褪せ人になった男がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:アーロニーロ

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遅れました


他問自答

 

 あれから色々と考えていたのだが、やはりヘスティアの言っていることが理解できなかった。それでも兎に角何もせず惰性のまま過ごすよりもダンジョンにでも行こうと思ったのだが、流石に朝の4時からギルドはやってない上にこんだけ注意力が散漫ではダンジョンで確実にしくじることが目に見えていたため素直に諦めた。

 

「はてさて、どうしたもんかなぁ……」

 

 座り込んで頭を掻きながらぼやく俺。さっきも思ってたけどヘスティアは何を思って俺のランクアップを先延ばしにしたんだ?考えられるのは嫌がらせとか陳腐なものばかりでどれもヘスティアという存在からは決して当てはまらないものばかり。

 

 こうなったらレベル無視して中層に突っ込むか?そんな考えが頭をよぎる。正直な話不可能では断じてない。こちとら不死身だから安全マージンを無視すれば何度だって挑むことができる。それに戦い方は相手の記憶には残らない以上は対策されないし、こっちの記憶は残るから俺は相手の対策がいくらでもできる。そんな相手からすればとんでも無いチートを持ってるのだから。

 

 ……いや、やっぱりこの考えは無しで。仮にゾンビアタックの要領でトライアンドエラーを繰り返していけばミノタウロスを討伐した時のようにいつかは十八階層とかに辿り着けるだろう。だが、現状でのステイタスはそろそろ頭打ちになりつつあるため成長量はかつてほどではないだろう。それにそれをやったら今度はステイタスの更新すらやってもらえなくなる可能性がある。故にこれは本当の最終手段だな。

 

 しかし参った。惰性に溺れながら過ごす事ははっきり言って好きだ。時間を無駄にしてる感覚がすごくたまらないから。でも、悩み抱えてる状況での惰性ほどキツイもんは中々無い。時間が嫌に長く感じる。うーん、そうだなぁ。……ああ、そうだ。

 

「酒でも飲むか」

 

 アルコールに溺れよう。

 

 我ながらダメ人間の見本市のような発想だ。はっきり言ってこんな朝っぱらから酒盛りなんぞめちゃくちゃ嫌だ。でも案外こういう時こそ現実逃避して見れば見えない景色も見えるもんだろうさ。正直な話、アルコールには強いけど酒は得意ではない。けどそれは炭酸が苦手なだけでワインとか日本酒とかだったらまぁ、きっと、多分いける。それに幸い金はたんまりあるしね。

 

「いざ行かん、酒屋へ」

 

 俺が朝っぱらから酒盛りするなんて昔の俺が見たらなんて言うかなぁ、なんて思いながら酒屋へ向かって行った。

 

 

「品揃えいいな……」

 

 店入った第一声はこれだった。朝一番に来たこともあってか品揃えがめちゃくちゃいい。エールとかビールとかの類もあるが日本酒(後から聞いたがここ(この世界)では極東酒というらしい)やワイン、梅酒などバリエーションもかなりのものだった。

 

「さて、何飲もうか」

 

 前にも言ったが俺は酒に強くてもあまり酒を嗜むことがない。周りにも勿体無いとか言われるがよっぽど疲れた時とか親戚の集まりや友人との飲み会の時、腹が立った(殺意に目覚めた)レベルでストレス溜めた時ぐらいにしか飲まないし、飲む気が湧かない。だからいざ酒屋に行って酒の種類並べられても何が美味いのか全くわからんのだ。

 

 取り敢えず、炭酸無理だからエールとビールは論外として普段飲んでる果実酒と梅酒とか?ああ、でも飲む機会の少ないウィスキーと焼酎あたりもありだな。うーん、久々に飲む以上は美味いの飲みたいし悩まされるなぁ。えっと俺の手持ちが今50,000ヴァリスだから正直この店にある酒は大体手が届くのよね。

 

 自身の稼ぎの良さに少し感謝していると『ソーマ』と書かれた酒が目に入る。……マジか、ソーマってあれだよな?今日の朝の老夫婦との会話に出てきたリリが所属してる【ソーマ・ファミリア】の主神ソーマが直々に作成した酒の失敗作(・・・)だったよな?ダンまちの世界にいる以上はいつか見ることができると思ってたけどまさか現物を拝めるとは。

 

 えーっと、値段は。……うっわ、40,000越えとか人生舐めてるだろ。しかも量も目測で大体、400mlのペットボトルくらいの大きさしかねぇし。他のは一升瓶サイズで1,000ヴァリス超えるくらいなのに。

