「ポップ、呆けているな! 次は、どうすれば良い!?」
ヒュンケルが、大地の震えと共に変貌を遂げようとしているバランから目を逸らさないまま、声を張り上げた。
そうだ、ヒュンケルの言う通り呆けている場合ではない。ここからは、どうにかしてあの展開に持ち込まなくてはいけない。
「すまない、皆! 俺の想定が甘かった……!」
「そんな事はかまわん! それより、早く俺達のやるべき事を言え! 俺達は、お前の指示に従う!」
おっさんとヒュンケルが、竜魔人へと変貌しようとしているバランと俺の間に割って入り、いつでも盾となれるような立ち位置で構える。マァムは……、どうしたんだ? 何故かマァムは、この非常事態に俺をじっと見つめていた。
「グオォォォォォォッ!!!」
――!
変貌するバランの上げた雄たけびに、俺は視線をバランに戻す。
原作ポップは、単独でバランに対して突っ込んで行った。俺に出来るか、それが? 竜魔人と化したバランに組みつくのは、決して容易な事ではない。俺の紙装甲では、一発喰らっただけでアウトだ。それに、原作ポップがバランの目隠しに使っていた魔道士のマントは、ベンガーナでの戦いで既に失われてしまっている。つまり、よりハードルが上がっていると言える。
皆に、協力してもらいたい。しかし、俺がこれからやろうとしている事を伝えると、止められるのは必至だ。すまない、皆……。ここは欺かせてもらう。
「1つだけ、まだ手が残っているから、それを試させてくれ! 一瞬で良い! バランの体勢を崩してくれないか!」
俺のその言葉に、ヒュンケルとおっさんはそれぞれの得物を構えて臨戦態勢をとる。
「承知した! マァム、お前は中距離戦に徹しろ! 接近戦は俺とクロコダインがやる!」
ヒュンケルの言葉にマァムが頷く。うん、俺もその方が安心だ。いくら素早い動きが身上のマァムと言っても、おっさんのような鋼鉄の肉体を持っているわけでも、ヒュケルのような不死身の肉体を持っているわけでもない。マァムに言ったら怒られるだろうけど、俺はマァムが傷つく姿を見たくない。
マァムが、再びじっと俺を見つめる。
「ポップ……。信じて、良いのよね……?」
ん? 意味深な問いかけだな……。勝利のための戦略についてか、それとも、俺が今からやろうとしている行為についてか? マァムには嘘をつきたくない。しかし、今この場だけは許してくれ、マァム。
「ああ。大丈夫さ、まだ挽回の手は残っている。力を貸してくれ、マァム」
「……。分かったわ」
マァムは俺の胸元をじっと見つめた後、そう返事を返してくれた。どこを見ていたんだ? 俺は、自身の胸元で揺れているアバンのしるしに、目を落とした。
アバンのしるしは、日の光を反射していつものようにただ静かに輝いていた。
「この形態になった私にまだ戦いを挑もうとは……。もはや貴様達には、万に一つの勝機も無くなったという事に気づかぬのかッ!」
バランの怒声と共に闘気の嵐が、俺達の間を吹き抜けた。
――くっ! 最も離れた位置にいる俺でも、竜魔人と化したバランの圧倒的な闘気をビンビンと感じる。それは闘気の扱いに長けた3人の方がより一層感じている事だろう。そのバランの威圧に押しつぶされるように身じろぎ一つしない3人。
時間だけがじりじりと過ぎていく。
「どうした? 竜の騎士特効などとほざいた魔法を、使ってみても良いのだぞ……?」
バランが俺をそう挑発する。ちっ、言われるまでもなく、使えるものなら使いたいよ。だけど、まず間違いなくあれらの魔法は、この形態のバランには通用しない。これほど外骨格が変容してしまえば、通常形態に特化して調整したあの魔法はもう何の役にも立たない。
しかし、となるとますます、この形態のバランに通じる呪文が限られてくる。俺は、敵の足止めに最も適した魔法で先手を取る事にした。
「……
途端に、バランを中心に超重力磁場が形成される。これが、今の俺が放てる最大の重力磁場7Gだ!
