一定以上の強さを得た存在の前だけに現れて世界の理を教える系軍服お姉さん 作:りらり
「……はぁ?」
メルアはマジマジと目の前の女を見詰める。そして、能面のようなその顔に嘘の色が見られないことを悟り、再び呟いた。
「はぁ? どう言う……あ、分かったわ。あれよね、あんたは
転がる死体を示すように首をしゃくり、そして面倒そうな色を声に宿した。
「アレの遺言の通達者、ってことでしょ?」
「ふむ……見事なまでにハズレだな」
真っ正面から否定されて、うっ、とメルアが狼狽える。それを目にし、女は喜色を瞳に浮かべる。そして、その口からふっ、と笑い声が漏れた。
「……なによ、バカにしてるの?」
「あぁ、いや……バカにしてはいない」
少し怒りを滲ませながらメルアが女へ一歩よる。それを欠片も意に止めず、女は続けた。
「ふむ、何と言おうか……あまりにも……そう、滑稽だったのでな」
「…………バカにしてるわね」
「いや、褒めているが。
喜べ。初対面で私をここまで楽しませたのはお前がはじめてだ。更に言えば、ここまで狂っていない存在に会ったのも初めてだな。
普通は、せめてもう少しズレていなければ
「もうなにが言いたいのか分からないんだけど……」
楽しそうに言葉を紡ぐ女に、半ば諦観の念を込めてメルアは視線を向ける。そろそろメルアも呆れが限界に来始めていた。
そして、体力も回復したし逃走でもしようか、と考え始めた瞬間。
「やけに回復が速いだろう?」
かけられた言葉に体が止まった。
「何故か剣が軽くはないか? あれほどの戦闘の後にしては、あまりにも意識がクリアではないか?」
そして、一拍置いて女はニヤリと笑いながら言葉を繋げる。
「そう、例えるなら──まるで、
メルアが感じていた違和感。それが目の前の女によって復唱される。
「……ええ、そうね。まるで、私が私じゃないみたいだわ」
「その言葉はある意味正しいな。人は、生命は一定以上の『なにか』を持ち、そして
お前の『なにか』は恐らく剣術であり、そして『きっかけ』は肉親殺し──なかなか見ない形だがな」
それを聞き、メルアは剣をゆっくりと降ろす。
「……で? 確かにそんな話初めて聞いたけど……それだけよ。有益な情報ありがとう、とでも言えば良いの? それを伝えて、貴女はなにがしたいの?」
「まずは貴様が『1つ上へ至った』手法は他の生命へ伝えるな、というのがこちらからの要求だな。
「……どういうことよ?」
不思議そうに女は首を傾げる。
「どういうもなにも、言葉通りだが。話が伝わっていないのか? 貴様が──」
「──違うわ。聞きたいのは『なんで』よ。分からないのは、何故貴女がそれを要求するのかよ。貴女になんの利益があるの?」
それの返答は女の雰囲気が切り替わることで伝えられた。スッ、と目が細められる。
同時、女から突然タガが外れたように『それ』は溢れ出るのをメルアは感じた。いや、感じてしまったが正しいだろう。
荒れ狂う嵐よりも莫大な、流れる大河よりも広大な──そんな力の塊。
「……はっ」
目の前にいるのはなんなのか、それがありありと感じられた。これは、きっと《神》とかそういう類いの物だ。
手を出してはならない、気に触れてはならない。メルアが至った領域なんて、この女からすれば赤ん坊が一段階段を上った──その程度の認識なのだろう。
其程までに隔絶した存在。視界が眩む。湧き上がる感情に嗚咽が上ってくる。そして、目眩が頂点を迎えそうになるその瞬間。
「──と、まあ……以上が自己紹介と先程の質問への回答だ」
──その溢れ出る濁流は勢いを止めた。その落差は余りにも酷かった。それこそ、登り切った山から突然平地へ降り立ったような、そんな感覚。
「……もう、訳が……分からないわ」
そして、いくら強くなったとはいえ元々限界まで体力を絞りきっていたメルアの体は、それに対応しきれない。
段々と落ちてゆく視界の中、驚いた女の顔だけが脳裏に焼き付いて、そしてメルアの意識は闇へと沈んだ。