褪せ人になった男がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:アーロニーロ

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おお、みんなこんだけ見てくれてんですね。すげぇ、嬉しいです。後、今日は九千文字書きましたのでよろしくお願いします。


死んでも勝つじゃなくて、勝つまで勝つ

「は?」

 

 目の前にダンジョンが広がる。その事実に俺は唖然としていた。ありえない。確かに俺は死んだ。死んだことなんて一度もないけど断言できる。俺は死んだんだ。

 

「うっ、…オゲェェェェェ!」

 

 その事実を思い出して、思わず腹の中のものを全部ぶちまけた時、

 

 自身が両手を地につけ、突っ伏して吐き散らした(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ことに気づいた(・・・・・・・)

 

 ある、無くなったはずの俺の左手が。肘から先もしっかりと。じゃあ、あれは夢だった?……いやあり得ない。断言できる。内臓が全部潰れ、骨が砕けていく感覚を味わったし聞き届けてから逝ったのを覚えてる。じゃあ、なにか?今まで起こったこと無かったことになったってことか?そんな時間でも巻き戻らない限り(・・・・・・・・・・・・)あり…得る…わ……け…が。その瞬間、ある可能性が頭をよぎった。

 

「まさか……」

 

 それを主軸に思考を展開する前に頭の上から降ってくる石斧のギロチンを回避した。あっぶねぇ!忘れてた!もっぺん死ぬとこだった!というか今の攻撃方法。さっき見たのと同じだったぞ!ってのとはやっぱり。

 

「よりにもよって『死に戻り』かよっ……」

 

 擬似的な未来視、臨死体験。この二つが組み合わさった能力なんてそれ以外全く思い浮かばない。

 

 ……いや、マジでふざけんなよ!俺はナツキ・ス○ルじゃねえんだぞ!?いや、この場合はフロムの主人公か!?あの連中もある意味で死に戻りしてるしさぁ!

 

 つまりこういうこと?エルデンリングのアバターがこの体には混じったから俺も死に戻りできるようになりましたと?いや、助かったけどよりにもよって死に戻り!?数あるチートの中でも玄人向けのもんを寄越すんじゃねぇよ!!いや待てそれよりも、だ。

 

「マジでどうすんの?この状況……」

 

 戦っても勝ち目はまずない。となると、考えられる手は一つだけ。

 

「逃げよ」

 

 逃げの一手である。曲がり角を見つけては曲がって、見つけては曲がって、見つけては曲がる。後ろからミノタウロスの咆哮が聞こえ、足音も聞こえた。あの時戦って確信したが、あのミノ公は直線は早いけど曲がり角になると減速の幅が大きい。腕を失って錯乱してたけど、冷静に考えれば今の俺の敏捷なら十二分に逃げ切れる。

 

 え?情けなくはないのかって?いや、ほら、生き残れば俺の勝ちっていうか……。現にほら、

 

「四層への階段へ到着っと」

 

 階層のマップもある程度は覚えてたし逃げ道を見つけることができた。ミノタウロス?見当たらないな。撒けたのかな?そう思いながら階段に向かって行こうとして誰かとぶつかり、すぐにグチャっというトマトが床に落ちた音を大きくしたような音が響いた。目線を向ける。そこには石でできた棍棒を持ったミノタウロスがいた。

 

「……誰だよ、もぉ」

 

 石斧じゃないから別個体なんだろうけどさぁ。で?俺にぶつかった挙句ミンチになったアンラッキーな奴は?目を向ける。――――なんてことはない血に染まった処女雪のような白髪と赤い目をした少年(ベル・クラネル)が真っ二つになってただけだった。

 

「――――――――」

 

 今日で何度目かわからない衝撃に襲われる。は?なんで?なんで、ベルがここにいるの?というか、なんで死んでる?あり得ない。だってベルは神の意思すら振り払うことのできるゼウスの残した最後の英雄(ラストヒーロー)なんだ。【剣姫】もフレイアもヘスティアもみんながみんな愛してやまない絶対のヒーローなんだ。だから、こんな所でくたばるはずがない。仮にくたばったら……一体全体誰がコイツの代わりを……。

 

 ミノタウロスの存在を忘れて惚けていた俺は上からの攻撃に気づくことなく。振り下ろしが直撃する。あまりの力に地面や壁に数回ほどバウンドする。通常であれば即死する、はずだった。