ズシンっと重い音が一帯に響くと同時に、バランを中心に地面が半球状に陥没する。
しかし、その超重力磁場をもってしても竜魔人と化したバランに、膝をつかせる事すら出来なかった。バランは、全く姿勢を変えることなく、7Gの超重力磁場の中、平然と仁王立ちしている。
「無駄だ……! この形態になった以上、この程度の魔法、蚊ほども感じぬわ!!」
バランは、余裕の表情で俺の重圧魔法を喰らっている。
――まだまだぁッ!!
俺は残る1手で、バランの足下を中心に
「無駄かどうかは、これを喰らってから言ってみな!」
「ぬぅっ! これは……!?」
足下が突然ぬかるんだ泥沼になった事で、上空より叩きつけられる超重力磁場との相乗効果で、瞬く間にバランの体が泥の沼に沈み込んでいく。
これなら、お前がどれほど丈夫だろうが関係ないだろう……! 竜魔人と言っても、生命体である事に変わりはないんだ。このままこいつをここで拘束できれば、窒息を狙うことが――!?
――くっ、まずい! 完全に泥の沼に沈み込んだバランから、俺の重力磁場を破らんとする凄まじい圧力が放たれ始めた。
――今、この魔法をぶち破られる訳には!
俺は
「うわぁー!」
「あぁっ!」
その衝撃で、体重の軽い俺とマァムはその場から弾き飛ばされる。しかし、ヒュンケルとおっさんはその爆風の中バランに対して特攻をかけた。
だが、接近戦で無類の強さを誇る2人ですら、竜魔人と化したバランに対しては無力だった。もはや真魔剛竜剣を振るうまでもないと言わんばかりに、無造作に繰り出される拳によって大地に打ち据えられる2人。
しかし、2人はそれでも懸命に俺の願いを叶えようと立ち上がる。クロコダインがよろよろと立ち上がったかと思うと、何処にそれほどの力が残っていたのか、右手に真空の斧を握りしめ再びバランに向かって行く。
「うおおおーー!!」
裂帛の気合いと共にクロコダインが真空の斧をバラン目がけて振り下ろす。しかし、その渾身の力で振り下ろした真空の斧は、技などではなく、ただ蠅を追い払うかのように振るっただけのバランの掌打によって木端微塵に砕かれる。そしてバランは、驚くクロコダインの身体をそのまま手刀で貫いた。
「ごふっ! くっ、ま、まだまだぁッ!!」
腹部にバランの右手が突き刺さった状態にもかかわらず、クロコダインはそれでも両腕を懸命に伸ばしバランの頭部を掴む。そしてそのまま、バランの頭部を万力の様な力で握りつぶさんとするクロコダイン。
しかし、それでも竜魔人と化したバランとの力の差は歴然だった。バランは自身の頭部を掴むクロコダインの右腕に左手を軽く添えたかと思うと、直後そのおっさんの右腕をありえない方向に捻じ曲げた。
「ぐぅおぉーー!!」
思わず耳をふさぎたくなるようなおっさんの悲鳴が、戦場に木霊する。
「クロコダイン! おのれ、バラン!!」
戦友の叫びに、よろよろと身体を起こしたヒュンケルが駆ける。
しかしバランは、クロコダインの巨体をそのまま右手一本で高く掲げながら、ヒュンケルに対して紋章閃を放つ。その閃光はヒュンケルの左足を貫き、ヒュンケルはその場でもんどりうって倒れ込む。そしてバランはそのヒュンケルに、掲げていたおっさんを叩きつけるように投げつけた。
「「ガハァッ!!」」
俺がようやく身体を起こした時、既にクロコダインとヒュンケルの2人は血反吐を吐いて大地に横たわっていた。
……くっ、強すぎる。普通のやり方じゃあ、もう竜魔人と化したバランには手も足も出せない。
しかしバランは、まだこの程度で終わらすつもりは端から無いようだった。
「魔法力はまだまだこんなものではないぞ……!」
そう声を上げ、バランが空高く飛び上がった。
「一瞬で全員この世から消してやる……!! この
そう言ってバランは上空から俺達に向けて両腕を突き出し、そのまま両の掌を組み合わせる。その動作を見た瞬間、俺は肌が泡立った。それは姫さんも同様のようだった。
「や、やばいわよ! 何だか分からないけれど、もの凄い呪文だわ、あれ!」
姫さんが、その異様な魔力の高まりを見て声を上げる。
――分かっている! あれを撃たせてはいけない!! このテランの地をアルキードの二の舞にさせるわけには……!!
