愛すべき生命
side:影星
移動した瞬間に自分がどこに現れたのか分かって、ついでに紅葉も見えて、なら今仕掛けるしかねーだろって思った上での不意打ち。
それなのに、避ける所か受け止められるとは思わなかった。しかも指一本、完全に舐められてる。
「急にボクに喧嘩売りに来てなんだい?」
「お前、感情を無くすのが教育方針って聞いたぜ。そんなん許されると思ってんのか?」
「許す許さないなんてキミには関係ない」
「そういう所が…」
弾き飛ばされた瞬間、指先からエネルギー弾を5発発射する。
「許せねーって言ってんだよ!」
飛翔速度は光速超え。さっき動いたばっかだから数打ちゃ当たるでいけると思ったのに、5発のうち4発を躱し、最後の1発は素手で破壊された。
そして、私に一直線に突っ込んでくる。
それなら、自分に有利な体勢で構えてればいい、と考えて──
「がっはッ…」
全身を貫く様な痛みが…違う、比喩じゃない。
視界で捉えられない速さで下腹部を文字通り貫かれていた。武器なんて無い、素手で、だ。
私の能力は主に自己強化に偏ってる上、今は魔力がない。素でフィジカル負けしてるなら、これ以上強くなりようがない今、完全に負けだ。
「…ここでキミを殺しても構わないんだけど」
紅葉は腕を引き抜く。留められていた血液が流れ出て、感じたことの無い寒さに襲われた。体を支えられなくて、地面に倒れ伏す。このままじゃ出血多量で死ぬな。
「記憶が抜けてるらしいからさ。少しだけ、思い出させてあげる」
その言葉と共に、脳内に映像が雪崩込んできた。
─────
音は無い。
でも、ここがどうやら小学校らしいという事は、生徒達の身長や見た目で何となく分かった。
私の目の前にいんのは…私と同じミルクティー色の髪をした奴。そいつは、どんどん上に行くから、私も後を追った。
4階に着き、尚も上へ向かう。その先には扉があった。それを開けると、外に出る。今のは屋上への道だったらしい。
先に屋上には人が立っていた。見た所、同じくらいか少し小さいくらいの身長だ。
何言か会話をしている様子が伺える。何を話しているのか、気になって<聞き耳>を立てた時。
そこで、急に音が─声が聞こえた。
「だからあなたがしんだって、誰も困らないよ」
聞き覚えのある言葉と声。
夢で見た、そいつと同じ。
それじゃあ、これは…
…昔の…私?
…夢で見たそいつは、こっちを振り向いて…
手の中の『それ』が太陽の光を反射して、鈍く光る。
頭を殴られたような衝撃。
思い出した。
いや別に、全部思い出した訳じゃない。
でも、だ。
少しだけ。今の私が殺しに躊躇いが無いのも、自分の命がどうなろうが知ったことじゃない理由も、思い出した。
手に持ったカッターで私を殺そうとしてきたのは、私の友達。
その頃、私はまだ死ぬのは怖いって思ってたから必死で抵抗した。元のフィジカルが良かったのか何なのかはわかんねーけど、気付いたら友達を殺してた。
それに気付いた後、私は人を殺したとか殺されそうになったとかで殺人癖と破壊衝動を発症した。場所が学校だったから、その後は警察が来るまで校内で暴れ回った。結果、死者数は教師と生徒含め13人。校舎は窓ガラスとドア、校庭は遊具の破損などの割と甚大な被害になった。
普通なら死刑レベルやけど、精神異常が認められた且つ、年齢的にも死刑にはならなかった。
そんな私がどこに行ったかと言えば、精神病院だった。そこで殺人癖と破壊衝動の治療を受けたものの、残念ながら治らず。そうして、6年を病院内で過ごした。
…私が殺す事を躊躇しないのは、殺人癖があるから。
自分の命を雑に扱うのは、本来死んで然るべき人間だから。
…ただ、それだけだ。
─────
「思い出した?」
目が覚めると、私はベッドの上に寝かされていた。側の椅子には、紅葉が座っている。傷はもう、とっくに塞がっていた。
「思い出したわ、でもなんであんなことしたん?」
「意味は無いよ。ただ、ずっと忘れたままなのはよくないのかな、と思っただけ。もう元の世界に帰れる、早く準備してね」
「…OK」
こいつを許すか許さないかで言えば、一生許す事は無い。
それでも、過去の自分を思い出させてくれた事は少し感謝してる。
だって、人殺しの私を隠さず受け止めてくれたって事やしな。
ま、許さねーけど。
起き上がって、靴を履く。この世界に適応出来るように改造された靴は、相変わらず私の足にフィットする。
「置いていかれたいの?」
「は、んなわけねーだろさっさと行くわ」
寮の部屋に置いてあった荷物も持ってきてくれたらしい。とは言ってもライフルとマシンガンはバズーカに変えられたから持ち物の数減ったけどな。
荷物を持ち、外に出る。
知らない世界、今までの探索とは何もかもが違ったけど…まあ、楽しかったし別にいいか。
この先だって、私の生活は変わらない。
行きたいように生きて、死にたいように死ぬ。
それが、私の過ごす一生だ。