褪せ人になった男がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:アーロニーロ
一日に2話とか投稿してる人ってどうなってんの、と思いながらの投稿です。
暗い、昏い、闇い
全てが微睡の中に溺れてしまうほどに、全てを忘れ去ってしまうほどに。
暗い、昏い、闇い
闇の中ですら跪き、祈りたくなるような三つの円環を描く黄金が瞬くように1人の褪せ人を見下ろして光り続ける。俺は知っているここは夢の中であることを。いつも見る夢だ眠ればいつも見て、いつも感じて、いつも忘れそうになってしまう。そんな夢だ。なのにどうしてか今日は違った。
おお、褪せ人よ、褪せ人に至りし者よ
死してなお死にきれぬ、不死なる者よ
遠い地にて失われた祝福が、汝を呼んだ
幾たびも死に続けよ
幾たびも滅び続けよ
幾たびも戦い続けよ
与えし祝福は汝を勝利へと導き続けよう
汝はこの異郷の地にて足掻き続けよ
■■■■■■■へと至るその日まで
声が聞こえる。俺を送りつけたものである何者かが俺をナニカを命じる。それを聞き届け、俺の意識が浮上を開始した。
◇
目が覚めると俺は謎の組織に飲まされた薬によって体を小さくされていた!……なんてことはなく目覚めたら天蓋付きベッドで寝かされていた。「知らない天井だ……」とか言ってみたいが、
「何だったんだ……あの夢…」
あんなエルデンリングのパッケージみてーな夢を寝るたびに見させられ、挙句忘れそうになるから辟易してはしていた。だけど今回は少しおかしかった。あんな荘厳な声を俺は一度も聞いたことがない。誰だ?1番あり得るとしたら俺をこっちに送り込んだ奴?でも、何で今になって急に。あーでもないこーでもないと考えるが
……うん、辞めだ。あんな超常現象じみた夢に頭回しても頭が痛くなるだけだ。似たような現象が起きた時改めて考えよう。
今は取り敢えずここまでに至ったことを思い出そう。現状を見るに多分あの時戦ったミノタウロスは無事に倒していて、最後に見たビームは幻覚ではなかったと、そして気絶した俺を運び込んだって感じかな?
……一瞬、ミノタウロスとの戦いは夢でしたっていう夢オチも浮かんだけどそれだけは本当にやめてほしい。身体中が少し軋む感覚があるから多分違うとは思う。というか思いたい。
で、次に装備品。虚空から持っている装備類全てを取り出す。【君主軍の直剣】よし。【隕石の杖】よし。【虜囚の鉄仮面】よし。【裂け目の盾】よし。【青布の胴衣】……おっふ、ぶっ壊れてる。どうしよう、これ。
「ここは何処だ……と言うか何だこの格好は」
ここ本当に何処だ。だけど私は誰?的なことはないから最悪ではないな。格好に関してもやたら清潔なうえに肌触りもいいのに変わってるしあれだけ血に濡れていた体や装備品も綺麗になってる。……おい大丈夫か?ステイタス見られてねぇよな?
ま、まあ、取り敢えず我らがヘスティア・ファミリアのホームでないことは確かだな。うちに天蓋つきのベッドもなければベッドの布団はこんなにふかふかでもない。一応、俺が家事のイロハを仕込んだヘスティアが常に掃除しているから汚いわけではないが、こんな清潔感あふれる部屋なんてあるわけもない。
じゃあ、ギルド?それはない。初期に配布される装備を見ればわかるのだが、普通に質が悪い。ベルのナイフとか確かに武器として使えるが、一日に数度は整備しなければならないほど。おまけに上層の最下層に住まうオークやシルバーバックには文字通り歯が立たない程度には切れ味が悪い。つまりはギルドの連中が冒険者相手に金を割くことがあまりないのだ。もっと言うなら基本的に命は自己負担な冒険者――――しかも金のなさそうな
じゃあ、何の関係もない通りすがりの誰かのファミリアのホーム?それもない。というか絶対ない。そもそも割と排他的と言うか他人に興味なしか蹴落とす対象としか見ない冒険者が金かけてまで怪我の処置をしてくれるとは思えない。例外はあるがそれは本当に一握りの連中だけ、むしろ気絶している間に身包み剝ごうとする連中だっているくらいなんだから。あ、
となると、考えられるのは一つだけ。助けたのは今回の騒動を引き起こした張本人だろう。それも外聞を気にするタイプの。考えが頭に浮かぶと同時にドアをノックする音が聞こえてくる。……さて突然ですがここで問題です。今回のミノタウロスを上層に追いやった騒動の元凶であり、挙げ句の果てに俺が複数回死なせやがったきっかけを作りやがったクソボケファミリアはどーこだ?