 

「ぉ、ぁ、ゴボ、ボ」

 

 虜囚の鉄仮面もあって一撃で死ぬことはなかった。が、自身の血で溺れていた。痺れるような甘い痛みが体を支配する。息を吸うたびに口の中に口からか頭からかわからないが生じる血が流れ込んでくる。痛い、痛いのに甘い、甘いのに辛い、辛いから苦しい、誰か、誰か。

 

 自殺しようにも力が入らず、無限に続くのではないかと錯覚する痛みの中で救いを求める。すると、再度体に強い力が降り注ぐ。ああ、やっと終わってくれた。そんなことを考えて俺はまた死んだ。

 

 

「……リスポーン地点はここなのね」

 

 目を開けるとそこには指を失ったミノタウロスとダンジョンが広がっていた。死に戻りするとわかってたからか、痛みに慣れてきたからなのか、死んだことが衝撃的だったのかは知らないけどだいぶ落ち着ける。さてと、

 

「どうしたものかねぇ……」

 

 逃げも無意味ときた。いや流石にもう一回タイミングをずらせばいいのではないかと思うけど。多分、何回やってもベル君と途中で出くわすと思うんだよね、何故かは知らんけど。そしてそんな俺に取れる選択肢は二つだけ。

 

 一つ目は必死こいて時間稼ぎ。

 

 今回のミノタウロス事件のことの発端であるロキ・ファミリアの連中が来るまで戦い続ける。逃げてもベルくんと鉢合う可能性が高い以上は持久戦に持ち込んでひたすらロキんとこの連中が来るまで戦い続けること。実際これが一番安牌だろうね。まあ、欠点としては体力の総量が圧倒的に上なミノタウロス相手に持久戦はそこそこ自殺行為なのよね。

 

 で、二つ目は全てを諦めてひたすら殺され続ける。

 

 一番この世界で起きてはならないことはベル君が死ぬことである。勝ち目の薄い戦いをやって辛い思いを続けるくらいなら(路傍の石)は諦めを享受して死に続けることで死に慣れればいい。なあに、そのうちスキル君も諦めてくれるだろうさ。ベル君も今回のことを教訓に学んでさらに成長という名の飛躍を遂げるだろうさ。でも、死に慣れるまで相当辛いんだよなぁ。どうしよう。

 

 そこまで考えてミノタウロスに目線を向ける。怒り心頭といった感じだが、何やら警戒してこっちの様子を見ている。……ん?いや待てよ。もう一つあったなぁ。そこまで考えた時に石斧が頭目掛けて振り下ろされた。

 

 瞬間、ミノタウロスの手首が半ばまで断たれた(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「ブモォォ!?」

 

 棒立ちの人間を殺すべく振り下ろしたにも関わらず石斧に感触はなくその上、自身が出血したことに困惑したように呻く。やったことは簡単だった。振り下ろしのタイミングで伸び切った手首をカウンターの要領で切りつけた。ただそれだけだった。そしてそんなことをやってのけた肝心の本人は、

 

(かった)!?え?直撃したよね?なのにこの程度?ミノタウロスってこんなに硬かったのかぁ……知らなかった」

 

 ミノタウロスの想定外の硬さに驚いていた。表情豊かなのは結構だけど、なんであんなに驚いてんの?こっちからすれば驚かれるほうが心外なんだが?だって、落ち着いて見れば攻撃のパターンはオークに似てるし、しかも2度も死に直結した攻撃なんだよ?見切れないほうがおかしいって。って、ああ、そう言えば三つ目の方法だったよね。

 

 三つ目、死に戻りを用いてお前(ミノタウロス)を殺す最適解を導き出す。

 

 魔法も通じるし攻撃して伸び切った関節や筋肉なら斬ることができるとわかった以上、文字通り死力を尽くせば無理な話ではない。それにこれなら俺は辛くないし、経験値も溜まってウッハウハ。もしかしたらランクアップできるかもしれん。というか、あの牛公に2度も殺され挙げ句の果てにベル君も死なせておいてキレてないかと言われた断じて否である。

 

「個人的にこんなセリフをマジで吐く日がくるとは思いもしなかったなぁ……」

 

