転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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95話 VS 竜騎将② 大賢者の策略

「何故、貴様達が生きている……! 竜騎衆は……、ラーハルトはどうしたのだ!?」

 

そのバランの言葉に、ポップは周囲に油断なく目を走らせながら口を開く。

 

「そんなの、俺達がここにやってきた時点でお察しのとおりだろう? あんたご自慢の竜騎衆は、既に壊滅しているよ」

 

「何だと! あのラーハルトがいて、敗れたというのか!?」

 

驚愕の表情を浮かべるバラン。

 

そのバランの動揺をよそにマァムは、横たわるヒュンケルに即座に駆け寄り、回復呪文(ベホイミ)の魔法を唱える。

 

 

「ポップ、マァム! 無事だったか……!」

「2人とも、良かった……」

 

「マァム……。ありがとう。もう大丈夫だ」

 

クロコダインとレオナがポップ達の登場に歓喜の声を上げ、ヒュンケルもマァムの回復魔法の効果が現れたのか、よろめきながらも立ち上がってきた。

 

「ごめん、皆。敵もなかなか手強くて、少し遅れちまった。姫さん、後は俺が後衛を引き受けるから、後ろに下がっていてくれ」

 

自身がこの戦場に留まり足手まといになる事を危惧したレオナは、ポップのその言葉に素直に従った。

 

「分かったわ。気をつけてね、皆」

 

 

 

 

 

「バラン……。どうあっても、ダイを問答無用で連れて行くつもりなのか? 俺は、お前達親子は話し合いこそ――」

 

「――くどい! 貴様の言葉など聞き飽きたわ! ディーノを渡したくないのなら、力で抗ってみるが良い!」

 

「……そうか。分かった。だったら、お前の言葉どおり全力で抗ってみよう。そして、俺達の力をお前に示した上で、再度お前に問いかける事にするよ……」

 

ポップはそうバランに言葉をかけ、臨戦態勢をとった。そのポップとバランの間に、マァムと怪我から回復したクロコダイン、ヒュンケルがそれぞれ武器を構えて立ち塞がる。ここに来て始めて、勇者一行(パーティー)にとって理想的な戦闘陣形が整ったと言えた。もちろん勇者ダイを除いて、という事になるが……。

 

 

 

 

戦場に張り詰めた空気が漂う。その空気を感じたわけではないだろうが、彼らの周囲に鬱蒼と立ち並ぶ森に棲まう生物達からの鳴き声が突然途絶え、周囲には一時の静寂が訪れた。

 

先手を打ったのはポップだった。「――爆裂呪文(イオ)!!」の声とともに頭上に掲げた左手の上空に、凄まじい数の爆球が瞬時に浮かび上がる。その数、およそ50――!

 

さしものバランも、その空を埋め尽くさんばかりの爆球の数を見て思わず感嘆の声を上げた。

 

「むう……、それほどの爆球を瞬時に……。なるほど、『氷の賢者』の名は伊達では無いという事か。しかし、それでいったい――」

 

「バラン……、竜闘気(ドラゴニックオーラ)は展開しているか?」

 

バランの言葉を遮るように放たれたポップの問いかけに、バランは訝しげに「何だと……?」と返事を返す。その様子を見てポップは()()()()と確信し、ニヤッと笑みを浮かべた。

 

「……展開しているようだな。だったら良いさ。皆、援護は任せろ! 行ってくれ!」

 

そのポップの言葉に、マァムにヒュンケル、そしてクロコダインがバラン目がけて駆けた。同時に、ポップの頭上に浮かんでいた爆球が、彼らと並行してバランに飛んだ。

 

「馬鹿な! 味方ごと爆裂呪文(イオ)を放つとは、気でも狂ったか!?」

 

バランがそう叫ぶのも無理はなかった。これでは援護と呼べるようなものではなく、ただ味方を使い捨ての駒として、敵ごと爆裂呪文の嵐で吹き飛ばそうとする行為に他ならなかった。

 

そしてバランの言葉の通り、爆裂呪文(イオ)の爆球はバランとマァム達を巻き込むように至近で次々と炸裂する。バランの目には、その爆発の衝撃に翻弄されながらも自身に攻撃をしかけるマァム達が映っていた。

 

竜闘気(ドラゴニックオーラ)を全面に展開しているバランには、その間断なく発生する爆発音が届くのみで、爆裂呪文(イオ)による爆発の衝撃は一切届いていなかった。

 

愚かな……! これでは、ただ味方の足を引っ張っているだけではないか……! これが、勇者一行(パーティー)の頭脳とまで呼ばれる男の戦い方か!!

