あとアグスタの智春視点はお蔵入り。書いてみてあんまり面白みがなかったんです……。
後、今回回想はお休みです。
冒険っていうのは憧れるものらしい。
目覚めたばかりの頃、僕はよくはやてに連れ出されて町を歩いていた。
町だけじゃなく、アースラの中や時には本局を探検した時もあった。
新しい発見は、それだけで心が躍る。
今思うと、はやてとの冒険も僕の感情を育むことに一役買っていたと思う。
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新人たちもなのはの教導で次のステップに上がり、休みをもらったころ。
僕ははやての指示で無限書庫にいた。
「久しぶり、ユーノ」
「智春! 久しぶり!」
無限書庫の入り口、受付口でユーノとあいさつを交わす。
「この前大丈夫だったかい? アグスタで誤射を食らったって聞いたけど……」
「ああ……魔力弾だったしリィンが障壁を張って威力を和らげてくれたから大丈夫だよ。そっちも相変わらず隈が酷い。ちゃんと休んでるのか?」
最近会ってなかったけど、確か一年位前にあった時も隈をつけていたような気がする。
「アハハ……あのクソ提督のせいでね」
「……うん。ごめん」
ユーノの寝不足の原因となっているすまし顔の提督へと思いをはせる。
この十年、あいつも随分と変わったものだ。
「それで、今日はレリックについてだっけ?」
「うん。忙しい中ごめん」
「いいよいいよ。あいつと違って智春は手伝ってくれるしね」
そのままエレベーターを使って下へ。
地下五十階と出たところでエレベーターは止まり、扉が開く。
そこには、見上げても全く天井が見えない大きな部屋。
地下五十階から地上十階分を貫いてできた広大な空間の中、所狭しと並べられる上限の見えない本棚。
「いつ見てもここからの景色は壮観だな……」
「智春はここからしか見れないだろ?」
「……」
本来ならこの無限書庫は上の地上一階から入り、無重力の中姿勢を制御しながら本を探す。
……そんなことが僕にできるはずがない。
「じゃあ僕は上から探すから、智春は下からお願い。いや、下しかお願いできないんだけどね?」
「……いつもごめん」
「問題ないよ。君が高いところが苦手なのはわかってるから」
笑いながらユーノはエレベーターから出て無重力を利用して上へと上がっていく。
僕も体が宙へと浮かないように慎重にエレベーターから出る。
一瞬体が浮き上がりそうになるが、いつもは全く使わない飛行魔法を応用して地に足をつける。
「……やっぱり、慣れないな」
ぼやきながら奥へと歩く。
この辺はすでに別の件でユーノと共に調べたことがあり、その記述の中にレリックらしきものがなかったことは確認済みだ。
探すならまだ見たことが無い奥のエリア、管理局も手をつけていない一般人立ち入り禁止区画、通称「魔境」エリアからだ。
「こういうのはなのはとかザフィーラとかがいた方が安全なんだけど……うわ!?」
愚痴を漏らしながら「魔境」を進んでいくと、僕に反応したのかトラップが発動する。
目の前から飛んできた鉄の棒に矢じりが付いたもの……地球で言う矢を避ける。
こういう事があるから誰か一緒に連れてきたかったけど、みんなはみんなで別の仕事がある。
それに、この「魔境」エリアのことはあまり知られていない。
空中からは見えない位置に入り口があり、地上からでないと入れない。さらにわざわざ地上から無限書庫に入るもの好きなんていないから、知っているのは僕とこの無限書庫で働いている司書たちくらいだ。
その司書たちも、ユーノからここに立ち入り禁止を言い渡されている。なんでも、ここにいる司書たちでは中のトラップに対応できない可能性があるかららしい。
ゆえに、ここに入るもの好きは僕かユーノしかいない。そして役割分担的に僕が一番ここを利用することになる。