 ヘラヘラと笑いながら虚空から杖を取り出し、頭に被ってた鉄仮面を外す。目の前にいる敵を見据えて表情を消した俺の口には腹の底からでた本音が漏れる。

 

「ぶっ殺してやるよ」

 

 この日、俺は生まれて初めて殺しを決意した。

 

 

 さて、そう凄んだみたものの。

 

「どう戦ったもんかねぇ……」

 

 戦術の組み立てに迷走していた。

 

 ……いやね?ほら、苛立ち混じりにカッコつけてあんなこと言ってけどさ?相手は確実に俺よりも格上なのよ。適当に魔法撃っておけば勝てるほどやわではないだろうしね?というか短文詠唱が多いとは言え、前衛がいない以上は下手に詠唱(歌え)ないんだよなぁ。え?並行詠唱?……出来はしますが機動力に難ありなのと肝心の威力がお粗末なんです、はい。

 

 まあ、相手が警戒している今なら試せることもあるしね。取り敢えずは

 

「【盾となるは、我が身に巡る奔流】、【マジックシールド】」

 

 様子見と行きますか。魔法名を唱えた瞬間、盾を起点に全身覆うように淡く蒼い光が俺を包み込んだ。新しく手に入れた魔法の中で唯一の防御魔法を展開する。結構頑丈なこともあってかなり重宝している。

 

「よっしゃ、来いや」

 

 剣と盾を構える。そんな俺目掛けてミノタウロスは大ぶりの横薙ぎを見舞った。横薙ぎは吸い込まれるように俺の胃があるであろう部分に直撃し、俺の身体は紙のように飛んでいった。切れ味は他の自然武器と違って良いほうだが、所詮は石斧断ち切ることはできない。しかし断ち切れなくていい。ミノタウロスの膂力が加われば内側から俺を潰すことはできるのだから。だが、

 

「それはあくまでも生身だったら、の話なんだ……ゲホッ」

 

 俺は無傷だった。フハハハ!どうだ見たか!これがマジックシールドじゃあ!見た目もあってどっちかって言うと魔法の盾(マジックシールド)って言うよりも魔法の鎧(マジックアーマー)だが……この際どうでもいいな!オークの群れにリンチにされても魔法が解けるまでの間は無傷なレベルで硬いのさ!……まあ、鎧と同じで攻撃は防げても衝撃は完全に防げないのが欠点だよね。

 

 これだったら一分間はお前の攻撃をしのげる……って、ホゲェェェェェェェェェ!?ヒビ入ってるぅ!え?嘘でしょ?1発でこれ?もっともつと思ったのに……。え、ちょっと待て。原作のベルくんってオッタル直々の剣術と生来の攻撃力を複合した攻撃を貰いまくった後にあんだけ動き回って勝った……ってこと!?えぇ……(困惑)。ちょっと意味わかんないですね。

 

 でも、一撃でこれってことは少なくとも7、8撃喰らえば砕けるよなぁ…これ。まあ、1分間にそんな馬鹿みたいに攻撃は喰らわないとは思うけど。というか、

 

「それももう見た」

 

 横薙ぎの大振りを体勢を低くすることで回避する。そして魔法(アヴァニム)を顔目掛けて放つ。が、

 

「んー。それはお前もだったかぁ」

 

 着弾寸前に顔の前に手を挟み込んで防いだ。手のひらはズタボロだが致命傷とはほど遠い。さっき自身の指を飛ばしたからか、俺の放った魔法に対してやたら警戒している。互いに攻めないでいると痺れを切らしたのか相手側から詰め寄り都合四度の嵐のような攻撃を放ってきた。一撃目の横薙ぎを回避し、二撃目のかち上げを盾でいなす、三撃目の振り下ろしを刃先に沿わせるように受け流し、四撃目を回避しきれず体で受けた。

 

 ……ちょっと待てやっぱり変だぞ。吹き飛ばされ魔法にヒビが入りながらも思うことはたった一つ、コイツ明らかに強くね?ということだけだった。確かにレベル一つ違うだけで格の差はでるのだろう。それは命がレベル2の時にレベル3のアマゾネス相手に挑んだシーンでよく知ってる。ベルのように第一級冒険者から技を習ったわけでもないから技の面でも劣るのかも知れない。

 

 でも、何もしてこなかったかと言われたらそんな訳断じてない。確かに痛いのは嫌だからと被弾は避けてきたよ?それ故に【戦灰動作】を使って盾のパリィの練習やシルバーバックやオークとか大型のモンスターの攻撃の受け方の練習を欠かしたことはなかった。それに総合的なステイタスならベルよりも上の筈……マジでなんで?