 

仲間の命を犠牲にした戦略を講じるポップに激高するバラン。そのバランは、眼前に迫った女武闘家に対して上段に構えていた真魔剛竜剣を振り下ろす。それは、早さ、精度共に申し分のない威力を有しており、レベルの落ちる戦士では躱しようのない斬撃だった。

 

しかし、何故か女武闘家はその一撃を余裕を持って躱した。そして躱すと同時に、右の正拳突きをバランに対して繰り出した。竜闘気(ドラゴニックオーラ)を展開しているとはいえ、その突きを無造作に受けるのを嫌ったバランは、僅かに半身を逸らしてそれを躱す。いや、躱したはずだった。

 

何故かその突きは、当たれば致命傷となるバランの正中線を確実に捉えていた。

 

「くっ! おのれ!」

 

竜闘気(ドラゴニックオーラ)によってダメージは受けないまでも、確かに自身の身体に打ち込まれたその一撃に、バランは怒気を上げた。

 

――!?

 

直後、バランの側面よりすさまじい殺気が浴びせられた。

 

「チィッ! ヒュンケルか! ――!?」

 

咄嗟に、真魔剛竜剣を縦に構える事で、横薙ぎに振るわれた魔剣の一撃を防ぐバラン。激しい鍔迫り合いに、火花が飛び交う。しかしそのバランの更に側面から、凄まじい勢いで斧が振るわれた。それはクロコダインの一撃だった。魔剣の攻撃を真魔剛竜剣で防いでいたバランは、その斧による一撃を竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏った左腕で受け止める。その衝撃でバランの左足がズシンと大地に沈み込む。

 

そのままバランの左右から、ヒュンケルとクロコダインは剣と斧による斬撃を浴びせ続ける。もちろんバランもそれらを受け止めつつ、反撃を繰り出す。彼らの周囲では、間断なく爆裂呪文(イオ)による爆発が次々と生じているが、彼らはそれを一顧だにしていなかった。

 

 

おかしい……。バランはヒュンケルとクロコダイン、それに、時折背後より接近しては一撃を繰り出し離脱する女武闘家と激しい接近戦を演じる中、不可解極まりないこの状況に戸惑っていた。

 

女武闘家はもとより、ヒュンケル、クロコダイン両名を相手にしても、自己の力量の方が優れているはず。しかし、先ほどより繰り出している自己の攻撃は、何故か思うようにヒュンケル達に致命傷を与えられず、逆に躱したはずの攻撃が自己に的確に打ち込まれる。

 

激しい剣戟の最中、バランはこれはいったいどういう事だ、と自問していた。戦端が開かれてから既に1分以上が経過している。いかに竜闘気(ドラゴニックオーラ)を展開していても、体力の総量が変わるわけではない。このまま長期戦に持ち込まれては、1対3を強いられているこちらの方が先に体力が尽きるという事もありえるかもしれない。

 

しかも、敵には回復魔法を行使できる後衛がいた。今も、致命傷ではないまでも浅くない傷を負ったヒュンケル達に、淡い青色の回復の光が飛びその傷を瞬時に癒やしていった。

 

真魔剛竜剣を縦横に振るいながら、バランは、……いや、(ドラゴン)の騎士に連綿と受け継がれてきた『戦いの遺伝子』が警鐘を鳴らしていた。何かがおかしい、何かを見落としている、と……。

 

 

 

そして、爆裂呪文(イオ)が周囲で次々に炸裂する環境下での剣戟の応酬の最中、ようやくバランはその違和感の正体に気づいた。

 

女武闘家の間近で炸裂した爆球が、その武闘家の纏った薄い衣服に何らの破壊的衝撃を与えていない事に……。

 

その光景を目撃したバランは、瞬時に悟った。先ほどから自身の周囲で炸裂している爆球が、一切の破壊的衝撃波を放たずに炸裂しているという事を。放っていたのは、ただ耳鳴りを発生させるほどの爆音だけだったのだ。

 

