褪せ人になった男がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:アーロニーロ

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 今回も日常?回です。次回は戦闘回なので極力頑張りますのでお楽しみにしてください。


教師、講師、疑問視

 

 

 あの後、ひたすら詠唱しながら動く練習をし続けていた。結果的に言うと手早く詠唱しても魔力暴発を起こすことはなかったし、効果はかなり削がれるが歩きながらだと問題なく詠唱できるようになった。だけど個人的に成功した理由は詠唱の短さと消費する魔力量の少なさにあったからでは?と思わされる。慢心こそ出来ないけど、それでも確かに進歩してる感覚はあるから今後もこの練習法は続けていくつまりだ。

 

 後、武器を振った感想なんだけどステイタスが影響していたせいなのか昨日よりも長く、そして力強く振るえた。こっちに関しては気がした、ではなく確信できる程度には差があった。

 

 そんなこんなで一通りすべきことを済ませた後に魔法とスキルを乱発しまくって一度精神疲弊を引き起こさせた。そうして無理矢理意識を落とすことでスキルを発動させて体を疲労など諸々を回復させる。んで起きてすぐに体を洗い流し、軽く勉強して今に至る。

 

 昨日の食材の残りで朝食作りながら思わされるけど本当に睡魔が襲ってこないっていい。こちとら睡魔に襲われ続けた人生であったこともあってすごい新鮮だわ。

 

「ほい、出来たぞー」

 

 出来上がった朝食をベルに頼んで机に並べさせる。こういうくだりも家族間でやったのは割と前だったこともあって懐かしく感じる。そんなことを考えながら和気藹々と食事を済ませ、昨日と同様にヘスティアに見送られながらダンジョンに向かおうとして――――ベルに止められた。え、何事?と思いながら振り返ると。

 

「マナ、今日はアドバイザーと顔合わせる日だからダンジョンに行く前にギルドに行かないと」

 

「え?…って、ああ」

 

 そう言えばそんなこともあったな。ベルに言われるまですっかり頭から抜け落ちてたわ。取り敢えずダンジョンでモンスターを屠ることばっか考えてたなぁ、俺。ガハハハハ!

 

 ……あれ?俺ってこんなに血生臭いこと考えてる脳筋だったっけ?思考が完全に蛮族のそれなんですが。自分が見事なまでにオラリオ、といか冒険者色に染まりつつあることに少しショックを受けながらもギルドへと足を運んだ。

 

 

 はい、ではやってまいりました万神殿。で、今日ここで自分の担当のアドバイザーが決まる訳なのだが、……正直かなり不安だ。取り敢えずは俺の文を問題なく読むことが出来る人、いわゆる日本語――――というか極東の言葉でも問題ない人っていう人を要望に入れたんだ。だけど説明が上手い人とは一言も書いてなかったんだよなぁ。

 

 ベルの場合はエイナで確定だけど俺はわからないからなぁ…。どうしよう無駄に面倒くさい奴だったら。

 

「嫌だなぁ」

 

 具体的にはエイナの次に人気とか言うエルフとかだったら。理知的な分、引く可能性が高いんだよ。え?なんで嫌かって?原作読めばわかるけど面が良くても高飛車すぎて言動と性格がアレな奴なの。だから苦手なのよ。だったら男がいいなぁ、基本的に同性であるため話しやすいし。そんなことを願いながらカウンターに着くと個室に案内される。……ベルと一緒に。

 

「え?」

 

「あー、すまん。どういうことだ?」

 

 流石の事態にベルも困惑していた。そりゃそうだ昨日の説明では冒険者登録を行った新米冒険者には専属アドバイザーが着き、そのアドバイザーは一人につき一人だって言ってたんだ。なのに、蓋を開けたら二人仲良く同じ部屋なのだ。混乱するなという方が無理だろうに。取り敢えず受付嬢に説明を求めると笑顔で対応されながら

 

「詳しい話はアドバイザーの方からしますので……」

 

 と言われて個室を戸を開けていた。えぇ……そんなのあり?いや、そりゃあアドバイザーだって講師みたいなもんだから二人同時に掛け持ちすることだってあるかもしれないけど大丈夫?負担がデカくない?二人っつったって両方とも新人よ?片方がベテランならともかくさぁ。教えることは山ほどあるよ?

