あんまり筆が乗らなかった話
あとそろそろこの小説終わります
side:No
同じ教室内。
觜霊は、椅子に座り、黙って愛用の刀の手入れ。夜鴉は、壁に凭れて、窓の外を見ていた。
そんな2人の空間に、一体の亡霊が飛び込んで来る。
2人共、亡霊との意思疎通は不可能。然し、何を伝えたいかが分からない程浅い関係を築いた訳ではない。
「…行くぞ、觜霊」
「承知」
外に飛び出した亡霊を追いかけて外に出ると、2人の目の前に玉虫色の物体が大量に蠢いている光景が現れた。
「なんだ…あれ…?」
「見た事が無い。」
この世界の生物では無いのかも知れぬな、と呟く觜霊の言葉に、無言で軽く頷き、未知の物体と交戦しているショゼットと天萊に駆け寄る。
「どの様な状況だ?」
「見ての通りです、よく分からないものが沢山いるので駆除中です…というか手伝ってください」
亡霊を巧みに操りながら、天萊は2人に恨みがましい視線を向ける。
「特に夜鴉…!貴方司令塔でしょう?仕事してくださいよ!」
「……」
言われたくない事を言われた夜鴉は、いつも以上に口数が減った。その様子を何となく見ていた觜霊だが、強い衝撃波が生まれたと同時に、ショゼットが足元へ転がってきた。慌てて起こすが、ダメージ自体を食らったわけでは無いらしい。
「む、無事か?しょ…しょぜっと」
「う、うん…大丈夫…」
立ち上がるショゼットだが、身の回りを確認して小さく声を漏らす。
「ラ、ライフルが…!」
吹き飛ばされた際に手から離れたライフルは、哀れショゴスに押し潰されてしまった。
「…壊され、ちゃった」
愛用していたものだけに、ショックが大きく悲しそうな目をするショゼット。その横では、天萊が夜鴉に諸々の説明を行っていた。
「…ですから、気絶でいいんですよ!」
「…誰が言った…?」
「影星ですよ、貴方が会ったあの!」
「…ああ…あいつか」
「そう!だからとりあえず気絶させておいてください!分かりましたか!?」
分かったのか分かっていないのか。夜鴉はショゴスに近付くと、躊躇いなく殴りつけた。
拳が玉虫色のそれにめり込む。
強風が発生し砂が巻き上げられ、視界が遮られる。殴られたショゴスは弾け、粘液が風と混ざった。
「…え?」
ショゼットから、驚きと困惑、そして疑問の意を含めた声が零れる。
「…思ったよりも脆かったな…」
気絶の話はどこへやら、夜鴉は一言そう呟く。
「…あの、夜鴉」
「分かってる。…ちょっと…力込めただけだ…」
「あ、はい…」
天萊が何かを言おうとしたが、その言葉に何も言わずに引き下がった。
驚いたのはショゼットである。
初めてこの世界に来て戦った相手が、まさかショゴスを瞬殺する程の力を持つとは思ってもみなかった。
「…ふむ」
觜霊が、鞘から刀を抜き取る。
そして、音の1つも立てず背後に回り、1匹のショゴスを斬りつけた。
だが、ショゴスに対し物理的な武器は殆ど意味を成さない。
故に、刀は弾かれる。
それを確認した觜霊は、ショゴスを躱しながら元の位置へと戻った。
「吾輩の刀は効かぬようだ」
「そうみたいですね…どうしましょうか」
会話を聞きながら、ショゼットはモヤモヤとしていた。
影星にいつまでも頼りきりで、その本人がいなくなって自分だけ。自分一人でも出来ると思っていたのに、結局は他人任せ。何も変わっていない。
本当に、弱いままだ。
「あ、危ない!」
「え?」
上から巨大な影が迫ってくる。
このままでは、ライフルと同じように押し潰されてしまう。
「觜霊!」
「了解」
夜鴉の司令に応じ、觜霊はショゼットを抱き上げ後ろへ跳ぶ。一瞬の後、音を立ててショゴスが地面に着地した。
