side マァム
……? 不意に私の耳が誰かの声を拾った気がして、俯いていた顔を上げた。周囲を見渡したが、鬱蒼とした木々が茂っているだけだった。遠くからは、川のせせらぎが微かに聞こえる。風に乗ってレオナの声が運ばれてきた気がしたけれど、気のせいだったかしら?
嫌だな……。下らない考え事が頭の中でぐるぐると廻っちゃって、とうとう空耳まで聞こえるようになってしまったのかな……。はー……。私は、今日何度目になるか分からないほどの溜息を再びついてしまった。
メルルさんは、私の後ろを静かに付いて来ていた。
メルルさん……。以前ポップから5年前に出会った娘だと聞いていたけれど、実際に会ってみると、驚くほど可愛らしい娘だった。だから私は、自分との差を嫌でも感じてしまい、自己嫌悪に陥っている。
昨日、メルルさんと5年ぶりに再会したポップは、とても優しい表情をしていた。私にはあんな表情を向けた事が無いのに……。
メルルさんが、ポップの左手首に巻かれているミサンガを気にしている事は直ぐに分かった。だから私は、メルルさんに心配するには及ばないと言う事を伝えたくて、強引にここまで連れてきてしまった。
「あの……マァムさん? 小川はあちらのようですけれど、どちらへ?」
「え!? あ、ご、ごめんなさい、メルルさん」
メルルさんに声をかけられた私は、足を止めて振り返った。ここからだと、丘の上はもう視界に入らない。声も、……泣き声も、きっとあそこまで届かないだろう。
「えっと、メルルさん。私、本当はメルルさんに伝えたい事があって、ここまで連れてきてしまったの。……騙すような真似をして、ごめんなさい」
メルルさんは私のそんな話を聞いても、僅かに首を傾げる素振りをしただけで、特に気分を害した様子は見せなかった。ああ、良い娘だな。ポップが好きになるのも分かるわ……。
「そうだったんですか? えっと、お伝えしたい事というのは、何でしょうか?」
その問いかけに私は、ほんの少し深呼吸をしてから口を開いた。
「そ、そのポップの手首に巻いているミサンガの事なの……」
「――! あの、やっぱりあのミサンガはマァムさんが……?」
とんでもない誤解をされた私は思わず、手を左右に振ってメルルさんの言葉を否定する。
「え!? い、いえ、違うの。あれは、ある村のエルサさんと言う女性がポップに渡したものらしいの」
「エルサ……さん。それでは、その方がポップさんの想い人……」
メルルさんが、目に見えて落ち込んだ様子で呟いた。
「う、ううん! 違うの、メルルさん。ポップはね、別に想い人だと言う風に捉えてあのミサンガを貰っている訳じゃないようなの。ポップが言うにはね……」
私は、ポップがミサンガの意味を間違った解釈で捉えていて、本人はエルサさんにそういう風に思われている事に全く気が付いていないと言う事を伝えた。
「じゃ、じゃあ、エルサさんは、ポップさんの婚約者という訳じゃ……」
「ええ。エルサさんがどう考えているかは分からないけれど、ポップはそういう風には考えていないと思う。だから、メルルさんがポップに、その、……遠慮する必要は無いって言う事を伝えたくて。……好き……なんでしょう、ポップの事が?」
私のその問いかけにメルルさんは俯いてしまったが、数秒後顔を上げた。そして、消え入りそうな声で返事を返した。
「……はい……好きです……。ずっと、……ずっと……ポップさんの事を慕っていました」
そのメルルさんの答えを聞いて、私は自分の気持ちに踏ん切りが付いた気がした。ポップもメルルさんに対して好意を抱いている事は、昨日から今日までの表情を見ていれば分かる。
もう、この2人に私が割り込んでいく余地はないようね……。
あーあ、レオナの言うとおりだったな。想いを伝える時に伝えなかったから、こういう事になってしまった。
でも、大丈夫。この気持ちを胸にしまいこんでしまえば、これから先もポップと一緒に旅を続けられるはず。
私は今、必死に涙をこらえていた。
「そ、そう……。だと思ったわ。良かったじゃない。きっと、……ポップも……メルルさんの事が好きだと思うわよ……。じゃあ、私はこれで……」