「失礼する。……ああ、目が覚めたか。調子はどうだ?と聞くのは少し失礼か?」
答え、ロキ・ファミリア。
◇
ドアが開いて入ってきたのは眉目秀麗とか容姿端麗とかそう言う言葉がよく似合うエルフの麗人の女性。面の良さだけ見ればオラリオでたまにすれ違う女神と同じかそれ以上だ。
「意識が戻って何よりだ」
「え、ええ、こちらこそ助けていただきありがとうございます」
過去現在を見渡して神を含めてもなお1番と言える絶世の美女が微笑む。そしてそんな微笑みと共に案じてくるエルフに思わず吃る俺。うーん顔がいい。俺がもう少し若くて愚かだったらそのまま告白して振られて、気味悪がられてたね。……言ってて悲しくなるがそれよりも今は。
「あー、申し訳ない。精神疲弊でぶっ倒れたところまでは覚えてるんですが、その先がまあ何と言うか覚えてなくてですね」
精神疲弊の影響か女性耐性の無さが原因か少し曖昧な言い回しで現状を聞く俺。ヤバい、何もないはずなのに泣きそうだ。こんなことなら彼女でも作るべきだったか?いや、作らないんじゃなくて作れないだけだったんだけどね?
……誰に言い訳してるんだ俺は。俺のコミュ能力の欠如に嘆いている間にエルフのいや
「覚えてないのか?」
「一応、魔石食ってたミノタウロス倒した後におかわりで来たミノタウロスをお宅のエルフっ子の魔法が消し飛ばしたまでは覚えてます」
もう一度思い出そうとして記憶を探ってみてもやはり同じ記憶が蘇る。まあ、割とうろ覚えなんだけどね。一応は記憶に食い違いがないか教えてくれるとありがたいんだが。
「ふむ……どうやらこちらで把握していることと相違は…いや、ちょっと待て。ミノタウロスは魔石を喰っていたのか?」
そんなことを思っている間にリヴェリアは特に違う点はないと告げてくる。魔石食ってたのは流石に想定外っぽかったけど。そうかミノタウロスとの戦いは夢じゃななかったか……。
よかった、あの戦闘で得た経験も全て夢じゃなかったんだね。ありがとうミノタウロス。お前のおかげで並行詠唱の練度や戦い方の柔軟性を学べた。改めてありがとうと言わせてほしいミノタウロスよ。お前は得がたい
って、ミノタウロスと言えば。
「他に被害者が出てはいませんでしたか?」
ベルくんは無事なのか?2度目のループで運命の修正力かわかんないけどベルくんがミノタウロスに追いかけ回されているのを覚えてる。……その世界線でベルくんが死んだことも。正直なところ俺の勝利は二の次でいい。多少の原作崩壊も受け入れられる。だが、『ベル・クラネルの死亡』。これだけは何が何でも避けなければならない。それこそ俺が文字通り命を捨てでも、だ。
死ぬことを視野に入れながらベルのことは話題に挙げず、やんわりと死傷者について聞いてみる。すると、少し悩むそぶりを見せ始める。早くしろ変に焦らすな。
「すまないがそう言った報告は聞いていないな。今回の騒動に置いて、被害者はお前一人だけだったと言う話だ」
……嘘は、言ってない、のか?少し訝しんだがこちらの目をしっかりと見てくるハイエルフを見て、別に神々のように嘘を見抜く力は持ってはいないが嘘は言ってないだろうと確信する。というかリヴェリアという女の性質から自己保身の嘘はつかないだろうしね。ふむふむ、となると最大の懸念点はこれでなくなったわけだ。後気になるとするなら、
「聞きたいことが二つほどあるのですが、よろしいですか?」
「構わない」
「じゃあ、お言葉に甘えて。一つ目はここは何処で二つ目は俺はギルド側に現状どういう認識をされているのか、ですね」
この二つくらいだろうか。
一つ目に関しては起きた直後から気になってはいた。助けてくれた連中には想像がついていたが、いまいち治療を行ってくれたのはロキ・ファミリアかディアンケヒトなどの医療系のファミリアなのかは想像できない。一応、俺は治療なしでも時間をおけば治るが相手側はそれを知らないだろうし、仮に治療を受けていたのだとしたらどの程度の出費なのか気になる。
