褪せ人になった男がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:アーロニーロ
今回は日常回です。前の話と比べると少し退屈かもしれませんが、読んでいただければ幸いです。お気に入りが100に突入しました。みなさんありがとうございます。
「疲れたぁ〜」
「大変でしたねぇ、マナさん」
「ベルもお疲れさん」
一度だけ昼を食べに外に出たのを除けば空が暗くなるまでダンジョンを探索した俺とベル。ベルと合流してからちょくちょくドロップアイテムが手に入るようになった。おかしいよね、ベルってこの時はまだ発展アビリティを取得してないのにやたらドロップアイテムが手に入るの。俺の時は全然落ちないのに。
ま、まあ、俺のクズ運は兎も角として初日から5000ヴァリスほど稼げたことに今は喜ぼうか。換金の際にベルが声出しかけてたが咄嗟に肘を打ち込んで黙らせた。因みに内数千ヴァリスはベルの装備費用として持ってかれ、帰りに食材を買ったこともあって朝のカツアゲを含めて残金は3500ヴァリスほどになった。
しかしまあ、
「整備系の道具をタダでくれるとはなぁ」
「ありがたいです。あの受付の人――――エイナさんには頭が上がりませんよ」
そう。本来であれば金がかかるはずの武器の整備道具をなんと無料でもらえた。流石に俺やベルは呆気に取られたし、咄嗟に断ったが向こうが受け取ってくださいと笑顔で言ったこともあって受け取ったけどなんか裏があるんじゃないかと疑ったくらいだ。
「でも、僕は武器の整備の仕方なんてわからないんですが……どうしましょうか」
ベルがそう呟くのを俺は気づいた。ああ、だったら。
「帰ったら武器を貸しな、俺が整備しちゃる」
「えぇ!?いいんですか!?というか出来るんですか!?」
「まぁな」
「凄いなぁ……本当に何でもできますね。武器の整備なんていつ覚えたんですか?」
「あ?そんなの……」
そこまで話して口が止まった。あれ?俺、何で武器の整備が出来るなんて言ったんだ?というか何でやり方を知ってるんだ?武器を握ったことはおろか見たのだって今日が初めてなのに……。何だこれ?何なんだこの記憶は?出た言葉から身に覚えのない技術が頭をよぎったことに頭を抑える。
「マナさん?」
「え……?あ、ああ、親父が商人でな。その時に仕入れた武器の整備を手伝った時に覚えたんだ」
固まった俺を見て困惑するベルに対して俺は咄嗟に嘘を吐く。納得するベルを見て俺はさん付けせずにマナでいいと告げる。頭の中から見に覚えのない記憶に対する疑問点が消えていくのを知らないまま。
◇
「おかえり〜!」
帰るとヘスティアがいの一番に突撃してきた。
「うおッ!」
突然、俺の胸目掛けて飛び込んできたことに驚きつつも咄嗟に抱き止める。驚きは直ぐに安心感に変わり、軽く抱きしめ返した。瞬間、ヘスティアの双丘が俺の腹あたりで大きく形を変えた。
……ヤバい、咄嗟に意識を頭に持ってかなかったらやばかった。というか今は体が固まった、ですんでるけど疲れてなきゃ色んなところが固まってた。役得だけど取り敢えず、次からはベルにドアを開けさせよう。そう誓いながらヘスティアをゆっくりと下す。
「ただいま、ヘスティア」
「神様、ただいま帰りました!」
「おう!2人共、おかえりぃ!」
満面の笑みで俺たちの言葉を返したヘスティアを見て俺もベルも思わず頬が緩んだ。なんて言うか不思議だ。普段の俺なら初対面の相手にならかなり礼儀を見せるか、警戒するかの二つなのにどうしてかヘスティア相手だと気が抜ける。帰り道でベルに指摘されたけどタメ口なのがいい証拠だ。
ベルが今日の収入を聞いて驚くヘスティアを見て、『ああ、俺は家帰ってきたんだなぁ』って気持ちが凄いんだよなぁ、なんて思いを馳せる。まあ、それはさて置き。
「すまんヘスティア。キッチンどこだ?」
「ん?どうしたんだい、マナくん?」
キッチンの場所聞いたらどうしてな聞かれたら。……いや、そんなの。
「夕飯作るからに決まってるんだが?」
他に何をすると思ったの?そんな疑問を浮かべなら2人を見ると、どうしてか2人とも驚いていた。
……あれぇ〜?今朝といい、武器の整備の時といい驚かれること多いけど、もしかして俺ってそんなに頼りにならない?ヘスティアは俺の表情で色々と察したのか、直ぐに弁明してきた。
「ち、違うからなマナくん!単純に料理作ってくれることに驚いただけだからな!?ああ、後、キッチンはあっちだぜ?」