俺はそれだけはさせてはならないと覚悟を決め、右手と左手にそれぞれ氷系呪文と火炎呪文を発現させた。
バランの組み合わせた
俺は左手にまとわせていた炎を握りしめ、弓矢でいう所の
次の瞬間、眩いばかりに白く輝く魔法の弓矢が俺の手に握られていた。
即座に俺は右手を引き絞り、全てを消し去る消滅の矢をつがえる。その矢の狙う先は、上空で今まさに竜魔人最大最強の呪文を放とうとしているバランだった。
「――待て、バラン!! それを撃つ事だけは許さないッ!!」
地上から放った俺の制止の言葉に、上空のバランが怒気を纏わせ声を張り上げる。
「許さないだと……! たかが人間が、竜魔人である私にその言いよう……。よほど死にたいと見える!」
「やめろッ!! お前がそれを撃つと言うのなら、俺もこれをお前に撃つ事になるぞ!!」
「愚か者め! たかが人間の放つ魔法で、この
バランは、俺が手につがえた白く輝く矢を一瞥した直後、驚愕の表情を浮かべた。
ふう、ようやく気が付いてくれたか。……そうだ。
互いに、必殺の武器を手にして睨みあう上空のバランと地上の俺。
「す、凄い……。ポップ君のあの魔法も、バランの魔法に負けていないわよ……。もしかして、あれが手加減が出来ないって言っていた……」
姫さんが俺のつがえた魔法の矢を見て、感嘆の声を上げる。さすがは賢者の卵だ。この魔法力の異質さに気が付いたと見える。
バランの手にあるは、
俺達が今それぞれ手にしている呪文は、とどのつまり互いが保有する核爆弾みたいなものだ。異なる性質のこの2つの呪文がぶつかり合ったら、一体どうなるのか俺でも予測が付かない。少なくとも、俺の知っている原作の範囲では、
俺の個人的な見解としては、おそらく
だから俺は、このつがえた矢は撃ちたくない。核爆弾は、あくまで抑止力として使用すべきなんだ。バラン、お前はこの呪文の撃ち合いの無益さに気が付かないのか……?
異様な緊張が、この戦場を支配していた。皆が、俺とバランの対峙を、息を潜めて見つめている。
その時、不意に俺の背後にあるテランの王城の方向から軽い足跡が聞こえてきた。
バランは、眼下の人間から……、いや違う、人間の手にある白く輝く光の矢から、視線を外す事ができなかった。忌々しい事に、
にわかには信じがたい事だった。竜魔人と化した私の動きを抑制する手段を、あのように吹けば飛ぶような貧弱な人間が有しているとは。竜魔人としての誇りを傷つけられたと感じ、バランはギリギリと奥歯を噛みしめた。
バランは、自身に拭いきれない屈辱を与えた人間を、この国ごと一思いに消し去ってやろうとしていた。かつてアルキード王国にしたように。だが、バランの中の『戦いの遺伝子』が、
しかし、敢えて危険を冒す必要はない。いかに強力な魔法を有していようと、あの男が接近戦で勝てるはずがない。
バランがそう考え、手の中の
その者をこの手に頂く事こそがバランがこの地にやってきた目的だというのに、バランは今の今までその事が頭から抜け落ちてしまっていた。
しかしバランは、今はっきりと思い出していた。
そうだ、私はディーノを貰い受けに来たのだ。そのためになら、私は獣にでも何にでもなってやろう。
そう考えたバランは、息子を迎え入れるために、ゆっくりと地上に降りていった。
