褪せ人になった男がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:アーロニーロ
数日置いたらびっくりするくらい増えてたのでとても嬉しいです。今後ともこれらを支えに頑張りたいと思います!今回はキリが良いと言うこともあって普段よりちょっと短めです。
金髪に碧眼の王子様風のショタで年齢はおっさんという一部の貴腐人かショタコンどもが狂喜乱舞しそうな設定をお持ちのフィン・ディムナが執務室と思われる部屋のデスクに座って微笑みを浮かべている。
「この度は助けていただきありがとうございます」
形はどうあれ助けて貰ったのは事実なため俺は深く頭を下げる。
「頭を上げてくれ。君にそのような怪我を合わせたのはミノタウロスなのだろうが、元を辿れば僕らが原因だからね」
うーん、この。俺の謝罪に対して誰が聞いても100点満点の返答を出しやがって。頭を上げて顔を見ると微笑みを浮かべているのはこっちを安心させるためかな?手慣れてるというか何というか。
「自己紹介からいこうか。僕の名前はフィン、フィン・ディムナだ。一応この
オラリオどころか世界からでは?とか疑問に思いつつも、こちらも笑いながら名前を名乗る。
「ハハ…マナ・キャンベルといいます。身内とかにはマナと呼ばれてるのでディムナさんもマナでお願いします」
「そうかい?ならこっちもフィンでいいとも」
「そうさせて貰います」
「立ちながらじゃあなんだ。ソファーにかけてくれ」
「では、お言葉に甘えて」
指定されたソファーに腰をかける。おお、すごいなこのソファー。今まで座ってきたどのソファーよりも柔らかいけど変に柔らかすぎず、語彙力なくて申し訳なると思うくらいすごく座りやすい。座るとリヴェリアさんにコーヒーと紅茶どっちがいいかとか聞かれた。流石に断ろうとしたけど、遠慮するなと言われて取り敢えずコーヒーとだけ答えたら団長室から出て行った。
……あの人本当に
「随分と仰々しいですね。一応言っておきますが、俺が所属してるのは発足して間もない零細ファミリアですよ?」
「そして同時にこちらの引き起こした問題に巻き込まれた被害者でもあるね。しかもこちらの問題の片付けの手助けをしてくれたとなればそれ相応に迎え入れるのも当然のことだよ」
俺に対する歓待に流石に疑問を覚えたため口にするとそれらしいことを言って流された。
言い分としては大いに理解できるけど……ああ、まいったなぁ、頼むからもっと気楽な場所で気楽に対応してくれよ。こんなガチな対応されると緊張しすぎて体がガッチガチなのよ。飯食うところだって変に高いところより安くて気軽に食べれるところが好きなよ俺。
って言いたい。言いたいけどここまでの歓待をしてくれる人にそんなこと言えますか?少なくとも俺には無理です。というかニコニコしながらこっちを見んなや。原作でのお前を知ってる身としては胡散臭くてしょうがないんだよ。流石に居た堪れないから呼び出された理由を聞く。
「あのー。それで呼び出された事に関してなんですが……」
「ん?ああ、それならリヴェリアがコーヒーを持ってくるからその時に話そう」
……頼むリヴェリアさん早く帰ってきてくれ。居た堪れないっていうのもある。そしてこれは二度も助けて貰った人間が思うセリフじゃあないということは重々承知しているつもりだ。だけど、それ以上にこいつの見透かそうとしてくる目が心底気持ち悪いと思わざるを得ない。
仮に俺の何かを見透かそうとしているなら隠し切れる自信は微塵も湧かない。戦略とかの純粋な読み合いで全知零能な神の予想すら上回れる人物相手に腹芸はマジ無理です。
目の前の人物って素の頭脳が天才的なのにそれを数十年間磨きまくった奴だからね?対して俺は平々凡々な頭脳なのに対して磨かなかった。仮に言い合いになっても秒で負ける自信がある。一体勝つために何度もループする必要があるのよ。沈黙が苦しくなってきた頃に
「失礼します」
扉越しに声が聞こえてきた。よっしゃ来たぁ!声的にリヴェリアさんじゃあないのは確かだけど今この瞬間はめちゃくちゃありがたい!フィンが許可を出すと扉が開き二つのコーヒーを置いたトレイを持った山吹色の髪をしたエルフが現れた。っていうか、
「この声……あんたか?俺を助けてくれたのは」
「えっと……よく分かりましたね?」
「まあ何となくだったが…その節はどうも。あ、マナ・キャンベルっていいます。マナでいいです」
「レフィーヤ・ウィルディスです。家名の方だと長いので私もレフィーヤで結構ですよ」
まさかまさかの配膳相手は恩人様でした。それにこの顔に声は間違いない。【
「あのー、リヴェリアさんはどちらに」
どうしてレフィーヤがここに?