もうこれ以上は無理だと思った。早くメルルさんの前から立ち去ろう。泣くのは、一人になってから……。それで気持ちを切り替えよう。
「――待ってください!」
私がメルルさんに背を向けて立ち去ろうとすると、メルルさんに呼び止められた。
「……な、何? メルルさん?」
私は、メルルさんに背を向けたまま返事を返した。今、メルルさんに私の顔を見られるわけにはいかない……。
「マァムさん。……マァムさんも、もしかして、ポップさんの事が好きなのではないですか?」
「わ、私? 何を言っているの? 私は違うわよ……。ポップは、ただの仲間。……それだけよ」
ポップは、ただの仲間……。その言葉を自分の口から発するだけで、私の胸は張り裂けるかのように痛んだ。ただの仲間……。そんなはずないじゃない。そんなわけないじゃない、と私の心の奥にいるもう一人の私が叫んでいる。駄目……。お願い、叫ばないで。もうやめて……。
「……だったら、どうしてポップさんにミサンガの本当の意味を伝えなかったんですか?」
そんなの、そんなの、分かりきっているじゃない。ポップに、その女性を迎えに行って欲しくなかったから……。
「……」
私は、メルルさんのその問いかけに返事を返せない。返事を返さない私に、メルルさんは更に続けた。
「……だったら、どうしてそんなにマァムさんは辛そうなんですか? ……どうして、そんなに泣いているんですか?」
気が付いたら、メルルさんが私に背中から抱き着いていた。もう、無理だ……。私は、嗚咽を漏らしていた。
清らかな小川のせせらぎに、悔恨と呵責の響きが混ざったかのように私は感じた。背中に感じるメルルさんの温かな体温が、私が心に纏った壁を溶かしていく。
「ご、ごめんなさい、メルルさん。私も、私も、ポップが好きなの……。ごめんなさい……」
「謝らないでください、マァムさん……。マァムさんの気持ちが知れて、私嬉しいです。だから、謝らないでください……」
私が振り返ると、メルルさんも涙を流していた。メルルさん……。この女性が、ポップの事を好きだと言ってくれて良かった。どうしてだか、私はそう思った。
「……マァムさん。ポップさんの事を好きでいてくれませんか? 私も好きでいたいんです……。ポップさんが誰を選ばれるのか分かりませんけれど、それまで私達はポップさんを好きでいませんか?」
「……良いの、メルルさん? 私がポップの事を好きなままで……?」
「もちろんです、マァムさん。私、マァムさんと一緒にポップさんを好きでいたいんです……」
「……ありがとう、メルルさん。……ありがとう」
「私こそ、ありがとうございます、マァムさん……。マァムさんの気持ちが聞けて嬉しいです」
それからしばらく、私達はただ抱きあっていた。良かった……。私はまだ、ポップの事を好きでいていいみたいだ。
……私の心の奥の私は、もう叫んでいなかった。
落ち着いた私達は、いつの間にかその場に座り込んで話をしていた。昨日からこれまで何度もこうした機会はあったはずなのに、何故か初めてメルルさんと向き合った気がする。もしかして私ったら、レオナに随分と迷惑をかけていたのだろうか? 戻ったら謝っておこう。
メルルさんが、私にごく自然な表情で「……マァムさんは、ポップさんのどこを好きになったんですか?」と問いかける。
まさかメルルさんとこんな会話を交わす事になるなんて。全てメルルさんのおかげね。メルルさんが、私に正直になって良いと言ってくれたから。だから私も、その問いかけに素直に答える事ができた。
「そう……ね。何だかんだ言って、ポップはいつも一生懸命なのよね。でも、その一生懸命はいつも周りの人に向いていて、自分の事はそっちのけなのよ。最初は、そんな彼が危なっかしくて気になって見ていて……。
そうして見ていると、彼の内面の脆さに気づいて、でもそんな彼が誰よりも勇気を振り絞っている事にも気がついて、……いつの間にか好きになってしまっていたのよね。悔しいけれど……」
「そうなんですね。ふふふ。マァムさんも、ポップさんの事をよく見られているんですね。でも私は……ふふ、いつの間にか、では無かったですね。最初はもう、一目惚れでした」
「一目惚れ? ポップに一目惚れさせる要素ってあったかしら?」