この緊張を破ったのは、突如として戦場に現れたダイだった。
「ダイ君! だめよ、ここに来ては!」
ダイの存在にいち早く気が付いた姫さんが声を張り上げるが、ダイにはその声は届かなかったようだ。さすがにバランも、
それを見て俺も、手の中の
……ていうか、微妙にダイの登場が原作より遅かった気がするな。俺がもし
静かに地上に降り立ち、ダイと言葉を交わすバラン。
ダイはバランの姿に僅かに恐れを見せたが、
ふざけるんじゃないぞ、バラン……。何が『私がお前の父さんだ』、だ。これまでのダイの人格を全て否定しておいて、何をいけしゃあしゃあと……。
待ってろよ、ダイ。今、お前の記憶を取り戻してやるからな……。
俺は、ダイを迎え入れようとしているバランの前に歩み出た。俺のその行為に憤怒の表情を見せるバラン。
「……どけ!! 先ほどの呪文には驚かされたが、この距離ではあの呪文を放つ前にお前を殺せるぞ!」
「そうはいかないな……。何度も言うが、ダイが自分の意思でお前の元に行くのでない限り、俺はダイをお前には渡さない。……たとえ死んでもだ」
「そうか……。どのみち貴様も、魔王軍にとって邪魔な存在だ。望み通り、殺してやる」
そう言い放ったバランは、静かに俺に向かってくる。よし、覚悟を決めよう。大丈夫、俺は出来る子のはずだ。マントが無いのがなんだ。たとえ身体が上下に別たれても、奴の憎い髭面のこめかみにきっついのをぶち込んでやる……!
俺がバランに対して足を一歩踏み出そうとした時、俺の隣に誰よりも頼りとしている女性が並び立ってくれた。それは、……マァムだった。
「マァム……。無事だったか。良かった……」
(ポップ、バランの体勢を崩すだけで良いのよね?)
マァムは何か成算があるのか、緊張した様子でバランを見つめたまま小声で俺に確認する。
(ああ、それだけで良い。出来るのか……?)
(ええ……、どうにかやってみるわ。その後、どうするつもりなのか聞いても……?)
(ん……。まあ、そいつは仕上げをご覧じろ、て感じだな)
俺は内心を悟られないよう、精一杯の笑みを浮かべてマァムを見返した。
マァムは、俺を無言で見つめた後、その言葉に頷きで返してくれた。ごめんよ、マァム……。
「私が先頭を。きっと隙を作るから、ポップは少し離れて私の斜め後ろを付いてきて……!」
「了解だ。はは、あの時と同じだな。ロモスの城で、まだ敵だったおっさんに最後の特攻をしかけたあの時と」
そして俺は、俺より一瞬速く駆け出したマァムの背中を追いかけて駆けた。
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「――駄目、ポップさん!」
メルルは、テラン城の地下牢獄で目を覚ました。不快な夢を見たためか、メルルの背中には、冷たい汗が伝っていた。
「……夢? でも、さっきのはまるで……」
メルルは、先ほど見た夢の中での光景を思い出していた。ポップさんが、何か悪意ある者に対して命を捨てる覚悟で立ち向かっているところだった。何て生々しい夢だった事か……。
周りを見渡すメルル。ナバラが倒れているが、ただ気絶しているだけのようだ。ダイさんがいない。いけない、私の役目は、記憶を失ったダイさんを保護しておくことなのに……!