 

 開けた先には誰もおらず取り敢えずという形で二人仲良く座って待つ。暫くしないうちにノックと共に扉が開く。するとそこにはやはりというか。

 

「本日からお二人のアドバイザーを務めることになりました、エイナ・チュールです。今日から宜しくお願いします」

 

 笑顔を浮かべるエイナ・チュールがそこにはいた。机に冊子を置いて俺とベルくんが座っている状態の対面の形で座り顔を合わせる。…うん、まぁベルくんと案内されてた段階で予想はしてたけどね。でもさぁ、

 

「アンタの能力を疑うわけじゃないがその、なんだ…大丈夫か?」

 

 確か原作でも一人くらいなら大丈夫ってくらい仕事任されてなかったっけ?そんな疑問を抱いていたこともあり、口にして質問してみると少しキョトンとした顔をしたかと思うとすぐに笑顔に戻った。

 

「元々はクラネル氏のみを担当する予定だったのですが、その…申し上げにくいのですが、私以外に極東の言葉を書くことのできる人間がおらず」

 

「ああ、なるほど」

 

 俺のせいでしたか。本当に申し訳ないなぁ、こっち来て言葉の面でどんだけ迷惑かけてんのよ俺。

 

 ……でも、なんだろうエイナの反応から、っていうより言葉から俺の持つ『猜疑心レーダー(被害妄想)』がそれだけじゃあないって訴える程度には歯切れが悪く感じるんだけど。そこまで考えてふとある考えに至る。

 

 ……なぁ、もしかしてベルだけじゃなくて俺も賭けの対象にされてね?、と。

 

 その考えが浮かんだ瞬間、あり得ると思ってしまった。だっておかしいよな。こんだけいるアドバイザーの中からエイナ以外極東の言葉が使えないって。うーん、参ったなぁ。俺の被害妄想で済めばいいけど一度疑ってしまうとこの考えが湧いてしまう。エイナとは上手くやれるとは思うけど、ギルドと上手くやっていける気がしねぇなぁ。

 

 ところでその広辞苑ばりの分厚い冊子はなんなの?今日やる分じゃあないよな?数冊あるからそうじゃないと思うんだけど。そしてそんな淡い希望は軽く打ち砕かれた。

 

「では、手始めに(・・・・)これを覚えていきましょう。大丈夫、出来うる限りわかりやすく説明しますから」

 

 数冊あった分厚い冊子を開きながら天使の笑みを浮かべるエイナ・チュール。常であれば見惚れて顔を赤くしながら顔を逸らすくらいはしてたんだろうけど、今この瞬間には死刑宣告喰らったようにしか感じられない。別に勉強は嫌いって訳じゃないよ?でもさ、何事にも限度ってもんがあるだろう?ほら、ベルくんだって顔が蒼くなってるじゃん。

 

「俺…共通語を使えないんですが…」

 

 思わず敬語を使ってしまうレベルで動揺してしまったが、文字を読めないことを改めて伝える。すると、

 

「安心してください。そんなキャンベル氏のためにこちらを用意しております」

 

 もう一度ニッコリ笑って足元からもう2冊の冊子を取り出す。……まさかまさかの倍プッシュである。言語が不理解なら諦めてくれるかなぁって思ったけどとんでもない。藪蛇にも程があったわ。ベルくんから送られてくる哀れみの目線が痛いよ。

 

「では、始めましょう」

 

 この日、俺はこの世界に来て一番の苦痛を味わうこととなった。

 

 

「はい、では今日はこの辺りで。お二人ともお疲れ様でした」

 

「「アリガトウゴザイマシタ」」

 

「明日、今日やったことを復習しますのでお忘れないようお願いします」

 

「「ワカリマシタ」」

 

 何やらとんでもないことを言われた気がするが、今はそれどころではない。時計を見る。確かこっち来たのが朝の7時くらいで今がえっと12時くらいだから……ハハ、5時間ぶっ通しで勉強してたのね、俺というか俺達。

 

 ていうか、あ゛あ゛!キッツかったぁ!ここまで勉強したのは受験以来だぞ!?何がキツイかって量や時間もそうだけど、教え方が今まで受けてきた講師の中で一番上手いのがなおキツさを煽るんだよ!適当に受け流そうにもしっかりと構成を考えてるんだっていうのが分かるからそんな不誠実な真似が出来ねぇんだ!共通語教えるとか完全にアドバイザーの管轄外そうだったもん!

 

 明日からこれが続くのかぁ、なんて思いながら一度視線を上に上げる。その後に冊子をまとめるエイナを見ていると視線に気づいたのかこちらを見てきた。申し訳なさそうに反応してるけど余計な手間かけさせてるのはこっちである以上、そんな反応はしないでほしい。

 

「ありがとうございました、えっと……」

 

「エイナ、でいいですよクラネル氏」

 

 少し、頭を整えていると先にベルが立ち上がり礼を告げて去ろうとするがなんと呼ぶか迷っていた。そんなベルを見て微笑みながらそう告げるエイナ。こうもあっさりと懐に入り込むとはしかもハーフとは言えエルフなのに……これは人気が高い訳ですわ。まあ、それはさておき。

 

「え……わかりましたエイナさん。後、僕もベルで大丈夫です」

 

「ああ、俺も同じくマナで」

 

 流石にキャンベル氏は無いな。固すぎて肩が凝りそうだわ。というかベルも同じだったらしく俺と同じ反応をしていた。

 

「わかった、よろしくね。ベルくんとマナさん」

 

