side:No
「私、そんなに強くない。から…程々に、よろしく」
ショゼットのたどたどしい挨拶にも、相手は答えない。
「…えっと…話聞いてくれてる…?」
不安になって問いかけるも、返事は無い。
「…話す事は無い、ってこと…かな」
手近にあった石を手に取り、力一杯投げ飛ばす。
いつもよりも力が入っていたのか、それが飛ぶ下の地面は軽く抉れている。
それでも、所詮は石。
止められさえすれば、凶器にすらなり得ないのだ。
軽く右腕を振ると生じる衝撃波。
それだけで石は塵となる。
それだけではない。石も砕いて、ショゼットの方へ勢いを殺さないまま、彼女を飲み込もうとしている。
「何か…跳べる所…」
咄嗟に目に付いた瓦礫に足をかけ、力一杯跳び上がった。
おかげで足場は崩壊したものの、巻き込まれることなく空中で今も生き長らえている。
「このまま降りれば…!」
彼女の主な戦闘技能として、上空から対象を蹴る、<跳躍キック>が存在する。
そして、そこに重ねるのは<マーシャルアーツ>という技能。
元の世界の実数ダメージは、人間を…否、<神話生物>も一撃で木っ端微塵と化す。
しかし、それが本当に可能であるのは。
本当にそれを得意としているのは。
ショゼットではない。
当たるよりも先に、足首を掴まれる。
「ちょ…」
僅かな抵抗の声も、横に投げ飛ばされる事で掻き消される。
人が投げられたとは思えない程の轟音と砂煙。
「ごほっ、げほっ…い、いたい…」
フラフラになりながら、地面に手を着いて立ち上がる。
「…」
相手は何の言葉も発さない。ただ、黙ってショゼットを見ている。
その瞳には、光もなければ暖かさなんて欠片も見当たらない。
それが、ショゼットの戦闘意欲を焚き付けた。
揺れる視界が正常に戻る。
痛みなんて感じなかった。
「…ふふ、ふふふ…」
笑いが止まらない。
「…君くらい小柄なら」
たった1歩で急接近し、相手へアクションの隙すら与えず。
「…君くらい、軽ければ」
まるで、人形でも持つように、持ち上げる。
「…投げ飛ばせるね」
「なっ…」
思わず洩れた声を聞いて、ショゼットの口角が上がる。
初めて、人形をプレゼントされた子供の様に。
初めて、ヒトガタの物を見たとでも言うように。
初めて、遊び方を覚えた時と同じ表情で。
そして、言葉通りに投げ飛ばした。
宙に浮いた体を狙って、即座に立ち上がり、地を強く蹴る。
完全な力押しでも、蹴り落とすには十分な威力。
容赦のない蹴りが、彼の身体を真下に叩き落とした。
影星とショゼットを比較した場合、出目等も考慮すると圧倒的に影星の方が強い。
神話生物を一撃で葬ったのは影星。戦犯野郎のせい。