ワラキアのウィッチ   作:夜かな

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プロローグ

 プロローグ

 

 廃墟とかした街は炎と灰にあふれ、今は戦場の舞台となっていた。

 砲弾が降り注ぎ、歴史ある建物は無残にも崩れ去り、赤い光がいくつもの光炎を生み出す。

 一方的な虐殺が、無数の兵士達の血が、数千数万の鉄と火薬の塊が、未知なる破壊が、

 この戦場でこの街で、人類とそうでない怪物の存亡を賭けた戦いが繰り広げられる。

 

 そこには、希望の花が咲くことはない。

 

 兵士達の誰もが、この地獄に絶望し死を恐れ、なけなしの勇気をいや空想と幻想を勇気に変えて無惨に死に絶える。誰もが願う。希望を、この地獄を変えて終わらせる存在を、

それは神か天使か悪魔か、何にせよこの血に染まった街に戦場で戦う兵士達にしてみれば

 

どのような存在でも構わない

 

 死体の塹壕で、廃墟と化した教会で、砲弾の抉った陣地で、破壊が巻き起す光の嵐で

 

兵士達は願う、願っている……

 

だから、今日も死の恐怖に抗って、彼女たちは空を飛ぶ。鋼鉄の脚を履き、冷たい銃器を抱え、一輪の花を咲かすために。

 

そこには希望はない......それでも青紫色の花は幾度の困難と苦難を超えて、咲く

 

美しく、舞うように、いつかは散るのだとしても……

 

――――戦場を翔る青紫色の花

 

 今日の戦場は、普段より静かに感じる。時刻は早朝、私は肩まで切った青紫色が混じる髪を揺らしながら、戦場の舞台となった街の上空で、低空を飛ぶ。

 厚い雲が空を覆い、乾燥しているこの場所は夏という季節にしては、少し肌寒く感じる。ウィッチが空を飛ぶ上では、普段あまり感じないものを肌で感じていた。

 普段は、空を飛ぶ私たちウィッチは魔法力と呼ばれるもので、全身を保護している。だから気温を気にすることはよほどの気候でも無い限りは殆どない。でも長時間の哨戒任務に就いているから魔法力を節約する、という建前を言い訳にして芯の底まで冷やしてしまうような寒さを感じていたい私は、魔法力の保護を最低限残して空を飛んでいた。

 

 廃墟になった、教会の上空を通り過ぎる。

 この街の中心と言える教会は、原形はある程度とどめてはいる。でも縦長の端に立つ塔は、本来なら時刻を告げる鐘があった。けれど今は鐘があったところがなくなってただ静かに朽ちるの持っている。

 ボロボロの教会の寂寞たる風景眺めて少し、私は両脚に履いたストライカーユニットの右側を下に少し傾け緩やかに、街の外郭に合わせるように飛んで行く。

 

 廃墟の街を見つめる傍らで物思いにふける。

 

 私がダキア公国のダキア空軍のウィッチとして戦い続けて、かれこれ数年の月日が立つ。けれど私が生まれた国は戦場となったこの街が属する国、ギリシア王国だった。

 先の第二次ネウロイ大戦と呼ばれる戦争の真っ只中、私の両親は母国であるダキアから戦禍に逃れ、ギリシア王国に移り住んだ。そこで私は生まれてこの世に生をうけた。

 でも普通とは違って前世の記憶をもって生まれた。

 

 前世とは違う歴史、文化、それらに突然、生まれ変わったことが合わさって、最初は混乱した私だったけれど、両親は戦時故か、子供らしくない私を受け入れ、大切に育ててくれた。

 

 そして私が丁度、六歳の時に第二次ネウロイ大戦が終息し、生まれたこの国から、両親の母国ダキアに移り住んだ。

 けれど生活はあまり良くはなかった。荒廃したダキア公国は復興の最中、父が公共事業の仕事に就いても、その日暮らしの稼ぎしか得られなかった。

 両親は学校に通わすことができないことを毎日のように謝る。でも私には前世の記憶のおかげで、わざわざ学ぶ必要もなかった。

 それよりも私が出来ることで、少しでも生活の助けをしたかった。

 だから私は街に繰り出して、仕事を探した。街の市場で、小さな荷物を運ぶ手伝い、買い物の手伝い、散歩の手伝い。子供の私でもできる仕事をくれる街の人たちはいい人ばかりだった。

 大したことでも無いようなことも手伝わせてくれた、そしてお礼には少なくない小遣いを報酬として与えてくれた。

 生活は良くはなかったけれど、幸せな暮らしを送ることができていた。

そんな毎日を送る日々。けれど運命のような出来事がその日、私に訪れた。

 

