白蘭成り代わり   作:お餅さんです

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ひな誕際当選したーーーー!!!!
去年のケヤフェス以来の現場だーーーー!!!!
(浮かれて更新遅くなりそうの意)


4話 赤の嵐ふたつ

 ザクロが青年達の元にやって来て数週間が経つ。故郷を無くしたザクロは青年たちと同じく社内の宿泊室で過ごし、食事は社員たちと混ざって食堂で取っていた。急に社長に就任した青年と、急に副社長に昇進した桔梗に、急に混ざり始めたガラの悪い平社員。分かりやすくフロント社員から遠巻きにされるまで、初出勤後僅かな間すら空くことは無かったが。

 少しでも周りからの違和感払拭の為、2人の付き人のように動くザクロにも所属する部署はある。ただ未確認エネルギー開発局といういかにもな新部署の為、当然ながら噂は尾鰭(おひれ)をつけて広がり続けている。だがそんなザクロも1人の大人として、仲間内とはいえ会議に遅れる同僚に肩を怒らせる常識はあった。

 

「ったく、何処に行ったんだあいつら」

 

 すれ違う社員が速足に道を開ける廊下の中央を、ザクロは辺りに響くよう足音を立てながら歩いていた。とはいっても態とではなく、元からの癖のようなものだが強面というだけで避ける社員が知る筈もない。自身の苛立ちが伝わってしまったような気まずさに思わず舌を打ち、社員たちは益々怯えてといった無限ループを続けていた。

 これというのも社長に副社長と平社員という、僅か3人だけの部署の会議に前者2人が堂々遅刻した為である。業務の合間合間に雑務を手伝うなどして打ち解けては来たものの、親しき中にも礼儀あり。一言何か言ってやろう――と、考えながらもザクロはある一室を目指して歩き続ける。

 目指す場所は表向き社長専用のトレーニングルームとして銘打たれたもの。前社長の際は裏取引にこぞって使用され、故に近づく社員も居ない為に3人で集まることもままある。現在その部屋は不要なものを全て取っ払った名目通りの物となっているが、ザクロについては他2人と異なってあまり寄り付かない。それは部屋の趣旨として、死ぬ気の炎のという枕詞が付く為であった。

 

「見つけ――」

 

 近頃、2人がその一室近くでこそこそと行動しているのはザクロも知っていた。その為に嫌々ながら当たりをつけて部屋の扉を感情に任せて勢いよく開ける。実際、時間も気に出来ないぐらい熱中していたのだろう。青年達はたしかに室内にいたのだが、如何せん2人の置かれていた状況が悪かった。

 ザクロが声をかけながら開いた一室内の、中央にて向かい合うように立っていた2人。だがその片方の桔梗の手から――正確には指に嵌められた指輪から――紫の炎が大きく立ち昇っていた。色彩や様子こそ異なる物の、故郷の惨劇を思い出させる様に燃え立つ炎。ザクロは自身が状況を認識するより早く、喉から力強い声を絞り出していた。

 

「バーローォッ、何やってんだお前ら!!」

 

 突然の咆哮に肩を震わせた2人だが、聞こえた方向にザクロを確認して一息つく。桔梗から燃え盛っていた炎はその際、何の問題もなく静かに鎮火されていた。

 

「それは此方の台詞ですよザクロ。何事ですかそんな大声を出して」

 

 桔梗は僅かに汗すらかいて駆け足に近寄ってくるザクロへ、呆れたように口を開いた。傍まで来た桔梗の物言いにザクロが言い返そうとするものの、炎が消えたことで少し落ち着いた頭で状況を噛み砕き気まずげな表情を浮かべた。

 ザクロがこの死ぬ気の炎のトレーニングルームに寄り付かない理由はそこにあった。未だ故郷の惨劇から数週間しか経っていない中、ザクロは炎に対して過剰なまでに反応する。日常生活で見る火こそ、多少なり気にかかる程度。だが先程のように死ぬ気の炎に対しては特に強く反応し、その話題を故意に避けようとする素振りさえある。普段2人をからかう事も多いザクロがこの部屋以外に居ないと気づいた時、分かりやすく苦々しい表情を作っていた程に。そのまま黙りそうになるザクロを見てか、青年が間に入って声をかけた。

 

「やあザクロ、遅れてごめんね。実は桔梗から詰められて、死ぬ気の炎について教えていた所なんだ♪」

 

