キングダム世界の趙の王族に転生してしまった   作:ROM

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馬陽の戦い:秦軍が韓国に二十万の軍勢で侵攻している隙を突き趙国が攻め入って来たことにより勃発。







馬陽の戦い 序

 

趙国境付近─馬央─

 

「聞いた?また韓の城とったって」

「オォすげぇな蒙驁将軍」

「これで何個目かね」

「六個目だ」

「うひょー!まだ始まって一ヶ月だろ?流石だぜ」

 

大人達は相次ぐ戦勝の報に沸き立っていた。前線の農村とは思えないほど暢気な雰囲気が漂う村だった。しかし、それもある意味仕方無いことであろう。ここ十数年秦国は敗北したことがないのだから。領土が増えることはあっても減ることはなく、故に秦国の民にとって戦とは勝利なのだ。絶対の勝利など無いと言葉の上では分かっていても、無意識の内に敗北などないと刷り込まれていた。戦国の世の平和など只の幻想に過ぎないと言うことさえ忘れるほど、秦国は勝ち続けていたのだ。

 

だからと言うわけではないが、その異変に始めに気付いたのは戦勝の報に浮かれる大人達ではなく、綺麗な石を見て喜んでいた好奇心の強い子供だった。

 

「あ!お父さんきれいな石見つけた」

「ハハよかったな」

「ねーこれ持って帰っていい?」

「え、持って帰るのか?」

「ダメなの」

「ま、まあ、母さんが良いっていったらな」

 

父は子に弱かった。全ての責を母へと転換した。

もっとも、それで危険に晒されるのは今日の夕飯の中身くらいのもので、家族の命が危険に晒されることはない。今日も明日も明後日もこの平和が続く。平和ボケした父はそう信じて疑わなかった。だから、次の子供の言葉に秘められた危険にさえ、指差す方を見上げるまで気付けなかった。

 

「お父さんハタがいっぱい」

「んー?────な!!!」

 

そこにあったのは数えるのもバカらしくなるほどの趙と描かれた軍旗。それが意味するのは趙軍による大規模侵攻であり、この村が蹂躙されると言う事である。

 

「!!───て、敵襲だァ!」

 

震えるような父の悲鳴が長閑な村の中に響いた。

 

 

「!!───敵襲!」

 

ほぼ時を同じくして、馬央城の城壁にいる兵士も敵影に気付き、太鼓を鳴らした。

カーンカーンカーン!!とけたたましい鐘の音が響き、城内は一気に騒がしくなる。

 

「敵襲だァ!!」「何っ!?」「なっっ何だこの数」「門を閉めろっ」「何事だっ」「門を閉めろォ!!」「敵だっ!全員城壁に上がれっ!」「門を閉めろォォ!!」

 

次々と鎧を身に付けた常備兵が城壁へと上がってくる。そして、敵影の数を見た彼等は皆一様に顔を真っ青にさせる。

 

「な……何だこの数は十万はいるぞ」

「ふざけるなこんな大軍防げるわけない」

「くそォ!!」

「どうなってんだよ!」

 

絶望感が漂う。十万もの敵を前にすれば無理もない反応だ。しかし、士気の高さは兵の強さ、兵の強さは城の強さである。このままこの状況が続けば戦うまでもなく城は落ちるだろう。

そんな陰鬱で危険な空気を、嗄れた男の声が切り裂いた。

 

「うろたえるな!そう易々と馬央は落ちぬ!」

 

声を上げたのは馬央城の城主『段歯』である。彼は前線の守備を任されるだけあり、老年にそぐわぬ逞しい肉体と、獅子の如く気概と高い忠誠心を持った男だった。

この城の精神的主柱でもある段歯の登場に場の陰鬱な空気が僅かに晴れ、救いを求めるような視線が段歯に次々と向けられる。

 

「段歯様!」「段歯様!」「段歯様だ!」「段歯様だ!」

 

情けない部下の様子に段歯は一喝を入れ、直ぐ様、大声で命令を出す。その声に優しさは一片も無かったが、不思議と絶望の中の兵達に力を与えるような声だった。

 

「時を稼ぐのだ!前線の城である馬央が見せてられることはない!必ず救援がやってくる!それまで何がなんでも時を稼ぐのだ!弓兵!!最前線を張る城の実力を趙の鼻たれ共に教えてやろうぞ!全軍構えェい!!」

「「「「おおおお!!ー」」」」

 

段歯の登場により崩れかかっていた士気は何とか持ち直した。しかし、例え士気を持ち直しても馬央の命脈が風前之灯であることは誰の目から見ても明らかであった。十倍以上の兵数。如何に城と言うアドバンテージがあったとしても覆せるものではなかった。当然、大国趙の将軍ともなれば、馬央の決起が只の悪あがきにしかならないことは直ぐに理解できた。故に、その様子を遠目に見ていた趙軍副将『公孫龍』は、この数を前に心折れない馬央の兵に内心称賛を送りつつ、坦々とした声で部下に命令を出す。

 

「始めよ。弓隊前へ!!」

 

馬央の陥落は正に秒読みに入るのであった。

 

 

 

趙軍は城攻と平行して周辺一帯に別働隊を放った。そして、別働隊の行く先々では惨状が広がっていた。趙兵は殺戮の限りを尽くし村々を壊滅させたのだ。そんな不名誉な蹂躙部隊の指揮を買って出たのはもう一人の副将、万極だった。彼は悪名高い長平の戦いの生き残りであり、子供の頃生きながらにして手足を縛られ土の中に埋められた過去を持つ。そのおぞましい経験は万極の精神を完全に壊した。今の彼を動かすのは仲間達の恨みと秦への憎しみ。その大きさは余人が測ることが出来ないほどに深く、どろついている。

 

万極は、秦人が一人もいなくなった秦の村の広場で、全裸にマントを羽織ったイカれた姿で今殺したばかりの村人の上に座り、狂った目で独り言を呟く。

 

「け……結局のところ…因果応報…こ……これが単純なる唯一の摂理だ。し、秦よ

 趙王は龐煖様を大将軍に、龐煖様は俺を副将にした。ち…趙軍は新しく生まれ変わったのだ。もはや秦は逃れられぬ。う…受け止めよ秦。我らの闇を。ち…ちち長平四十万の呪いを。す、全てをかみしめよ。お、お前達の苦痛の朝は明けたばかりだ」

 

「万極将軍。馬央の城が落ちた模様です」

「公孫龍副将に伝えよ。い、今からゆくと」

 

 

馬央の陥落と周辺の惨状が咸陽に伝わったのは翌日の事。その日の午後、緊急徴兵を伝える早馬が咸陽から放たれた。それは戦える者全てを強制的に徴兵するものであった。趙の侵攻により急遽集められた民間兵は軍編成もないまま北東へ向かって進軍を始める。

一方、馬央を落とした趙軍は戦力をそのままに馬陽を包囲。馬央の姉妹都市にして前線地帯の要である「馬陽城」を烈火の如く攻めたてていた。

 

「万極様お下がりください。ここは秦の矢が届きます。万極様」

 

しかし、馬陽の抵抗は強く、陥落する前に秦国の援軍が到着した。

これにより両軍の兵力は盤上に上がることになる。趙軍は総勢十二万、総大将龐煖、対する秦軍は十万、総大将王騎。

時に紀元前244年。大将軍王騎の最後の戦いとなる馬陽攻防戦の火蓋が切手落とされた。

 

 

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