もしも天馬司がギャルゲーの主人公で、ヒロインがヤンデレだったら 作:イチカワヒナナテスカトリ
また次の更新も遅くなると思うけど許し亭許して
SIDE:星乃一歌
「で、どういうことなの? いくらみんなでも、アタシからお兄ちゃんを取ろうって言うなら許さないよ」
司さんの姿が見えなくなった頃、咲希はそう切り出した。
いつも笑顔で明るくて可愛い、私達のよく知る咲希はそこにはいなかった。
咲希は最愛の兄を引き離されて静かに怒っていた。いや、怒っていたなんて生やさしい表現は適さないかもしれない。
それはいわば……憎悪。
咲希から向けられる強烈な憎悪が、私を射抜いている。
一つでも返答を誤れば、きっと取り返しのつかないことになるだろう。
でも、ここで話さない方がもっと取り返しのつかないことになるのは分かりきっている。
今のままズルズルと問題を見ないフリをしていても、必ずいつか綻びが出るだろう。
だから私は、志歩と穂波を説得して何度も話し合って出したとある提案を伝えることにしたのだ。
「ううん、咲希。私たちは咲希から司さんを取ろうとしてるんじゃない。むしろ逆なの」
「……どういうこと?」
目を細めて訝しげに問う咲希。その視線からはありありと敵意が見える。
緊張で喉が乾くのを感じる。
もしここで決別してしまったら、また中学の時みたいになってしまうかもしれない。それも、決して治らない禍根を残して。それだけは絶対に避けなければいけない。
それに、私の『計画』に咲希の協力は必須だ。失敗は許されない。
私は努めて冷静に、言葉を紡いだ。
「まず、私達三人とも司さんのことが好きってことは咲希も気づいてるよね」
「うん。嫌だけど、お兄ちゃんを好きになっちゃうのは仕方ないことだとは思う」
「それでね、咲希ちゃん。わたし達も高校に入って司さんと再会した後、すぐみんな司さんのことがまた好きになっちゃったって分かったんだ。でも、その気持ちと同じくらい、みんなと喧嘩したくないってって思ったの」
穂波は続ける。
「だってせっかく昔みたいに仲良くなれたのにすぐまた喧嘩して離ればなれなんて、そんなの悲しすぎるから……」
瞳を潤わせる穂波。
中学の頃からずっと自分を抑えて私達と距離を取っていた穂波は、ようやく昔のように戻れた今の関係を大切に思っている。それは私や志歩も同じことだった。
それに、きっと咲希も。
「………………」
その切実な想いは咲希にも感じるところがあったらしく、悲痛そうな表情を浮かべている。
私達は共通して、司さんへの恋心と幼なじみへの友情を抱えている。優劣なんてつけられない、どっちも大切で譲れない想い。だからこそ、その両方を実現しなければならない。
私は強い意思を込めて切り出した。
「だから、私達全員で協力しようってことにしたの。咲希にとっても悪くない話だと思う」
「悪いよ、そんなの。だってお兄ちゃんはアタシだけのお兄ちゃんで、今朝だって『ずっと一緒だ』って約束してくれたんだもん! それに、そもそも四人でなんて普通じゃないよ!」
「じゃあ咲希は、一人で司さんに近寄る泥棒猫たちを退けられるの?」
これまで静観していた志歩が言う。
ここからは志歩の領分だ。
「無理だよね。現にさっきだって、私達に司さんを取られるって思ったんでしょ?」
「それはっ……」
「司さんのショー仲間の女の子二人、そして私達を含めた6人。私が把握してるだけでこれだけの人が司さんを狙っている。それに学校でも人気は高いらしいし。正直言うと私も出来ることなら司さんを独占したいけど、流石にこの人数を一人で相手することは出来ない。それならお互い組むことで敵を減らした方が効率良いでしょ」
志歩はいつもと同じ口調で、整然と畳み掛ける。
志歩の言いたいことを憚らずに言う性分は、誤解されがちで本人も気にしている所だけど、こういう場では頼もしい。
咲希は志歩に反論できず、悔しそうに唇を噛んでいた。
「でもアタシはお兄ちゃんとずっと一緒にいるって約束しただもん! そんなことしなくたってアタシは皆が欲しいものをもう持ってるんだよ」
「あのさ、それってはっきり司さんに『異性として好き』って伝えて受け入れてくれたってこと?」
「それは……」
「そうじゃないなら、多分咲希の気持ちは半分も伝わってないと思う。……司さんの鈍感は筋金入りだから」
冷静に話していた志歩だったが、最後の言葉だけ感情が籠っていた。
かくいう私も痛いほど実感するところだ。だって司さん、どんなにアピールしても全く気づかないし。結構攻めたつもりでも変な方向に誤解したり、間が悪かったりで全然伝わらないのだ。正直ライバルがいなかったとしても難易度高過ぎると思う。
