転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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96話 VS 竜騎将③ 竜の騎士の底力

 

ゴゴゴゴ、と不気味な大地の鳴動が続く戦場。

 

その戦場を突如穏やかな風が掃き、バランを包んだ土煙を晴らしていった。

 

その土煙が完全に晴れた時、巨大なクレーター状に陥没した大地の中心で、バランは片膝をついていた。バランが纏っていた鎧は一部が損壊しており、その損壊箇所からは止めどなく続く出血が見て取れた。それは、マァム達の攻撃が、確かに竜闘気(ドラゴニックオーラ)による防御幕を突破していた事を証明していた。

 

バランの表情は、俯いており伺い知れなかった。だが、まだ致命傷に至っていない事はその場にいる誰もが理解していた。

 

直後、()()()()をバランに向けていたポップが、右手を上空に掲げ、爆裂の魔法を唱えた。

 

ポップの頭上で、今度こそ本物の爆球が轟音を上げて炸裂する。

 

その爆球が爆ぜると同時に、再びヒュンケル、クロコダイン、マァムがバラン目指して駆けた。

 

ヒュンケルは駆けながら、戦端が開かれる前にポップが地下牢で語っていた言葉を思い返していた。

 

『俺が頭上に()()爆裂呪文(イオ)の魔法を放つのが合図だ。その直後から一定時間、おそらく2分から3分にも満たない時間だと思うが、バランは魔法を使えなくなるはずだ。その短時間に勝負をかけよう』

 

 

バランは、ヒュンケル達の動きに顔を上げた。その表情は先の激情に支配されていた表情ではなく、冷静に敵を分析する歴戦の戦士のそれに変わっていた。

 

ヒュンケルの手に握られた魔剣による横撃を、バランは真魔剛竜剣で受け止める。受け止めた衝撃で、先ほど肩に受けた傷口が開き更に出血する。同時に激しい痛みがバランを襲うが、その痛みすらバランの思考を冷徹に覚ましていく事に寄与していた。

 

バランは、左手で真空呪文(バギマ)を唱えヒュンケルを退けようとしたが、それは発動しなかった。額に皺を寄せ、険しい顔を浮かべるバラン。

 

その隙に、側面からはクロコダイン、背面よりマァムが肉薄し、バランに攻撃を繰り出す。バランは即座に呪文による迎撃を選択肢から排除し、真魔剛竜剣を振るう事でそれらの攻撃を迎撃しようとする。

 

しかし、先ほどまでとは異なり、その振るわれる真魔剛竜剣の剣速はほんのわずかに遅れが生じていた。それが、先ほどの集中攻撃を受けた事によるダメージに起因している事は明白だった。その僅かな遅れは、このレベルの戦士達を相手にした時に命取りになりかねない遅れだった。

 

クロコダインがバランの攻撃をその巨体を盾にして受け止める。マァムがバランに対してその集中力を削ぐかのような動きを繰り返す。そしてヒュンケルは、防御を一切考えずにただバランに対してひたすらに剣を振るう。そんな3人に対して、時折後方から回復の魔法の光が飛ぶ。

 

その戦いぶりは、後方で様子を伺っていたレオナが思わず、「凄いわ、皆。これなら、勝てるかも……」と呟くほど理想的な戦いがバランに対して展開できていた。

 

しかし、残念ながらそのような理想的な展開は長くは続かなかった。それは、ポップが本物の爆裂呪文(イオ)を頭上に放ってから、およそ1分が経過した時だった。

 

バランが自身の竜闘気(ドラゴニックオーラ)を全開にする事で、まとわりつく前衛の3人を吹き飛ばさんとする。

 

それに対してヒュンケルだけは、魔剣を地面に突き刺す事でかろうじてやり過ごす。そして、直後に襲い来る真魔剛竜剣による斬撃をも、その卓越した剣技でかろうじて捌く。一呼吸にも満たない僅かな間に2合、3合と剣を交差させる両者。

 

ヒュンケルとの激しい鍔迫り合いの最中、バランが口を開く。

 

「随分と勝負を急いでいるな……。私が魔法を使えないうちに、勝敗を決しようというつもりか?」

 

「「「「!?」」」」

ポップ達は、自分達の狙いを看過された事に驚愕の表情を浮かべた。そして、驚くポップ達の上空に、再び雷雲が発生する。

 

「どれほどの時間、私の魔法を封じられると想定していたのだ? 2分か? それとも3分か?」

 

「嘘だろ!? ――早すぎる!」

 

自身の上空を見上げて思わず声を上げるポップ。まだ、爆裂呪文(イオ)の魔法を唱えてから1分と少ししか経っていなかった。

 

(ドラゴン)の騎士を舐めるなぁッ! ――電撃呪文(ギガデイン)!!」

 

「くっ! 氷系壁呪文(アイスウォール)!!」

 

