キングダム世界の趙の王族に転生してしまった   作:ROM

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馬陽の戦い 前半

 

趙国境付近─馬陽─

 

「くっそー。後少しで馬陽の城主の首も取れたのに!」

「まだ言ってんのか信」

「てか、後少しって程少しでもなかったけどな」

「ええ、馬陽の守りは想像以上に固かったですね」

「(馬央と比べて)城壁も高かったし、兵数も段違いだったぜ」

「前線の要の都市だからね」

 

上から信、漂、田有、澤圭、沛浪、松左の言葉である。伍作りの時は誰からも相手にされてなかった信達だが、馬央の城攻めの奮迅により皆から認められるようになっていた。特に信は歩兵でありながら、馬央の城主の首を取ったこともあり一躍時の人である。

 

「でも、今は馬陽のことより次の相手のことを考えるべきですね」

「王騎か」

「また、えらいのが出てきたな」

「引退したって噂は嘘だったのかよ」

「なー、王騎って誰だ?」

「な?!おまえ、信、あの王騎を知らねえのか?」

「どんなド田舎に暮らしてたんだよ」

「漂だって知らねえよな」

「俺は知ってるぞ。と言うか、臨先生に教えてもらっただろ。お前寝てたけど」

「そ、そうだったか。ま、そんなことよりどんな奴なんだよ王騎って」

「秦国の大将軍ですよ。六大将軍最後の生き残りでもあります。秦の怪鳥と呼ばれ中華全土に名を轟かせる大将軍です。最強の将軍は誰かと言われれば必ず名が上がるほどの怪物です」

 

最強。その現実感のない言葉に場に緊張が走る。全員が全員これから起こる戦が厳しい物になると察していたからだ。しかし、そんなひりつく空気の中で、信だけは歓喜に身を震わせていた。

 

「…くくく、なるほどな。つまり、この俺が相手をするのに相応しい敵ってわけだ。よし決めたぜ!その王騎って奴の首は俺が取る!」

「「「「な!」」」」

 

こいつも恐怖で震えているのかと心配して見ていた男達は信の発した不敵すぎる言葉に一瞬唖然として、直後爆発した。

 

「な、何目線だお前!」

「無理に決まってんだろバカ!」

「アホ!」

「身の程を弁えろってんだアホ!」

「こっちが恥ずかしいわバカ!」

「同じバカだと思われるだろうがバカ!」

 

散々な物言いだが、しかし、彼等に先程までの硬直はない。今は程よい緊張感が身を包んでおり、普段以上のパフォーマンスが出来そうな気さえする。恐怖に駆られる兵の緊張を解き、力を与える能力。此処一番と言う場で、兵を鼓舞し、苦境を切り開く力。信は無意識の内に、そんな将として大きな力となる能力を既に身に付けていた。

それは信自身ではなく、信の周りにいるものこそ、最も敏感に感じるものである。彼等は既に、恐らく出世するだろう信の部下として働く未来を夢想していた。

しかし、生憎信には読心術なんて便利なチカラはなく、信からすれば只単に罵声を浴びせられただけである。

 

「な、てめえら少しは仲間を応援しようって奴はいねえのか!何てやつらだ!」

 

散々言われ腹を立てた信は、そう叫ぶのだった。

 

 

 

さて、そんな一幕はあれど、スムーズに軍の再編成は終わった。澤圭伍長率いる信のいる伍は趙軍右翼の最前列に組み込まれる。右翼の将は馮忌で、総勢二万の将であり、対する秦軍の左翼は王騎直下の軍団長干央が率いる1万の軍勢だ。

 

「我々は最前列になってしまいましたか」澤圭は言う。

「城攻めでも最前列だったし本当に運がないね」白麗は言う。

「何処だろうとやることは変わらねえぜ」

「………」

相変わらず信は強気で、羌瘣は無言だ。

「でも、右翼に組み込まれたの幸いだったな」

「どういうことだ漂?」

「みろよ」

 

漂の指差す先には高い木々があった。

 

「趙軍右翼と秦軍左翼の隣には高い遮蔽物がある。つまり他の軍とは孤立しているわけだ」

「なるほど。それならあまり激しい戦闘になることは無いかもしれませんね」

「な、なんだとー!じょ、冗談じゃねえぞ!それじゃ、武功が上げられねえじゃねえか!俺は大将首が欲しいんだよ!首!首!」

「私はもう充分戦いましたし、休みたいですね」

「俺も」

 

しかし、彼等の常識的な予測は、王騎の打った一手により大きく崩れ去る。

趙軍右翼と秦軍左翼は初日最も激しい戦場となるのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

【陣容】

 