「流石にリヴェリア様に配膳をさせるわけにはいかないので。それに面識のある者がやるべきだと思い私がやる事になりました」
背景にむふー、とかいう文字が見えそうなくらい誇らしげに胸を張るレフィーヤ。ああ、なるほどね。確かにエルフからすればハイエルフであるリヴェリアが給仕の真似事なんてやらせるはずがないわな。というかデカいな。妹より年下なのに。妹が見たら発狂しそうだな。
なんて思いながら渡されたコーヒーを口に含み緊張した気を落ち着かせる。あ、美味しい。よし少し余裕ができたな。じゃあ、
「ところでフィンさん。俺が呼び出された理由を教えてくれませんか」
聞くこと聞いてちゃっちゃと帰りますか。しかし、態々呼び出してまで聞きたいことって何だ?口封じ?いやいや、こちとら謝罪金を貰ったか以上はしっかりと黙っとくつもりだから大丈夫だよ?
「ああ、呼び出した件についてだね。単純に個人的なことだからそんな気にしなくていいし、答えたくないなら答えないでいい」
個人的なこと?ますます意味がわからん。俺とフィンに接点なんてほとんどない。それこそあの日チンピラに絡まれた時に助けてくれたことくらいだ。そんな記憶なんて哀れな奴がいたな、ですぐに忘れるだろうし一体なんのようだ。
「装備品を見た。だから君があの日絡まれてた青年なのは理解出来る。その上で聞かせてほしい」
「?まあ、はい」
「
……ますます持って意味がわからん。覚えてた事にも十分驚きだが、それ以上にフィンの言いたいことが脈絡を得ない。何が言いたいんだ。まあ、でも。
「はい、その通りですが……」
それ以外答えようがない。フィンがこちらの瞳を覗き込むように見てくる。俺はそれを困惑しながら見つめ返すことしかできない。時間が数秒か数分かどの程度経ったのかわからない。それでもしばらく見つめあっていたことはわかる。するとフィンがフッと笑って目を閉じた。
「こんな質問の為に引き留めてしまってすまないね。答えてくれたことに礼を言おう。レフィーヤ、彼を門前まで送って行ってくれ」
「は、はい!分かりました!」
元気に返事してるレフィーヤには悪いが断ろうとする。が、考えてみればこんなだだっ広いホームに駆り出されても道に迷いやすい俺では迷子になること間違いなしだった為お言葉に甘えさせて貰った。道中、胸のでかいアマゾネスとすれ違ったらめちゃくちゃ嫌そうな顔され、褐色好きな俺が思わず凹んでいるとレフィーヤが慌てながら慰めてくれたことを除けば問題なく送り届けてもらえました。
「そんじゃまぁ、ありがとうございました」
「あの、本当にこちらの不手際で怪我を負わせてしまって……」
「いいですって。怪我も治して貰ったんですから」
最後まで頭を下げてくるなんて……本当に出来た子やでぇ、レフィーヤは。手を振って別れを告げるとそのままギルドへと向かった。初めはヘスティアの元に行こうと考えたが、ヘスティアに今回のことはまだ伝わってないだろうし後でいいと判断して後回しにした。
気絶していたせいか太陽も頂点に至っていて死にかけておきながら考えるのもあれだが、少しだけ小腹が空いてきた。報告終わったらベルと飯でも食うかと思っているとギルドに到着した。すると、
「エイナさん大好きー!」
ギルド内から知った声が知った名前に対して告白しているところだった。おーおー好き勝手しなさるッ。思わずウルージさん化してしまうが大体の時系列を理解する。というか、
「どんだけ逃げてたんだベル……」
アイツめちゃくちゃ足速いのな。足が速いの知ってたけど、ミノタウロスと戦った身としてはベルのステイタスに見合わぬ足の速さになんか補正でも受けてんじゃねぇのかと疑いたくなるよ。まあ、無事なら何よりだけどさぁ。
