キングダム世界の趙の王族に転生してしまった 作:ROM
5歳、俺はようやく漫画キングダムの世界に転生していたことに気付いた。なぜもっと早く気付かなかったのか?なぜ転生先が戦国時代の、よりによって趙の王族なんだ?など思うところは色々あるが、取り敢えず現状確認が先決だ。
まず俺の名前は璃(り)。悼襄王の息子であり、太子嘉の義兄であり、後の幽繆王となる遷の実兄である。
今は俺の祖父である孝成王の時代。紀元前240年。悼襄王が即位するのはこの五年後。つまり、原作開始の五年前と言うことになる。
別に王位が欲しいとか、中華を統一したいとか思わないけど、このまま何もしないとそう遠くない未来に趙国は滅びる。祖国が滅びるのは流石に困る。なので、それだけは何とか回避しようと思う。原作知識でも未来の知識でも何でも使ってやってやるぜ!そう決意したは良いものの、5歳の体では出来ることも限られてくる。何か策を練ったとしてそれを真剣に聞いてくれる人間は殆どいないだろう。子供の戯れ言と聞き流されるのが落ちだろう。神童なんて呼ばれていても所詮俺は5歳のガキなのだから。唯一、俺の言葉を聞き、俺のためだけに動いてくれる人間がいるとすれば、それは狂信者になってしまった郭開だ。
郭開。史実およびキングダムの両方で国を滅ぼす遠因を作った奸臣として描かれている。
郭開のやらかした大失敗は主に三つある。
一つは廉頗の趙国帰還の阻止。郭開は元々廉頗と仲が良くなく、廉頗が帰ってくることで自分の立場が危うくなることを恐れた郭開は、廉頗を趙国へ帰還させることを考え、使者を送っていた王に、その使者を買収して「面会中三度も失禁した」と嘘の情報を流させた。これを聞いた王は廉頗はもう使い物にならないと思い、以降廉頗が趙の地を踏むことは一度もなかった。もし廉頗が帰っていたら趙国は滅亡しなかったかもしれない。少なくとも歴史の流れは大きく変わっていたことは確かだ。
二つ目は鄴戦の最中李牧を更迭したこと。もしこの更迭が無ければ、あるいはもう少し遅ければ斉からの食料が鄴へと運び込まれることも防げ、秦軍を撃退できていただろう。
三つ目、司馬尚と李牧の更迭。他の二つとは比べ物にならない大失敗、事実上この決定により趙国が滅びたと言える程の失敗である。
その当時──趙滅亡のおよそ半年ほど前──、秦軍は名将である李牧、司馬尚の二人を中々攻めきれず困っていた。そこで王翦は一計を案じる。奸臣である郭開を買収したのである。
多額の金を受け取った郭開は直ぐに行動に移す。
「幽繆王様、李牧と司馬尚が反乱を企てているようです。ここはどうか李牧と司馬尚を更迭してください」
「なに?! 李牧と司馬尚が反乱だと!? い、いや、そんな筈はないだろう。 今まさに二人は秦軍と戦い、その進行を食い止めているのだぞ? あれほど優秀な二人だからこそ食い止められているのではないか?」
「それほど優秀な者だからこそ将軍と言う地位では満足しないのです」
「む、むう。それは……いや、しかし……」
渋る幽繆王だが、思いもよらないところから助言が来る。幽繆王の母、悼倡后である。実は悼倡后も既に王翦により買収されていたのだ。
「この母もそのような話を聞きましたよ幽繆」
「母上までそう言うのなら本当なのかもしれない……。分かった。李牧と司馬尚を将軍から解任する。更迭いたせ」
趙軍前線
「なに?! 私達が反乱を企ててるだと!? なぜそんなバカな話に!?」
「李牧様、お気持ちお察しいたしますがこれは王命です。どうか抵抗せず私達と共に王都へと来てください」
「ぐ…………いや、それは出来ない」
「え?!」