 

 でもまあ、

 

「今はんなこと考えてる暇ねぇなぁ!……って、あ」

 

 防御魔法が体から解けるように消えていった。時間切れ、それを悟るとすぐに距離をとって詠唱を開始する。が、

 

「【盾となるは、我が身を……】ォゴォォァ!?」

 

 それよりも早くミノタウロスは石斧を地面に叩きつけ、ゴルフの用に振るった。結果、大量の礫が俺目掛けて殺到した。一つ一つの礫が恩恵で強化された俺の目から見ても高速で飛んでくる。詠唱もあって避けきれず、何個か撃ち落とす。が、防御をすり抜けた一つが喉を直撃する。詠唱を続けようにも喉を潰されヒュー、ヒューという掠れた声しか出ず、詠唱が出来ない。行き場を失った魔力は俺の中で荒れ狂い、そして、

 

「――――――――ッッッ!!」

 

 炸裂、いわゆる魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を引き起こした。喉から体からありとあらゆる場所から生じる痛みと途切れ途切れの意識の中で最後に目にしたのは巨大な石斧が連続で振り下ろされるところだった。

 

 

 目を開けるとそこには指を失ったミノタウロスとダンジョンが広がっていた。……フフ、フフフフ、フフフフフフフフフフフフフフフフフフ!!

 

「上等じゃあ!牛公!!こうなりゃいくらでも付き合ってやんよぉ!人間様を舐めんなぁ!このモンスター風情がぁぁぁぁぁ!!」

 

 怒り狂うふりをしながらも頭の中は冷静になる俺。……本当だよ?冷静だからね?そんなアホなことを考えている間に先ほどの四連続の攻撃が繰り出される。

 

 しかし、一度見て味わった攻撃。今回は攻撃を全ていなし、避ける事に成功した。大振りの攻撃放った後だからか体勢が崩れた為、その場で脱力。そして倒れ込む寸前で踵から踏み込み、爆発的な推進力と共に地を這い、足の腱目掛けて二連続で剣撃を見舞って切断して機動力を奪う事に成功した。安心はせずにすぐさま後ろに回り込んで詠唱を開始する。

 

「【停滞の剣よ、我が敵を貫け!】、【エクラズ・ワールト】!」

 

 詠唱を聞いてミノタウロスは振り返り駆け寄ろうとするも腱を切られた影響で動けず倒れ込んだ。それが功を奏したのか魔法は頭ではなく手に着弾し―――炸裂。腕が根元から千切れた。

 

「ブモォォォォォォォォ!?」

 

 初めて聞いたミノタウロスの痛哭に俺は。

 

「チィッッッ!」

 

 舌打ちをした。当たり前だ、だって仕留めたって思ってたから。なのに結果は腕一本だけ。不満に思わないほうがおかしい。だから、

 

「次で仕留めてやるよ」

 

 蹲るミノタウロス目掛けて真正面から突っ込んだ。言葉や気持ちの裏側に昂りがあったのか、驕りが生まれたのかは知らない。だがすぐにこの行動は悪手であったと身を持って味わう。

 

(なんだあれは?)

 

 違和感があった。蹲り方が妙だった。痛ければ痛む場所を抑えるのは当たり前だ。なのに、手は地面を握りしめるように置かれ、足も力強く踏み込まれているかのよう。…おい、これどっかで見たぞ。まさか、

 

突撃(チャージ)か!」

 

 気づいた時には遅かった。咄嗟に踏みとどまるものいい的にしかならず、衝突。上にかちあげられた。

 

「ガッ……」 

 

 口から血と空気が一気に漏れ出る。腕が一本無くなり威力は削がれたか、生きてはいる。それでもミノタウロスの突撃、無事で済むはずもなく。俺は指一本動かすこともできなくなった。ああ…クソ、俺の馬鹿野郎。一度見た攻撃だろうが。そんな悪態をついている間にミノタウロスは石斧を振り上げて俺を見下ろしていた。

 

