褪せ人になった男がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:アーロニーロ
ああ、神様。私が何をしたのでしょうか。
「なんっっだ、こりゃあ……」
左手にスマホ、右手にコントローラーを装備してテレビ画面と睨めっこした俺は目の前の事実に困惑しながらそう呟くしかなかった。
今俺がやろうとしているゲームの名前は『エルデンリング』。フロム・ソフトウェアが開発し、2022年3月ごろに発売されたオープンワールドのアクションRPG である。ディレクターは『ソウル』シリーズでもおなじみの宮崎英高氏が務め、発表時の段階から「フロム・ソフトウェア史上過去最大のプロジェクトになる」と発言しており、世界中のフロムファンやファンタジーファンから注目されていたこともあってソウルシリーズを知ってはいてもやったことはない俺ですら興味を持っていた。
知った、というかやろうと思ったきっかけは5月ごろニコ○コの実況を見ていたこと。某投稿速度が異常なゆっくり実況者の配信を見たことがきっかけで一目惚れ。
当時はプレステ4買って無かったこと、成績が色々とアレだったこともあってやるのに数ヶ月ほど間が空いた。何度ここでクソが、と思わされたか。長くも魅力的なオープニングを眺めていざやるぞと勇足で始めようとし、今に至るのだが、
「いや、マジで、えぇ……(困惑)」
そのページに移動した俺は、思わずつぶやいていた。なんたって明らかに実況はおろか調べても見たことないような画面が表示されていたからだ。より具体的に言うと素性を選ぶ画面がおかしかった。
素性とはいわゆるジョブである。放浪騎士を筆頭に剣士、勇者、盗賊に星見、預言者、侍、囚人、密使、挙げ句の果てに文字通り装備なしの素寒貧に至るまで。あらゆる選択がある。人によっては見た目込みでここでうん時間も費やすほどの造り込み。なのに、
「なんで三つしか選択肢ねぇんだよ」
目の前の画面には、「魔術使い」「近接戦士」「祈祷使い」の三つのみである。ええ、嘘でしょ?やる前にアプデの情報を調べてもこんなのはなかったよ?というか、これがアップデート?笑わせんな改善どころか改悪ものまであるわ。ええ、これはないでしょと呟きつつも返品しようにも時間が経ちすぎた以上やるしかないのだ。取り敢えずは本来選ぶ予定に組み込んでいるであろう「魔術使い」を選ぶ。すると、
「いよいよもって壊れてんのか?これ」
今度はどう言うわけか装備品を選ぶ画面になっていた。えぇ、嘘でしょ(本日二度目)?返却案件だろこんなの。まぁ、選べるんだったら選ぶけどさぁ。そう思いながらも俺は
今思えば、この段階で
「ま、こんなもんでしょ」
選んだ装備は当初、素性として選ぶ予定だった「囚人」そのものにした。というか、重さ的にこれ以上のが装備できなかった。まあ、杖は他のにしたけどね。そうして次の画面に進む。すると今度は魔術を選ぶ場面に進んだ。もう突っ込まんぞ。良い加減この状況になれた俺は現状は使えそうな魔術を選んで。次に現れたのはステータスの割り振り。神秘と信仰がないことに軽く目眩を起こしそうになったが、これも少し知力に寄っているのを除けば囚人のステータスと同じにした。決定を選択し、キャラクター設定を終了させる。
画面が切り替わった。
『*注意!この選択は決して変更できません。よろしいですか?』
はいはいわかりましたよ。無駄な料金さえかからなければね。はいを選択。
『本当に何も変更はできません。それでも続けますか?』
だから、
「はい、っていってんだろうが!」
苛立ち混じりにはいを選択。瞬間、俺諸共、俺が存在したであろう痕跡はこの世界から消えた。
◇
「は?」
目の前の光景を前に出てきた第一声はこれだった。いや待て、おかしい。俺は確かに家にいた、のになんで外にいる?というか夜だったよな?なんでこんなに明るいの?頭の中が困惑で満たされていく。視線だけを動かすように軽く周りを見渡す。街全体を覆うように築かれた壁と中世寄りの街並みがそこには広がっていた。ちょっと待って、脳みそがバグりそう。って、あ、ぶつかっちゃった。
「おい、気ぃつけろ」
「あぁ、申し訳あり…ま……せ、ん」
「あぁ?なんだその態度は!」
何が気に食わなかったのかチンピラ然とした態度で怒鳴り散らしてくるが俺はそれが耳に入らない。俺とぶつかった男はなんの変哲もない普通の男だった。そう、
は?どうゆこと?
困惑のあまり煮え切らない謝罪になった上に上の空の俺に対して苛立っているのか胸ぐらを掴まれたがそれ以上に現実が追いつかない。つけ耳にしてはリアルすぎる。ソースは実家で飼い犬を飼っている俺。あ、今動いた。
OK、落ち着け俺。取り敢えず落ち着かせるよう自分に言い聞かせ、周りを見渡す。
余計に頭が痛くなった。
え?なんでって?犬の他にも虎、猫、兎などなど多種多様な耳が確認できたから。と言うかエルフもいたなぁ今。
「おい」
最近でも流行ってるかどうかは知らんが異世界転生を自分で味わうハメになったことに軽い現実逃避をしていると口元をひくつかせた男がいた。って、ああそう言えば喧嘩ふっかけられてんだった。
「へ?なんすか」
少しすっとぼけながらそう答える。今思うと本当に舐めた態度だったなあと思うよ。すると、胸ぐらを掴む力が強まり、拳を振り上げた。え?