 丁度いいから見ていきなよ――と、話しかけてくる青年にザクロは少しの間だけ迷う。炎に対して拒否感を持ち、その原因も当然ながらザクロや青年達も気づいている。だが同様に、避け続けてはならないことも理解していた。また、惨劇を引き起こさない為にも。ザクロは、僅かながら頷く事で微笑む青年に先を促せた。

 青年はザクロのように笑みを深め、生徒へ教え諭す教師のような様子で伝えていく。以前にも伝えた生命エネルギーとしての側面がある事、その灯し方に本来必要とされる指輪に適正。自身と桔梗の炎を実際に見せながら説明する、ザクロ本人の炎も含めたそれぞれの炎毎に存在する固有の特性。元々そのつもりかのように出てくる準備の良さに面食らう程、青年の語りは炎に忌避感を持つザクロにもすんなり理解出来た。

 

「そしてなにより死ぬ気の炎は、本人の覚悟が重要なんだ♪」

「覚悟、ねえ」

「そう! 覚悟の強さによって炎の強さは大きく変わるんだ。そもそも半端な覚悟じゃライター程度も灯らないからね♪」

 

 ザクロは青年に伝えられながらも軽々しく手渡された、1つの嵐の指輪をおっかなびっくり弄びながら考える。自身にある覚悟とは何か、何をもってあの炎を御するのか。思考は普段の彼を知る物からすれば、思わず疑ってしまう程に深く沈んでいく。だが一番に考えるのは、やはりあの日の惨劇を2度と引き起こさない事。そう、ザクロは考え思い出してしまった。

 

「ッやべえ!!」

 

 湧き上がった嫌な予感に、ザクロは1人後方へと素早く下がる。それに釣られたかのように、手渡されたザクロが持つ嵐の指輪から赤い炎が噴き出した。それは辺りの室内でも同様に、轟轟と燃え盛る火柱が昇り始める。

 死ぬ気の炎、それを灯す際のイメージがザクロにとってはあの日しかない。思い出し、湧き上がってきた感情に指輪が呼応して再び暴走を始めてしまっていた。だが周囲で巻き起こる炎を自身の炎で防ぎつつ、桔梗が静かな声でザクロを諫めようとする。

 

「落ち着きなさいザクロ」

「落ち着くったってお前!!」

 

 返すのは村1つ滅ぼして余りある、自身の炎の恐ろしさを知っているからこその叫びだった。特に今は外だった以前とは異なり、広さは多少あるものの逃げ場は限られる室内。ザクロの脳裏に、青年が炭となった焼死体と桔梗の酸欠で泡を吹く絶望の表情が焼き付けられる。ザクロの思考が焦りで満たされいく中、桔梗はそれでも声をかけ続ける。

 

「死ぬ気の炎は、ザクロ自身の覚悟です。嵐の特性が分解とはいえ、貴方の覚悟とは私達を傷つけるものですか?」

「はあ!? こんな時になんだってそんな!!」

 

 再びかけられた言葉に、ザクロは焦る頭を冷やそうと藻掻きそれでも冷静になり切れない。だがそれでも、仲間を殺したくないその一心で必死の形相のまま桔梗の言葉を頭の中にかけ巡らせる。自身の想う覚悟とは一体なんなのか、呪いの言葉を一身に引き受けながらも改めて炎に触れようと決心した理由とは。仲間を傷つける為ではない、自身の炎に懸けるべき覚悟とはなんだというのか。徐々に、少しずつ、ザクロは自身の真に迫っていく。

 

「そうだよザクロ、自分の覚悟を疑わないで」

 

 青年も桔梗に倣うように声をかけてくる。だが桔梗とは違い、防ぎつつも荒れ狂う炎を纏うザクロへ近づきながら。落ち着き始めたザクロもこれには目を見開いて怒鳴りそうになる。だが毛先や服の端を焦がしながらも歩みを止めない青年に、ザクロの思考はこなくそとばかりに加速を続けた。

 何故あの時、自身は故郷で炎を出してしまったのか思い巡らす。自身の炎を拒絶するのではなく、そのルーツとも言うべき覚悟を思い出そうとする。妹を取り囲む村人を苦しませながら燃やしたかったのか――と、ザクロは浮かんだ言葉に首を強く振って否定する。怒りは確かにあった。恨みもたしかにあった。だがそれは自身にとって、あくまで後付けの感情に過ぎなかった――と。

