褪せ人になった男がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:アーロニーロ
思ったより時間がかかりましたが、投稿です。思っていた以上に多くの人に読んだ読んでいただけて作者はとても嬉しいです。後書きも本編です、ではどうぞ。
すんません、タイトル変更しました。理由は特にありません。
あの後、一睡もせずに武器を振るおうとしたんだけどこちとら武器振るった歴が一日にも満たん。そんな奴が武器を振い続けるのは流石に無理があったわ。後、俺倒れて気絶しても体力と魔力が回復するのね。だけど初めてなのに3時間近く武器を振えたのはいいんじゃね?そんなこと考えながら体洗った後に残りの2時間を言語シートと絵本を並行した文字の習得に勤しみましたよ。
まあ、初めの30分で嫌気がさしましたけどね!いやさ、英語のA〜Z的な奴はいけましたよ?なんか形は少し違えどαとか似てたのがあったしね。こちとら元は理系なのもあってαやらβやらは用途は違えど使う機会はいくらでもありましたから。だけど文字が絡むと一気に嫌気がさしてきましたよ。なんで濁点が加わると文字数が増えるんですかねぇ……。
……でも、どういう訳かスラスラと覚えることは出来たんだよなぁ。実際、絵本はある程度読めたし。なんでだ?少なくとも俺の学力はよくて中堅、あるいは中の下くらいなはずもしかして体が理由か?
そんなこんなで机に向かい合っているとベル君がはじめに起床してた。ベルくんはこっち見て驚いてたけど、俺もびっくりなんだけど。まだ午前4時くらいだよ?え?畑仕事で早起きが基本だった?そう……。
取り敢えずは朝飯でも作ろうかと冷蔵庫らしきものを漁ったけどすっからかん。あんま期待してなかったとはいえ今日は朝飯なしかぁ……。少し残念に思いつつも、『早く起きれたらボクも起こしてくれないかい?折角だから君達の門出を見届けたいんだ』と言ってたヘスティアを叩き起こして、少し早めだがホームを抜け、『気をつけてねー!』と言って手を振ってくるヘスティアに軽く手を振りかえしてギルドへと向かった。
道中で
「でっか」
ギルドを見て真っ先に浮かんだ言葉はこれだった。荘厳というかなんというか、歴史の冊子で読んだ建物によく似ていた。カウンターらしき場所に近づく。すると、
「ようこそギルドへ、どのようなご用件でしょうか?」
美しい笑み貼り付けてこちらに挨拶してくる受付嬢がいた。というかエイナ・チュールだった。ヘスティアほどじゃないにせよ顔がいい。体はヘスティア以上だな。下世話なことを考えて、ふとベルの方を見ると少し顔が赤い。……俺も多少は緊張してるけどこれは俺が話したほうが早そうだな。そう思いながらこちらもニコリと笑う。
「はい、今回は神の恩恵を刻んだので冒険者の登録のために伺わせていただきました」
「わかりました。確認しますが、両名ともに新規の冒険者の登録でお間違いありませんね?」
「ええ、その通りです」
内心、面のいい女と話せていることに胸をドキドキと高鳴らせていながらも噛まずに説明できたことにガッツポーズする。すると俺とベルに一枚ずつ羊皮紙を手渡される。エイナ曰く、この書類に名前や年齢、アドバイザーの要望などを書いて欲しいとのこと。おっとこれは、
「ベル。記入を頼む」
「え?…って、ああ!そう言えばマナさんは共通語が……」
「本当にすまん」
共通語の習得は確かに速いが、ある程度読めてもいまだに書けない俺からすると生年月日や名前を書くのすら一苦労なのだ。故に色々と申し訳ないが、ベルに書いてもらっている。一通り俺の言葉とベルの記入が終わるとエイナから明日に担当者が決まるため今日はこのまま帰っていいとのこと。やる事ないから他の受付嬢に潜っていいのかと聞くと一層までだったらダンジョンに潜っていいとのこと。じゃあ、