それに、どうして、あんな夢を……。メルルの胸中を、抑えようのない嫌な予感が黒い染みのようになって浸透していく。
ポップさんに何か……。
そう考えたメルルは、いても立ってもいられず、地上へと走った。
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マァムは、こちらを歯牙にもかけていない様子のバランに対して駆けていた。自身の斜め後ろをポップが付いてきている気配を感じながら。
マァムは、先ほどポップが言っていたロモスの時と同じだな、という言葉に素直に頷きを返す事ができなかった。確かに一場面だけ切り取れば、類似しているのかもしれない。でも、決定的に違う点がある。
あの時は輝いていたポップの胸元にあるアバンのしるしが、今は輝いていないのだ。
バランが至近に迫る。余計な事を考えるのは後にしないと。しるしが輝いていない事が、なんだと言うのか……!
バランの体勢を崩す事。今、私がやるべき事はそれだけ。後は、ポップがきっとどうにかしてくれる。これまでもずっとそうだったように……。ポップの言うとおりにしていれば、全てが上手くいった。
マァムは、口ではどう言いながらも、戦闘面におけるポップを盲目的に信頼していた。それは、横たわるヒュンケルとクロコダインも同様だった。今も彼らは、ポップに何か秘策があるのだろうと、信頼しきった視線をポップに送っている。レオナも含めて、ポップが大丈夫と太鼓判を押すのだから大丈夫なのだろうと、皆が考えていた。
……そしてマァムは、この直後、ポップを信じ切ってしまった事を心の底から後悔する事になる。
「……このような見苦しい特攻など見るにも値せん。――死ねいッ!」
バランの額より、紋章閃がマァム目がけて放たれた。だが、マァムの胸元を狙ったその閃光の一撃は、その攻撃を予見していた事と、極限まで集中していた事が功を奏し、マァムの左肩にある肩当てを砕くにとどまった。
それでも、僅かに肉を抉ったその痛みに顔をしかめるマァム。背後からは、マァムを心配して叫ぶポップの声が聞こえる。でも大丈夫。この程度の負傷なら、問題ない。
バランの身体には、相変わらず
だが、マァムはバランにダメージを与えるのではなく、体勢を崩すだけなら出来ると確信を持っていた。
バランまで後7、8メートルの距離まで迫ったマァム。バランはどんな攻撃を繰り出されても問題ないと捉えているのか、仁王立ちしたままだった。おそらくマァムの攻撃が失敗に終わった直後、再び紋章閃による攻撃を加えるつもりなのだろう。
「はーー! 武神流奥義 土竜昇破拳!!」
マァムの攻撃は、バラン本人ではなく、大地を狙って放たれた。大地を穿ったマァムの両腕から衝撃波が発生し、大地を大きく隆起させた。その隆起はバランに向かって次々に発生していく。
意表を突かれたバランは、思わず「――何だと!?」と声を上げる。
大地の隆起がバランの足下に達した瞬間、まるで間欠泉のようにバランの足下の土砂を上空に激しく舞いあげた。その土砂の噴出は、竜魔人と化したバランの体勢をも確実に崩していた。それこそが、マァムの狙いだった。大地までもが
闘気を限界まで絞りきったマァムは、それが成功した事を見届けた後、崩れ落ちるように大地に膝をつく。
そして、その崩れ落ちようとするマァムの隣を追い越すようにして、ポップが体勢を崩しているバランに向けて一直線に駆けた。
「……ありがとう、マァム……」
ただその言葉だけを残して……。
後はきっとポップが何とかしてくれる。そう安心しきっていたマァムの耳朶を、メルルの張り裂けるような声が打った。
「――駄目、マァムさん!! ポップさんを止めて!!」
その声に、考えるより先に動いたマァム。咄嗟に、自身を追い抜いていくポップの背中に右手を伸ばす。
その手は、かろうじてポップが纏っている『みかわしの服』に届いた。絶対に離すまいと、ギュッとその服を掴むマァム。しかし次の瞬間、損耗著しい『みかわしの服』はビリッと音を立てて引き千切れていた。
『……マァム、後で落ち着いたら、繕ってくれないか?』
『……わ、分かったわよ。私でよかったら後で縫ってあげるわよ』
マァムの手に千切れた布きれだけを残し、ポップはマァムの手の届かない場所へと駆け抜けて行った。
とりあえず今週はここまで! 来週は飛ばすかもしれません。