双子として一緒に育ってきたのに
俺も太陽もどうしてこんなにも違うのだろうか。
物心ついたときから太陽のことを
「お兄ちゃん」や「兄貴」と呼んだことがない。
「たいよう」と呼び捨てでしか呼んだことが
なかった。
太陽も俺のことを満月(みつき)としか呼ばない。
太陽も俺も今やもう35歳。
太陽には奥さんがいて子供も2人いる。
暖かい家庭を持ちながら、
仕事でも出世コースをまっしぐら。
俺から見てもまぶしいくらい
輝いている人生を歩んでいる。
かたや俺は上司のパワハラによって休職中。
そんな状況の最中に......
・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
それは突然の出来事だった。
年々増える防衛費に税金の垂れ流し。
いつそれを実践で使うのかと
政府をバカにしていた俺。
その仮想敵国が仮想ではなくなったのだ。
突然のミサイルの飛来。
鳴り響く警報と携帯のアラーム。
道路には逃げ惑う人々。
休職中だった俺は意外に冷静だった。
どうすれば一番よいのかを考えていた。
難しい……
最適解が浮かばない。
というようなことを考えながら携帯を見る。
LINEが届いている。太陽からだ。
「曜子と火鞠(ひまり)・水聖(すいせい)と
父母を頼む」
まさか本当に戦争になるとは。
いや、日本国は敵国Xに攻撃をしていないから
侵略されているだけか。
まさか日本でこんな理不尽なことを経験するとは
思ってもいなかった。
携帯電話はパンクして繋がらない。
LINEもメールも音信不通に。
こんなにもいたのかと思うほど道路には
人も車も溢れている。
「みんな、どこにいくのだろう......」
と冷静に外を眺めている。
太陽に届かないLINEを送る。
「とりあえず今から太陽の家に行きます。
その後、お父さんとお母さんのところにいくよ」
もちろん、既読にはならない。
走って10分くらいで着く太陽の家に向かう。
道路に溢れ出た人間に目が奪われる。
子供を抱きかかえながら逃げる家族、
走れないおじいちゃん、おばあちゃん、
車のクラクションを鳴らす自己中な男。
それを見て俺は呟いた。
「まじ、戦争ふっかけるやつありえない」
「敵国Xの総書記、意味わからない」
「権力者、死ねっ」
・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
「太陽も俺も権力者を憎んだ」
「だから俺も太陽も権力者に転生したのか......」
・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
そこはテレビで見たことがあるような
大きな大聖堂の中だった。
きらびやかなステンドグラス。
そこから差し込む暖かい光。
荘厳な音色を奏でるパイプオルガン。
そして悲しい音色の鐘の音。
その場の状況が満月の目に飛び込んでくる。
なんとなく記憶に残っているのは
最後に手を伸ばしたこと。
そして爆弾で死んで天に召されたような
経験をしたこと。
神様の声も聞こえた気がする。
守り切ればもう一度みんなと会えると
言っていたような気がする。
「……………」
『もしやこれは異世界転生なのでは』
休職中にやることもなく、人と会うのが嫌だったので
ひたすらネプリのアニメを見ていた。
だからこそ、この状況をすぐさま把握できた。
(状況把握に努めよう)
と心の中で思う。
まず、体を起こしてみる。
視界の片隅に白髪でひげ面のおじいちゃんが映る。
「サンタさんがいる!」
と満月は思う。
「あっ!目が合った」
「...... ...... 」
「おおぅ、聖騎士団長様が復活なされた」
白髪のおじいちゃんが嗚咽を漏らした。
目の前には数十の人が
こちらに向かって祈りを捧げていた。
男女関係なく涙を流している者もいる。
その者たちのほとんどが海外の大学の卒業式で
着るような服を着ていた。
その中でも違った服装をしていたのが
最前列の4人だった。
何とか騎士団にでも出てきそうな鎧姿だった。
さらに首を横に振って周りを確かめてみる。
すると同時に大歓声が起こる。
「騎士団長様!」
「騎士団長様!!」
その大衆から声が鳴り響く。
(ん?騎士団長?)
心の中で思う。
そう思った瞬間、サンタのおじいさんが俺に近づき、
片膝をついて俺の手を握ってきた。
「ウァイト様。ウァイト様、
よくぞお戻りくださいました」
「これでこの国は再び守られることになる」
「神はわれらを見捨てなかった」
どうやら俺は異世界転生して
中世の時代らしきところに来たみたいだ。
それもなかなかお偉いさんに生まれ変わったみたいだ。
でもショックだ。
休職してから一年以上もの間、
他人とは話さない人生を過ごしてきた。
(無理、無理、人の上に立つのとか)
心の中で嘆く。
「あっ!転生したら性格変わったりしてるかも。
魔法とか特殊なスキルも欲しいけど、
それよりもコミュ力があるほうがうれしい」
そんなくだらないことを思う。
でもすぐに理解する。
そう思ってしまっている時点で前のままなのだ。
そんなことより状況の把握に努めよう......