「……どうせなら未整理区画の方に行きたいけど、あっちは飛ばないと入れないんだよなぁ……」
ここ無限書庫には、「魔境」の他にもう一つの立ち入り禁止区画、「未整理区画」がある
そっちは司書資格を持つ者ならだれでも入れることができ、トラップなどの危険もあまりない。
だが、あまりにも広大で迷宮の様になっているために中に入った人が遭難したこともあると言う。
転移魔法で脱出しようにも位置座標に強力なジャミングが掛けられているせいか中からも外からも転移できないらしい。
中には本の防衛用にゴーレムがいるらしいが、強くてもランクはB。この無限書庫を利用する人がめったにいかないし、司書たちもユーノと一緒じゃないと入らないので問題ないらしい。
なぜすべて「らしい」と伝聞形式なのかは、まぁ、僕の苦手なことをしないと入れないから……僕は未整理区画に入ったことはない。
「……ここなら、管理局のサーチャーも届かないかな」
周りを確認して、親指を噛みきって血を流す。
流れた血はやがて形を持ち、漆黒の鳥となって僕の周囲を旋回する。
「三羽もいれば十分かな……」
万が一のことを考えて、ここを探索する時に僕は必ずサノバ・ジンを呼び出しておく。
さっきのようなトラップが襲ってくることを考えてのことだ。
「さて、レリックに関する情報……結構奥かなぁ……」
ここには何度か来たことがあるし、もう入り口周辺は調べ尽くしている。
となると後は僕もまだ踏み入れたことが無い奥に進むしかないだろう。
「さて、行こうかな」
そのまま僕は罠がはびこる魔境の奥へと進んでいった。
魔法であたりを照らしながら、奥へと進む。
左右を本棚に挟まれて一本道のこの曲がりくねった魔境は、人ひとりがやっと通れるくらいの大きさの通路しかない。
この狭い中では仕掛けられたトラップを避けるなんてことはできるはずもなく、迫りくるトラップを僕はサノバ・ジンと防御魔法で防ぎながら進む。
(今頃四人組は休暇を楽しんでるんだろうなぁ……お?)
一日休みをもらった新人……いや、もう新人じゃないな。フォワード組を羨んでいると、以前に来た時につけた目印を発見する。
ここから先が、僕にとって未知のエリアだ。
今までは知った道だから何とかなったけど、ここからは完全に初見だ。
ユーノからもらった検索魔法を起動し、レリックについて検索していく。
いくつかのそれらしい記述の入った本を本棚から抜き取りながら奥へと進む。
「……ん?」
そこで気付く。
今までは気付かなかったけど、通路の感覚がどんどん広くなっているのだ。
気付けば人一人が通るのがやっとだった通路は、今では十人が横一列で並んでも余裕で通れる広さになっている。
「……不気味だ」
こういう時、妙に背中が寂しくなる。
「……幽霊とか出ないよな? ……出ないよな?」
少しビビりながら検索魔法を使って奥へ進む。
相変わらずレリックと似たような情報はあるけどレリックそのものの情報は少ない。
わかったことは、あれがジュエルシード以上の魔力を蓄えていると言う事だけ。
「……もうここで作業して四時間か。もう少し奥へ行ったら一度戻ろう」
この時、ここで僕が戻っておけば、未来は変わったのかもしれない。
少しづつ奥へ進んでいき、もう帰ろうかと思ったところで、僕は見つけた。
「扉?」
ここから少し進んだところで通路は終わっており、そこに扉があった。
怪しい、豪華な装飾が施された黑と銀が入り混じった扉。
中央にはうずまきを思い起こさせるレリーフがあり、そのレリーフも二本の黑と銀の線が互いに渦を巻きながら交わるというものだった。
レリーフの中央には、不釣り合いなほど大きな鍵穴があった。
「……これ」
懐かしい。
ふと、そう思った。
これに見覚えはない。だけど、このうずまきを見た瞬間、僕は懐かしいと感じた。
『来てしまったのね』