「潜ってみますか」
「はい!」
◇
「「はいやってまいりました、ダンジョーン!」」
2人仲良くそう叫んだ。いやぁ、もっと暗いもんだと思ったけど思いの外明るいのね。目の前に広がるのは薄青色の壁面と天井。そんな光景が坂道や十字路などとなって視界を埋め尽くす光景を前にそんなことを思っていた。興奮もあるがそれ以上に疑問がある。それは、
この世界にとってモンスターは一千年以上前からドンパチやってる不倶戴天の敵。話も通じず、ただひたすらに人に害することしかできない生き物。そういう認識だ。
しかし、俺は異世界人。そう言った見聞がない以上どうしてもそういう認識ができない。なんだったら人里に降りた獣とモンスターの差がよくわからない。そしてそんな俺が生きてた世界では少しでも生き物の流血沙汰が起こればやれ「虐待だ」だの「生命を冒涜している」などの言葉が出るほどだった。
はいそれでは問題です。そんな世界で生き物を殺したらどうなりますか?答え、サイコパス扱い。故に俺は動物を、虫を除いて手にかけた機会が一度もない。というか『肉と血が詰まった相手を殺す』なんて考えただけでもゾッとする。
よくラノベとかで転生した奴が問題なくモンスターを殺せるな。こういうことで悩んだことってないのかなぁ。そんなことを考えてる間に、
バキッ、ペキキキキ
そんな音が壁から聞こえてきた。目線をやると壁から全身緑っぽいモンスターが
……『ダンジョンは生きている』そんな言葉が頭を過った。この言葉は原作読んでて知ってたけどいざ、目の当たりにすると、なんというか言葉が出ない。命の誕生を目の当たりにするのは何気に初だな。初めてがモンスターってなんか嫌だけど。そんなことを思ってると、生まれたばかりの異種型竿役ランキングがオークくんと並んでる『ゴブリン』がこちらに向かってきた。取り敢えずはまあ、
「やりますか」
右手に持った『君主軍の直剣』を両手で構え、スキルを発動させた時と同じように重心を低くして踏み込んで突撃。スキル有りよりも練度は低いが踏み込みと距離を詰めたと同時に剣を全力で切り上げた。
『ゴ、ブゥゥ』
口から血を吐きながらそう倒れゆくゴブリンは少ししてピクリとも動かなくなると同時に黒い霧となって消えた。グロ耐性の低い者であれば血の気が全力で引くか吐き散らかしてたであろう光景を見て俺は――――何も感じなかった。
……あれ?なんだこれ?もっとこうさ、なんかグロくてやだなぁ、くらいは思うと思ったんだけどマジでなんも思わない。それこそ路傍の石を蹴ったくらいの感覚だわ。なんていうか拍子抜けだなぁ、まあ問題ないことに越したことはないんだけどさ。あ、それはそうとやるべきことをやらないとね。消えた場所に近づくと、
「マナさん、これが……」
「ああ、魔石らしいな」
親指ほどの大きさの紫紺色の石が転がっていた。思ってたよりも小さいな。そんなことを考えていると今度は曲がり角から4、5体ほどゴブリンと犬顔のモンスターのコボルトが現れた。うち一体のゴブリンがこっちに気づいて向かってきた。
「ベル。お前もやってみたら?」
「え?」
「一体だけでもさ?ほら、相手さんもこっちに向かってきてるし」
指差してそういうとベルは覚悟を決めたように支給品であるナイフを構え、駆け出した。そんなベルに向けてゴブリンがカウンターのように攻撃を決めようとしたが、それよりも早くベルのナイフが胸を貫き黒い霧となった。
