「この度、我が
この神界に所属してまだ百年足らずの
「え? 私、転生事業に関しては未経験なのですが……」
「若い神の間では転生が流行っているのだろう? 君以上に適任がおらんのだよ」
若い神に流行っていたとして、自分がそれに詳しいとは限らない。実際、あんまり知らないし。知っていたとしても業務開拓できるレベルのわけがない。若いからという理由だけで無茶振りするのやめてもらっていいですか?
「あくまでもマニュアル作成とその運用をしばらく試してもらえればいい。大丈夫だ、失敗を恐れる必要はない」
知ってる。これ、失敗したら結局怒られるやつだ。クソが。
「――承知いたしました」
心の中でいくら文句を言おうとも、是以外の答えは持ち合わせていない。
転生に関してなーんも知らないけど、こうなったからにはどうにかするしかない。
言われた通り、失敗を恐れずにマニュアル作成してみせようじゃないか。どうなっても知らんからな。
☆ ★ ☆
転生の間(仮) ※転生者対応中。入室禁止。
神界の一室を適当に借りて手書きで張り紙をし、早速転生者を呼び出してみる。記念すべき一人目は、十代半ばの少年だ。
転生者の選別方法とかは知らない。そっちは私と同期の別の新神が担当している。たぶん私と同じように無茶振りされたのだろう。ご愁傷様。今度ネクタルでも飲みに行こう。
「え、あれ? 俺は死んだはず……。ここは…………白い空間。っていうか、なんかの事務室?」
椅子に座った状態で呼び出された少年、
すまないね、急遽用意したものだから、机と椅子ぐらいしか置いていない簡素な部屋で。やはりお客様を迎えるのだから、調度品くらいは飾るべきか? 神界生物のアクアリウムとかどうだろう。リヴァイアサンとか泳いでるやつ。壁紙も白一色では味気ないだろう。
まあそこは予算との兼ね合いもあるし追々考えるとして、今は転生者の対応、およびマニュアル作成である。
対面に座った私は、営業スマイルを心がけてゆっくりと転生者くんに話しかける。
「ここはとある神界の転生の間です。突然のお呼び出し、混乱していることかと存じますが、まずは落ち着いて質問にお答えください。えー……カトウハルキさんで間違いないですね?」
「え、は? はあ、そう、ですけど?」
「ご本人様確認のため、生年月日を言っていただけますか? 覚えているのであれば、享年と、死亡した日もあわせてお願いします」
うむ。やはり本人確認は必須だろう。間違いがあっては大変なことになる。そのくらい、新神の私にもわかる。
そう思って訊ねたのだが、転生者くんはより混乱を深めた様子だった。
「あの、状況が……うまく理解できないというか。俺は、死んだんですよね? あなたは神様か何かですか?」
む。なるほど。まずは状況の説明の方を詳しくしたほうがいいのか。
マニュアルに書いておこう。①まずは転生者へ状況を説明します、と……。落ち着いて状況を理解してもらわないと話をする段階にもならないため、という感じで付記もきちんと添えておこう。
マニュアル作成の際は行動の理由も付記すべきである。そうでないと、勝手に必要ないと判断して飛ばすバカがいたり、あるいは『ここ、なんでこうなってるんですか』と上神に聞こうものなら『それくらい自分で考えろ』と理不尽を叩きつけられたりするからな。クソが。最初から一から十まで書いておいてあげるのが優しさだ。
「あのー……?」
おっと、マニュアル作成していたら転生者君を放置してしまっていた。すまんね、一人目だから勝手がわからなくて。君の尊い犠牲のおかげで次の人からうまくやってみせるよ。
あれ? よく考えたら、なんでぶっつけ本番でマニュアル作成してんだ? もっと色々と事前想定して、マニュアルの草案くらいは作っておくべきだったのでは?
…………。うん、君の犠牲は決して忘れないよ、カトウハルキくん。略してカトハルくん。
と、そんなことは目の前の相手に言えないので、申し訳なさそうな表情を作って言う。
「ああ、失礼いたしました。ご質問にお答えいたしましょう――」
そうして一つずつ丁寧に説明をしてあげる。あなたは死にましたよ、死亡原因はこうですよ、ここは神界の転生の間ですよ、私は転生を担当する神ですよ、これから転生するので手続きのために本人確認や質問事項、注意事項がありますよ、と。こんなところだろうか。
しかし、「私はあなたの転生を担当する女神の――」と名乗ろうとしたところで、カトハルくんは興奮した様子で私の言葉を遮ってきた。
「これってつまり、神様転生ですよね!?」
「あ、はい。そうです、それです」
お、話が早いね。ふーむ、マニュアルでは転生のことを知っている人、知らない人で対応を変えるようにしておくか?
説明を省略できるならそうしたほうがいいよね。無駄は省くべきだ。んー、今回のカトハルくんは知っているようだから省略でいっか。問題あったらまたマニュアル変えよう。
「じゃあ、転生特典もあるってことですか!?」
「はい、そうですね」
「うおおおおおお! マジか!!」
カトハルくん、めっちゃ興奮してる。にやにや笑ったり椅子から立ち上がってガッツポーズしたり。リアクション面白いな、この子。こういうところが若い神の間で転生が流行る理由なのかねえ?