それはダキア・モエシア・ヴェネツィア戦役、通称三公国戦役と呼ばれるネウロイ残党との戦いが始まり、半年たった時のこと。

 

 私はその日も街に繰り出していた。普段通う街の中心、そこには街の人々で賑わう市場が開かれていて、新鮮な野菜を売る八百屋のおじさんに良く荷物を運ぶ手伝いをさせてもらっていた

 

「おっ、今日もよろしくラリィムちゃん」

 

 八百屋のおじさんは、第二次ネウロイ大戦の時、ダキアの軍人として戦った歴戦の兵士だった。軍を除隊した後、ダキアのこの街で、畑を耕して自ら野菜を育て、新鮮な野菜をこの街で売ることで暮らしている。

 

 軍にいれば食うことや生活には困らない、だから何でやめたか聞いた。その答えは、わずかに逡巡したのち、話してくれた。

 

「誰かの死を見届けるのが、嫌になったからだよ。軍隊はつらいことを想い出す」

 

 その言葉には戦場で戦って生き延びたことの重さと、失われた誰かを偲ぶ、逃れることのできない苦悩を感じられた。

 その時の私には、戦場がどれほどのものかは、わからなかった。ただとても苦しくてつらい言葉に尽くせないものなのだと、そう思った。

 

 八百屋の手伝いを昼までした後、街の中心でお昼の休憩をする。街の中心には噴水があって、私は石で出来たその噴水の縁に腰掛けて母親特製のサンドイッチを食べていた。いつもなら、八百屋のおじさんを手伝った時は、一緒に食事をしていた。

でもその日は、一人でお昼の食事をしていた。

 

 少し時間がたった頃、食事も終わって次の手伝いを探そうと立ち上がった時だった。突然空が少し暗くなり、その頃はまだ聞いたことも聞き慣れたこともなかった音を、聞いた。

 

 それは何かの叫びのような、金属の悲鳴のような、とても不快な音。その発生源に向かって顔を下から上へ、あげれば視界には巨大なハニカム模様をした胴体と、左右の先端から胴体に向かうように湾曲を描く翼をもつそれがゆっくりと街の上空を太陽から覆い隠すように、動く。

 

 誰かが、悲鳴を上げ叫ぶその瞬間、静寂は打ち破られ恐怖に包まれた人々が怒号と悲鳴上げ、声にならない叫びのような何かが、街の中心、街全体に波のように広がって恐怖の渦を作り出す。

 そして上空のそれは、恐怖の特徴とも言えるハニカム模様を見せつけるように高度をさげていく。

 その姿は街の人々を見下し、刃向かうすべを持たないことを知っているかのように、ゆっくりと街の中心に近づいていく。

 それの真下、街の中心にある噴水にいた私は、圧倒的な大きな存在が、空を降りてくる、近づいてくる姿に、圧迫感に恐怖に包まれその場から、動くことができない。

 

 目前に迫る死、無力な私はただ抗うことはできず、その場に座り込み身体、自分の脚に動け動けと必死に言う。けれど戦慄く身体は、脚は動かない。

 恐怖が極限に達し私の涙が頬を伝う。震える唇から、言葉を一言やっとのこと紡ぐ。

 

「…た、たす、けて、だれか…」

 

 むなしくそれは、広場に溶けて消え失せる。

 周辺には誰もいない、みな我先に逃げてしまった。ぽつんと一人残された。

 視線は巨大なネウロイと呼ばれるそれに釘付けになった。そして再びネウロイは不快な鳴き声をした。そして一瞬ネウロイと視線が重なった、いや見られた、そう感じた、理解した。

 

 ネウロイは恐怖に震え涙する幼く無力な存在に狂気する、不快な鳴き声をあげる。まるで仇敵を見つけたかのように。

 

 そして赤い光を収束させる、小さな将来己の脅威になる存在を殺すために……

 私はもう一度、放たれる寸前に叫んだ

 

「だれか…たすけて!!」

 

迫るビームの赤い光、瞼を閉じる。しかしそれは突然青い光に変わる。

 

突然のことだった、私の目の前に彼女がいた。

 

ベージュの髪を雑に切ったショートヘア、そして北に住むタカの羽を頭に生やした彼女は、街の煉瓦を簡単に破壊するビームを防ぐ。魔方陣のような文字を描かれたシールド、それを展開する彼女に私は助けられたのだ。

 

 無力だった私にとって彼女が放つ一言がとてつもない安心をもたらした。

 

―――“もう大丈夫だ、私が君を助ける”―――

 