だから僕は、声をかけられるまで背後に人がいたことに気付かなかった。
「ッ!?」
慌てて後ろへ振り向く。
そこには、異様な人物が立っていた。
肩の部分まで切りそろえた黒髪に、真っ黒なロングコートを羽織った眼鏡をかけた女性。
彼女を見た瞬間、また僕は懐かしいと感じた。
『出来れば、ここには来てほしくなかったわ』
「……だ……れだ? ここは無限書庫の中、それも司書長の許可が無いものは立ち入り禁止の魔境区画だ。身分証と司書長の立ち入り許可証を提示してください」
『すっかり公務員が板についたのね。なんだか感慨深いわ』
彼女から、目が離せない。
何とか絞り出した言葉も、彼女は気にも留めていない。
『ゆっくり話がしたいところだけど……私にもそう多くの時間が残されているわけじゃない。だから、聞くわ。
その扉を開けば、貴方は決断を迫られる時がくる。過去の一切を捨て、今を生きるか。過去の全てを掴み、今を諦めるか。
その決断をするのは、今じゃない。だけど、その扉を開けば確実に来る。あなたが決断を迫られる時が……』
「決断……」
『……ああ、もう時間切れね。間に合ってよかったわ』
「え?」
彼女はそう言った瞬間、どこから取り出したのか銀色のトランクケースを僕に投げ渡す。
『その扉の鍵が入っているわ。開け方は知っているでしょう? 頑張りなさい、トモハル』
そう言って、彼女は崩れ落ちる。
慌てて駆け寄ろうとした瞬間、彼女は爆発した。
「な!? 爆発!?」
爆炎が収まった場所には、何もなかった。
残ったのは、僕が持っているトランクケースだけ。
「開け方って……」
開けるための取っ手も、継ぎ目もない箱。
魔法で身体強化をかけている僕でも重く感じる重量。
「どうすれば……?」
不意に、浮かんだ言葉。
馬鹿なと思いつつも、口にしてみる。
「――開け」
バタンッ! と、大きな音を立てて勢いよくトランクが開く。
驚きつつ中を見ると、そこには手のひらに収まりきらないほどの大きな鍵があった。
逡巡しつつも、引き寄せられるように鍵穴に鍵を差し込む。
カチリと音が鳴り、鍵を回転させると鍵穴も回転する。
ガチャンッ! と言う音と共に扉が開く。
恐る恐る中に入ると、そこは丸いドーム状の部屋。
周囲の壁には色も形も違う二十体の機械のような巨人たちが仁王立ちしており、全て中央にある祭壇へと視線を向けている。
そして中央には、筒状のカプセルがある。
中は緑色の液体で満たされており、その中で浮かんでいる人影がうっすらと視認できる。
だけど、縮尺がおかしい。
確かに人影だけど、近付けば近付くほど、その身長の低さが際立つ。というよりも、これは低いどころではない。
祭壇に辿り着く。
カプセルの大きさは僕の腰あたりまでしかなく、その中の人影も僕の頭と同じくらいの大きさだ。
「……リィン?」
そう、彼女のようだ。
僕の家族で、八神家の末っ子。
その実態はベルカの融合機……つまりデバイスであり、その身長は人形と同じくらいしかない。
「!?」
突然、カプセルが開く。
中に入っていた水が溢れだし、外へ洩れていく。
その水に流され、カプセルの中の人影も滑るようにして出てくる。
「……女の子?」
『だ……じょう……さお……てる……』
不意に、頭の中で誰かの声が響く。
ノイズ交じりのその声はほとんど聞き取れなかったけど、不思議と僕はその声を聴くだけで頑張れる気がした。
女の子が目を覚ます。
何かを探すように周りを探り、目の前の僕を見つける。
そして僕と目があった女の子は、少し長い茶髪を揺らしながらその整った容姿で僕に微笑みかけ、
「おはよう、トモ」
そう、口にした。
無限書庫の魔境は本作独自の設定です。未整理区画はヴィヴィオたちが入ったところ。
あそこは飛んでいかないといけないので智春は入れませんw
さてさて、ヴィヴィオとの邂逅はどうしようか。