「くすくすくす。ひどいですよ、マァムさん。ちゃんとありますよ。私がポップさんに会ったのは、怖い魔物に今にも食べられそうな時でした。あの時の事は私、一生忘れません。ポップさんのあの勇敢な目、戦い終わった後のあの包み込んでくれるような優しい笑顔。もう完全に一目惚れでした。ふふ、内緒ですよ、マァムさん」
「ええ、もちろんよ、メルル。あ、でもね、メルル。最近のポップ、ちょっと調子に乗っているのよ? この間もね、バニーガールのお店に……。後ね、女僧侶からキスまで……」
私は、最近のポップの所業についてメルルと共有が必要だと感じ、沢山ポップの事を話した。
「え、バニー……! キス……! それは確かにお灸が必要ですね、マァムさん……!」
「そうなのよ、メルルもそう思うでしょ? あ、5年前のポップはどうだった? さすがにそんな事は無かったのかしら?」
「いえ、ありました! ランカークス村の教会にマリーさんって言うお胸の大きな女性がいたんですけど、ポップさんったらいつもその方の……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「――くしゅんっ!」
俺が盛大にくしゃみをすると、荷台に上って所在なげに座っていたダイが、俺を心配して顔を覗かせた。
「大丈夫、ポップ? 寒いなら、毛布があるけど羽織ったら?」
「ああ、大丈夫だよ。こいつはあれだな……、誰かが俺の事を噂しているな。それも、おそらく良い噂だ。俺の
ダイにそう軽口をたたいた俺は、ズズッと温かい珈琲を啜った。うん、美味しい。あの2人には悪いが、なんか場の空気が軽くなった気がするから、食後の珈琲が特別美味く感じる。
「ぷっ。誰がポップの事を噂しているんだよ?」と、ダイが可笑しげに笑う。
「そりゃー、お前、あれだよ。昨日ドラゴンのブレスから防いだ親子とか、ロモスで親しくなった夜のお嬢様方とか色々だよ。とてもじゃないが、1人に絞れないね」
そんな俺の言葉に、俺と同様に食後の珈琲を飲みながら一息ついていた姫さんが、白けた目を向ける。
「
「天罰……? いやいや、俺、悪事なんて働いてないから、その心配は無いでしょ。品行方正とは俺の事だよ?」
俺のその答えに、姫さんは処置無しとでも言いたげに肩を竦めた。……え、俺、悪事は働いていないだろう? 自問する俺に対して、俺の開眼した
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「いけない、そろそろ戻らないと、レオナ達がしびれを切らしちゃうわ。まだ色々話したい事もあるし、今度ポップも交えてゆっくりお話ししよう、メルル」
「ええ、そうしましょう。お説教も必要ですものね。あ、マァムさん。ミサンガの事なんですけど、……どうしますか?」
ミサンガ……。そうだ、その問題が残っていた……。
「黙っておくのは、……エルサさんという方の気持ちを考えると……」
「私も、いつかは伝えた方が良いとは思います。……でも、ポップさんも今はそれどころでは無いでしょうし、まだ伝えなくても良いと思いませんか? ほら、あのミサンガ、まだ切れそうにないですし……」
私は、メルルのその言葉に驚いた。確かにそうだ……。 ミサンガは、その糸が切れるまでに迎えに来て欲しいと言うメッセージだから、切れないうちは迎えに行く必要もないわよね! 私は一瞬、その考えのどこかがおかしいような気がしたが、あえて深く考えない事にした。
「そ、そういえばそうね! それじゃあ、あのミサンガが切れそうになったら、ポップに本当の意味を伝える事にする?」
「そうしましょう! 私、切れそうになっていたら、こっそり縫い直しておきますよ!」
「ぷっ。あ、あははは。縫い直すって、メルル。あははは。あー可笑しい」
私は、夜ポップが寝ている間に、こっそり彼の手首のミサンガをチクチク縫い直しているメルルを想像して、思わず吹き出してしまった。
「本当ですね……。くすくすくす。でも、これで私達、共犯ですね。くすくすくす」
メルルは、私にいたずらっぽく笑っていた。
side メルル
鬱蒼と茂る森の中、私はマァムさんの後ろをついて歩いていた。マァムさんが私を連れ出した理由は、恋愛経験の乏しい私でもさすがに分かっているつもりだった。おそらくポップさんの事だ。