神々の時代より連綿と(ドラゴン)の騎士に受け継がれてきた『戦いの遺伝子』。それは、戦闘時には周囲の状況を即座に分析し、常に最適な行動が取れるよう無意識下でバランに働きかけ、動きや技の調整を成してきた。

 

現に今も、周囲にすさまじい爆発が吹き荒れる戦場下で、その爆発の発生地点、爆球の大きさから即座に『戦いの遺伝子』は爆発のベクトルとそれが敵味方に与える影響量を算出し、その算出結果を踏まえた上で、最善手をバランに対して示していた。

 

しかし、今回の戦いではその前提条件である爆発が発生していなかった。当然、その計算は攻撃においても、防御においても狂わされる事となった。その微妙な太刀筋や体捌きの狂いが敵に致命傷を負わせる事を妨げ、同時に、躱したはずの敵の攻撃をまともに受ける事に繋がっていた。

 

 

『バラン……、竜闘気(ドラゴニックオーラ)は展開しているか?』

 

戦端が開かれる直前に、賢者から投げかけられた言葉がバランの脳裏をよぎった。

 

 

「おのれッ!! ――爆裂呪文(イオラ)!!」

 

謀られた……! そう感じた瞬間、バランは怒りの丈をぶつけるかのように、十分な破壊的衝撃波を纏った本物の爆裂呪文(イオラ)を足下に放った。

 

ズンッという爆発がバランを中心に生じ、瞬間的に巻き上げられた土砂がその直後にザーッと直上より音を立てて落ちてくる。

 

その降ってくる土砂の雨を、自戒を込めてなのか、敢えてその身で受け止めるバラン。ポップの仕掛けた奸計(トリック)が悟られた事に気づいたヒュンケル達は、既にバランから距離を取るように後方に跳躍していた。

 

 

土砂の雨が止んだ後、バランはギリッと奥歯を噛みしめ、憎々しげにポップを睨み付けた。

 

「よもや、爆裂呪文(イオ)の呪文にあのような小細工を施すとは……」

 

その言葉に、ポップはさも自慢げに胸を反らして答えた。

 

「くくっ。ようやく気づいたかい? そうさ、威力を上げる事だけが呪文の全てじゃないのさ。こういうのを、俺の故郷じゃあ『引き算の美学』って言うんだよ。爆裂呪文(イオ)から爆発力だけを取り除いた俺の呪文、さしずめ爆竹呪文(バクチク)とでも名付けてやろうかね……。だいたい、殺しても死なないおっさんやヒュンケルは良いとしても、マァムがいるのに俺が爆裂呪文(イオ)の呪文をぶっ放すはずがないだろうが……」

 

殺しても死なないと言われたクロコダインとヒュンケルはポップに白い目を向け、マァムは「音がうるさくて、耳鳴りがするけどね……」と、苦笑交じりの顔をポップに向けた。

 

仲間達からのそんな視線を軽く受け流し、ポップは更にバランに語りかける。

 

「……だけどな、バラン。竜闘気(ドラゴニックオーラ)を展開していなければ、あんな小細工に引っかかる事もなかったんだぜ? そうやって自分の周囲に壁を纏う事で受ける不利益……、それはお前が心に纏っている壁にも、同じ事が言えるんじゃないのか? 心の壁、それってさ、A.T.フィールドっていうんだけど、()()()それを脱いでみたらどうだ?」

 

「何がA.T.フィールドだ、戯れ言を……! もはや貴様と語る口など持たぬわッ!」

 

そう怒声を放ち、大上段に真魔剛竜剣を振りかぶってバランがポップ達に突進をかけた。その怒りの矛先が、小賢しい真似を弄する賢者に向かっている事は明白だった。

 

「ポップ、下がれ!」

 

クロコダインがそのバランの射線上に身体を投げ出し、その突進を身体で食い止めようとする。

 

「どけっ、クロコダイン!」

 

バランがその手の真魔剛竜剣をクロコダインに振り下ろす。その一撃を、クロコダインは両腕を交差し受け止める。骨まで達しそうな一撃に、クロコダインの交差した両腕から鮮血が噴き上がる。しかし、クロコダインはそれを歯牙にもかけずその負傷した腕でバランを殴打した。

 

後方に吹き飛ばされた格好のバランが、クロコダインに鋭い殺気を飛ばす。

 

「おのれっ、クロコダイン! あくまで私の邪魔をするか!」

 

