褪せ人になった男がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:アーロニーロ

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思い切って書いてみましたが、続き書くのが難しくなりました。

後、しばらく更新速度が遅れます。と言っても2日に一回だったのが、3日或いは4日に一回のペースになるだけなので安心してください。では、よろしくお願いします。

サブタイトル変更しました


悪夢

 

 あの後、衝動的にヘスティア・ファミリアのホームを出たわけですが、今残ってるのは羞恥心のみですよ。神々が子供のことを見透かしてくるのは知っていた。でも、ヘスティアでさえああも見透かしてくるとは思わなかった。

 

「これだから神々は嫌いなんだ……」

 

 ブツブツと半ば負け惜しみじみた発言をする俺に対して更に自己嫌悪を募らせる。一体全体何がダメなのかがわかんない。それでも考えろ。ヘスティアは何であそこまで怒った?傷ついて欲しくないとは言うが、冒険者なんて傷ついてなんぼな職業でしょうに。『目的』って何だ?それが無ければ強くなることも許されないのか?

 

 無理解が頭を支配する。疲れもあって頭の中が纏まらず思考が定まらない。苛つきが止まらない。頭を強く掻きむしる。ここまでの子供じみた行動を行なっていたことに我ながら何してんだろうと思うと意外と気持ちが沈んで熱を持った頭が冷えていき落ち着けた。

 

「無計画に飛び出すもんじゃあねぇな……」

 

 周りを見渡して、今更だけど日が沈んで辺りが暗くなり始めていることに気づいた。マジで今日寝泊まりするところどうしよう……。向こうじゃできるとこが少なかったけど宿屋って予約なしに泊まることって出来るのかなぁ。指で頭を叩いていると。

 

「ん?」

 

 奥の方から声が聞こえた。声的に少し焦っていることから絡まれてるのでないかと考えられる。

 

 多分、20日前の俺だったら気づくかことができなかったろうが、神の恩恵で強化された五感は容易く遠くの声を拾えた。興味は微塵もわかなかったが、心機一転の意味を込めて取り敢えず向かってみることにした。すると案の定。

 

「やめてちょうだい……」

 

「別に強要してるわけじゃねぇだろ?」

 

 女性の老人が少なくない数の冒険者に絡まれていた。……たまーにいるよな、ああいう冒険者。頼むから俺たちの品性まで疑われるからやめて欲しい。ま、何にせよ俺には関係ないことだな。その場を去ろうとすると婦人の声から焦りが見え始めた。……あんま良くはないんだろうけどさ。

 

 はぁ、とため息を吐きながら虚空から壊れた【青布の胴布】を取り出して青布部分をぐるぐると顔に巻くことで顔を隠し、冒険者の前に俺は躍り出た。

 

「あ?何だお前?」

 

 俺に気づいたのか。冒険者の頭らしき人間がこちらを見てくる。婦人もこちらを見てくる。怖いのはわかるが、見ている余裕があんなら今のうちに離れて欲しい。そんな事を思っている間に俺の後ろに数人ほど囲う。

 

 まあ、今は状況把握だな。えっと、敵さんが伏兵なしなら計4人ほど。3メートル前方に直剣装備のヒューマン、11時の方向にナイフ装備の狼人?犬人?で、6時の方向にナイフを持ったヒューマン、9時の方向に槍持ちの女、1時の方向にグローブ装備の小人族ね。

 

「くだらねぇ正義感に突き動かされたなら痛い目を「はい、1」ゴガッ」

 

 正面の相手に目掛けて長めのジャブを放って一時的に意識を奪う。突然の事態に全員固まったな。よしじゃあ次は。

 

「2」

 

 突然の事態に対処しきれてない11時方向にいるナイフ使いに加減ありの状態で放てる最大威力の蹴りを側頭部に叩き込み悲鳴も上げさせず意識を仕留める。うん、いい流れだ。

 

「て、テメェ!」

 