……うん、俺より早いな。武器が軽量級の短剣っていうのもあるんだろうけどそれ以上に出だしが俺よりも早い。足に才能があるって言ってたのはマジだったな。いまいちピンとこなかったけど目にするとなるほどなぁってなるな。ていうか、
「ベル?」
なんであいつピクリとも動かねぇの?自分の手を見て固まってるベルに声をかける。しかし、反応なし。なんかあったかと近づこうとすると体を震わせて、ダンジョンの外へと向かっていった。
「へ?」
は?なんで?モンスター殺した罪悪感……じゃあねぇよな。顔がニヤニヤしてたし。って、ああそういえばベルってダンジョンに入って初日にゴブリン倒せたことに喜んでそのまま帰ったんだっけ?……なんつーか、お茶目というか間抜けというか。ハーッとため息を吐くと足音が聞こえる。目を向けるとそこには先ほどの団体様がこちらに向かってきた。数もちょうどいいし、
「魔法の試し撃ちでもするか」
そう思い詠唱しようとした瞬間……羞恥心が湧いた。当然であるマエザワ・直哉、御年21歳。厨二病を発病せずに大学生を迎えた俺にとって公衆の面前で魔法を詠唱。……うん、世が世ならのたうち回るレベルの羞恥プレイだな。って、
「痛ぁ!」
コボルトに胴体をぶっ叩かれた。思ってたよりも痛かった。その後、追撃と言わんばかりに残りの数体のモンスターにタコ殴りにされる。
「ちょ、痛っ、やめ、ヤメロー!」
跳ね除けるとその場から退避する。呑気に考えてる場合じゃあねぇな。虚空から取り出した【隕石の杖】を左手に持ち、先端をコボルトに向ける。そして、
「【
杖から放たれた蒼く輝く魔力の礫は的確にコボルトの顔を捉え、コボルトの顔だけに留まらず腕と胸を巻き込んで爆散した。おおー、自分が魔法を放ったという事実にいささか現実感が感じられないけど、そっか、俺って魔法を使ったんだ。ボコボコにされたことも忘れて沸々と湧き出る興奮を、――――俺は咄嗟に押さえ込んだ。
危ねぇ、危ねぇ……危うく今日の深夜帯で起こった、というか起こしてしまった戦技事件(俺命名)と同じことをやらかすとだった。というかあくまでもお試しとして潜ってるんだ。今回は魔法の試し撃ちと魔力の上限、実戦形式で戦う体験のみに留めよう。じゃあ、次はこの魔法だな。たたらを踏んでいるうちの一体に杖を向けて詠唱する。
「【
すると槍のように細く長い蒼の魔弾が先ほどの数倍以上の速度で飛んでいった。哀れゴブリンは反応することもできずに頭をぶち抜かれた。
てか、はっやいなぁ!少しズレた状態で放って、ヤベってなったけどすぐに軌道修正したことから多分追尾性能もあるんだろうな。でも、それ以上に速度に驚かされたわ。目で追うのが精一杯だったよ?しかもさっきより消費は少なかったし。多分だけど上層だったらこの魔法一つで無双できるんじゃね?じゃあ、次はこれ。最後の一体に杖を向ける。ヤケクソ気味にこっちに向かってくるが、こっちの攻撃の方が早い。
「【
【
で、ここまでの検証から【アヴァニム】系の魔法で一番使い勝手がいいのは【
「お、見っけた」
一体だけだが、蜥蜴のようなモンスター『ダンジョンリザード』と出会した。1メートル近いトカゲを前にミズトカゲっぽいなぁ、なんて思いつつ詠唱する。
「【断ち切れ、輝きの斬波】、【グリント・アーク】」
杖から魔法が射出、哀れモンスターが爆散!……とはならず杖が光るだけで何も出ませんでした。
「は?ってうおぉぉ!!」
あっぶねぇ!呆けているといつのまにか飛びかかってきたダンジョンリザードが大口開けて飛んできてたやがった!咄嗟に剣を前に出してなきゃ顔を丸齧りされてたぞ!なんで!?なんで魔法発動しねぇの!?って、ああもう邪魔!
