褪せ人になった男がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:アーロニーロ
少し短めです。後、しばらく海外旅行に行ってきます。ペースが落ちるか最悪20日ほど投稿は出来ません。出来ればすぐに復帰しますので期待して待っていただければ幸いです。
あれからひたすらにベルと共に行動を共にした。キラーアントを筆頭にインプやニードルラビット、果てはこちらの階層に上がってきた10階層あたりに巣食ってるはずのハードアーマードなども相手取ってた。意外なことにベルは対応能力が俺よりも高く初めこそ手こずってはいたが、すぐに相手の動きを見切れるようになっていた。
そして戦いの終わりを告げたのはベルの根負けでも、モンスターがこれ以上現れなくなったわけでもなく。
「まさか短剣のほうが先に根を上げるとわなぁ」
「うぅ……申し訳、ありません」
ベルの持つ駆け出し用の武器が壊れたことだった。ベルは俺に背負われながら申し訳なさそうに謝ってくる。
「いや、謝んなよ。むしろよく今の武器が保ったほうだろうに」
ハードアーマードの時とか外殻にぶち当たって刃こぼれしまくってたしね。あれで折れるのが秒読みになってたなぁ。それにあの武器で通用する階層は5〜6であってそれより下は腕がよっぽど優れていない限り確実に戦ってる最中にへし折れてる。
「あの、マナ?もう立てるから下ろしてくれてもいいよ?」
「怪我人がよう言うわ。いいから黙って背負われとけ」
ベルくん?君の顔今半分が血で濡れてるからね?ポーションって傷は治してくれるけど汚れまでは落とせないんだよ?ほんと、鏡で見せてやりてぇよ。俺の言葉にベルは反論することなく体を預けると今度は聞いてくる。
「ねぇマナ……」
「ん?なんだ?」
「……僕、強くなれるかな」
……まあ、そりゃあ今日、いや昨日はあんなことがあったんだ。誰かに聞いてもらわなきゃ不安にもなるわな。でも、そんな弱気にならずとも案外今日のことを通してはっきり言える事はある。
「さぁな。そりゃ、お前次第だ」
答えは『わからない』。そんなもんだ。
これは原作の主人公だからとかじゃなくて俺から見たベル・クラネルという一個人に対しての意見だ。単純に肯定するのも一つの手なのだろう。だけどそう易々と出来るでしょって肯定すればいいってもんじゃあない。肯定してしまってベルから力が抜けて仕舞うのは俺としても望ましいことじゃないからね。
まあ、そういう考えを抜きにしても。今回のベート・ローガの言葉との出会いを良い方向に進めるも悪い方向に進めるも
「着いたぞ、ベル」
地上に続く階段に到着した。思ったよりも早く到着したなぁ。途中で襲ってきたモンスターも新しく習得した
「朝……」
「お、日の出かぁ。いいね」
バベルの地下から這い上がるかの如く地上に出た俺とベルを出迎えたのは丁度日が登り始めて照らされつつある街並みだった。なんやかんや俺は一日中鍛錬することもあって夜明けを見る機会は何度もあった。でも、誰かと共に日の出を見るのは前の世界を含めても初なのかもなぁ。なるほど、案外悪くない。
ああ、そうだ忘れてた。
「なぁ、ベル」
「なに?マナ」
「俺の本名はさ。マエザワ・直哉っていうんだ」
俺は改めて自己紹介を行なった。ヘスティアとの対話で喜劇的であろうが、悲劇的であろうがどんな形であれ俺はこの世界で骨を埋めること決めた。だからせめて俺のことを知り、そして覚えていて欲しい。そう思ったから身内だけには本名を明かすことにした。
「マエザワ…直哉?」
「そ、極東出身でな。名前が直哉ね?」
「なんで、偽名なんか」
「ま、俺にも色々あんのよ。それはいつか話すさ」
仮に今このタイミングで実は俺は異世界人でしたーなんて言っても信じられないだろうしね。……いや、ベルだったら案外信じるかもな。
困惑する気配を背中越しに感じる。まあ、そりゃあ長くはないとはいえ1ヶ月近く生活を共にしてきた奴が偽名だったって聞いたら困惑もするわ。でも、初めて会った時は名前も本性ももしかしたらこの身体ですらも偽っていた。そんな俺にとってはある意味初めて本当の自分を明かしての自己紹介なんだ。大目に見てくれよ?
