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両手は、靴とナイフで塞がれている。したがって、足技のみで戦わなければならないのだが、彼女はそれをいいハンデと捉えていた。
抑。
黒い子山羊には銃火器のダメージを最低限にするという装甲がある。
しかし、物理攻撃に対しての装甲は存在しない。
元の世界の影星でも、上手くいけば勝てる相手。
その程度の相手に、今の影星が負ける道理が無い。
勝利は既に約束されており、また同時に黒い子山羊は彼女の踏み台になる存在でしかない。
─尤も、1人分の命では足りないのかもしれないが。
そんな事は、素材の前では些細な事である。
足りなければ、より多くを殺せばいい。
ただそれだけの事だ。
「呪文試してみてーな…」
折角ならば、と自身に魔力を半分消費し、消費分で〈肉体の保護〉を使用する。MP増強の恩恵を受けた上の保護は、彼女の想像を超えていた。
黒い子山羊が唸り声を上げながら、巨大な蹄で踏み潰そうとする。
しかし、その途中で弾かれた。
「ちょっと固すぎじゃねーかこの保護?何の痛みもダメージもねーとかすげーな」
本人が驚く程の強固さは、神話のダメージをも無に帰す。
「どんだけ火力出るんやろか…」
軽く踏み込む。感覚としては、いつもよりも力を込めていないはずだった。
景色が一瞬で移り変わる。
目の前には大木。ではなく、黒い子山羊。
「…は?」
ほぼ反射で足を出す。大した火力が出ることは想定されていなかった。
靴底をつけた瞬間、黒い子山羊は数十m先まで吹き飛んだ。
流石の影星も、この事態は想定外だった為、大きな瞳を瞬かせて現状を把握しようとしている。
「……どうなってんだ……?私今足つけただけやろ…?三乗ってこんな出るんか……」
手からナイフが1本滑り落ちる。それは地面に落ち、乾いた音を立てた。
そして、彼女は確信する。
どうやら、思っていたよりもとんでもないものを得てしまった、と。
世界補正だけでも充分に強化されていたはずだった。
その上、HP・MP・身体の3つを増強出来るとなれば、今後の自分がどうなっているのか。
場馴れした影星にとっては、その後が想像に難くなかった。
天井がいくつかも分からない。
圧倒的なステータス。
それを得る事は、彼女の唯一の願いを叶えるものになる。
『恩人を護る事』
仇なす者は、皆殺さなければ。
「…ま、…遅くなるし行くか…それに殺して強化なんて私らしいもんな」
落ちたナイフを拾い上げ、学園へ向かって歩き出した。
粉々になった残骸は、見なかったことにして。
新しく〈〉は呪文を表記
<>は技能について