その雷撃がポップ達を直撃する寸前、彼ら全員をカバーできるほどの大きさの氷の壁が直上に出現した。だが、その雷撃は先刻ポップがギガブレイクを防いだ際の雷撃より、はるかに巨大なものだった。

 

一瞬で氷の壁は砕かれ、おびただしい量の雷撃がポップ達を直撃した。

 

「ぐぁあーーッ!」

「きゃあぁーッ!」

 

悲鳴を上げるポップ達。

 

一瞬で形勢が逆転していた。ポップ達は全身から煙を発するほどの雷撃を浴び、皆立ち上がる事もできず大地に横たわっていた。

 

「そ、そんな……。あっと言う間に……」

その様子を、レオナは顔を青ざめて後方から見つめていた。

 

 

 

バランは、苦しげに横たわるポップを見つめて口を開いた。

 

「貴様は、昨日も私に対して呪文封じ(マホトーン)の呪文を使ったな。(ドラゴン)の騎士を相手によくぞ通じたものと誉めてやるが、同じ手が通じるわけがあるまい……!」

 

ポップはそのバランの言葉に、悔しげに顔をしかめた。

 

「くっ……! や、やはり気づかれていたか……!」

 

「当然だ……。私を見くびってもらっては困る。巧妙に呪文封じ(マホトーン)の行使を隠蔽したその魔法技術は認めるが、そうと分かっていれば解除は容易よ。貴様の敗因は、昨日私に呪文封じ(マホトーン)を使用した事だ」

 

そう言ってバランは、横たわるクロコダイン、マァム、ヒュンケル達に顔を向け更に口を開いた。

 

「だが、貴様達は(ドラゴン)の騎士を相手に良くやった。この上は、苦しまずにとどめを刺してやろう……」

 

そう言ってバランは、ポップ達の頭上に再び雷雲を呼び出した。

 

しかし、そのバランの眼前にヒュンケルがよろめきながら立ちはだかった。

 

「ヒュンケル、貴様……」

 

「バラン……。ポップ達に止めを刺したくば、まずは俺を倒すのだな……!」

 

ヒュンケルはバランにそう宣言し、再び魔剣をバランに対して振るった。その振るわれた剣を、真魔剛竜剣で受け止めるバラン。

 

「良いだろう……! 望み通り、貴様から始末してやるとしよう! 魔剣士ヒュンケル!!」

 

再び激しく斬りつけ合う2人。2人の剣技はほぼ拮抗していた。拮抗していなかったのは、両者の武器と負傷度だった。鎧の魔剣の強度は真魔剛竜剣のそれに劣り、ヒュンケルの負った負傷もバランのそれを上回っていた。

 

バランの剣がヒュンケルの鎧を徐々に砕いていく。気づけば、ヒュンケルの装備していた鎧はその大部分を破壊され、無防備な肉体をさらしていた。

 

「良く粘ったが、これで終わりだ!」

 

バランが上段より真魔剛竜剣を振り下ろす。それに対してヒュンケルは、剣を横に構えかろうじてその攻撃を受け止める。

 

鎧の魔剣と真魔剛竜剣の接点は、まるで十字架(クルス)を連想させた。

 

 

ヒュンケルは、かつてアバンより教わった秘技を思い出していた。呪文の使えない自分に、剣技以外の隠し技的な技を示してくれた師アバン。その時は、アバンの教えを一笑に付してしまった。しかし、身体がその技を覚えている。

 

アバンよ……。今一度、弟弟子達のために、俺に力を貸してくれ……! ヒュンケルは額に闘気を集中させていく。そして、その極限まで圧縮された闘気は徐々に鎧の魔剣と真魔剛竜剣の接点に移っていく。

 

「待て、ヒュンケル! まだ早い! それでは……!」

 

ヒュンケルがその技を放つ直前、地面に横たわったままのポップが制止の声を上げる。だが、もはやその声はヒュンケルの耳には届かなかった。

 

「――! むっ! こ、これは……!?」

 

ヒュンケルの身体に強烈なまでに凝縮されていく闘気を感じ、戦慄の声を上げるバラン。

 

「喰らえ、バラン! ――グランドクルス!!」

 

「う、うぉぉおッ!!」

 

十字架(クルス)の形に交わった剣から目も眩むばかりの閃光が発せられ、直後ヒュンケルの身体に圧縮されていた光の闘気が、バランに向かって炸裂した。

 

 

 

閃光が収まった後、闘気の直撃した大地は十字の形に両断されていた。その底が見えないほどの断層の深さが、ヒュンケルの放ったグランドクルスの威力を物語っていた。

 

 

……しかし、それほどの威力の攻撃を喰らってなお、バランは両腕を身体の前で交差した体勢で、大地に両の足で立っていた。

 