「え?……って!そういう意味で驚いたんじゃないんですからね!?武器の整備といいやれることが多くてビックリしてるだけだからね!?」
「お、おう……そうか」
勢いの強さに俺はのけぞりそうになりながらヘスティアに指さされた方に向かって今日買った食材を持っていく。調味料やフライパンなどの調理器具が見えたりと思ってた以上にこのホームが充実していることに驚きつつ、久々に他の人間と机を囲むこともあって簡単に作れる料理を少し多めに作って食事開始。……割と好評だったのは少し照れ臭かったです。
「いやぁ、ごちそうさまマナくん」
「美味しかったですよ、やっぱり料理もご両親のところで?」
「ん?いや、俺は年齢的にも成人だろ?だから、親元離れて一人暮らしする期間がそこそこあったから料理作んのは慣れてんのよ。まあ、それよりもだ。ヘスティア、ステイタスの更新を頼む」
「ああ、成程。って、へ?……あ、ああ!勿論だとも!」
食事を終えてヘスティアにステイタスの更新頼むとヘスティアは少し呆けてから思い出したかのように戸棚から針をとりに行った。……忘れてやがったな、アイツ。ベルも俺も苦笑いをしていると数分しないうちにヘスティアは戻ってきた。
「じゃあ、どっちから更新する?」
「ベルからで頼む」
「よっしゃ来た!ベルくん背中を向けな!」
「は、はい!」
ベルは服を脱いで先程まで座っていたソファの上でうつ伏せになる。そこにヘスティアは自身の血を垂らしてステイタスを更新し始める。終わったのか、ヘスティアはベルの背中から退いていつの間にか手に握っていた羊皮紙を手渡す。ウキウキしながらベルは受け取ったが、少し微妙そうな顔をしていた。
あー、確か成長補正スキル無しだとステイタスの伸びってかなり微々たるもんなんだったけか?それでも半日は今回ダンジョンにいた以上、それなりに伸びてるはずなんだがなぁ。ヘスティアがこっちを手招きしてる。ああ、そういえば次は俺かぁ。そう考えながら俺は上半身裸になるとベルと同じくソファの上でうつ伏せになった。背中に水滴らしきものが落ちる。慣れない感覚に少し驚いているとヘスティアの手が止まった。ん?どうした。
「マナくん」
「?はい」
「君は今日、何したんだい?」
そんなことを言いながらヘスティアは俺の体からどいて羊皮紙を手渡す。俺はそれを受け取るとステイタスを見る。
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マナ・キャンベル(マエザワ・直哉)
Lv1
力:I0 → I99
耐久:I0 → I43
器用:I0 → H147
敏捷:I0 → I54
魔力:I0 → H180
《魔法》
【エクラズ・ワールト】
・詠唱式【停滞の剣よ、我が敵を貫け】
・単射魔法
【グリント・アーク】
・詠唱式【断ち切れ、輝きの斬波】
・単射型斬撃魔法
【アヴァニム】
・詠唱式【
・速射魔法
・詠唱の変化で能力が変動。
【
【
《スキル》
【】
【
・常時発動型
・ランクアップにつき魔法のスロット数の上限突破。
・取得魔法の保管が可能。
・ステイタスに刻む魔法の選択が可能。
・魔法使用時に効果、威力の超過強化。
・魔力のステイタスに対して超過強化。
【
・常時発動型
・自身の所有するあらゆる無生物を自身の空間へと自在に格納。
・食事や睡眠の必要性を大幅に軽減。
・睡眠を行えば際に魔力や体力の回復効率が上昇し、食事をすればステイタスに対して好影響を引き起こす。
・気が狂わなくなる。
【
・任意発動型
・魔力を消費することで熟練度に比例した技を最適解の形で放つことができる。
・器用のステイタスに対して高補正。
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うっわ、トータル500オーバーってめっちゃ伸びたな。いや、ヘスティアの反応的にベルくんと同様に成長補正型のスキルを持ってたのは普通に予想できたし夜にやってたことも考えれば寧ろ妥当か?で、何したかだよな。
「普通に(夜起きて一日武器を振ってたこと以外は)ダンジョン潜ってただけだぞ?」
取り敢えずは要所を隠して言葉にする。何一つ嘘は言ってないからバレない、筈。ああ、でもダメかもしれない。だって、ヘスティアがめっちゃ訝しげにこっち見てくるもの。あ、ため息を吐いた。