 お、ようやく動き出したな。1人だけっぽいけど。まあ、やることは変わらない。その場で脱力し、倒れ込む寸前で踵から踏み込むことで爆発的な推進力が発生。動いた槍使いの女と間合いを詰めると驚愕し、固まっているのがわかる。ま、こうなりゃ槍のアドバンテージも無いから振れんわな。で、アッパーが炸裂。うん、白眼確認ヨシ。

 

「3」

 

 念には念をと体勢を切り替えつつ体の回転を利用しながら膝をつき目覚めそうな正面にいた直剣使いのこめかみに手加減アリのフルスイングを叩き込んで今度こそ完全に眠らせる。で、最後は

 

「お前だけだな」

 

「ヒィッ!」

 

 お、完全にビビってるな。狙い通りとはいえ少し傷つくぞ?一応、婦人を襲われることが最大の懸念点だったけど問題なかったな。……まあ、そん時は手加減が消えただけなんだけどね。

 

「ま、待ってくれ!アンタの関係者だなんて知らなかったんだ!」

 

「ん?いや、この婦人とは初対面だぞ?」

 

「は、はぁ!?なら何でオイラ達を!」

 

「何でって……敢えて言うなら目に入ったから?」

 

 絶句する小人族の男。実際、俺の言葉に嘘はない。隣にいる婆さんのことは見捨てようとしたし、助けた理由も正義感に駆られたとかじゃなくて憂さ晴らしに近かった。まあ、我ながら何とも理不尽で情けない理由だな。

 

 それに少し前の俺だったら人殴るのも抵抗感があったのに今では問題なく殴れるあたりオラリオ色に染まってきたよなぁ。まあ、それはさておき。

 

「4」

 

 逃げようとしていた小人族の後ろに回り込んでチョークスリーパーをかけて首を圧迫。すると10秒もしないうちに泡を拭いて倒れた。ヨシ全滅だな。

 

「ご婦人、大丈夫ですか?」

 

 呆然とする婆さんに安心させるように微笑みを浮かべながら俺は話しかけた。

 

 

「ほらもっとお食べ。まだまだ若いんだから我慢は良くないわ」

 

「婆さんの言う通りだ。ほら皿出せ、盛ってやるから」

 

「ハハ……ご丁寧にどうも…」

 

 決して広いとは言えないが、下が花屋で出来ている二階建ての家で過ごす老夫婦と共に食事をする俺。我ながら意味の分からん状況だが、何でこうなったのか説明するには1時間くらい前に遡る必要がある。

 

 あの後、婆さんと一緒に近くの駐屯所らしき場所で陣取ってたガネーシャ・ファミリアの1人に襲われた事を報告。俺が説明した時は相手側に半信半疑念だったが、一般人の協力もあり無事説得完了。念ためにと現場に向かって気絶した連中を確保した。で、その後に宿屋でも探そうとしたら折角だし泊まって行けと言われて今に至る。

 

 初めこそ爺さんに警戒されていたが婆さんの説明のおかげで感謝されながら招かれた。因みになんでも花屋を営んでいるらしい。……なんというか可もなく不可もなくと言った普通の温かい家庭ってやつだな。

 

「にしても本当に強かったのよこの子」

 

「へぇ、そうなのかい。にしてはあんまり見た事ない子なんだが……」

 

「最近になってここに来たんです」

 

「ほぉ、そうかい。戦い方は誰から習ったんだい?」

 

「我流です」

 

 そう言うと爺さんも婆さんと感心したように頷いていた。……ああ、嫌だ嫌だ。また胸が痛くなる。頭の中で記憶が蘇る。老夫婦の優しさが今後歩むであろう人生全体の内の4分の1をお世話になった爺ちゃんと婆ちゃんを、父さんと母さんと妹と同じくらいの大切な人を思い出させる。やめろやめろこんなこと考えるなメシが不味くなる。思考を切り替えろ。

 

 ……そうだ俺の体について考えよう。ミノタウロスと戦って2、3回死んだ後からなんだが、いやに体が冴えている(・・・・・・・)