激高するバランに、クロコダインはバランを手招きするようにして言葉を投げかける。

 

「……ギガブレイクで来い、バラン。お前の最強の技でなくては、俺を越えられんぞ!!」

 

「よく言った! それほど死にたいのなら、貴様から殺してやろう、クロコダイン!」

 

バランが、その手に握った真魔剛竜剣を空高く掲げる。そして、バランの頭上に雷雲が発生する。バランの頭上で雷光が幾重にも発生し、周囲は徐々に薄闇に包まれていく。(ドラゴン)の騎士最大の秘技が放たれるのは目前に迫っていた。

 

しかしバランは、この一連の流れすら小賢しい賢者の手の平の上にあった事に気づいていなかった。

 

電撃呪文(ギガデイン)!!!」

 

ドオォォォーン!

 

その言葉と共に上空の雷雲より巨大な雷が放たれ、上段に構えたバランの真魔剛竜剣に落ちていく。

 

いや、違った。

 

その雷は真魔剛竜剣に届くことなく、突如バランの頭上に発現された巨大な氷の塊に落雷していた。

 

「――な、なにィ!?」

 

自身の頭上で展開されたその光景に驚愕の声を上げるバラン。

 

その氷塊を呼んだポップは、上手くいったとほくそ笑んでいた。バランに、狙い通りのタイミングで電撃呪文(ギガデイン)を詠唱させるよう誘導する。それは事前に想定していた戦略の流れそのものだった。

 

電撃呪文(ギガデイン)の妨害からこの後に続くポップが取った一連の行動は、『氷の賢者』の二つ名に恥じぬものであり、魔法を扱う者なら誰しもが感嘆の吐息を洩らす程の芸術的なまでに洗練された巧手だった。そして最も驚嘆すべきは、ポップのこの一連の行動はただ単にギガブレイクを阻害するだけの行為に留まらず、次の攻撃のための予備動作を兼ねていた点にあった。

 

雷の直撃を受けた事で、巨大な氷塊は粉々に砕けていく。しかし、砕かれた氷塊の一部が、次第に13本の氷の槍に姿を変えていく。

 

静から動。氷塊がゆっくりとその姿を氷の槍へと変えた直後、氷の槍が直下のバラン目がけて一斉に降り注がれた。

 

その氷の槍には、雷光が纏われていた。

 

「そんなものが、通じると……!!」

 

バランが、自身に向かってくる氷の槍に対抗しようと竜闘気(ドラゴニックオーラ)を直上方面に全面展開する。

 

しかし、雷光を纏った氷の槍はそんなバランの行動をあざ笑うかのように、彼自身に降り注ぐのではなく、彼の足元の地面に突き刺さった。その足元には、先ほど雷に焼かれた氷塊の一部が水たまりを作り出していた。

 

「――ガ、ガァァァァ!!!」

 

雷による電流が、バランの足元から全身を襲った。

 

ポップは、自身の推測が正しかった事に安堵した。ポップは昨日の湖の戦いで、バランが足元には竜闘気(ドラゴニックオーラ)を展開していない事を確認していた。それは、竜闘気(ドラゴニックオーラ)の長期展開を考えて、攻撃を受けるはずもない足元への備えを怠っていたバランの盲点をついた攻撃だった。

 

 

その様子を見たマァムは、バランに向かって疾走した。目の前には、電撃呪文(ギガデイン)の雷撃を自身に受ける形となり、苦悶の声を上げているバランがいた。

 

これ以上ないほどの隙が、バランに出来ていた。

 

もう少しで、バランの間合いに入る。マァムは、一つ試したい攻撃方法があり、そのためにはバランによる迎撃を躱して、その懐に入り込む必要があると考えていた。

 

バランは、全身を襲う雷撃の痛みのために、矢のような速度で接近するマァムへの対処が遅れた。剣の間合いの内側に入られた事を悟ったバランは、右足で蹴りを放った。

 

しかし、この攻撃が悪手であった事をバランはすぐに悟る事になる。

 

(ドラゴン)の騎士であるバランは、剣術、体術、魔術全てが超一流であった。だが、武術の神とまで謳われたブロキーナ老師の元で修行を積んだマァムに対して、その選択は安易に過ぎた。

 

マァムは、バランの蹴りを放つための重心移動、筋肉の動きといったほんの少しの予備動作からバランによる迎撃が前蹴りであると、その攻撃が繰り出される一瞬先に察知した。そして同時にその軌跡までもを。