マァムさんは、昨日出会ったばかりの女性だ。ダイさんと同じく、ポップさんとパーティーを組んでいるお仲間の一人。でも私は、昨日出会ってから今まで、マァムさんとはほとんどと言っていいほど会話を交わしていなかった。
理由は分かっている。自分の心に嘘はつけない。それは嫉妬のためだった。だってマァムさんは私に無い物を全て持っている。ポップさんと共に過ごした時間、ポップさんの隣で戦えるだけの力、それに、ポップさんから向けられる親愛の情……。少し見ていたら分かる。ポップさんは、マァムさんに心を開いている。
私も5年前にポップさんの前から去らず、ずっとランカークス村にいたら、私がマァムさんに代わってそんな存在になれていたかもしれないのに……。そんな風に思ったら、マァムさんに対する妬ましい気持ちが抑えられずに、彼女と距離を取るような態度を取ってしまった。
恐らくあのミサンガは、マァムさんがポップさんに渡したものだろう。お似合いの二人だと思う。私では、ポップさんとマァムさんの間に入る事は出来ない。昨夜の事は、私ではなく、本来ならマァムさんがポップさんに寄り添うべきだったのだ。
ダイさんに
マァムさんが、私の前から去って行こうとしていた。駄目、今のマァムさんを1人にしてはいけないと、私の心が訴えていた。マァムさんは私の予想に反して、自分がポップさんから身を引こうとしていた。
そんな事、させてはいけない。先程までの醜い嫉妬の気持ちが霧散していた私は、マァムさんを必死に呼び止めていた。泣いている……。さめざめと……。背中を見せていても、その事が私にはよく分かった。
あのミサンガはマァムさんが送ったものではなかった。でも、そんな事は全く関係なく、マァムさんはポップさんの事を愛していた。私はなぜだかそんなマァムさんを見て、嬉しく感じた。どうして? 自分でも分からない。でも、どうしてだか私は、マァムさんと一緒にポップさんの事を想っていたいと、思ってしまった。
……恋敵なのに? ううん、きっと恋敵じゃない。ポップさんがもし将来マァムさんを選択したとしても、私は恋敵ではなく恋仲間として『おめでとう』、と言えるはずだ。それは少しは、ううん、いっぱい泣く事になるかもしれないけれど、それでも泣いた思いと同じだけの『おめでとう』を、マァムさんに送れるはずだ。だって私は、ポップさんに対する想いと同時に、マァムさんに対する想いもこの胸に抱けたから。
だから私はマァムさんに、ポップさんを一緒に好きでいよう、と告げていた。
互いのポップさんに対する想いを知った私達は、ずいぶんと話し込んでしまった。早く戻らないと皆が心配するという事は分かっていたけれど、ポップさんの最近の話題になると好奇心が顔を覗かせ、ついつい話が止まらなくなった。
でも、マァムさんの言うとおり、確かにポップさんにはお灸を据える必要がありそうだった。……バニーガールのお店? ポップさん、ああいう格好に興味があるのかしら? 言ってくれれば、私が……。ううん、やっぱり無理だわ。あんな格好をしたら、羞恥心で死んでしまいそうだわ。
あれ……? でも、まだお付き合いもしていないのに、ポップさんにお灸を据える権利が私達にあるのかしら? マァムさんにそう尋ねると、「ポップだから良いのよ」、という答えだった。実際マァムさんは、何度か既にお灸を据えているとの事だ。うん、私もマァムさんのそういう所を見習わないといけないと思った。
それに、……そっと私は、マァムさんの胸に目をやった。先ほどマァムさんは私に足りないものをたくさん持っていると思った。でも、もう一つあった。私では、どう逆立ちしても持ち得ない物。
ポップさんがお胸の大きな女性に惹かれる事は、5年前から分かっていた。私だって女の端くれだから分かる。ポップさんは、いつもマリーさんの胸を目で追っていた。5年前は、私だって成長したらいつかは、と思っていた。でも、一つしか歳の離れていないマァムさんを見て、私はどれほど無謀な期待を自身に抱いていたのか、ようやく理解した。
でも、マァムさんには負けるとしても、エルサさんという女性はどうだろう? 私の方が大きいかしら?