バランは、グランドクルスの直撃を受ける寸前、全竜闘気(ドラゴニックオーラ)を展開しそのダメージを最小限にとどめていた。

グランドクルスによる攻撃は確かに竜闘気(ドラゴニックオーラ)を突破していた。しかし、その威力の大半を竜闘気(ドラゴニックオーラ)により相殺させられており、バランに与えたダメージは致命傷には届いていなかった。

 

交差した両腕を解き、右手に大地に突き刺していた真魔剛竜剣を握りしめるバラン。そのバランからは、グランドクルスの直撃を受けた際に負ったものなのだろう、焼け付くような傷跡が全身に見受けられた。

 

「見事だ、ヒュンケル……。まさか単独で、私の竜闘気(ドラゴニックオーラ)を貫くほどの技を放つとは……」

 

感嘆の声を上げながら、バランはその真魔剛竜剣に雷撃を纏わせた。

 

「お前の名は忘れぬ。さあ、私の秘剣でお前に引導を渡してやろう……」

 

バランが、静かにギガブレイクの構えを取る。

 

それに対してヒュンケルは、再び剣を構える。

 

「できるものならやってみるがいい。俺は、この命尽きるまで戦うことを止めはしない……!」

 

乾坤一擲の技を防がれたヒュンケル。しかし今なお、その闘志は燃え尽きてはいなかった。

 

「よく言った! では、戦士として死ぬがいい、ヒュンケル! ――ギガブレイク!!」

 

 

 

 

そしてヒュンケルは、ギガブレイクの直撃を受け空高く舞った。

 

凄まじいほどの爆風が去った後、大地には、剣を握った右腕を切断され、全身血まみれとなったヒュンケルが横たわっていた。

 

 

 

「ヒュ、ヒュンケル!」

 

「そ、そんなヒュンケルが……!」

 

「お、おのれ、バラン!!」

 

ポップ達は、レオナの手も借りヒュンケルが稼いだ僅かの時間の間にかろうじて、一定程度の回復ができていた。しかし、そのための代償はあまりに大きかった。

 

右腕を切断され、大地にうつぶせに倒れたヒュンケルからは、止めようもないほどの出血が広がっていた。もはや、その命が風前の灯となっている事は誰の目にも明らかだった。血だまりの中でピクリとも動かないヒュンケルの側には、胸からこぼれ落ちたものなのか、ギガブレイクの衝撃の余波を受けて原形をとどめないほど損壊した何かが落ちていた。

 

バランはそんなポップ達の様子を、冷ややかな目で見つめる。

「直ぐにお前達も後を追わせてやろう。さあ、死にたい者からかかって来るが良い……!」

 

 

それから先の展開は、まさに蹂躙と呼ぶにふさわしいものだった。

 

どれほどマァムがバランに対して打撃を加えようとも、バランは同じ隙は決して生じさせなかった。一撃必殺の閃華裂光拳も竜闘気(ドラゴニックオーラ)に阻まれ、バランの身体には届かない。真空呪文で全身を切り刻まれ、止めとばかりに紋章閃による攻撃を胸に受け、血反吐を吐きながら崩れ落ちるマァム。

 

クロコダインの膂力も、本気を出したバランには通じなかった。乾坤一擲の獣王会心撃は足止めの役割すら果たせず、その放った右腕をバランによってへし折られる。更に、竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏った手刀によって腹部から背中に貫通するほどの一撃を受け、とうとう地響きを立てて大地に横たわるクロコダイン。

 

そしてポップも、マァムとクロコダインの回復に気を取られた刹那、電撃呪文(ライデイン)による攻撃をその身に受け、煙を全身から立ち上げながら、地面にうつ伏せに倒れ込む。

 

「ぐ、ぐうぅ……! マ、マァム……。おっさん……。い、今、回復を……!」

 

ポップは、横たわったまま、かろうじて右手をマァムとクロコダインに向け、回復魔法を唱えようとする。

 

しかしそんなポップの行動をあざ笑うかのように、その右手首をバランの足が踏み潰す。

 

ボキッと鈍い音が戦場に静かに響いた。

 

「――あ、ぐあぁ!」

 

手首を折られた痛みで、苦悶の声を上げるポップ。

 

「ポ、ポップ君……! 皆……! 今、行くわ!」

 

レオナが、ポップ達に再び回復魔法をかけようと、足を一歩踏み出す。しかし、直後そのレオナのすぐ傍に雷撃が落ちる。

 

「動くな……。女を殺したくはないが……一歩でも動いたら黒コゲになると思え!!」

 

その言葉に、一瞬逡巡するように硬直するレオナ。しかし、それでも意を決したレオナはポップ達を助けようと駆けた。

 

そして、その行動に対する報いは即座に放たれようとしていた。

 

「愚かな……。それほど共に死にたいと言うのなら、死なせてやろう。ライデ――。 ガハァッ!!」

 

 

 

バランが電撃呪文(ライデイン)を唱えようとしたまさにその時、何者かの放った攻撃が、バランの背中から胸部にかけて完全に貫いていた。

 

 

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