 そこまで考え、ふとザクロの視界に手渡された鈍色の指輪が映る。簡素ながら光沢を見せるリングに、嵌められながらも恐れろとばかりに炎を拭き出す赤色の石。だがザクロは灼熱の炎を噴き出すその石に、決してザクロの芯まで燃やすことなど出来ないだろう無機質な生ぬるさを感じた。ザクロの内心で、石と噴き出る炎に対して理不尽に堪忍袋の緒が切れる。もう2度とお前達のようにちっぽけな、生ぬるい奴らに燃やされるものか――と心中で叫び、そして再び意識した熱に思い出す。あの日の、熱を失おうとしていた妹に触れた自身の呟きを。

 

 暖めなければ――。

 

 周囲で荒れ狂っていた炎が、何事も無かったかのように徐々に鎮火し始める。ザクロ自身に纏わりついていた炎も落ち着きを見せ、今やリングに拳大の炎が小さくくすぶる程度。青年は明らかに様子を変えたザクロへ微笑み、ザクロの炎をその両手で掬い弄ぶ。落ち着きを見せたザクロだけでなく、見守っていた桔梗までも虚を突かれた様子を見せるが青年は微笑んで口を開いた。 

 

「大丈夫、ザクロの炎はとても暖かいよ」

 

 ザクロはその言葉に、奥歯を強く噛みしめた。

 

「寿命が縮まるかと思ったぜ。荒療治が過ぎんだろバーロー」

 

 青年の持つ炎以外を完全に制御して鎮火させ、ザクロは拳で青年を小突きながら愚痴を吐く。今回の件が自身の炎の克服の為だと一連の流れで気づいた為だ。だが愚痴を吐きながらもザクロの表情は、憑き物の晴れたような清々しい笑みを浮かべていた。

 

「全く、2人とも焦らせないでください」

 

 離れた場所から近寄ってきた桔梗が声をため息をつきながらかける。ザクロは分かりやすくそっぽを向いて頬を掻き、青年はキョトンと目を開いて静かに笑った。

 

「大丈夫、君達ならこれぐらい訳ないさ」

 

 青年の言葉に、ザクロは不意を突かれる。その言葉に込められた信頼を感じた為ではない。実際、込められていたのだろう。だがそれ以上に、不思議な違和感を僅かにだが感じた為に。

 

「それになにせ、ついさっき誰かも同じ事をしてたからね♪」

「ついさっき? ……おい、桔梗お前どこ向いてんだ」

「ハハン、何のことか分かりませんね」

 

 青年の言葉に和やかな空気が部屋に満ちる。ザクロは気のせいかと被りを振って、その時間を心の底から楽しんだ。冗談を言い合える相手がいるという事が、どれだけ幸せな事を知っているからこそ。この先の人生で過去の事を忘れることは出来ないだろうが、今はこの時間をただ楽しみたかった。そんな折に、未だザクロの炎の一部を弄んでいた青年が気づく。

 

「あれ。というかなんだろこの炎、かな。腕が楽になってくみたいな気がする」

 

 首を捻りながら溢したその言葉に2人も何だと顔を寄せる。暫く何事か話しながら桔梗が失礼――と、一言断りを入れてからザクロの炎に片手で触れる。そして、もしかしてと前置きをしながら桔梗が自身の考えを話した。

 

「嵐の炎の特性は分解。恐らくですが、体内にある疲労物質を分解しているのかもしれませんね」

 

 桔梗の言葉に納得できる部分があったのか、青年が驚いたように口から声を漏らした。ザクロも原理こそ分からないものの、話の流れから便利そうだと口を開こうとする。

 

「なるほどって、何引っ張りやがる!!」

 

 ザクロの言葉を待つことなく、桔梗がザクロの腕を引っ張りながらトレーニングルームの出口へと向かおうとする。当然ザクロは反発するが、慣れない死ぬ気の炎を盛大に噴き出させたザクロに、似た体格の桔梗を止めることはできなかった。

 

「ハハン、当然今の感覚を忘れない内に研究ですよ。先程のは無意識でのもの。貴方が生体のなんたるかを知り、意識して行えば、効果はより顕著になるかもしれません」

「分かった! 行くから離せって!!」

 

 桔梗の話す理由に理解を示すが、ザクロは変わらず引っ張られたまま。いよいよ絶叫してやろうか――と、ザクロが思案し始めた頃。離れた場所からポツリと呟かれた声がザクロの耳に届く。