趙軍は12万の軍勢をそれぞれ2万ずつの大隊にわけ、右軍2万(将:馮忌)、中央軍2万(将:李白)、左軍6万(将:渉孟、万極、公孫龍)、中央軍の後ろに控える本陣が2万(将:龐煖。大将代理兼軍師:趙荘)で、布陣した。

 

一方、秦軍は10万の軍勢を左軍1万(将:干央)、中央軍4万(将:蒙武、録嗚未)、右軍4万(鱗坊、同金、隆国)、中央軍の後ろに控える本陣が1万(王騎)で布陣。

趙軍の主力は左軍六万であり、秦軍の主力は中央軍四万である。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

戦は蒙武率いる秦の中央軍四万と李白率いる趙中央軍ニ万との激突で始まった。最初はその突破力で優勢だった蒙武軍だったが、趙の重騎兵や歩兵斜陣と弓による射撃でだんだんと勢いを削がれ膠着状態になってくる。ここで王騎の打った手は、中央軍への援護ではなく、地形が険しく、中央軍や右軍とは隔離されている左軍の突撃だった。王騎の狙いは、乱戦に持ち込んで、相手の有能な武将を一人づつ片付けていくことである。今回の標的は、趙右軍を率いている、戦局分析に優れた「馮忌」将軍。

馮忌の戦局分析能力は王騎が認めるほどであり、それは戦が進めば進むほど邪魔になると判断されたのだ。

 

「ああいう手合を早めに殺しておくと戦が楽に進められます。頼みましたよ恬」

「任せてください、父上」

 

王騎の策は秦左軍と趙右軍が激突している最中に、側面から接近し、「馮忌」の首をとってくると言うもの。言葉にすれば簡単だが、その難易度は極めて高い。しかも、この任務を失敗すると初戦を一気に持っていかれる責任重大な任務である。そんな危険かつ重要かつ高難度の任務を与えられたのは、王騎の息子である「王恬」の率いる三百人隊……その精鋭百人だった。

 

「皆聞いたな!分かっているとは思うが、この任務は初戦で最も重要な任務だ!失敗すれば俺達が趙右軍に呑み込まれ全滅するだけじゃあすまねえ!初戦をそのまま趙に持っていかれる!それは延いてはこの戦の敗北に繋がるってことだ!そして、この戦で負けるってことは馬央で起こった虐殺が秦全土を襲うってことだ!忘れるな!これはそう言う戦いだ!

捨て身で俺の背中についてこい!そうすりゃァ、必ず俺が敵将の首を取ってやる!趙のくそやろう共に秦兵の強さを教えてやるぞ!」

「「「「おおおお!!!」」」」

 

王恬の檄により士気が最高潮に達した「王恬隊」は待ち伏せしている伏兵を速やかかつ丁寧に始末しながら、密かに、趙右軍の側面に接近する。

 

趙右軍本陣の両翼は兵力差を利用した「誘い込み」を行うために前に出ていなくなっていた。秦左軍を突撃させ、守備の兵を前へおびき寄せ、趙右軍本陣の守りを手薄にする王騎の策は成功していたのである。それを即座に理解した王恬は可憐かつ獰猛な笑みを浮かべ、一瞥だけで部下に合図を送ると、一挙に、馮忌将軍のいる趙左軍本陣へと突入した。

 

王恬隊の突進力は凄まじく、馮忌が近接戦を苦手としていたこともあり、干央などの手も借り、見事王恬は馮忌を打ち取ることに成功する。

 

それでも残存戦力的には趙右軍一万八千対秦左軍二千と、かなり趙軍有利の状況だったのだが、攻めていると思っていたら唐突に指揮官を失った驚愕と、突然右の林に秦国の旗が大量に立った事が重なり、秦軍の大軍が攻めてきたと勘違いした趙兵は、そのまま総崩れとなり四散した。これにより趙右軍対秦左軍の戦いは決着をつけることとなる。

 

逃走の途中、信と王恬が多少剣を交えることもあったが、それは長い戦の中ではほんの一瞬の出来事であった。

 

一方、趙の中央軍は蒙武軍に押され気味ではあるものの、趙左軍は渉孟と万極の進撃で秦右軍を押し込み、全体的には一進一退が続いていた。

本来であればもう少しもみ合っても良い状況だが、右軍の異変を察知した趙本軍から後退の命令が下り、それを受けて王騎も全軍後退の合図を送ったことで、馬陽の戦い一日目は幕を下ろした。

 