「よっす、ベルくん」
「ああ、すいません……ってマナ!?」
後ろから声をかけるとベルは驚いたようにこっちを見てくる。まあ、超強敵なやつの殿を任せた相手が無傷で戻ってきたら誰でもビビるわな。俺でもビビるもん。
「大丈夫!?」
「ご覧の通り。…まあ、死にかけはしたけど」
そう言うとベルの顔が真っ青になった。おー、赤くなったり青くなったりと忙しないなぁベルは。そんなことを考えていると背後から誰かが俺の肩を軽く叩いてくる。誰だ、ベルを弄くり回す遊びの邪魔をするのは。そう思いながら振り返る。
――――そこには見惚れてしまうほど美しい笑みを浮かべるエイナがいた。
どうしよう。すごい綺麗だよ?すごい綺麗なのにどうしてか手が震えるんだけど。プレッシャーがミノタウロス並みなんだけど。『笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である』なんて言葉がよぎる程度には怖いんだけど。
「マナさん」
「あ、はい。何でしょうかエイナさん」
思わず姿勢を正して、敬語になってしまう。やばいどうしようめっちゃ怖い。何だったらミノタウロスより怖い。
「リヴェリア様から聞きました。貴方がミノタウロスに挑んだということを」
「え?あ、はい」
「そして、私は悟りました。まっっっっったく、私の講義を聞いてないということにね!」
「待て、エイナ!これには深ーい訳が……」
「問答無用です!」
そこまで言うとエイナは俺の手を引っ張って個人用のルームに連れて行こうとする。ちょ!ちょっと待て!
「いや、ほら!この後、ダンジョンに潜らなきゃ「この後、ガネーシャ・ファミリアが他にミノタウロスがいないか確認する為にレベル1未満の冒険者の上層の立ち入りを禁止のお触書きが来てきます。なので今日いっぱいは潜れませんよ」……えぇっと」
まさかまさかの言い切る前に先読みして発言を叩き潰す。最後の手段でベルに助けを求める。あ、合掌してる。全てを諦め脱力するとエイナの力は強まって俺は個人ルームへ。
この日、俺の1日と頭の中全てが勉強で埋め尽くされた。
〜ロキ・ファミリアでの一幕〜
「ティオネさん。どうしたんですか、今日は」
「どうしたって……何がよ、レフィーヤ」
「いや何がも何も。どうしてお客さんにあんな反応してたんですか?普段ならもっと……」
「……別に何でもないわよ」
少しぶっきらぼうに言いながら私は早歩きになってレフィーヤから距離をとった。後ろから声が聞こえてくるけど気にせず自室に入った。
「気に食わないわね……」
レフィーヤが困惑するのも無理はない。私も初めはこっちの不手際で起こったことに申し訳なく思っていたし、顔合わせた時は謝るくらいはしようと思ってた。
だけどその考えはあの男の顔を見て変わってしまった。
別に単純に強そうとか弱そうとかそういう実力に問題があってあんな態度をとったわけじゃあない。そのあたりは
――――戦い方を収めた人間ならばわかるが『技術』はあくまでもモンスターを除いて諌める為に存在している。そしてその技術が他者の命を奪うことはまずない。そこを超えたものは『技術』ではなく『暴力』となるのだから。
だが、いるのだ。ごく稀に『暴力』と『技術』の境目が存在しない人間が。
「久々に昔の記憶が蘇ったわ」
かつて
「オラリオに来てまた見る日が来るなんてね……」
明日、レフィーヤが相手をどう思ってるかは知らないけど一声かけといた方がいいわね。そう思いながら遠征の疲れを取る為に私は眠りについた。