「なんて呼べばいいかなぁ」
「あー。外でだったら今まで通りでいいけど、ホームとかヘスティアとかのファミリアのメンバーみたいに関係ある奴のみは直哉って読んで欲しい」
「出来るかなぁ」
「無理ならいいぞ?」
「いや、頑張ってみる」
そっか、と言いながら俺はホームに向けて足を運ぶ。我ながら無茶を言っている自覚はある。疲れたきってうまく脳が動いてないタイミングでいきなり本名は違ったことや呼び方はホームと外で分けて欲しいなんて言われたら困惑するし、俺なら場とタイミングを考えろやボケくらいは言う。
「ねぇ、マ…直哉」
「自分のペースでいいぞ」
「ありがとう。……あのさ、言うのが遅れてごめん。その…ミノタウロスから逃げたとき、置いていっちゃって……」
ああ、何かと思ったらあの時のことね。
「いいよ別に。あん時逃げるように指示したのは他でもない俺だからな」
気にする必要なんてどこにもない。なにせ逃してちょっとしてから『あれ?これもしかして原作でベルを追っかけてたミノタウロスじゃね?』とか考えた後にベルに押しつければよかったとか我ながらクズみたいなこと考えてたから。
俺が問題ないと言っても背中から感じられる悔悟の念は治らない。まあ、責任感の強いベルのことだ。生きててラッキーとは思えないし、寧ろ気を使わせてるとでも思ってすらいそうだな。んー、そうだなぁ。
「よし、じゃあベル。これは契約だ」
「契約?」
「そ、ちょっとカッコつけた言い方だけどようは約束だ。――――この先、俺がどうしようもなくなった時があるかもしれない。その時は俺を助けてくれないか?」
ま、もっともあの
「――――うん、必ず助けるよ」
ベルは言葉から感じられるほど決意を固めたように俺の言葉に助けると答えてくれた。……今まで全てを偽ってきた俺の起こるかもわからないSOSに対して迷うことなくYESと言いますか。多分というか間違いなくベルの言葉に嘘が見れないあたり、ほんとに優しいねぇ。
俺は背負われてるベルの言葉にケタケタと笑いながらホームへと足を運んでいった。
◇
見慣れてきた少し崩れた教会が目に映る。そしてそんな教会の前で我らが主神、ヘスティアが蹲るような形で座り込んでいた。……って、おいおい。
「寝て待ってろとは言ったけど外で待てともいってないんだけどなぁ…」
なんていうか色々と申し訳ないし、これならベルのことボコってでも、もっと早くに帰るんだったわ。さてと後ろからベルの「神様……」って呟きも聞こえてることだし心苦しいけど、起こしますか。
「ほら、ヘスティア。そんなとこで寝てたら風邪引くぞ」
「うぅん……」
ヘスティアの体を揺すって起こそうとする。運ぶだけなら今のLv2の体なら問題はないだろうけど今背中に怪我してるベルもいる上に起きたら驚いて体を大きく動かす可能性が高い。そうしたら怪我すんのなんて目に見えてるしね。
俺の独白をよそにヘスティアは顔を上げて目を擦って顔を上げる。寝起きだったからかすぐには俺たちに気づかなかったが、何度か瞬きをした後に何事もなかったかのように立ち上がる。
「ただいま」
「ベル君!直哉君!」
「おっと」
軽く言葉を告げると至近距離から出した速度とは思えないほど早く俺の胸に飛び込んできた。いきなりのことで少し体が揺らいだが、問題なく受け止めることは出来た。
「ベルくんに直哉くん何処に行ってたんだい!?心配したんだぞ!」
「あー、すまんヘスティア。ダンジョンに行ってた」
「はぁ!?」
「ま、詳しいことはベルに聞きな」