噛み付かれた剣を全力で横に振り払い、ダンジョンリザードが真っ二つにする。すると、魔石を残して消えた。魔石を拾い、思考する。なんで発動しなかったんだ?いや、発動"は"してた。その証拠に杖は光ってたし、魔力も体から減った感覚はあった。となると、必要なのは特定のモーションだったか?次は何もない場所で再度詠唱する。
「【断ち切れ、輝きの斬波】、【グリント・アーク】」
……やっぱり、杖が光るだけか。試しに杖を突き出してみる。何も起きない。じゃあ、振るう?横に振ってみる。すると、
「うおっ」
数メートル以上の蒼く輝く大きな弧を描く斬撃が振るった形に沿うように射出された。そっか、振るえばよかったのか。というかこの魔法はさっきの【アヴァニム】系とは違って『点』じゃなくて『面』に広がる辺り、多対一に向いてるのかもしれないな。
実際、その後に5体ほど現れたモンスターに対して試しに放ってみたけど一気に殲滅できた。そしてわかったことなのだが範囲が広い分なのか追尾性はなかった。残った一体に顔を向ける。さて、最後の試し打ちとしますか。
「【停滞の剣よ、我が敵を貫け】、【エクラズ・ワールト】」
杖が先ほどよりも強く光る。同時に頭上に先ほどよりも濃い蒼い色をした魔力の塊が浮遊していた。初めは浮遊しているだけだったが、時間差で敵に向かい飛ぶ輝剣となって着弾。他の魔法と違って当たったら爆散するのねこれ。跡形もなくなった敵に対してそんな感想が湧いてきた。多分、感覚的に他の魔法と違って溜めることも出来るし、溜めれば威力も上がると思う。
さて、取り敢えずざっとわかったことは消費魔力量と威力だな。
消費魔力の多さ順だと、【拡大アヴァニム】≧【エクラズ】>【グリント】>【駆けるアヴァニム】>【疾れアヴァニム】の順かな?
威力も似たようなもんで【拡大アヴァニム】=【エクラズ】>【グリント】>【駆けるアヴァニム】>【疾れアヴァニム】って感じかな?ただ、【エクラズ】はタメ次第では【拡大アヴァニム】を上回る可能性もあるって感じかな?
一通り得た結果に満足しているとベルくんと接触。なんでも、あの後ヘスティアに帰ってきたことを指摘されて俺がいないことに気づいて急いで戻ってきたらしい。謝ってきたけどこちらとしても魔法を試す機会が多かったし、半日ぶりとはいえ1人の時間を味わえたから笑いながら受け流した。
この後なのだがせっかくだということで2人でダンジョンを探索。我ながら有意義な1日を過ごせたと思いました、まる
〜こそこそダンジョン小話〜
ボクが2人を笑顔で見送った後に手を下ろすと。顔に影が差し込む。理由はマナ・キャンベル、偽名を名乗る彼にあった。
そんな彼からはどういう訳か嘘を見抜くことが出来なかった。
だが自身が司るのは炉、すなわち家庭を司っている身として自分の子の嘘を見抜くのは簡単だった。けれど、ボクの顔が陰る理由はそこではなかった。
名前に関しては名乗りたくない理由なんて人によって様々だ。少なくとも彼からは悪意は感じず、ただ、バレてほしくないという意志を感じた。ならば、心を開いて名乗ってくれるのを待てばいいだけなのだから。
「なんだよ、なんなんだよこれ……」
手に握られているのは一枚の羊皮紙。彼が読めないと言っていた共通語で書かれたステイタスを記載したものだった。そこに自身の血を一滴だけ垂らす。すると、じわりと文字が浮き出てくる。
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【
・常時発動型
・早熟する。
・レベルが上昇につき全ステイタスに対しての補正効果の上昇。
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破格の効果だった。多分、過去、現在全てのオラリアを見渡しても見つからないであろう、成長補正型のスキル。他のろくでなし共な知ればオモチャにされること間違いなしだろう。しかし、この後に記載されたものはこのスキルがちゃちに思えるほど壮絶な効果だった。
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・勝利を勝ち取るまでこのスキルは所有者を生かし続ける。
・死亡時に強制的な時間の逆行。
・神の意思、神威からの逸脱。
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一介の下界の子供が持つにはあまりにも大それたスキルだった。神威からの逸脱や時間の逆行も大概だが、それ以上にこのスキルはある種の不死であることを指す。『死』。それはかつての『賢者』の不死の法を除けば、万物が味わう絶対の事象。それはボクら神々ですら一度しか味わうことのできないものである。例外として、下界で打たれた神殺しの武器で殺されることを除けばの話だが。
ナニカが彼の後ろあるいは内側で蠢いている。そんな気がしてやまない。というか、こんなスキルが発現した以上それは確定だ。
「負けてなるものか……」
ボクはおてつきなのかもしれない。けれど血を、恩恵を刻んだ以上彼はボクの子供だ。誰にも渡してなるものか。顔も正体も見えないナニカに牽制しつつ、そう誓った。
*ちなみにこの後ヘスティアはバイトを遅刻しました。