異世界探索記   作:紅色の落ち葉

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魔界調査 ─神格憑依─

 side:No

 

 近付いてくる影星に、トリューは恐怖した。

 反応速度、身体能力、模倣技術、どれをとっても人並み外れている。特に、模倣に関しては魔力の一欠片も感じさせず、しかも完璧に真似る程の精度。間違いなく、人間の皮を被った化け物だと確信した。同じ悪魔か、はたまた天使か。それとも、これが下界で噂の大魔王か。どの説であっても説明はつくし納得が出来る。全てにおいて有り得る話。だが、このまま黙って殺される程馬鹿でもない。

 トリューは、最後の抵抗として、近付いてくる相手に対し生命拡散(ライフ・バースト)を放った。

 

 影星は思う。

 あの技、さっきのものとはレベルが違うだろうと。真似るのは当分先になりそうだが、そもそもこれに逃げ場はあるのか?

 影星を中心に、頭上に展開されたその技は、既にドームのように全方位を覆っている。ここから逃げ出すのは不可能であり、門の創造があれば話は別だが生憎と魔力はもう尽きてしまった。破壊可能か試したいところだが、リスキー極まりない。未知の攻撃は受けない方がいい事は、さっきで明確になった事だ。後は、この技を受け流せるかどうか。

 そういえば、あのエネルギーは一体どこから湧いてきたのだろうか。魔力では無い、既にあの時は枯渇していた。であれば、それを利用する事も…

 と考える中、前触れなくドームが光り出す。この中にいたら、爆死かエネルギー波で死んでしまうということか、と死に直面している事を感じても尚、彼女を思考を止めない。己の才能と技術を信じるのみ。

 やると言えばやるし、出来ない事は抑言わない。それが彼女のスタンスだ。

 エネルギーを身に纏う。どれ程の強度があるのかは知らない。生きているかどうかも分からないが、試してみる価値なら十二分にある。這いよる混沌(知り合いの邪神)に、一縷の望みをかけて祈った。

 中央に、膨大な魔力とエネルギーが集中し──

 

 ドームが消滅し、煙が辺りに立ち昇る。

 『生命拡散(ライフ・バースト)』とは、ドームの中全方位から耐えきれない程の魔力とエネルギーを形にせずに突き刺すもの。故に、物理防御や物理結界等は効かない。では、能力耐性ではどうなのか?

 簡単に言えば、この技を完全に止める耐性はない。跳ね除けられるとすれば、 防御方面に秀でている場合のみ。平凡な人間がこれに耐えるのはまず不可能。

 

 …そのはずだった。

 

「嘘…生き、てる…!?」

 

 煙が晴れると、そこには無傷で立っている影星がいた。ゆっくりと、確実に歩を進め、どんどんと距離を詰められる。

 実を言えば、エネルギーを纏っただけで防ぎ切れた訳では無い。纏った以上の火力に、流石に焦った。

 無神論者にして、神格を尽く屠ってきた彼女らしくなく、心のなかで強く願った。その願いに呼応し、神々の力が共鳴する。

 そして彼女は得たのだ。【神格憑依】という新たな能力を。そして、防ぎきれなかったダメージを化身へと受け流した。衝撃に耐えきれず消えてしまったが、降ろした神は間違いなく力を貸してくれていた。

 神を自身に憑依させる事で、身体能力の大幅強化、神の力を行使する。神殺し(キラー)と呼ばれるが故の能力。

 

 トリューはそれでも諦めようとはしない。通じないと分かるや否や、今度はゼロ距離まで近付いた影星に拳を振るう。其れを難なく受け止め、動きを封じる影星だが、その瞬間に催眠魔法を使用した。

 途端に鈍くなる思考力に、気を抜いたら直ぐに振り解ける程入らない力。眠りに堕ち、死すのも時間の問題だった。

 

「っ…頭が…」

「まさかここまでしぶといとは思わなかった…けれどこれで終わり。貴方は抵抗も出来ずに──」

 

 腕を掴む力が強くなる。強力な魔法をかけたのにも関わらず、だ。思わず、トリューは驚きの声を漏らした。

 

「まだこんな力が…一体どこから…!?」

「なあ…お前…」

 

 冷たい声が鼓膜を揺らす。間違いなく、目の前の少女から発せられる物だ。

 更に言葉は続く。

 

「紫髪で青眼の可愛い悪魔がいるんだけど…お前、知ってるか?」

「何…知らない…そんな奴…」

 

 外見も種族も、まるで自分の事だ。だが、自分の事を指している訳では無いのは容易に分かる。では、一体誰の事だ?よく似た容姿の悪魔がいるとでも言うのか。

 

「そいつ、男の癖に私より可愛いんよ。まあ、知らねーだろうけど…そいつ…感情無くしたんだってさ。周りの環境のせいって言ってたぜ…」

 

 その「可愛い悪魔」とやらの感情がないのは、周囲の環境──即ち、悪魔族にあるのではないかと言いたいのか。

 そんな記憶、全くない…と言おうとして、とある事を思い出した。

 

 悪魔族で、紫色の髪に青色の瞳。そして、性別が男であること。

 

 かつて、子供がいた。

 しかし、その子は男。女が欲しかったトリューとその夫の神は、その子供を──

 

 全て合点がいった。しかし、だからと言って人間がこうまでして報復に来るものか?こんな事があって溜まるものか。ただの人間が、気高き魔族に敵対する事が如何に愚かであるかを、思い知らせてやらなければならない。

 

「…お前なんだろ、それ」

「だから何よ、誰に頼まれたわけでもないのよね。それを良しとする貴方は…紛れも無い殺人鬼ね」

 

 生命拡散(ライフ・バースト)を行おうとした瞬間、近距離で鳩尾に膝蹴りを食らう。受け止めろと言うには無理な火力で、気絶するかと言われればそうではない。今の一撃は、単純に技の発動阻止目的だろうと、分析するまでもない行動だった。

 

「殺人鬼で結構、好きな様に言ってくれていいぜ」

 

 怒りを含んだその声に、トリューは背筋が凍る思いをした。冗談でも皮肉でもなく、至って真剣なその声色は、決意のようなものが汲み取れる。

 

「私はこの力を、恩人を守る為に使うって決めた。…そいつらが守れんなら、私は自分が死んだって惜しくねーよ。その為なら誰だって殺す。…覚えとけ」

「うぐ…っ!?」

 

 足首に蹴りを叩き込まれ、軋轢音がし、一撃で身動きを封じられたトリューは、立つ事が出来ずに膝を着いた。

 

「お前らみたいな下衆野郎共には…

 

 絶対に負けねえ…!」

 

 体勢を崩したトリューを、渾身の力で蹴り飛ばす。催眠魔法での弱体化よりも増強の影響が大きかった様で、吹き飛ばされ消滅した。

 身体に負荷をかけてしまった自覚はある。その証拠に、頭は重く、魔力不足で今にも気絶してしまいそうになる。

 門の創造で帰れない以上、他の帰宅手段を探すしかないが…そんなものが見つかるとは思えない。とりあえず、疲れてしまった体を休めようと目を閉じようとした時、聞き慣れない声が影星に飛んできた。

 

「お前…こんな所で何やってんだ?」




多分もう影星が新能力得る事はないだろうね、確か
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