 そんな俺たちを見て崩していいとわかったのか固さが見えなくなっていた。癖なのか年下にはくん付けで年上にはさん付けなのねエイナって。時間的にも昼時なこともあって二人で個室から出ようとすると、

 

「ああ、二人とも待ってほしい」

 

 エイナに呼び止められた。俺もベルも何事かと思い振り返る。

 

「今回の勉強を通してわかってほしいんだけど、断じて二人をいびるつもりで教えてた訳じゃ無いの」

 

 ……何を言ってるんだこの女は。

 

「そ、そんなこと分かってますよ、エイナさん!」

 

「ベルと同じくだ。厳しくされただけでいびられてるって思うほど餓鬼じゃねぇよ」

 

 むしろ共通語をわかりやすく要所要所を押さえて最低限の文法を教えて、後はただひたすらに単語を教えていくところとか多少、力技なところもあったけどわかりやすかったよ?俺たちの反応から少しホッとしたような態度を取ると再度顔を引き締めて話し始める。

 

「『冒険者は冒険してはいけない』っていうことを忘れないでほしい」

 

 諭すように矛盾したことを告げるエイナ。

 

 確かに言ってることは矛盾している。具体的には少し前の俺なら何言ってんだコイツって思う程度には。だが、ここまで教えられたから言っている意味はよくわかる。慢心、決死、どんな理由であれダンジョンで無茶や無謀を犯した者の末路は悲惨だということを教え込まれたから。そんな様子を見てきたからなのかエイナの言葉の重さは路頭で忠告してくるおばちゃんの言葉とは桁が違っていた。

 

「これを頭に入れて絶対に死なないように気をつけてください。……お願いします。……見送った相手が死体で届くのは…見たく、無いんです」

 

「エイナさん……わかりました。絶対に忘れません」

 

 エイナが俯きながらそう言うとベルは顔つきを改めてそう返し、俺は手を軽く振って返す。……本当に重さが違う。『言葉の重み』とかそういう言葉があるけどこういうのを指すんだなぁって思わされるほどには。

 

 まあ、にしてもさ。

 

「死なないように気をつけてください、ねぇ」

 

「ん?マナ?」

 

「いやぁ、なんでも」

 

 まさかこんなことをマジ顔、かつ本気で言われる日が来るとは、人生何が起こるかわかんないねぇ。そんなことを個室をギルドを出てから改めて思わされる。そんな時ふとあることが頭をよぎった。それは、

 

 果たして俺が死んだら2人はどんな反応をするのか、というものだった。

 

 やっぱり泣くのだろうか?……うん少し考えたけど泣いてくれるだろうなぁ、2人とも。だってとっても優しいもん。こんな見ず知らずの浮浪者じみた格好してた俺に良くしてくれたくらいだ。ヘスティアもベルもきっと最後まで俺のことを覚えていてくれると思う。

 

 ……じゃあ、俺は?俺はどっちかが死んだら泣けるのか?……動揺はする、絶対に。だって、どちらも神の意思が介入しようがない世界の主軸であるのだから原作がどうなるんだろうって思わされる。それで混乱する。どうしよう、どうしようって。

 

 だけどそれだけだ。多分暫くヘコむこともある。でも、しばらくしたらきっと問題なく過ごしてる。涙は流すことなく、だ。…あれ?変だなぁ、俺ってこんなキャラだったっけ?『失う』っていうことを普段、といか転生前の一般ピープルな俺ならもっと怖がるどころか狂乱してもおかしく無いほどビビリなはずなのにどうしてか全然怖くない。いやでも所詮は対岸の火事で二次元である以上は問題にならない……のか?違う、違う違う違う。そうじゃない。俺じゃない。俺はそうじゃない。こういう考えは俺じゃない。俺はそんなんじゃない。この体も声も性格も全て同じなんだから。……いやでも転生したこの身は本当に俺のモノなのか(・・・・・・・)

 

 あ、ヤバイ、俺って

 

「本当に俺なのか?」

 

 ズブズブとズブズブと思考が俺を飲み込んでいく。足掻こうとしても泥沼のように纏わりついて離れない。俺が飲み込まれていく、そんな感覚に襲われていく。が、

 

「うん、保留でいいな」

 

 取り敢えず、この一件は流すか明日の自分にぶん投げることにした。そんなこと考えても自分が自分であるなんて肉体的にも心理的にも証明できないし、考えたらキリがない以上はどうしようもないしね。『我思う故に我あり』という私以外私じゃないのの精神で行こう。さてと、シリアスなことはここまで。じゃあ。

 

「どこで食べる?」

 

「じゃあ、あの露店で食べましょう!」

 

「お、いいねぇ」

 

 昼飯何食べるか、なんて他愛のない話をしながらさっき浮かんだ重い話を流していった。後、明日テストすることを思い出して二人とも悶えました。






 主人公の予想通り、主人公も賭けの対象にされてます。理由は顔が苦労を刻んでないからとのこと。次回は少し時間が飛びます。流石に一日一日を1話ずつ書いてたら書きたいのも書けないので

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