二つ目に関しては少し考えてから気になりはしてた。これで――――多分ないとは思うが――――隠蔽するためにギルドに報告してないとすれば俺は死んだことにされる可能性が高い。最悪、ギルドから冒険者としてやっている俺の名前が消されたら流石に嫌だ。というか、そこまで手間はかからないがもう一段登録からやり直すことになるのが目に見える。ヘスティアやベルのことも頭に浮かんだが、神の恩恵がきれてない以上は死んでないとヘスティアもわかるから問題ないか。
で?どうなのそこんとこ。目を丸くしながらこちらを見てくるリヴェリアにそう問い詰める。……何でそんなに驚くのよ。返答はすぐに返ってきた。まずここは何処なのか。
「言うのが遅れてしまったな。ここは【ロキ・ファミリア】のホームだ」
何でも【ロキ・ファミリア】も明らかに駆け出し冒険者にレベル2でも苦戦どころか戦闘を避けるべきミノタウロスをぶつけてしまった事を謝罪する意味も込めて【ロキ・ファミリア】本拠へ護送し、治療を行ったとのこと。治療に関しても初めに見つけた時と比べて軽症になってた理由を聞かれたためスキルが理由だと言ったら納得してた。
ほうほう、ロキ・ファミリアの本拠地ね。予想の一つには入ってたからすぐに納得はできた。原作見てて思うけど予想候補の一つのだったディアンケヒト・ファミリアって本当に人助ける気ある?って聞きたくなる程度には結構難易度高いクエストとか商品の金額が高かったりと守銭奴な所があるからね。まあ、商売だからしょうがないって言ったらそこまでなんだけどさ。
で、次は。
「ギルド側に君のことは報告してある。受付嬢の1人に同胞の知人の娘がいたのでそちらに報告させてもらった。……何やら顔が青くなってたが、知り合いなのか?」
報告済みね、なるほど。というか同胞の知人の娘となると。
「エイナって名前ですか?」
「ああ、そうだ。その反応だとやはり知り合いだったか」
「まあ、アドバイザーですね」
「なるほど」
ああ、やっぱりエイナだったのね。顔色変えてくれる程度には心配しててくれたのは素直に嬉しいことだな。……となると明日が怖いな。確実に説教されるのが目に見えてる。仮にも俺年上なのに。
「聞きたいことは以上だろうか」
「大丈夫、と言いたいとこですが、どれぐらいの間気絶していたのでしょうか?」
まあ、少なくともあんな怪我をしてたし一日は寝込んでたな。とか思っていると
「数時間程度だな」
ファッ!?数時間!?えぇ……。あの怪我おってから数時間で目を覚ますって……。冒険者ってバケモンかなんかなの?
「他に聞きたいことはあるだろうか」
「い、いえ、ありません」
色々と驚かされたけど、あと気になったことと言えばステイタスのこととかかな?でもまあ、神聖文字読めるのってごく一部の人間しかいない。それにこっちに被害を被っておいてステイタス見るほど恥知らずではないでしょうし、読めるであろう気高いというか高飛車でプライドの高いエルフ様がそういうことするとは思えないし聞かなくてもいいよね。
そんなこんなでこっちの気になってたことを説明してくれると、この後のことを丁寧に説明してくれた。今回の一件で死者を出しかけたことに関しての詫びとして【ロキ・ファミリア】側が既に謝罪金などの手配をしているらしい。数十万程度かなー?とか思っているとその10倍の数百万ヴァリスを支払うと言った。
ええ……俺、もしくは俺たちが一日に稼ぐ収入の100倍以上なんですが、それは。確かにお宅って普通に一度の冒険で数千万とか稼ぐのは知ってるけど、今回の遠征でお宅の家計って火の車では?とか思ったが、貰えるもんは貰っておこうと思いそのまま言いたいことを抑えた。それはそうと
「取り敢えず戻ってもいいですか?」
「その怪我だ。もう少し休んでもいいんだぞ?」
「ああ、いえ自分が無事なこと報告と今日一緒に潜ってた同僚の安否を確認したいので」
確かに目の前にいるリヴェリアからは被害者がゼロという言葉を聞けた。その言葉に嘘はないんだろうよ。でも、流石に自分の目で見ないと信用しきれないし念のために、ね?