なんなら私より詳しいまである。私は結局、転生については事業の大枠くらいしか調べられてない。そもそも準備期間が短すぎたんだよ。クソが。
ま、転生特典のことまで知ってるなら話は早いね。
どんな特典がいいか聞いて、あとは送るだけ。いやー、案外楽な仕事じゃないの。
「それでは、どんな特典がよろしいですか?」
「え、俺が決めていいんすか!?」
あ、えーと。どういう形式がいいんだ、これ。要望を何でも叶えられるわけではない。転生を担当する神……これは転生者と面談する私ではなく、実際に彼を送り出す別の神なのだが、その神の権能の及ぶ範疇でなければならない。無から世界を創造する能力を! とか言われても困るのだ。
それに、参考にできるものがなければ転生者もどんな特典にしていいのか悩むだろう。カタログみたいな形で一覧を渡すべきか? そこに載っていないものについては別途相談、みたいな。
いずれにせよ、今は何の用意もない。とりあえずカトハルくんの要望を聞いて、可能かどうか担当神に問い合わせるとしよう。一度持ち帰って検討させていただきます、というやつだ。ちょっと違うか?
「じゃあ、俺……女の子にモテたいです!」
お、おう。なるほど……まあ、重要なことだな。あらゆる生物が生きる究極的な目的は種を残すこと。根源的欲求に従うその姿勢、実に素晴らしい。
しかし、モテるといっても具体的にはどうしたものか……そう思っていたら、カトハルくんは続けて要望を出してきた。
「もちろん、外見がかっこいいのはそうですけど、やっぱり強くなくちゃいけないと思うんですよ。でもチートというくらいあまりにも強すぎると逆に引かれるというか、トラブルも引き寄せそうだし。あ、そういう意味ではイケメン度もほどほどがいいですかね?」
いや聞かれても困る。
っていうか色々言っているが、どれも微妙にふわっとしているし。強さ? イケメン度? ほどほどってどれくらいだよ。指標を求む。それも含めてマニュアル作れって話か……。
うーん、やっぱりカタログ形式にすべきだな。これ! と決めるようにしないと、転生実行担当神もどうしていいのか困るだろう。そうなるともちろん、文句は私に来る。最悪、転生者突き返しの面談やり直しだ。クソが。
やばい。面倒くさくなってきた。
カトハルくん本人も具体的なビジョンはなく、ただモテたいみたいだし。こういう場合の認識のすり合わせは困難を極める。完成してから『これじゃない!』って言われるやつだ。顧客が本当に求めたものとは。
他の神界の転生神たちはどうしてるんだろう? もっと事前調査が必要だったな。時間をくれ、マジで。
ないものねだりしても仕方ない。この場でうまい方法を思いつかないと、グダグダと時間だけが過ぎていくぞ。
強さと容姿なら、まずは容姿から詰めるのが簡単か。
「そうですね……では、憧れの人物などいますか? その人物に似た容貌にするのはいかがでしょう」
「憧れ……あっ、アニメキャラとかでもいいですか?」
アニメか。人間界のサブカルにはあまり詳しくないが、ちゃちゃっと調べればどうとでもなる類だ。よし、この方向がよさそうだ。
「ええ。どうせなら、能力もアニメから取ってもよろしいですよ?」
「おおっ! だったら――」
そこから始まるマシンガントーク。好きなことを語るときは早口になるタイプらしい。私が神じゃなかったら聞き取れなかったくらいに早口だ。
えーっと……容姿はそのアニメの主人公のライバルキャラで、背は少し高くして髪の色も変えて。能力は親友キャラのものをベースにあれやこれや付け加えて。んでその作品のヒロインみたいなかわいい幼馴染が欲しい、と。
しれっとヒロインを追加してきやがったな、カトハルくん。別にいいけど。
聞いた感じ、どれも転生実行担当神の権能の範疇に収まっている。
「承りました。あなたの要望は全て叶えさせていただきます」
「はい! ありがとうございます!」
転生特典についてはこれで良し。
で、結局後回しになってた本人確認はきちんとしておいて……えーっと、順番前後したからわかんなくなっちゃった。他になにかやることは……ないか? たぶん大丈夫かな。うん、作業チェックリストも必要だね。
それに、聞き出した転生特典の要望をわかりやすく転生実行担当者に伝えるための
ふう……。まあ、反省点や課題は見えた。
特に、転生特典カタログは必須だ。
君の貢献は忘れないよ、カトハルくん。
転生実行担当神に連絡を取って、と。
――――うん、問題なしとの応答。そして転生準備完了。仕事が早いのはいいことだ。
「それでは転生いたします。ご準備はよろしいですか?」
「はい! 色々ありがとうございました!」
そうして目をキラキラさせたまま、カトハルくんは転生の光に包まれた。
君の来世に幸あれ。
☆ ★ ☆
さて、転生者第一号のカトハルくんを送り出したが、転生事業はそれで終わりというわけではない。
転生事業の何が利益になるかといえば――顧客満足度である。つまり、転生された者が満足のいく生を送れたかどうか。
簡単に言えば、その魂が得た『満足』が人間界でいうお金、売上というわけだ。
ということで、カトハルくんこと、カトウハルキの転生後の人生を振り返ってみよう。
彼は転生特典として望んだ通り、なかなかのイケメンの容貌を持ち、理想通りの能力を持って生まれた。すぐそばには同時に生まれたかわいい幼馴染の姿がある。
そうして生まれた彼の周りの風景は――――何もなかった。
見渡す限りの荒野。あるのは土と灰と恒星による強烈な光。虫一匹、草木一本も生えていない、およそ生命と呼べるものが何一つ存在しない世界。
我が神界の管理する第1048890号世界。通称、光の世界。
そこに生まれた彼は、その生涯を閉じた。
水どころか空気すらほとんどなく、恒星からの熱射が生命を一瞬で干からびさせた。もちろん、隣にいた幼馴染も同様だ。
…………あれ? どうしてこうなったの?