 次は要注意だな。そんなことを思いながら死を待っていると、急にミノタウロスの動きが止まった。うん?なんだ?何を見ている?目線的に腰の部分か?急な停止に困惑しているとミノタウロスは俺のことを持ち上げて大口を開き、口の中へ俺を放り投げた。抵抗らしい抵抗もできぬまま、俺はミノタウロスの歯にすり潰されていく。それでも俺の頭の中には『腰』、『停止』の二つの言葉が占めていた。そうして俺はまた死んだ。

 

 

 目を開けるとそこにはいい加減見飽きてきた指を失ったミノタウロスとダンジョンが広がっていた。さて、あれはなんだったのか。先ほどの起こったミノタウロスの不可解な行動に頭を回しつつ、攻撃を往なしていく。

 

 あいつ(ミノタウロス)が興味を示すものなんて微塵も思い浮かばない。腰にあるものなんてそれこそ鞘と袋しかな…い…のに。いや待てまさかそんなことある?仮に事実だとしたらロキ・ファミリアのやらかしたことは(・・・・・・・・・・・・・・・・・)かなりヤバいぞ(・・・・・・・・)

 

 だけどこの考えが事実なら俺はこのループでこいつを仕留めることができる。そう思うと笑みが溢れる。虚空から虜囚の鉄仮面を取り出し、被ると武器を片手にミノタウロスへと挑んだ。

 

 

 そのモンスター(ミノタウロス)に名前はなかった。ワタシはただ迷宮から生まれた一山いくらかのモンスターのはずだった。ただ、特筆すべき点があるとすれば知性があったということだ。

 

 ワタシが生まれてすぐに始めたことは暴れることはなく観察することだった。戦いを基本的に死ぬことを避けるために同胞に全てを任せ同胞を狩るものたちの動きを見続け、そして真似た。

 

 真似るのに難儀はしたが自身も戦う機会があったこと技はそれなりの形になっていった。生来の膂力と真似た剣術を合わせることで『彼』は同胞の中で最も強い存在になった。嗤いが止まらなかった、少しでも頭を使えばいいのに滑稽極まりなかった。そしていつものようにワタシ達を狩る人間を蹴散らす。

 

 筈だった。

 

 ワタシは必死になって逃げた。なんだあれはなんなんだあれは!あんな連中がいるなんて聞いてない!咄嗟に群れを散会させて囮にしなければすぐに死んでいた!逃げて逃げて逃げた先に普段見慣れたニンゲンがそこにはいた。片方は震えを隠しもせず、もう片方は気丈に振る舞ってるが怯えてるのがよくわかった。

 

 そうだこれがニンゲンだ、ワタシ達に怯え、恐れ戦くさっきのが間違えただけだったんだ。コイツらで遊ぼう。そう思って手を伸ばしたら黒いほうに指を飛ばされた。玩具の分際でなんてことをするのだ、と頭の中で怒りが湧き出るのと同時に自身の指を飛ばした他のニンゲンが使う『唄』に警戒した。だって、恐れるのはそれだけなのだから。それさえ気をつければいつものように遊べる。そう、ワタシは断じて狩られる側ではない。恐怖を抱く側ではないのだから。

 

 そう思っていた。

 

 まただ、コイツもなのか!?目の前のニンゲンは怯えがあったにも関わらずいきなり様子が変わり怯えが微塵も見えなくなっていた。そこからは全てが一気に変わっていった。幾多もの同胞とニンゲンを屠ってきたワタシの振るう武器が技が当たらない。なのにニンゲンの攻撃と『唄』だけは的確に当たる。戦いにくいったらない。まるで未来を見てるか、ワタシの戦い方にあった戦い方をしているかのようだ。

 

 だめだ耐えられない。こんな奴に苦戦している事実に耐えられない。ああ、そうだあの手でいこう。そう考えたワタシはあえて『唄』を喰らいうつ伏せになった。それを好機と見たのか突っ込んでくるニンゲン目掛けて突撃をかました。布切れのように軽々と飛んでいくニンゲンを見てなんと間抜けなのかとせせら笑った。そしてここまで屈辱を与えたことへの怒りを込めてトドメを刺そうとした瞬間、ふと腰のあたりから紫紺の石が確認できた。

 