 

 

戦闘の二日目。まず軍編成が行われた。将が死んでしまった趙右軍はそのまま中央軍に組み込まれ、将は残っていたが兵数が少なくなりすぎた秦左軍もそのまま中央軍に組み込まれた。

続いて布陣は、両軍昨日と同じ構えで、趙の将軍・李白は重歩兵による斜陣と左翼に弓兵を配する守備の布陣で、蒙武軍は錐行突撃を仕掛ける構えだ。

 

両方とも昨日と同じ戦法なので、再び蒙武軍が跳ね返されるのかと思いきや、今回は趙の斜陣を切り崩していく。驚くべきことに蒙武は昨日実戦で練兵をしていたのである。これには王騎も思わず感心の声を漏らす。

 

「もしかしたら蒙武は昨日も突破しようと思えば出来たのかもしれませんねえェ。それでも、敢えて流した。おそらく、いきなり戦に連れてこられた民兵に自信を植え付けるために。士気の高さは兵の強さ。昨日と今日では蒙武軍は全くの別物でしょう。これはもしかしたら面白いものが見れるかもしれませんね」

 

王騎の言葉の通り、これ以後の戦場は蒙武が中心となって動くことになる。

 

しかし、敵将の李白も只者ではない。守備の李白の名は伊達ではないのだ。蒙武の突破を見た李白は直ぐ様陣を曲げて蒙武軍に対し包囲陣をしかけた。囲い込んで秦軍を殲滅するつもりだ。軍事的に見れば実に正しい選択であり、その柔軟な軍陣の変容には王騎も感心していたが、蒙武軍はかまわず趙軍へ襲いかかり、内側から趙軍を撃滅していく。策を力で捩じ伏せる。軍師にとっては認めがたい光景だが、それをやるのが蒙武なのである。

 

「ちっ蒙武め!」

 

しかし、そんな蒙武も李白を討つまではいかず、その日は終わることになる。

 

 

 

戦闘の三日目。昨日の敗戦を受け、蒙武の力を上方修正した李白は今日こそ蒙武を策で潰すべく、布陣の変更をして戦端を開く。しかし、やはりと言うべきか、李白の成す策は尽く蒙武の武に破壊され、この日も蒙武軍に趙軍は蹴散らされる結果となった。

劣勢が続いた趙の軍師・趙荘は、状況を打破すべく、四日目に、全軍で蒙武軍を包囲し殲滅する大掛かりな作戦を打ち立てる。大胆かつ効果的な作戦ではあったが、経験からこれを見抜いた王騎は、精鋭の5つの部隊を全部、蒙武に預けるこれまた大胆な作戦で答えた。

そして、四日目の当日、蒙武軍を包囲する予定の趙軍は、全軍総攻撃で本陣めがけて押し寄せる秦軍の攻撃に押される一方となり、苦しい展開を余儀なくされる。勝利を確信した秦軍は更に士気を上げ勢いを増す。逆に趙軍の士気は下がる。しかし、ここで、趙の軍師・趙荘は、見方に援軍を出すのではなく、戦うこともなくあっさりと陣を後方の山中に下げてしまうのだった。

 

「蒙武様!奴等、戦いもせずに逃げていきます!」

「ハハハ!臆病者め!」

「如何いたします蒙武様?」

「当然追う!全軍前進しろ!殲滅だ!」

「「「「おおおおお!」」」」

 

逃げる趙本陣を猛追する蒙武。戦況は誰の目から見ても一方的に見えた。秦軍の誰もが勝利を疑わなかった。蒙武は勿論、その側近も、録嗚未や干央など王騎軍の軍団長も、王騎の副官である騰でさえ、ここからの巻き返しはないと考えていた。たった一人王騎を除いて。

 

「殿。どうかされましたか?」

 

王騎は今の趙軍の撤退に予め決められていた策のようなものの気配を僅かに感じていたのだ。

しかし、それは言語化するには余りにも薄いものであり、しかも、この撤退が策だとすると今迄の趙軍の敗戦が全て演技だと言うことになる。だが、それは無いと断言できる。王騎の経験があの敗戦は本物だと告げていた。故に王騎は僅かに顔を曇らせながらも、不審を口に出すことはせず、静かに命令を下した。

 

「………いえ。私達も追いましょうか。本陣を移しますよ」

「はっ!」

 

しかし、王騎の予感通りここには趙による壮大な「罠」が仕掛けられているのだった。ついに戦は李牧が策を張り巡らせた山中戦へと入る。ここから山陽防衛戦は怒濤の展開を見せるのだった。

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