 

「疲労物質の、分解」

 

 青年の声だった。桔梗に引きずられるザクロは何だと言わんばかりに、呟いた青年に訝し気な視線を向ける。

 

「ううん、何でもないよ。僕はこの後、別の用事ができるから行っておいで♪」

 

 青年の言葉がザクロに、再び不思議な違和感を与えた。

 

「なあ、坊主お前は――」

 

「分かりました。何かあれば、またお呼びください」

 

 遮ったのは振り返りながら腰を折る桔梗。青年はそんな様子に小さく手を振り、2人が出たことで閉められた扉により見えなくなった。

 

「お前、いつまで引っ張るんだよ!!」

 

 その後も引っ張り続ける桔梗にザクロの語気が強くなっていく。社員はまだまだ近づかない場所だが、それも後直ぐまでの話。流石にこれ以上意味なく噂が流れるのはザクロも避けたかった。そうした時に桔梗が唐突に手を放し、ザクロへ振り向きもせずに声をかける。

 

「辞めておきなさい」

 

 潜められるように絞り出した言葉は、忠告の一言だった。

 

「あ?」

 

「ザクロ、貴方がどういうつもりで呼び止めたのかは知りません。ただそれでも、気を付けて行動することです」

 

 ただ書類に書いてあることを朗読するように。先ほどまでとは打って変わった雰囲気の桔梗が淡々と言葉を繋げていく。

 

「住居、職、金銭、食事等、さまざまな物を彼は与えてくれます。ですが、あくまで私たちとは違う裏の世界の人間」

 

 ――彼に、あまり深入りはしない事です。

 

 ザクロは此方を見ようともしない桔梗の後頭部へ一旦、拳を軽く打ち付けた。

 

「ッ!?」

 

 桔梗が目を白黒させながら振り返ると、してやったと言わんばかりに笑うザクロと目が合う。

 

「バーロー、辛気臭い顔してんじゃねえよ」

 

 虚を突かれた様子の桔梗を鼻で軽く笑いながらザクロが口を開いた。

 

「お前が坊主に何を思ってるかこそ知らねえけどよ。住む所に仕事と飯をくれる良いやつ、今はそれでいいじゃねえか」

「……ハハン、言われるまでもありません」

 

 自身よりも僅かながら青年との付き合いが長い桔梗へのザクロの諭しに、桔梗は間を置きながらも薄く笑って答えた。桔梗もザクロも、青年については分からない事の方が圧倒的に多い。今回の1件だけでも、話を聞けば死ぬ気の炎はマフィアの中でもごく一部にしか知られていない秘中のものだそうだ。それをあの若さで、一介の殺し屋が何故知っているのだけでなく他人に教授できるのか。

 ただそれでも、結果的にとはいえ自身らを手助けする行動を目の当たりにしてきた。お互いの過去の出来事とも折り合いがまだつけ切れていないものの、少なくとも今を生きようとここでお互いに再確認した。得体のしれぬまま微笑む上司を、精々自身たちなりに面白おかしく祀り上げてやろう――と。そう認識を共有し笑って、ふと思い出したように桔梗が口を開く。

 

「そういえばザクロ、貴方は先程の炎の感覚を可能な限り迅速に掌握しなさい。最近のボスの調べ物の傾向から、恐らく近いうち必要になってきます」

「あん? 大都会の大企業にど田舎の貧村と来て、次はなんだってんだよ」

「次は――」

 

 同刻、青年は未だにトレーニングルームで1人佇んでいた。

 

「そう、見つけてくれてありがとう。用意が出来次第、すぐに向かうから準備しておくように♪」

 

 話し相手は耳に当てられた携帯越しの人物。おどけた口調をやはり隠しもせず、用件を告げ終えると直ぐに通話を切ってだらりと腕を下げた。

 その瞬間、青年の片腕がブレたかと思えば室内に響く破壊音。音の発生源は僅かの傷も見当たらない壁、そのすぐ床にはヒビ割れ明滅する青年の投げた携帯が落ちていた。青年はそんな携帯の様子を気にした素振りもなく、足を開きながら座り込み両手を後ろ手にして上半身を支えた。

 

「また、遅かったかあ」

 

 痛いぐらいに白く塗られた天井を仰ぎ見ながら、青年が淡々と呟く。明滅する携帯には、ごくありふれた病院が映っていた。




読み直して分かる既に浮かれてめちゃくちゃなやつ
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