 

凄まじい風切り音と共に放たれたバランの前蹴りが、マァムの前髪をパラパラと切り飛ばすが、それ以上のダメージはマァムに与えられなかった。マァムは、猫のように体勢を低くする事で、かろうじてその攻撃を躱していた。

 

そしてそのままの体勢でマァムは、バランの左足を水面蹴りで払う。

 

いかに竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏った竜の騎士と言えど、重心を預けていた足を払われては、どうする事もできなかった。

 

どうっと、背中から地面に叩きつけられるバラン。

 

「――おのれ!」

 

一瞬でバランの胸中を、屈辱と憤怒の感情が占めた。(ドラゴン)の騎士として活動を始めてからこれまで、これほどの屈辱を受けた事はバランの記憶に無かった。しかもそれを、まだ少女とも言える歳の娘にされるとは!

 

しかし、憤怒の感情を胸中に抱いていたのはバランだけではなかった。

 

 

バランにかつてないほどの屈辱を与えたマァム自身も、その胸中を憤怒の激情が占めていた。親と言うだけでダイのこれまでの全てを否定し、消し去り、自身に強制的に従わせんとするその傲慢な振る舞いに、そして昨日の対話の手を差し出したポップに対する無慈悲な振る舞いに、マァムはかつて感じた事のないほどの怒りをバランに対して覚えていた。

 

ギリッと音が漏れるほどメタルフィストを強く握り込むマァム。その右手からは昨日バランに放った際以上の黒い粒子が噴出していた。ポップの渡してくれたメモには、メタルフィストに込められた重圧呪文(ベタン)の魔法を発動する際、限界値である5Gを発動した際の注意点が書かれていた。その発動可能時間はわずか2秒。その時間を超えると魔道具が暴走する……と。マァムは今、その限界値である5Gを発動していた。

 

刹那、マァムは、ブロキーナ老師の元で何千回と放った正拳突きを、仰向きに倒れたバランに打ち込んだ。その反動で、マァムの両足の大地が深く陥没する。

 

その一撃は、マァムが申告した体重50kg(端数切り上げ)が正しいとするならば、その体重は瞬間的に5倍にまで増幅されており、250kgにも達していた事になる。

 

さらにマァムは、通常行う足の踏込みを2倍に、腰の回転と拳のひねりをそれぞれ3倍に増していた。それは、ポップが前世で一般的だった理論を適用した場合、その拳にかかる重みはその瞬間、250×2×3×3=4,500kgにまで達している事を意味していた。

 

つまりその瞬間、バランは4.5tもの衝撃を受けた事になる。途端、バランを中心に、半球状のクレーターにも似た陥没が発生する。

 

「グッ! ――ガ、ガハァッ!!」

 

バランの身を覆う竜闘気(ドラゴニックオーラ)は未だ健在していた。しかしマァムの一撃は、堅牢な大地と拳の間にバランを挟み込む事で、その竜闘気(ドラゴニックオーラ)ごとバランを圧壊せしめんと放たれていた。

 

そしてマァムは、自身の放った攻撃が最大の効果を発揮したタイミングで、大きく後ろに飛んだ。

 

地面に叩きつけられたバランは、眼前に広がる青い空に大きく跳躍したヒュンケルの姿を見つけた。

 

「――ブラッディースクライド!!」

 

マァムと同様、大地と自身の闘気流の間でバランを挟み込もうと上空より襲い掛かるヒュンケルの必殺剣。

 

「――獣王会心撃!!」

 

同時に横からは、ポップによって腕の治療を終えたクロコダインが放った闘気流が、バランに襲い掛かる。

 

「――う、うおぉー!!」

 

自身の竜闘気(ドラゴニックオーラ)を全開にしてその攻撃を防がんとするバラン。

 

ズガーーン!!!

 

凄まじい衝撃音と共に闘気流の余波を受けた土砂がバランを中心に舞い上がり、バランの姿を覆い隠していった。

 

 

その様子を、ポップ達は油断なく見つめていた。彼らの表情に笑みは無かった。何故なら、彼らの誰しもが理解していたからだった。まだ戦いは始まったばかりだと。

 

 

 

……そして、すぐに彼らはその予感が正しかった事を悟るのだった。

 

 

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