キングダム世界の趙の王族に転生してしまった 作:ROM
・TS要素があります。
・初期の飛信隊の隊員は趙国出身と言う事にしました。
・尾平・尾到兄弟は存在しません。
当時歩兵は伍と称される五人一組での行動が制度化されていた。伍のリーダーは伍長と呼ばれ、趙の歩兵軍にあっては伍が基本単位である。この五人組は運命共同体であり、戦場で命を預ける大切な仲間。当然、誰もが強い仲間を欲し、強そうに見える者や名の通った強者には多くの伍長から声が掛かる。逆に弱い者には中々声が掛からず、最後まで売れ残る。
信と漂の二人は集まった歩兵の中でも別格の強さを持っていたが、見た目はただの子供である。場違いにも見える彼等に声を掛ける物好きなどおらず、それどころか「伍を作れ!」と言う命令が出てから、───途中、信の俺強い演説があったが───、誰からも相手にされずポツーンと二人取り残されていた。
「誰も来ねえな」
「そうだな」
後の大将軍の船出としてはかなりしょっぱい出だしであった。
時間は少し巻き戻る。
趙国西部。名も無き街道。そこには志願兵として戦に参加すべく集合場所に向かう歩兵の行列があった。その行列の中程に、天下の大将軍を目指す二人の若き少女がいた。前を歩く少女、信は後ろ向きで歩きながら、弾けそうな興奮を抑えられず、声を上げる。
「ついに初陣か!これが天下の大将軍への第一歩だ!くぅー!俺はやるぜ!漂!」
「前見て歩けよ、信。ぶつかるぞ」
それを見ていた少女、漂は何時ものように冷静な忠告を返した。しかし、何時も冷静な漂も今日ばかりは心が騒ぎ立つのを止めることが出来ず、その声は高鳴っていた。
「ま、はしゃぎたくなる気持ちも分かるけどな。俺も昨日は楽しみで眠れなかった」
「ハッハッ!なんだお前もやっぱり──ってうわ!」
漂の共感に嬉しそうに声を上げる信だが、直後石に躓き、盛大にスッ転ぶ。頭にコブを作った信は「イッテェ!」と頭を抑え、悶え苦しむ。
どうでもいいが、動く度に豊満な胸が零れ落ちそうになっていたと追記しておく。
「はぁ、何やってんだよ、信。ほら立てよ」
「わりぃわりぃ。やっぱ前見て歩かねえとダメだな」
そんな風に無自覚に男の視線を集めつつ、バカな話をしながら暫く歩くと多くの民兵が集まっている開けた場所に出た。戦場に行くのが初めての二人は何故此処に歩兵が集まっているのかも分かっていなかったが、今迄の人生で見たこともないくらいの武装した人の多さに戦が近まっているのを肌で感じる。それに武者震いを覚えながら、それはそうとと、「この集まりは何ななんだ」、と信は問う。
「さあな、でも、ま、必要があれば説明でもされるだろうさ。あの如何にも「これより伍を作る!伍長は集まれ!」
漂の的を射た言葉は、突然の大声で欠き消された。声の主は短い髭の生えた壮年の男で、明らかに普通の歩兵とは異なる研き抜かれた銀色の甲冑を身に付けている。信はそれを見て、すぐに自分もあんな鎧を着てやる!と野望を燃やしつつ、「伍ってなんだ?」と根本的な疑問を抱いた。
「なあ、漂。伍って何なのか知ってるか?」
「伍って言うのは確か歩兵の基本単位だったはずだ。五人一組になって死角を無くすのが目的らしい。そして、伍を率いるのが伍長。つまり俺達もどこかの伍長の下につかなきゃならないってわけだ」
「なるほどな」
漂による解説の横で、周りでは既に伍長による勧誘が始まっていた。当然、強そうなものには人が集まってくるもので、人垣が点々と出来ている。
「田有!俺の伍に入れ!」
「バカ野郎!前もお前のとこだったじゃないか!今度は俺の伍だ!」
「いやいや、俺の伍に入ってくれ!お前がいれば百人力だ!」
「あいつスゲエ人気だな」と言う信の視線の先にいる田有と呼ばれた男は見るからに強そうな屈強な大男だった。彼は話し掛ける三人には目もくれず、別の場所へと歩き出す。