 彼女はそういうとビームを防ぎ、空に舞う。

 GYAAA!!ネウロイは邪魔されたことに怒り心頭だった。全ての攻撃手段を用いて彼女を墜とすことに躍起になっていた。

 それでも彼女はビームの群を舞うように避けていく。それは蝶々が上下に動き飛ぶようにビームの幾重の中をゆらりゆらりと避けてネウロイへと近づく。

 

 そして彼女が何かをつぶやいて、どんどんと雲の上へと登る。追うようにネウロイも大きな身体を、坂を駆けるような角度で登る。

 ビームが雲を散らしそこから一つ一つ光が漏れ出し街を日の光が照らしていく。

 

どんよりとした曇天の空が晴れていき、彼女を照らす、その彼女の姿に引き込まれ、心を奪われる。ここは戦場なのに空を舞う彼女から血みどろの世界を感じない、絶望どころか、自由と希望、羨望が、私の心を包んでいった。

 

 そして彼女が持つ似つかわしくない黒い光沢を放つ大きな武器を、ネウロイに合わせる。

 そこから大きな発火と共にゆっくりと何故か見える青いベールを纏う弾丸が、放たれてネウロイの表面を抉る。

 小さく見える衝撃がネウロイを白い破片に変えていく。弾丸が進む度それは螺旋を描き大きく広がって、ネウロイは破片になっていく。

 中心に達した時、大きな衝撃がアスタリスクを描き広がりガラスが割れるような音ともにネウロイを消滅させた。

 

 空を覆う最後の障壁がなくなった。太陽を背にベージュの髪を白金に輝かせた彼女はまるで白い花びらの中に舞う天使だった。

 

 幻想的なその光景に幾度かいや一瞬の時に心奪われてはいたものの、彼女が近づいてきたことで正気に戻る。

 そして少し緊張しながら、でも先ほどとは違う緊張に包まれながら私は彼女に思ったことを正直に告げた。

 

 「あの、えっと、てんしみたいで、そのきれいで」

 「?」

 

 正気には戻っていなかったかもしれない、生まれて初めて惚れてしまったのだからしかたないのかもしれない。

 

 「大丈夫だよ、ゆっくりと、言いたいことを言えば良いさ」

 「は、はい、助けてくれてあ、ありがとうございましゅ、あっ」

 

 優しさに溢れた彼女の表情に動揺してしまい、つい噛んでしまう。その恥ずかしさに自信の顔が紅くなってしまう。でもそんな私をみて彼女は優しく撫でて落ち着くまで待ってくれる。

 

 「もう大丈夫かな」

 「ひゃい」

 「うん、少し緊張しすぎちゃったかな、ごめんね、助けるのが遅くなって」

 

 彼女は私が怯えて緊張しているのだと勘違いしているようで私は慌てて訂正して、感謝の言葉を告げる。そして彼女が無線で呼ばれたのか、飛び立とうとするとき、私は言った。

 

 「わたしもてんしさんのように、なれますか!なってそらをじゆうにとべますか!」

 

 彼女は一瞬だけ、止まりこちらを振り返ると一拍考え、そして視線をあわせて笑顔でこう言った。

 

 「私は天使じゃなくてウィッチ、自由に空を飛んで、助けを求める人へいの一番に駆けるもし君が願うなら、きっとウィッチに成れる、そして“ウィッチに不可能はない”だから自由に空を飛ぶ君の夢は叶えられるよ」

 

 彼女はとても嬉しそうに喜んで弾む声でそう言って、空の世界に旅立っていった。

 

 私が今、空を飛ぶきっかけはこのときの彼女への羨望だった。けれど現実は凄惨なものだ。ウィッチは血みどろの戦場を駆け、幼き日の出来事を曇らせてしまう。

 無数の砲弾とビームの中で、私は大事な何かを失っていった。

 

 過去と今を思い比べ、暗澹たる気持ちが青息吐息となって表れる。

 

吐き出された静かに小さな風が、この街を冷たくする。曇天の空に光は差さず、喜ぶ人はここにはおらず、ボロボロのリベリオンの昔の偉い人の名前を冠する熊の人形が、主を無くし灰色の道端に転がっている。

 焼けて欠けた鉄兜、砲身が折れて朽ちる鋼鉄の乗り物、テーブルに敷かれていた布が崩れた建物から虚しく揺れる。

 

 私にできることはこれだけなのか、冷たくなったこの街と私の心にあの時の光は差すことはない。

 




過去編的なもののプロットを作っていたら、何故かできてしまったので投稿。なので不定期更新になります。

2/20追記:改稿作業を少し進めてます改めて見直して見ると文章力の無さを感じますね(’’;)
6/22追記:一部を大幅なに改稿
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