どうしよう……? どうしたら大きくなるだろうか。やっぱりここは同じ恋仲間になったマァムさんに尋ねてみようかな。うん、そうしよう。今度こっそり相談してみよう。
そんな事を考えながら、私達はポップさん達の待つ馬車に戻って行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「遅いわねー。まだ話し合いが終わらないのかしら、あの2人……」
姫さんが馬車の上でそうぶーたれている。確かに遅いな。なんかあったのかな? ちょっと心配になってきたな。様子を見てきた方が良いのだろうか? いやしかし、俺が行って、もしお花を摘んでいる最中だったら、彼女達に物理的に殺されるからな。
ていうか、あの2人なんで仲悪いんだろうな? 2人とも、誰とでも仲良くできそうな性格していると思うけどな。女の子ってのは、いくつになっても分からない事だらけだな。
そう言えばダイは随分と静かになったな、と思って荷台を覗き込むと、そのダイは荷台の中で胸の上にゴメを乗せて、昼寝の真っ最中だった。お腹が膨れた事で気持ちよく爆睡しているようで、鼻提灯が鼻息に合わせて膨らんだり縮んだりしている。
……こいつ、原作よりずいぶんと神経が図太い気がするが、本当に何でかな? もっと自分の出生についてピリピリした方が良いんじゃないか? 俺が逆に心配になるほどの大物振りだった。
さて、ダイの事はさておき、俺と姫さんがジリジリしながら森を見つめていると、ようやく森の中から出てくる2人の姿が見えてきた。
あれ? 何だろう、花を摘みに行く前と比べて、随分と仲が良さそうに互いに顔を見合わせて笑い合っているな。
姫さんが、こちらに向かってくる2人を見て、ボソッと呟く。
「ふーん、どうやらわだかまりは解けたみたいね。これはこれで面白いけど、もう少し修羅場を見てみたかった気もするわね。間に挟まれるのは、もうこりごりだけど……」
おいおい、修羅場って、一体なんの修羅場だよ。仲良くしているのなら、それが一番だよ。
「ふむ……。何が原因でいがみ合っていたのか知らないけれど、『雨降って地固まる』ってやつだな。良きかな、良きかな」
俺がそう呟いてうんうんと頷いていると、姫さんはうさん臭そうな顔を俺に向けた。
「なんか、良い事言っている雰囲気出しているけど、ポップ君。あなた今回、何にもしていなかったわよ」
「……」
俺は姫さんのその言葉に、何も言い返せなかった。
そして戻って来た2人に、お花摘みにしては長かったねと声をかけた俺は、2人から目を剥いて叱られた。
「違うわよ、馬鹿!!」
「違います!!」
以前にはあり得なかった2人のその息の揃った剣幕にダイの鼻提灯がパチンと割れ、俺は慌てて姫さんの背中に隠れた。
……うん、やっぱり女の子の気持ちはよく分かんないわ、俺。もうマトリフ師匠を見習って、一生独身でも良いかもしんないな。
姫さんの背中に隠れながら、俺はそんな事を考えていた。