 

「店主さん。これって本物?」

 

 店主を呼び出して本物かどうか問い詰める。俺は冒険者やっててベルとは違いやたら悪漢と出会す機会に恵まれてるからか戦闘面だけで無くある程度の会話での『技と駆け引き』を学んでいる。だから少しくらいは嘘を見抜くこともできなくはない。流石に贋作に40,000払うのは嫌だしね。

 

「おお、お目が高い!そうなんですよー、先週から仕入れたものなんですよー」

 

 店主らしき人がこれぞ愛想笑いといった笑みを浮かべながら本物であると告げる。……うん、胡散臭いけど嘘は言ってないな。

 

 んー、でも悩ましいところだ。値段と量的に全く釣り合ってない。だけど原作では酒好きで知られてるロキは兎も角としてハーフとは言え酒を飲むこと自体が少ないであろうエルフであるエイナですら絶賛していた。それにソーマはこの世界にしか存在しない超激レアな代物ときた。さてと、どうしますかねぇ。

 

 口に手を当て、考える素振りを見せる俺の判断はいかに!

 

〜10分後〜

 

「ありがとうございましたー」

 

 やれやれ、400mlのペットボトルの飲料水と同等の量しか含まれていない酒に40,000ヴァリス以上?haha!ご冗談を。あれ買うのって金に余裕のある富豪か、それとも余程のバカのどちらかだろうな。そんな奴が一体どこにいるってんだよ全く………。

 

 

 

 俺だ

 

 

 

 ……我ながら自分の行動に何やってんだとしか思えない。あの後、10分くらい悩んだんだけど欲望には勝てなかったよ……。この場合は余裕のある富豪とバカどっちに当てはまるんだろう……。後者かな?そうじゃ無いといいなぁ。

 

 あ、因みにだけど謝罪金には手をつけてないよ?これはロキ・ファミリアからヘスティア・ファミリアに対しての謝罪金であって俺個人に対してのじゃないからね。ちゃんと自分の手持ちで払いましたとも。大枚叩いたという後悔とか色々あるけど酒自体にあんま期待はしていない。

 

 だって、酒一本しかも通常の4分の1の大きさしかないんだよ?これに通常の酒の40倍の美味さが詰まってると思いますか?ビスケット・オ○バだって世界一うまいワインを飲んでせいぜい美味さは数倍とか言ってたんだ、絶対にない。あったら酒好き共が犯罪犯すのが目に見えてる。というか飛び抜けて美味いと思うほど俺は単純ではないし期待するつもりもない。

 

 だか、美味くないはずもない。

 

 一応、原作でも飲んだエイナや飲まずとも香りの面ではあの酒を飲んだことのなさそうなハイエルフとかいう高等種族のリヴェリアですら誉めていたのだ。しかも値段は俺の日に稼ぐ金額の2倍以上である。

 

 え?不味かったら?……取り敢えずは酒屋に向かって魔法をブッパした後に二度と商売やってけないように仕向けますね、死に戻り使ってでも。こっちの40,000って日本円で大体12、3万円くらいだよ?それくらいして当然。

 

 で、どうする?このままそこらで飲むか?いやでもそれはあんまりにも値段に釣り合ってないし、かと言って1人で飲むのもなぁ。

 

「あれぇ!?ソーマ仕入れてたんとちゃうん!?」

 

 飲み方について模索していると後ろから関西弁が聞こえてきた。従兄弟が大阪に住んでいたから聞く機会もあって割と懐かしく感じる。まさかオラリオで聞けるとはと思いながら振り返ると。【ロキ・ファミリア】の主神であるロキが店主に問い詰めていた。

 

「申し訳ありません、ロキ様。ソーマを仕入れたと言っても今回はお試しということもあって数が少なく先程売り切れてしまいまして……」

 

「えー!そんなの嫌や!ウチがあっちこっちで探し回ってよーやっとここにあるって聞きつけたのにー!」

 

 店先で騒ぐロキを見て思ったことは一つ。店主、クソ哀れ。

 

 俺も飲食店でバイトしてた時期があってクレーマーの対応に追われたこともあったからよく分かる。ああいうのが1番めんどくさいことを。頼むから無いもんは無いで納得してくれと何度思ったことか。おーっと、駄々こね始めたぞう。いいのか女神がそれで。しかもここ路上だぞ?