「……もう良いわお前」
いやいや!!待て!チンピラさんが戦闘体制を取ってらっしゃる!ちょっと待て!他人に殴られるのって中学生以来なんですが!?ていうか周りは!?あ、目を逸らされた。他人事ですか、そうですか。そうこうしている間に目の前に拳が迫ってくる。あ、これ殴られるわ。痛くしないでね。そう思って目を閉じる。しかし、いつまで経っても痛みは襲ってこない。恐る恐る目を開ける。すると、
「ンー、流石に見てられないかな」
そこには槍を持った金髪の美少年がチンピラの腕に槍を引っ掛けて止めた姿がそこにはあった。ちっさ。え?待ってショタって言ってもおかしくないほどちっこいんだけど。ていうかどっかで見たことが、
「て、テメェは!」
「確かに彼の態度も悪かったね?だが、肩をぶつけられた程度で殴りかかるのはどうかと思うよ」
「〜〜ッ!」
文字通り大人と子供ほどの体格差がそこにはあった。にも関わらずチンピラは美少年に反論することもできない。少しもしない間にチンピラはまるで逃げるかのようにその場を後にした。被害者であるはずの俺はそんなことを気にすることもできなかった。だってわかってしまったかもしれないからだこの世界がどこなのかを。
「大丈夫かい?」
「え?ああ!はい!おかげさまで!」
うわ、はっず!めっちゃかくついた動きになったんだけど!ショタっ子は……目を丸くして、ああ、笑ってる。さもありなんと思いながら取り敢えず頭を下げる。
「昨日は飲み明かしたのかい?随分と惚けてるが……」
「はは、酒には弱いもんで」
嘘です。強い方です。なんだったら友人たちとの飲み会で周りが酔い潰れてる中で一人無事でした、はい。
「なら今度から気をつけると良い」
そう言うとショタっ子は俺に背を向けて去ろうとしていった。まあ、名前確認ができたら、間違えたらそれはそれでと打算ありきで再度俺は頭を下げた。
「ありがとう。……
二重の意味を込めて礼を言うとショタっ子、いや
「ダンまちの世界かよォ……」
◇
ダンまち、正式名称は『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』という俺がラノベ系統にどっぷりとハマるきっかけとなったラノベである。
世界観としては千年以上前の時代に後の『ダンジョン』と呼ばれる巨大な大穴から無限に産み出されるモンスターによって多くの人々が蹂躙されていく。しかし天界から神々が降臨し、『
この世界のことは設定を何度も読み直す程度には好きだけど。来たいか?と聞かれたら断じて否と答える。なんでって?この世界さぁ、割とシビアなのよ、色々と。主人公に対しても割と過酷な運命をふっかけてくるし、主人公の登場しない暗黒期時代にいたっては容赦してあげて?って思う程度にはガンガン人が死にまくってた。
「いや、まぁ、リ○ロやオ○ロに比べればマシなのかぁ?」
比較対象が死にゲークラスの世界と比較することでなんとかマシだと割り切って、近くにあった店のガラスで自身の全体像を確認する。……うん、これ。
「エルデンリングで設定した通りの装備じゃねぇかよぉ…」
うめきながら目を伏せる。そして再度自身の姿を見る。タコのような頭の防具に少しヨレヨレした服装、腰に細めの剣と杖を、片手に白銀のバックラーを装備したこの姿。紛れなく転移前に設定した自身のアバターである。と言うかチンピラさんはよくこんな姿した人間に喧嘩ふっかけたなぁ。この格好した奴いたら普通は避けるよ?将来大物になるよ、いやマジで。
頭の装備を外して顔も確認する。もしかしたら知らない顔が広がっているのでは?と思い、怖かったこともあって恐る恐るといった感じだったが、頭装備の下には見慣れた顔が広がっていて思わずホッと息を吐いてしまった。取り敢えずは一通り自身の身の回りは把握できた。後は、
「時系列、と身の振り方かなぁ」
こんなもんかなぁ。正直なんで異世界転移したのかなんて神でもないんだから考えるだけ無駄であるためパス。故にこの二つ。時系列に関しては街の活気を見る限り少なくとも暗黒期を抜けてそこそこ経ってるのは確定であるのは間違いない。はい、解決。問題は…
「マジでどうしよう……」
身の振り方である。文字通り神々が巣食うこの魔境でどう生きていくかに俺の人生はかかってくる。しくじることは出来ない。もし、もしだもし仮にあの未知や興奮が大好物な神々に自分が異世界から来たのだバレたら。
そう想像した瞬間、未だかつてないほどの怖気が背筋から全身に広がっていくのを感じさせられた。
怖い、怖すぎる。元いた世界でも古今東西、ありとあらゆる神話に悪い意味で神に目をつけられた人間の辿る末路がどういうものなのか。俺はよく知っている。ましてやこの世界の神はそういった娯楽のためならなんでもやるような連中に限りなく寄っている。となると一番必要なのは
「後ろ盾、だよなぁ」
となると必然的に上位、あるいは善神が経営するファミリアに加入することが重要となる。欲を言えばロキかガネーシャあたりが望ましい。そうと決まれば、さぁ!俺の冒険はここからだ!
〜1時間後〜
「お前のような輩は我がファミリアには相応しくはない!消えろ!」
「ハイ、ソウデスカ」
本日、8度目の門前払いを喰らいました。
久々の投稿です。誤字脱字や感想を待ってます。