「ああ、そう言う事か……お前の着ていた装備品を持ってくる。少し待っていてくれ」
「ああ、大丈夫ですよ。
「……今さっき目を覚ましたのではないのか?」
「スキルのおかげで私物だったら壊れてても何処にあっても回収可能なんですよ」
こんなふうにね。と言いながら虚空から杖と剣を取り出すと目を見開き驚きながら「便利だな……」と言った。その後に「金銭も入るのか?」と聞かれたため無生物なら基本は全ていけると言うと「少し待っていろ」と言ってその場を去った。多分だけど謝罪金を取りに行ったのかな?装備品の件といい全部下っ端にやらせりゃいいのに律儀な人だなぁ、なんて思いながらベッドの上で待つ。ぶっちゃけ今この場で謝罪金を渡してくれるのは素直にありがたかった。
何故なら原作でもヘスティアとロキの不仲は有名だからだ。そんなこともあって俺がヘスティア・ファミリアに所属しているというだけで「ドチビに頭下げんの嫌や」とか言って謝罪金を払うのやめる可能性もある。流石の俺も数百万の金銭貰えなくなるってのは嫌だしね。そんなことを考えていると5分もしないうちにでかい袋を持って戻ってきた。
大量の金貨が詰まった袋を持って歩くハイエルフ。……うん、字面にするとビックリするくらい似合わないな。
「受け取ってくれ」
「ああ、ご丁寧にどうも……って、おお、思ったよりも重いな」
ベッドから降りて渡された袋をもらう。が、思ったよりも重くて驚かされる。受け取った袋を虚空に仕舞い込むとリヴェリアがこっちを見ていることに気がつく。
「……どうかしましたか?」
「ああ、いや。改めて見ると本当に便利なスキルだと思ってな」
ああ、そういうことね。確かに便利だよなこのスキル。でもね、
「案外融通効かないですよ?」
「ほう、と言うと?」
「自分のもんしか収納できないんですよ」
そうそこがこのスキルの最大の欠点なのだ。この間とか試しにベルくんのナイフを収納しようとしても無理だった。ここまでならまだよかったのだが、ベルくんが倒したモンスターの魔石すら収納できないときた。ヘスティアに何でできないのか聞いてみたのだが、曰くこのスキルは自分のものだと思い込んだものしか収納できないず、他人が持っているものと認識したものは決して収納できないとのこと。一応、お前のものは俺のもの的なジャイアニズムな考えだったらいけるらしい。
まあ、貰えるもんは貰ったしこのまま帰るか。そう思い帰ろうとすると、
「そうだ、すまないが帰る前にフィンと少し話をしてもらえるか?」
「え?まあ、良いですが……」
「そうか。ついてきてくれ」
扉を開けると俺をロキ・ファミリアの団長であるフィンのところに案内する。正直このまま帰りたいが、助けてもらうのが二度目とあって帰ろうにも帰りにくいため取り敢えず着いていくことにした。歩いてて思うけど本当に広いなロキ・ファミリアの本拠地。確か『黄昏の館』だったか?掃除とかどうしてんだろう。
そして、リヴェリアさん。うーんやっぱり綺麗だ。あまり話さないから無愛想とか取られそうだけどそうは全く思わずむしろ気品すら感じられる。仮に俺が同じことやったら……うん、「何だこいつ」とか思われて反感買うだけだな。気品とか何処で手に入るのかとかくだらないことで頭を回し、この沈黙を誤魔化していると。
「ここだ、少し待っていてくれ」
団長室に到着した。改めて思うけど個人個人に部屋があるのいいなぁ。
「フィン、例の被害者を連れてきた」
部屋をノックして声をかけている。
「入って良いよ」
中から落ち着いた子供の声が聞こえてくる。知らなかったら驚愕の一つや二つはしてたんだらうけど、一応原作を知っている身としてはあまり驚かない。扉を開けるとそこには。
「目が覚めたんだね、無事でなによりだ」
転生直後を合わせて俺を二度助けた恩人、フィン・ディムナがそこにはいた。
読んでくださりありがとうございます。お気に入り20000がUAが300突破しました。今後ともよろしくお願いします。
【青布の胴布】
とある鍛冶師の作成した青布の主体とした防具
見た目だけでなく防御面にも優れていながら比較的軽い
身なりに無頓着な褪せ人に対して、心配した1人のハーフエルフの送った代物