安全圏まで下がり、觜霊はショゼットを下ろす。
「この場は危険故、校舎内にて待っていてはくれぬか」
命令にも近しい頼みに、然しショゼットは首を振った。
足を引っ張るばかりは嫌だ。
守られてばかりは嫌だ。
誰かの役に立てないのは嫌だ。
不必要だと捨てられるのが、嫌だ。
強い気持ちが、ここに来て初めて世界の型に嵌った。
自分が弱いが為に、大切な人が傷つかない様に。
全ては、彼女の理想の通りに動き出す。
「…?何だか…」
「あれ…?見た目が大分…?」
薄桃色の髪色は、水色に。
桃色の瞳は、金色に。
別人と見紛う程変化したショゼットは、ゆっくりと、確かにショゴスへと歩みを進める。
先程までの気弱な雰囲気はもう無い。
「ショゼット、下がっていてください!」
天萊が腕を掴み、ショゼットの動きを止める。
「…私も、戦いたい」
その言葉には、絶対に譲らないという強い意志が込められている。それでも、天萊は是としなかった。
「危険ですよ!あんなに多いんです、下がって──」
「嫌」
今度ははっきりと宣言する。そして、手を振りほどくとショゴスの方へ勢い良く走り出した。
異常な程速く、それでいて攻撃を的確に躱していく。
群れの中央まで辿り着き、足を止める。
一斉に、ショゴスが押し潰そうと距離を詰める。
その中心、両手を組み、目を閉じる。
「…【理想の世界】…!」
宣言と同時、その場にいたショゴス達が苦しそうに頽れる。
理想の世界。
文字通り、彼女の理想通りの世界。
望んだ理想は総て現実となる。
それが、彼女に与えられた能力だった。
この力を以て、彼女の『役に立ちたい』という理想は叶えられたのだ。
「…これなら、私も…!」
更に、壊されたライフルをその場に呼び出す。紛れも無く、同じものだ。然し、壊された形跡はない。当然だ。
それも彼女の理想だったのだから。
「…成程」
觜霊は刀を携え、一匹に峰打ちを仕掛けた。
ショゴスには、物理的な武器は効かない。
但しそれは、今となっては理想の外の話である。
通らなかった刃は容易く通り、峰打ちが決まる。
「…通る様に…なった…?」
不思議そうな声を上げる天萊。それに、夜鴉はたった一言。
「…覚醒」
「え?嘘、そんな事って」
信じ難いのも無理は無い。
覚醒は、身体能力を引き上げるだけでなく、新たな能力の獲得も有り得る。が。
覚醒者の数は、上限解放よりも少ない事に加え、新たな能力の獲得など、殆ど前例にない。あるとすれば美麗のみ。何処にも記されていない力。
夜鴉も覚醒者の1人である。然し、彼は新たな能力は獲得出来なかった。
彼はやれと言われれば何でもこなす器用な人物であり、出来ない事はない。それは、技術的な面でも、能力的な面でもだ。オールマイティな人物である事は、リーダーの紅葉もよく知っている。だから、夜鴉を司令塔に任命した。
その彼でも得られなかったものを、ショゼットは持った。
「…觜霊、下がれ」
「何故?」
「…彼奴の方が…早い」
「成程」
刀を仕舞うと、觜霊はショゼットの方を心配そうに見つめる。
ショゼットは、呼び出したライフルで次々とショゴスを撃ち抜いていく。勿論、殺さないように、だ。そうして、地面の粗方ショゴスが片付き、残りの個体は浮いているものだけ、と銃口を向けた時。
圧倒的な魔力の塊が飛来し、ショゴス諸共全員が爆風に押され、地に転がる。ショゼットの覚醒は切れてしまい、ショゴスは一匹残らず消滅した。
「な、なに…!?」
立ち上がれないショゼットの前に、人影が現れる。
「何かあったみたいだけれど、大丈夫?」
ショゼットが見上げると、暗く赤い瞳と視線が搗ち合った。