「田有待ってくれ!」それを伍長は未練がましく追いかける。すぐに自分もああなるだろうなと信は確信する。
一方、他の場所でも声が上がる。その中心にいるのは顔に大きな傷のある大男だ。
「中月だ!殺し屋の中月がいるぞ!」
「よっしゃ!俺の伍に入ってくれ!特別待遇してやるぞ!」
「俺の伍は料理屋の倅がいるから旨い料理が食えるぞ!」
他の場所でも強そうな者や名の売れた者の周りには人が集まり、そうでないものの周りには人が来ない。取り分け、子供で、しかも女の信と漂の周りには人っ子一人やってこなかった。たまに目が合う人間はいるが、彼等は直ぐに興味を無くしたように他の仲間を探すため視線を移す。その目はありありと、何でこんな奴等が戦場にいるんだ?と訴えていた。
伍を作れ!と言われた時からこの展開は予想していたとは言え、予想以上に寒々しい周囲の反応に漂はやれやれと溜め息を吐く。
「どうやら、皆、女子供には用がないみたいだな」
「ちっくしょう!俺達の事は皆まだ知らないからな!───よしっ!」
漂の言葉に拳を握って悔しがる信だが、直ぐに顔を明るくして、背に背負っていた剣を引き抜く。漂は突然の奇行にギョッとして直ぐに止めようとしたが、間に合わず信は剣を天高く掲げる。
「皆聞きやがれ!東陶村の信とは俺の事だ!体はちっせーが誰よりも強いぞコラァ!」
剣を右に左に振り回し、これでもかと言うほど存在をアピールする。かつてこれほど伍作りに体を張った者がいただろうか?いや、いない。
周囲はあまりの奇行に信に目を向け固まるが、一秒後にはバカがバカやってるだけかと納得し、止まっていた時が動き出すように、何事もなかったかのようにスルーされた。ヒューー!と砂風が吹き抜けた。
漂は左手で目元を覆い、心の涙を流す。
「信、お前、本当にバカだだったんだな」
「な!漂までヒデェ!俺は実力を教えてやろうと思ってだな」
「無駄無駄。どうせ最後に残るんだから、寝転がって待ってればいいだろ?それに俺達二人がいれば他の仲間が誰であれ問題ないだろ?」
漂の勝ち気な言葉に、信も笑みを返して、ごろんと寝転がった。
そして、暫くした後、漂は周囲を見渡して左を指差す。
「ん?信!あそこにいる二人が俺達と同じ売れ残りじゃないか?」
信が起き上がって漂の指差す方を見ると、二人の小柄な少年がいた。一人は信や漂と同じくらいであり、もう一人は信達より低い。どちらも顔立ちは整っているがあまり強そうには見えなかった。
「よお!お前らも売れ残りか?まあ、そりゃそうだよな。お前ら小さいからな!」
「その言葉は俺達にも突き刺さるぞ」
「……ま、まあ、そんなことより自己紹介でもしようぜ。俺は信。で、こっちが漂だ」
「漂だ。よろしく頼む」
「私は白麗。よろしく、信、漂」
「んで、お前は誰なんだ?」
「………」
黒髪の少年の方は直ぐに答えたが、赤い独特な民族衣装を着た少年は無言を貫く。しかし、イラついた信がさらに突っかかると、仕方無いと言う風に答える。
「羌瘣。嫌いなことはしゃべること、以上」
いや、以上じゃねえよ!と誰もが思ったが、羌瘣の発する妙なオーラに皆閉口するしかなかった。
「おれぇ?澤伍長また一人だぞ?」
「しょうがねえな。誰もあんな頼りない伍長に命預けたくないもんな」
「はぁ…」
「アッハッハッハッ!よおっ!澤一人長!」
「あぁ…またしても誰も組んでくれなかった……今回の売れ残りは………なんだ皆子供じゃないか。それに二人は女の子……。今回は無事に帰れるのかな」
横乳や胸元を見て、信と漂の二人が女と判断した澤圭だが、それは少し違う。四人の内二人が女なのではなく、四人全員女なのだった。
幸い彼はその事実に気付かなかったが、気付いていたら更に足取りが重くなっていただろう。
澤圭は四人が集まっている場所まで行き、くたびれた声で挨拶をした。
「あのお、どうも伍長の澤圭です。皆さん、よろしく」