 

 あ、店主と目が合った。あからさまに助けてくれと目が訴えかけてくるけどどうしたものか。うーむ、助けてもなんの得もない。寧ろ、最後のソーマを買ったのが俺である以上面倒ごとが起きるのが目に見えている。でもなぁ、一応貸し借りなしとは言えロキのとこにはお世話になったし、見捨てるってのもなぁ。

 

「……ハァ」

 

 俺の口から口から面倒くさそうにため息が漏れでる。めちゃくちゃ話しかけたく無いけど。話してはみよう。それに1人で飲むのもなんだしって思ってたから丁度いいか。

 

「あのー女神様?」

 

「あ?」

 

 取り敢えずは腰を低くして声をかける。……おいおいコイツマジで女神?ヘスティアもぐうたらしてたけどまだ気品があったよ?そんな考えが浮かんできたが必死に抑えつつ本題に切り掛かった。

 

「良ければですけど、一緒に飲みません?ソーマ」

 

 そう言いながら袋からソーマを取り出すとロキはキョトンとした顔をした。次の瞬間、めちゃくちゃ嬉しそうに破顔しながら「呑むー!」と叫んでソーマを持った俺の手を包み込んだ。

 

 

「いやー、自分めっちゃええ奴やなぁ!」

 

「いえいえ、1人で飲むのも退屈だと思ってたところ見る目麗しい女神と酒を飲めるのですから寧ろこちらこそ礼を言いたいですよ」

 

「そないに誉めても何も出ないで〜」

 

 いやんいやんと体をくねらせながら照れくさそうに言うロキに苦笑いしつつも2つのおちょこ―――店主から感謝されながらもらった―――にソーマを並々と注ぎ込む。……驚いた本当に鼻に巡る香りが今まで飲んできたどの酒よりもいい。……うん、匂いは良し。で、問題は味だよな。原作を知ってるからソーマ・ファミリアの連中のあの薬中みたいな様を見てる身としては少し不安だ。二つのおちょこのうち一つをロキに渡す。

 

「「乾杯」」

 

 溢れないようおちょこを気をつけながらおちょこを当て、一口で飲む。

 

 そしてあまりの美味さに驚愕した。

 

「かー!相変わらず美味いわー!」

 

「これはまた……」

 

 いや、これはすごい。これは40,000の価値があるわ。感動のあまり咄嗟に口から美味いの言葉が出てこなかったもん。美味くて感動してるのもあるけどそれ以上に俺の体にも大いに原因がある。

 

 それは、スキルの影響からなのかそれとも純粋にこっちに来た弊害なのか分からないがどういう訳か俺の体は欲が薄くなってたのだ。

 

 元々、俺自身あれも欲しいこれも欲しいという事はなくとも人並みかそれ以下の欲はあるし、人間である以上三代欲求もしっかりと存在していた。

 

 しかし、今ではそれら全てが嫌に薄い。その上、欲も満たされにくくなっていた。食べ物を食べても美味いと思いにくくなって腹がいっぱいになった時の満足感が無く、寝て起きた時のスッキリとした感覚がないなど割と大変だったし混乱もした。

 

 しかしソーマを飲んだ瞬間、久々に満足感が生まれていた。これは本当に驚いた。しかもこれで失敗作というのだから信じられない。そりゃ本物飲んだ連中も薬中みたいになる訳だよと1人納得しつつ余韻を味わっていた。

 

「で?何が聞きたいん?」

 

「ん?と言いますと?」

 

「すっとボケんなや。ウチがソーマ探したとったタイミングでソーマ持って現れるなんてタイミング良すぎやろ」

 

 ああ、そういう事ね。ロキの言いたいことがわかったわ。多分、俺が打算的にロキより前にソーマを買い取っておいて、その後にソーマを買えなくて駄々こねてるロキに対してソーマ持って近づくことで会談にこじつけたと。……なんか俺随分と打算的な人間だと思われてね?だとしたら本気で心外なんだし、知ってて引き入れたロキもアホなのでは?んー、まあ話も合わせやすいしそれでいいか。

 

「そう思うなら何故、俺を自分のホームの個室に引き入れたのですか(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

「んなもん、酒飲んで腹割って話すんやさかい、家で飲むのが当たり前やろ」

 

 うーん、この。微塵も警戒してないあたりマジで俺のこと脅威と思って無いなこれ。まあ、流石に窓側から2人、ドア越しに1人の気配を感じるあたり無防備ってわけじゃあなさそうだな。

 

「あと」

 

「ん?」

 

「自分が昔のアイズたんに似とったからやなぁ」

 

 ……おおっと、これはまた意外な評価。

 

「かの【剣姫】と似ているとは嬉しいですね」

 