「あとさっき四人が異常って言ってたけど、それ以上に兄妹の方が普通じゃな」
「志歩!」
私は慌てて志歩を止めた。
兄妹の恋愛が異常ってことくらい、咲希も分かっているはず。わざわざ藪をつついても私達にメリットはない。
「……ごめん、今のは言わなくてもいいことだった。でも、心当たりあるでしょ。司さんはああ見えて常識的な人だから、恋愛的な意味で咲希が好きとは思ってないと思う。このままだと咲希、取り返しつかなくなるかもしれないよ」
落ち着いた志歩はひとまず謝り、しかし言うべきことを言った。
咲希も思うとこがあるようで、俯いて考えているようだ。
愛情と友情、理想と現実、信頼と不安。色々な葛藤が胸を駆け巡っているんだろう。
つくづく、咲希にこんな顔をさせている自分が嫌になる。意図して咲希を苦しめているという事実が、重く心にのしかかってくる。
でも、これは避けられないこと。
いくら私達でもお互いを恋敵と思ったままなんの問題もなく仲良くできるとは思えない。仮にできたとしても、それは問題から目を背けているだけで何も解決してないのと同じ。
私達がまた疎遠になってしまう確率がほんの1%でもあるなら、その道は絶対に避けなければならない。
だから、こうするのが一番だと思った。
私だってこの提案が異常だってことくらい自覚してる。でも、後悔はしていない。
やれることはした。あとは咲希次第。
「咲希……」
「咲希ちゃん……」
「…………」
私達は、咲希が頷いてくれるのをただ祈った。
「わかった。みんなの提案、受け入れるよ」
どれほど経っただろう。
実際には五分にも満たないだろうけど、私達には数十分にも感じられた沈黙だった。
果たして葛藤の末に咲希が出した答えは、私達が望んでいたものだった。
「アタシからしたらみんなも泥棒猫だけど、他の子に取られるよりかはよっぽどマシだし。それに……」
そう言って顔をあげた咲希の顔にはすでに憎悪はなく、代わりに大粒の涙が頬を伝っていた。
「アタシ、もう絶対みんなと離ればなれになりたくはい! たとえお兄ちゃんのことでも、みんなのこと敵って思いたくないよ!」
「咲希……。私達も同じ気持ち。私達の提案を受け入れてくれて、ほんとにありがとう」
「こっちこそ、言ってくれてありがとう。いっちゃん、ほなちゃん、しほちゃん、頑張ってお兄ちゃんをアタシたちだけのものにしようね!」
「ふふっ、咲希ちゃんったらすっかりやる気満々だね」
「話まとまったならもう行くよ。朝からこんな話して遅刻なんて笑えないし」
「あ、待ってよしほちゃん! しほちゃんはなんか意気込みとかないの?」
「別に。いつも通りやるだけだし」
「あはは。志歩、あんな風に言ってるけど、ほんとは一番咲希のこと心配してたんだよ」
「ちょっと一歌! 余計なこと言わなくていいからっ」
実は咲希にこの話をするのを一番拒んだのは志歩だった。
お互い恋敵だって分かってても何も問題が起きてないから今のままでいいじゃん、と。
いつになく弱気だったけど、私達、特に咲希とまた疎遠になるのを恐れていたのはすぐに分かった。
「そ、そうだったの!? しほちゃん大好きーーっ!」
「ああもう、くっつかないで! ほら、やっぱりこうなるじゃん……」
鬱陶しがりつつも満更でもなさそうな志歩。
もう二人の間に殺伐とした雰囲気はなく、いつも通りの微笑ましい様子だった。
「……よかった。最初はどうなるかと思ったけど、一歌ちゃんの言った通りだったね」
「そうだね、本当によかった」
少し涙ぐみながら言う穂波に同意する。
二人を説得するときに『絶対大丈夫、咲希を信じよう』と言った私が言うべきじゃないけど、正直賭けの部分はあった。
もし断られたとしても次の手はあったけど、かなり早い段階からみんなに嫌われてしまう可能性があったから出来れば避けたかった。
本当に、うまくいって良かった。
一年前では想像もできなかったこの幸せな光景を目に焼き付けて、私は決意を新たにした。
…………私は、みんなも司さんも、もう二度と離さない。
離ればなれになる怖さは痛いほど知っている。だから、これから先何があっても、誰に非難されようとも、たとえみんなや司さんに嫌われようとも、絶対に離さない。
離れさせない。
離れさせてたまるものか。
私はみんなの笑顔を見て微笑み、そして提案とは別の『計画』が順調に進んでいることに安堵した。
激ヤバヤンデレヒロイン一歌ちゃん。ヤンデレ適性高いと言われている(俺のなかで)レオニードでもダントツでヤンデレが似合う女。
詳細は伏せるけど、一歌ちゃんの計画がうまくいったら司くんは廃人バッドエンドですね