 

 例えばホームに帰って歯を磨いたときも歯ブラシ越しに歯の形がわかったり、服の繊維が肌越しで一つ一つ感じ取れたり、歩く時ですら足の小指から細かい筋肉、アキレス腱、ふくらはぎに膝、ふととももに至るまで踏み込むたびに筋肉の動き方が鮮明にわかるのだ。

 

 単純に言ってしまえばめちゃくちゃ体が敏感になってるというか、相手の動きも視線や腰の緊張感とかで見抜けたあたり認識能力が極限まで高まっているような感じがする。現に今持ってるスープをスプーンで掬うたびにスープの動きが感じられる。

 

 ……うん、強くなれるのは全然ウェルカムだけど明瞭すぎてちょっと気持ち悪いな。

 

「そう言えばどうしてあんなところにいたんだい?」

 

 ある程度気持ちが落ち着いてきたころに婆さんが俺に心配するように聞いてきた。

 

「まぁ、恥ずかしい話なんですがね。主神様と喧嘩してしまったんですわ。言い返せないくらい向こうが正しい事を知って我慢できなくなって、それで……」

 

 言葉にしてみればしてみるほど自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしてくる。これじゃあ、不貞腐れて家から逃げ出したガキもいいところだ。俺もう20代なのに……。口から乾いた笑い声しか出ない。

 

 俺の様子にあまり深く聞くもんじゃないと判断したのかそれ以上は踏み込んではこなかった。招いてもらっている身でありながら気を使わせている事実に申し訳ないが今はその優しさが有り難かった。

 

 あの後はこれと言った会話もなく―――何か話そうとしたがコミュ障な俺には無理でした―――食べ終わっり洗い物を済まて風呂に入った。寝る時にベッド使うか?とか聞かれたが流石にそこまで世話になるわけにもいかないため、床で眠ることにした。今日は絶対に悪夢見るな、と嫌なことがあったためそんな事を確信しつつ俺は目を閉じるとしばらくして眠りについた。

 

 

 目を開ける。眠っていたはずなのに俺はいつのまにか椅子に座っていた。体が動かない。不快に思いつつも周りを見渡す。そして暗かったはずの周りが明るいことに気がつく。

 

『疲れているようだけど、大丈夫?』

 

 女の声が聞こえてくる。声のした方に目を向けるとそこには妹がいた。ああ、思い出した。そうだ、今日は久しぶりに実家に帰ったんだった。

 

『ああ、平気だぞ』

 

 こう言った後に名前を言おうとして――――言葉が出なかった。あれ?どうしてだ?どうして名前が思い出せない。妹の名前だぞ?それも10年以上共に過ごしてきた。なのに何で。

 

『ただいまーって、あれ?直哉帰ってきてたの?』

 

『ああ、本当だ。連絡くれれば一緒にメシでも行ったのに』

 

 後ろから扉が開く音と聞き慣れた2つの声が聞こえてくる。父さんと母さんの声だ。そう気づいて振り返り――――愕然とした。顔がないのだ。まるで大きなスプーンでくり抜かれ、抉られたように。それはクトゥルフ神話に出てくるニャルラトホテプのような無貌によく似ていた。

 

 違う、違う、違う違う違う違う違う違う!そんな顔じゃ無い!父さんと母さんの顔は………なんで?何で思い出せない!?

 

 これは夢だ!悪夢の類だ!

 不出来な俺にあれほど手を貸してくれた人達を俺が忘れるわけない!!

 俺はそんなんじゃない!俺はそんなんじゃない!俺がそんなのであってたまるか!

 覚めろ!覚めろ覚めろ覚めろ!!頼むから目よ覚めてくれ!

