復呪文(ベホマラー)まで使えたのかよ! そんな事まで覚えてねえよ!」

 

これはまずい。敵に回復手段がある以上、1体1体確実に仕留めなければならない。しかし、氷の槍を1本、2本突き刺したところで致命傷は負わせられない。もっと、一度に喰らわせなければ。だが、それをすれば、四方八方から襲い掛かってくるサタンパピーに対する弾幕が薄くなってしまう。

 

――!

 

俺は、背後から迫った火炎呪文(メラゾーマ)による火炎攻撃を辛うじて躱した。

 

駄目だ。360度敵だらけの状況では俺も被弾を免れないし、反撃したとしても確実に致命傷を与えないと、誰かが広域回復呪文(ベホマラー)の魔法を唱えてすぐに集団ごと回復されてしまう。

 

これでは、いつまでたってもイタチごっこが終わらないし、いずれ俺の方が致命傷を受けてしまいそうだ。どう考えても、耐久力は俺より奴らの方が上だ。

 

俺は突進してくるサタンパピーと、火炎呪文(メラゾーマ)による攻撃を必死に躱しながら、この後の戦い方を考えていた。

 

いったん、高度を落とすか。うまくいけば、ダイ達からの援護も期待できるかもしれない。そして少し距離を取って氷系呪文(マヒャド)を放とう。あれなら1手で放てる。おそらく敵の狙いは、俺に両手を使わせる事だ。俺の命を守るための1手は、絶対に残しておかなければならない。

 

そう考えていた時、俺は信じられない光景を目撃する。氷系呪文(ヒャダルコ)を喰らい吹っ飛んだサタンパピーの身体が、宙で突然輪切りになったのだ。

 

……嘘だろう。俺は肌が粟立つのを感じた。

 

 

「ギギギィッ!」

 

――しまった! 一瞬の硬直をつかれて、1体のサタンパピーの接近を許してしまった。とっさに俺は首を傾けて致命傷となる一撃を避けようとするが、そのサタンパピーは俺の肩口に深く喰らい尽き、そのまま背後に飛び去っていった。

 

俺の肩口は大きく肉がえぐられ、そこからドクドクと血が流れ出す。――ぐっ、痛え! だけど、ちょうどいい。こいつを使って確かめてやる!

 

俺は右手で発動していた氷系呪文(ヒャダルコ)の魔法を解除し、水流呪文(ウォーター)の魔法を唱えた。途端に俺の背後に大量の水球が浮かび上がる。

 

その水球は、どれもが赤く染まっていた。当然だな。この水球には出血する俺の血をふんだんに混ぜているんだから。

 

そして俺は、その水球を俺の全周囲に放った。

 

 

 

結果は、俺の最悪の予想の通りだった。一定の距離で、俺を取り囲むようにいくつもの赤い水滴が宙に浮いていた。

 

 

 

つまりそれは、視認出来ない透明の刃が俺の周囲を囲っている事を意味していた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ふー……」

ダイは、紋章の力を解除し、軽く息を吐いた。ヒドラは、つい今しがた最後の首を落とし絶命したところだった。周囲は大きな被害を受けているが、レオナの避難誘導が的確だったのか、このあたりで取り残された人はいない様子だった。

 

マァムがゆっくりとダイに近づいた。

 

「お疲れ様、ダイ。最後は全部ダイに任せちゃって、ごめんなさいね」

 

「そんなの、良いよ。マァムは回復できた?」

 

「ええ。もう大丈夫よ。ポップは、間に合わなかったみたいね。無事だと良いけれど……」

 

ドラゴンを片付けたら駆けつけると言っていたポップが現れなかった事に、マァムが気遣わしげな表情を浮かべた。

 

「ポップの事だから大丈夫だと思うけど――「ドーーンッ!!」」

 

「「――!」」

 

突然頭上より響いてきた何かが爆発したかのような音に、2人は驚いて空を見上げた。そこには、彼らの遥か上空で、たった1人で何十体もの魔物に取り囲まれながら戦っている彼らの仲間の姿があった。

 

「ダイ! ポップが敵に囲まれているわ!」

マァムが、一瞬で血の気の引いた表情で叫んだ。

 

「――! まだあんなに魔物が! いったいいつから!? でも、あそこじゃあ……手が出せない!」

 

ダイは、自分達の戦いに集中していてポップが1人で戦っていた事に気が付きもしなかった事に、後悔と焦りの表情を露わにし、拳をきつく握りしめた。

 

「待って、ダイ! 何か……、何かポップの様子がおかしいわ!」

 

目を大きく見開いて上空を見上げるマァムは、ポップの戦い方に何か違和感を持った様子だった。

 

マァムの言葉で、ダイは改めてポップを凝視する。そして、確かに何かおかしいと眉をひそめた。

 

本当だ。何か変だ。何だろう。そうだ、ポップはなぜか片手を全く使わずに戦っている。普通の魔法使いならそれが普通だけれど、両手で魔法を扱えるポップの戦い方としては、明らかにおかしい。いったい、ポップに何があったんだろう……。

 

それに、あんな俺達の手の届かない所でポップが戦っている事も変だ。いつものポップなら、仲間である俺達の援護まで考えて戦うのに。

 

ダイがそう考えていると、ポップが何かを周囲に放った。

 

その直後に生じた光景を見て、ダイとマァムは言葉を失った。

 

地上から見たその光景は、まるでポップが赤い糸で編まれた鳥かごに囚われているように、彼らには見えていた。

 

「ダイ! 百貨店の屋上に行きましょう! あそこからならまだ私達の攻撃も届くかもしれないわ!」

 

「うん、分かった!」

 

ダイとマァムは、少しでもポップの援護ができるよう、百貨店の屋上に走った。

 

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