「可愛さならダントツにアイズたんが上やで?当たり前やけども。……ウチが言わんでも自覚しとるやろ、自分も」

 

 ええ、自覚してますとも老夫婦の洗面台の鏡と睨めっこしたその時から。……いや、下手したらヘスティアに指摘されたその瞬間から自覚はしていても気づかないふりをしてたのかもしれないな。

 

「危うすぎる、下手したら昔のアイズたん以上に」

 

 俺の沈黙を肯定と受け取ったのかロキはあえて口に出して答えてくる。……ヘスティアと言いロキと言いどいつもこいつも気づいてるから言わんでもいいのに。神ってのはデリカシーが無くていけない。……まあそれでも口にしてみなきゃわかんないのも事実か。軽くため息を吐いて相談する事を決意して話し始めた。

 

「ロキ様。俺は――――」

 

 そこから一通り今に至るまでの過程を話した。悩んでること、目的を見出せないこと、主神の言葉が理解しきれないこと、そんな自分に苛立ちを覚えていることを。酒もあってすらすると出てきた。真剣な顔しているあたり、本気で聞いてくれてるのがわかる。

 

 そんな事を思っている間に言いたい事全てを言い終えた。ロキはおちょこを持つのをやめて口に手を当ててた。正直、めちゃくちゃ気になる。ヘスティアがランクアップを見送ってまでしたことの真意を今ロキの口から聞けるのだから。

 

「わからん」

 

 しかし、口から出てきた言葉はその一言だけだった。

 

「は?」

 

 思わず外行きの敬語を崩すレベルで驚愕する。……え?それだけ?あんだけばかすか酒飲んだせいでもしかしてロクな思考も回すことができなくなった?ドン引きしていると俺の様子に気づいたのか「ちゃうちゃう」と言って手を横に振りながら

 

「自分が何でそこまでしち面倒くさく考えとるのがわからん、って言いたいんよ」

 

 そう言ってきた。……すまん答え求めておいてあれなんだが、ロキの言いたいことが全くわからん。もう少し、詳しく説明してくれないか?首を傾げている俺を見てロキは軽くため息を吐くとおちょこに入ったソーマを飲む。

 

「あんなぁ。目的ってのは別に無くても生きていけるんよ」

 

 そしてヘスティアの言葉を全面的に否定し始めた。……えっと、どういう事?つまりヘスティアは嘘ついてたって事?それとも目の前の無乳(ロキ)が適当なこと言ってだけなの?どっち?個人的には付き合いが長いからヘスティアの言葉を信じたいけど。

 

「あの?どういうことですか?」

 

 首をフクロウのように傾げながら聞く俺を見て「言葉足らずやな」というと引き続き説明し始めた。

 

「要はな?破滅する奴はするししない奴はしない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。そこに目的が有ろうが無かろうがな。多分やけど自分とこの主神って別に自分に対して目的探させるために外出すの許可したわけやないんじゃないの?」

 

「ええ……」

 

 そんなのありぃ?いやまぁ確かに目的なんて一朝一夕で思いつくもんじゃ無くて人生かけて探す奴もいるくらいだしね。あん時言った『生きるため』も死にながら戦ってる俺が言うには矛盾しすぎてたから無しだろう。それじゃあ、一体

 

「何を気づかせたがってるのですか」

 

「それは自分で考えた方が良え。そこをウチが指摘して、仮に知れてたとしても本当の意味では知れなくなるで(・・・・・・・・・)?」

 

 矛盾した事を嫌に断言するじゃないの。となると振り出しだな。いやでも目的じゃ無いことを知れたことは一歩進んだって認識できるのか?

 

「しかし、自分ほんまに主神に恵まれたなぁ。中々無いでそこまでつき添える神は」

 

「はは……ありがとうございます」

 

「ホンマやなぁ。……さ、今日はもう帰りや」

 

「ありがとうございました。ああ、ソーマはそのまま持っていってください」

 

「お、あんがとさん。最後にウチからアドバイスや。頑張りぃ、そして楽しみな人生を心ゆくまで」

 

 取り敢えずはここまでにしてあとで思考を纏めるか。手元にあったおちょこを架空に仕舞い込んで席を立つ。酒に関しても十分味わい尽くしたからロキに譲った。なんやかんや曖昧な答えになったけど相談に乗ってくれたし、最後の最後で女神らしい一面も見ることができたから無駄ではなかった。

 

 ロキに一度頭を下げて礼を言うとその場を後にした。






少し雑かなぁって思いながらの投稿でした。

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