縁側に座ってお茶を飲みながら、空を眺める長曽祢虎徹と三日月宗近。
鳥の囀りが聞こえる。
さっきまで戦いに身を投じていたのが嘘のような、静かで穏やかな時間が流れてゆく。
遠くで粟田口の短刀たちの笑い声が聞こえる。
『うむ。……よきかな。よきかな』と呟き、茶を啜る三日月。
天下五剣の中でも最も美しいと謳われる一振。
平安時代に打たれ、北条、足利家と武将を渡り歩き、織田豊臣徳川の天下を治めた天下人の元へも渡った刀。
『どうした、長曽祢虎徹。俺に何か聞きたいことでもあるのか?』
『教えてほしい。今、特命調査をしている放棄された世界は、俺が打たれた時代とも重なる』
『うむ、そう言えば享保、天保の時代だったか』
『その時の俺は…虎徹では無かった』
『…そうか』
『だがいつのまにか虎徹の名が与えられ、江戸から流れ流れて京へと辿り着き、あの人の手に渡った』
『…』
『俺は、その日から虎徹になった。虎徹だと信じてくれたあの人の為に。俺は…』
『長曽祢虎徹』
『…何だ?』
『俺はじじいだからな。昔のことをよく忘れてしまう』
『は?』
『だから、今を大事にしようと思っている』
『今、か?』
『ああ、刀としての記憶ももちろん大事だが、今この姿を授けてくれた主も、大事だ』
『…』
『答えになっていないかもしれんが、我々には刀剣男士としての指名がある。役割もある。そして、この本丸もあり、集った仲間もいる』
『三日月』
『本来なら出会うことのない刀ばかりだ。それが主を介して此処へと導かれた』
『…』
『我らの主は、戦いを好まん。戦いたくなくても戦わねばならん。そして、その敵を知ろうとしている。何故この戦いが起きたのか、我々は此処にあるのか』
『…三日月』
『我らは主が望むこの先を、護らねばならん。その為に歴史を護り、俺が俺の働きで、長曽祢虎徹は長曽祢虎徹としてその役割を果たすのみ』
『それで、良いと』
『ああ』
『…そうか』
『山姥切国広たちと遠征に出ていたそうだな』
『ああ、だが途中から特命調査の部隊と鉢合わせた、その時に…』
『何かあったか?』三日月が問う。
『俺を知っている刀に会った気がする』
『ほう』
『懐かしいような、畏れ多いような』
『そうか。その者にまた出会えるといいな』
『あ、ああ、…そうだな』
本丸の空を見つめる。
雲ひとつない真っ青な空。
俺を使ってくれた元の主も、この空のように大きくて潔い方だった。
あの人が生き抜いた時代へ、また赴く日もあるだろう。
『なに、その時も俺は虎徹として働くのみ』
長曽祢虎徹はグイッと1口でお茶を飲み干し、『馳走になった』と湯呑みを置き、手合わせができる鍛錬所の方へと歩いて行った。
心地よい風が、縁側から部屋を通り抜けて行く。
『……』三日月は目を閉じ、風を受け止めた。