 

 必死になって目を覚ますように体に訴えかける。すると椅子をすり抜けて体が水底に沈んでいくような感覚に襲われる。水の中にいるように息ができない。溺れるような感覚を味わいながら体が浮上していき、そして。

 

 

「――――ッッ!!!!」

 

 意識が浮上する。布団をはね飛ばし、上体を引き起こそうとして――――失敗する。体が思うように動かず倒れ込んだこと、胸が高鳴り胸が高鳴っていること、額に流れる汗と急速に巡る血液。それら全てが不快感を増長させる。這う這うの体になりながら水場に向かい水を飲む。少しずつだが落ち着いてきた。

 

「クソが……」

 

 悪態が漏れてしまうレベルの不快な夢を見せられた俺は過去類をみないレベルで不愉快になっていた。すると誰かの気配を感じた。虚空からいつでも武器を取り出せるようにセットしつつ目線を向けると心配そうにこっちを見つめる老夫婦がいた。

 

 ……うん、なるほどね。大体わかったわ。多分だけど気持ちよく寝てたらいきなり下の方で小さく無い物音が発生した。その音に何事かと思って恐る恐る見てみれば明らかに尋常じゃあない俺がいたと。時計に目を向ける。時刻は午前の3時半、明らかに寝ていた人が起きる時間じゃないし、二度寝するにしても起きるのに苦労する時間だな。そこまで考えが至った俺は

 

「本っっっ当にすいませんでした!」

 

 速攻で土下座した。え?オラリオに来て初めてした土下座の感想?最高に申し訳なかったです。

 

〜1時間後〜

 

「すいませんお世話になりました」

 

 あれからだいぶ心配された上にドタバタしながらも荷物をまとめて外に出た。これ以上お世話になるわけにもいかないってのもあったが、それ以上にあんなことしておいて居座れるほど俺の面の皮は厚く無いし、なれなかった。

 

「また来ていいのよ?」

 

「そうだな。困ったらいつでもよるといい」

 

 うーん、この。老夫婦の優しさが俺のハートを掻き乱す。ここまでして貰った上に心配して貰えるとか心底嬉しいよ。まあ、それはさておきだ。

 

「私に何か聞きたいことでもありますか?」

 

 そう聞くと驚いたように老夫婦が目を見開いていた。驚いてるけど、昨日から俺越しに誰かを見ているのは丸わかりだったからね?すると婆さんの方からポツリポツリと話し始めた。

 

 何でもかなり前に俺よりも幼かったが冒険者を拾って世話をしたことがあったらしい。けど、その冒険者の関係者に店を荒らされて老夫婦は大激怒。拾った冒険者は何も悪く無いことは知ってたが責めなければやってられず『お前なんか拾うんじゃなかった』的なこと言ってしまいそれっきりらしい。

 

 老夫婦、花屋、幼い、冒険者。これら4つのワードが俺の灰色の頭の中を駆け巡りある答えに辿り着く。……うん。何だろうか、すっごい聞き覚えのあるストーリーなんだけど。これ多分だけど冒険者ってアイツだよね?

 

「その冒険者の名前は?」

 

「リリルカ・アーデと名乗っていました…」

 

 ですよねー!何でこう俺は先んじて原作キャラと関わるんですかねぇ!?思わずそう叫びたくなるが相手からしたら意味わかんない上に騒がしいだけだろうから必死に抑えた。で?リリについてだったよね。

 

「成程、リリルカですね……。それで?どうしたいのですか?」

 

「あの子に会ったら儂らに教えて欲しいんだ。そして伝えたいんだ。申し訳なかった、と」

 

 んー、そっかー。でも俺なんぞに頼まずとも半年以内に確実に会って話ができるから気長に待てばいいと思うよ?でもなぁ、こんだけお世話になっておいて無碍に扱うのもなぁ。うーん。……まぁいっか。

 

「わかりました。会えたら伝えておきます」

 

「重ね重ね申し訳ない……」

 

 頭を深々と下げる老夫婦を見て軽く手を振りながらその場を後にした。……5分程度歩いてから、何を目的に動いてるのか聞いときゃよかったと思ったのは割愛させてもらう。





主人公、SAN値チェックです
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