 それを見た瞬間、ワタシは歓喜した。ああ、ああ!あの石だ!食べれば強くなれるあの石だ!逃げてる途中で食べると強くなれることを知ったんだ!そうかニンゲンが持ってたのか!なんと素晴らしい発見なのだろうか。ワタシはニンゲンを掴み、念入りに力を込める。手からポキやバキっといった音が響く。それを確認した後、大きく口を開き放り込んだ。石と共にワタシの血肉とするためにいずれあの一団にも復讐するために。ワタシは口に力を入れて噛み締めようとした瞬間、

 

 ワタシの意識は無くなり、2度と目を覚ますことはなかった。

 

 

ほれ()かひ(勝ち)

 

 頭が上から消し飛んですぐに黒い煙になったミノタウロスを見届けた俺は口と体から生じる痛みの中でそう呟いた。予想通り見てたのは魔石だった。ということはアイツ強化種だったのね。逃げてる途中で魔石でも食べたのかな?……まあ、仮にそうだったらロキの所の連中マジでやらかしもいいとこだよね。よかったわベルくんと一緒に逃げないで確実にベルくんがミンチになってた。

 

 え?どうやって勝ったかって?……まあ、戦ってるというか死んでるうちに気づいたんだけどあの牛野郎って異端児(ゼノス)ほどじゃないにせよどうやら知性があったっぽいんだよね。戦い方もやたら人間臭かったし、まず間違いないと思う。だから戦い方のパターンも読みやすかったし、こっちが手の内知ってますよ的な感じで立ち回れば焦って突撃してくるのも知ってた。

 

 突撃する場所も胴体部分なのもよくわかってたから予めマジックシールド展開しておいて防げばノーダメ。あとは魔石をちらつかせて大口開かせたら詠唱をやめて待機させ、最大まで魔力を貯めた【エクラズ・ワールト】放ってゲームセット。

 

 にしても、あ゛ぁぁぁぁぁ!!つっかれたぁ!アイツ最後の最後で握りしめやがって!ポーションが全部オシャカになったじゃねぇか!動けないわけじゃないけどキツイんだよ!……取り敢えずは動くか。悪態つくのもそのあとでいいな。そう思いながら立ちあがろうとした瞬間、

 

 ズシ……ズシ……と重く、聞き慣れてしまった足音が聞こえてくる。

 

 ……いや待て、嘘だろ?現れたのは身長3mはありそうな牛頭人体の怪物のミノタウロスだった。……うん、知ってた。知ってたけど受け入れたくなかったよ、この現実を。それより

 

ははえぇほ(立たねえと)……」

 

 力を込めて立ちあがろうと上体を起こそうとした瞬間、肘から崩れ落ちて仰向けになった。……ヤバい、これさっきミノタウロスに握りしめられたからじゃあない。この慣れ親しんでしまった虚脱感、精神疲弊だ。身体中の激痛が曖昧になり、意識が薄れていく。

 

 マジィ?次はコイツを視野に入れながら戦わないといけないの?あんまりな事実に泣きそうだが取り敢えずは次に向けて作戦を立てないと。ミノタウロスの足音を聞きながらそこまで考えようとして、幻覚が見え始めた。

 

 ……いやねぇわ。幻覚にしてももっと良いのを見ようよ。

 

 なんでミノタウロスの上半身がビームで消し飛ぶ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)幻覚なんだよ。

 

 あたしゃ、知ってんだからな。実は現実でのミノタウロスは俺の頭目掛けて武器振り下ろそうとしてるんだろ?世界がこんなに俺に対して優しいわけがないだろうが、良い加減にしろ。って、おーおー、次は美女の夢ってか?いや美女って言うには少し幼く感じるけどエルフって……俺エルフ好きだったっけ?

 

 山吹色の髪の色をしたエルフの女性が顔を青くしながらこちらを見てく「大丈夫ですか!?」と叫ぶのを眺めながら、ふとベルはどうなったんだろうと考え、俺の意識は途絶えた。





強化種ミノタウロスvs 主人公!ファイッ

勝者:主人公
戦果:魔石、ミノタウロスの角、魔法の並行詠唱の完全習得、戦いにおける柔軟性の獲得

強化種と言っても魔石食ったのはひとつだけだったのもあって強さはランクアップしたってほど上がらなかったが、ランクアップする寸前程度には上がってました。

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