俺はそう言うと背中に背負ったベルをゆっくりと下ろして話すように促す。ヘスティアとベルが見つめ合い、場に重い空気が流れる。俺はこの場では茶化すこともせずにただ成り行きを見守っている。原作に関わらずベルが口にする言葉を知っているから。
ベルは俺の手を借りずに膝に力を入れながら立ち上がると決して目を逸らすことなく、
「神様……僕、強くなりたいです」
そう告げた。その一言にどれほどの想いが込められているのかなんて俺にはわからない。それでもその言葉にはベルの並々ならない本心が込められていることがわかった。重さに関してもダンジョンの中であれだけ吠えたんだ、その宣言の重さなんて考えるまでもない。
まあ、何にせよだ。
「――――お帰りなさい2人とも」
「ん、ただいま」
「はい、ただいま神様」
ヘスティアの笑顔とベルの笑顔が見れただけでここまで頑張った甲斐というものがあるよ、本当に。
二人の嬉しそうな顔を見た俺はすこしだけ微笑むことが出来た。
◇
あの後、血だらけのベルと多少は返り血で汚れた俺はそのままシャワー室に向かわせて血を洗い流した。そんな時、心情に余裕が出たからなのか改めて自分の体を見てみた。
少し前の俺だったらビックリするような見事なシックスパック……とまでは行かないが四つまでははっきりとしていて残り二つは後もう少しではっきりと見えると言えるほど鍛えられていた自分を見て案外俺も前に進んでるんだなぁ、なんて思えた。
俺はわりと余裕があったしそのままで通うと思って私服に着替えたのだが、流石に睡眠は取れと言われて無理矢理だが寝巻きに変えられた。すると、
「そうだ!折角だし三人で寝ないかい?」
ヘスティアがそんな提案をしてきた。いやまあ、仲が良いのは大いに結構だし、寧ろウェルカムだよ?でもさ、
「ベットはそんなデカくないから無理じゃね?」
「うぐぅ」
無粋なのは承知でヘスティアに流石にサイズ的に無理があることを告げるとぐうの名も出ないとはまさにこの事とでもいいたげな呻き声を上げた。しかし、意外なことにヘスティアの提案を肯定したのは
「いいですよ……じゃあ一緒に寝ましょうか」
「お?」
「なぬぅっ!?普段は照れ臭がる君にしては珍しいじゃないか!?にしても……ウヘヘ、なんか照れ臭いねぇ」
我らが主人公のベル・クラネルだった。まあ、知ってると思うがヘスティアの言う通りベルは本気で照れ屋だ。
普段のヘスティアのコミュニケーションさ基本的にゼロ距離だ。実際、俺もヘスティアに「一緒に寝ないかい?」的な誘いを受けたことがある程度には。まあ、普通に断ったけどね?下世話な話になるが、その豊満な体付きもあってベルでなくとも少したじろぐだろう。
そんなコミュニケーションに対してベルは普通だったら問題ないが抱きつかれたりすると面白いくらいに慌てふためく。そんなベルが珍しく照れることなく受け入れたのだ。ヘスティアも驚くのも無理はない。
まぁ、単純に疲れてるだろうから多分半分寝ぼけてるだけなんだろうね。あ、ベットに倒れ込んだ。どんだけ疲れてんのよ、もう寝てんじゃん。
さてと、俺はソファーで寝ますかね。そう思いながらソファーに向かおうとすると袖が引っかかった。誰かはもう予想がついていたが、ヘスティアがニヤニヤと笑いながら君も来なよと言いたげな目でこちらを見てきた。
断ってもしつこく言ってくるのは目に見えていたこともあって俺は素直にベットに倒れ込み、ベル、ヘスティア、俺の順番で川の字で眠った。久々の川の字に照れ臭い感覚があったが、それ以上に暖かい感覚に包まれた。どうしてか夢は見なかった。
え?ベルもいたけどヘスティアと寝た感想?……女神と寝たなんて字面だけならエロいのに、エロい感覚なんて微塵もなかったよ?…だけどめちゃくちゃ気持ちが良かったです、まる