「今私達がいなくなれば趙国は本当に滅んでしまう。幽繆王に私達には反乱の意思はないと伝えてください」
「……分かりました」
王城
「なに?! 李牧が王命を拒否しただと!? 李牧め!やはり裏切るつもりであったか!?」
「如何致しますか?」
「李牧を捕らえ、処刑いたせ!」
「御意」
李牧は王の手により捉えられ、斬首刑に処された。それを聞いた司馬尚は趙軍から逃亡。二人の名将を欠いた趙軍では秦軍を止めることはできず3ヶ月も持たず趙国は滅亡することになる。3年以上も秦の進行を退けていた大国の呆気ない幕切れであった。
自分の利のために国を滅ぼした男郭開。これだけ聞くと本当にろくでもない男である。しかし、それがイコール無能である訳ではない。悪には悪の賢があり愚があり、善には善の賢があり愚があるのだ。
郭開は確かに悪であったことは疑いようがないが、宰相にまで上り詰めたことを考えれば政治家としては本当に優秀だったのだろう。政敵を消す能力、自分の勢力を拡大する能力、王に取り入る能力。どれも政治家に必要な能力である。そして、その才を証明するように郭開は現在郭開派なる一大勢力を築き上げていた。
★
七歳
目の前には、郭開派を作り上げ、現左丞相の右腕と呼ばれるまでに出世した郭開が臣下の礼をとっている。それを見下ろしながら、この悪巧みが似合う顔も随分見慣れたなぁなどと思いつつ、俺は横に広い三人用の豪華な腰掛け椅子にゆったりと横になりながら報告を聞いた。報告は実に多岐に渡った。国の財政状況から他国の動き、俺の評価や国の生産状況まで……
正直、話の半分も理解できてない。え?今何の話してんの?とか、数字並べられても分からねえよ!とか内心悲鳴を上げつつ相槌を打つことに専念。そして、報告が終わった頃を見計らい、辛うじて理解できた勢力拡大のことだけを再確認して話を進めた。
「うむ、順調に朝廷内での勢力を拡大できてるようでなによりだ。他に報告すべきことはあるか?」
「いえ、今のところはございません」
「なら、俺から一つ頼みがある。秦国の城戸村に信と漂と言う奴隷がいるんだが、そいつらを買って趙軍に入れてくれないか?」
「すぐに部下を秦国へ向かわせましょう」
「頼んだぞ」
「───ただ」
郭開は突飛な命令にも、即座に了解の意を示す。
「──ただ、なぜ敵国のそれも何の実績も名声もない奴隷をわざわざ購入するのかお教えもらってもよいでしょうか」
「それは……」
実に返答に困る問である。なにせ理由は信が原作の主人公だからだ。
主人公、それは理不尽を詰め合わせたような存在である。
死に瀕するような怪我をおっても何故か奇跡的に生き残る。
自分より遥かに強い相手、例えば1000回やれば999回負けるような相手にも、最初の一回で勝ちを引き寄せ奇跡的に勝つ。
成長速度が異常に速い、あるいは元々最強である。などなど……
なにより主人公サイドにいる組織や国は大抵の物語で最終的に勝つと決められているのだ。まさに理不尽!そんな神に愛されたような存在が敵国に渡るなんて悪夢以外の何物でもないだろう。実際この世界で信が本当に主人公なのか、そもそも主人公と言う概念があるのかどうかは分からないが、少なくとも俺にとって信が敵国にいると言うだけで精神衛生上非常によろしくないのは確かだ。だから、信を趙に呼ぶのは俺の中で決定事項なのだが、理由を素直に伝えたところで頭が可笑しくなったと疑われるだけである。
しかし、かといって、上手い言い訳も思い付かない。
俺はしばし考えたが直ぐにめんどくさくなって、テキトーにはぐらかす事にした。
「…………そうせよと天の声が言っていたからだ」
なお、郭開はこの言葉を全く疑わなかったと言う。