「わかった。でも、本当に無茶だけはしないでくれよ。これはベルくんにも言えることだが、ボクはダンジョンに潜れない以上、眷属である君たちがいつの間にか死んでいるなんてことがあるかも知れない。それは嫌なんだ」
「ヘスティア…」
「神様…」
「頼むよ。ボクを一人にしないでくれ」
空気がしんみりとしている。……割と浅慮というか短慮だったな俺。考えてもみればヘスティアほど優しい神がいないことは知っていた。つまり、裏を返せばヘスティア以上に自身の眷属を想っている神はいないってことだ。無理をすればそれ相応に心配することなんて予想できたろうに。
「すまんヘスティア。だが、誓って言えるが無茶はしてない、だからそんな顔はしないでくれよ」
流石に申し訳なくなりすぎて頭を下げた。俺の言葉に嘘偽りが感じられなかったのか、軽くため息を吐くと「しょうがないなぁ」と言って頭を撫でてきた。……母さんに撫でられたことはあっても他人には初めてだな。案外安心するもんだ、頭から離れた手を感じた俺はそんなことを考えながら俺は頭を上げる。ヘスティアは楽しそうに嬉しそうに笑いながらベルの方にも近づいて頭を撫でていた。微笑ましいなぁ、なんて思いながら一日が終わった。
◇
「まあ、別に鍛錬止めるって言ったわけではないんですけどね!?」
はい、私、マエザワ・直哉。現在0時半の廃教会外にて昨日と同様に剣片手に武器の振るう練習をしようとしています。それをやる前に反省会。今日は一通りダンジョンに潜ってみてわかったこと、というかわかってたことなのだが、スキル無しだと案外思った通りに体が動かないというか予想通りの結果が出ない。
「やっぱり、武器を振ったことが無いってのがデカいなぁ……」
こればかりはひたすら鍛錬あるのみって感じだ。で、まあ次に魔法だ。これなんだが詠唱が思ったよりも難しいのだ。唱える分には問題ないのだ。詠唱内容も覚えてるしね?でも、早く唱えようとすればするほど魔力が御しにくくなるのだ。
これが問題でモンスターはゲームみたいにターン制でもなければこっちの都合に合わせて待ってもくれない。だから詠唱中でもガンガン攻撃してくる。正直、今日ベルがいなかったらかなり攻撃されてたかもしれん。
まあ、でも比較的早く唱えることは出来たよ?早口言葉は得意だったし。その後に調子に乗りまくって移動しながら詠唱、いわゆる並行詠唱を決めようとしたら普通に暴発しかけたけどね?
一通り魔法を使ってみて思ったけど。……その、なんていうか命しかりレフィーヤしかりリヴェリアしかり作品で並行詠唱してる奴とか高速で詠唱してる奴とか作中でポンポンいたけどあれって本当に高等技術だったのね。こっちも鍛錬あるのみってことなんだろうけどどうしたもんかな。
「魔法をブッパする……のはダメだよなぁ」
そんなことした日にはヘスティア・ファミリアにそれ相応の罰則が降る。零細ファミリアで収入も安定していない状態でそんなことやれば原作が始まる前に原作が終わりかねない。取り敢えず、
「潜るか」
行きますか、ダンジョンに。
◇
「夜でも明るさは変わらないのか此処は」
特に警護らしいものもなかったこともあって、侵入は割と容易だった。今回ダンジョンに
「的に事欠かない」
現れたゴブリンを相手にそう呟いた。では、早速。
「【照らせ】、【ルーチェ】」
杖を掲げながらそう詠唱する。すると杖の先から小さな灯りが現れる。淡い光はヘスティアの恩恵の更新を思い出させた。炸裂するタイプの魔法である可能性を視野に入れ、念のため離れて様子を見る。が、
「ゴブ?」
何も起きない。え?これだけ?もしかして詠唱の通りただ灯りを出して周りを照らすだけの魔法?そんなのあり?ほら、ゴブリンくんだって困惑してんじゃん。ええ……
「しょうもな。【
「ゴブウゥ!?」
取り敢えず魔法を射出してゴブリンを倒す。落ちた魔石とドロップアイテムを拾って。使い所に迷う魔法を明日ヘスティアに変更してもらおうと決心しようとした時、ふとある使い道を思いついた。
そう、攻撃性能も何もないならこの魔法を使って魔法の詠唱の練習をすればいいんじゃないかと。これなら誰にも迷惑がかからないし、明るいことで文句を言われたら、廃教会の中でなら灯りを外に漏らすことなく練習することができる。
そうと決まればと急いで俺はダンジョンを後に、【ルーチェ】を用いて並行詠唱の練習と武器の鍛錬を開始した。ちなみにステイタスが伸びた影響か武器を振るう時間が長くなってた。
個人的に二日に一度のペースがベストかなぁ、って思いつつある今日この頃。