変身!!転生架空馬 チョコエクレール!!   作:よみびとしらず

12 / 12
チョコちゃんがジャパンカップ観戦するためへ馬主席へ行くお話です。


※この作品世界ではコロナ禍が発生してないため、観客が大勢います。

本馬場入場シーンはグリーンチャンネルの実況を参考にしています。


第5話 「馬主席へご招待!!」

 

 おばあちゃんに手を引かれ、私は人混みの中を掻き分け進んで行く。

 私がレースに出てた時間の頃よりもさらに人の数が増えていて前へ進むのも一苦労でおばあちゃんの手を離さないようにするので精一杯だ。

 人間達は、嬉しそうな顔、険しい顔、悩んでる顔、色んな表情を浮かべていたけど、その多くの表情の裏にある共通の感情があるのがわかる。

 

 これから始まる大レースに寄せる、期待――、興奮――、感激――。

 

 それらの感情と聴力の優れたウマ耳が拾う人々の声――聞き取れすぎて色んな言葉が混じり判別不能になった大きな塊――と人々の放つ熱気が大きな渦となって私に押し寄せ目と耳と鼻から身体に激しく流れ込んで揺さぶっていく。

 

 ―ドグンッ

 

 「――ッ、んぁっ、っく――」

 

 身体の中の熱が再び吹き上がり、私の中から激しく灼くその衝動に視界が揺れ息が詰まりそうになる。

 

 「千代子、大丈夫かい?もうすぐだからね」

 

 「うん、おばあちゃん……」

 

 感情の激流に翻弄されかけている私の少し汗ばみだした手をしっかり握ってくれているおばあちゃんのその腕が今はとても心強かった。

 

 

 

 人々が行き交う競馬場の建物内を進むとあまり目立たないドアがあり、私はおばあちゃんに引かれて中に入ると外の喧騒が嘘のように落ち着いた空間があった。

 受付のカウンターでおばあちゃんが係の人と何かお話をしてる間、私は心と身体を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。

 頭の中で脈打つ鼓動の大きな音が少しずつ収まって来る頃にお話を終えたおばあちゃんが寄って来て私に何かを渡してくれた。

 

 「7階馬主席……?」

 

 おばあちゃんから手渡された紐の付いた紙の台紙には「7階馬主席 第8日 第5回東京競馬2021年」と書いてあり、下には"御席番号"と呼ばれる数字と英字とカタカナ一文字が書いてあった。

 

 「そうよ。折角のレースを見るんだから、どうせ見るなら特等席が良いでしょ?下の一般席も良いけど人がいっぱいですし詰めだし、その様子じゃ千代子、あなたの心と身体が持たないでしょう?」

 

 おばあちゃんが言うには"イッパンセキ"と呼ばれる普通の人間達がレースを観戦する場所があるけど、そこは身動き取れないくらいぎゅうぎゅうで人間達の熱気と耳を覆いたくなるくらいの大歓声があるらしく、通路を歩いてるだけで人々の熱気と感情に当てられて掛かってしまう私にはとても耐えられないだそうだ。

 

 「馬主席なんて普通に生きていて入れる事なんて中々無いんだから折角だし行きましょう」

 

 エレベーターと呼ばれる小さな箱に入って上と昇っていく。身体がスゥーッと地面ごと持ち上げられていくエレベーターの初めての感覚で変になりそうながらも私達は7階へと向かって行った。

 

 

 「わぁっ~」

 

 エレベーターのドアが開き、一歩踏み出すと、下の階とは違った景色が広がる。まるで競馬場じゃないとても静かで落ち着いた部屋が目の前に広がっていた。

 ここにも人が何人も居るけど、男の人も女の人も皆とても綺麗で引き締まった服装で何だか普通のお客さんじゃなさそう。

 

 「おばあちゃん、此処に居る人たちは皆、馬主さんなの?」

 

 「ええ、そうよ。ここは馬主しか入れない特別な場所だもの。御粧しした甲斐あったでしょう」

 

 この場所に入るには"ドレスコード"と呼ばれる服装の決まりがあるそうだ。入り口の職員さんが私の格好をマジマジと見ていたのはそれをチェックしていたのかな?ウマ耳と尻尾が見えてるのかなと焦ってしまったけど。

 

 「おや?湯原オーナーではないですか?どうされたのです?」

 

 目の前にお父さんと同じくらいの年齢の男性が現れておばあちゃんに声を掛ける。髪型に服に靴に腕にはめた時計と明らかに私達と住んでいる世界が違う――そう感じる何かがあった。

 

 「こんにちわ、宮田オーナー。実は競馬場に孫娘が遊びに来ていてね、ジャパンカップを見たいと言うの。だけどこの娘はあまり身体が丈夫じゃないから人混みを避けれる馬主席(ここ)で見ましょうって私が誘ったんです」

 

 「こ、こんにちわ……。チョコ……御手洗千代子と言います……」

 

 うっかり馬名を名乗りそうになって慌てて人間名を名乗る。厩舎やおばあちゃんの家以外の外では人間の名前を名乗らないといけないそうで、私はおばあちゃんに言われた通りに私の人間時代(前世)の名前を名乗るのだった。

 

 「おやおやおや、湯原オーナーにこんな美しいお孫さんが居るとは知りませんでした。随分と可愛らしいお孫さんですね。初めまして、宮田 英悟(みやた えいご)と申します。湯原オーナー――貴女のおばあ様の馬主仲間です」

 

 差し出された手を握り握手を交わす。その瞬間、私の中の本能が叫ぶ!この人間に逆らうな、この人間は競走馬(わたしたち)を支配する絶対的存在だと――。

 緊張のあまり握った手を直ぐに放してしまい俯いてしまう。失礼な事してしまったかな?

 

 「おやおやおや、少し怖がらせてしまいましたかな?――では私はこの後、調教師との打ち合わせ会議がありますのでこれにて失礼します。ごゆっくりお楽しみください、千代子お嬢様」

 

 深々とお辞儀をしてそう言うと宮田オーナーさんは帽子を被った美しい女性の人と共に私達が乗ってきたエレベータへと入っていた。

 

 「千代子、大丈夫かい?」

 

 おばあちゃんが私の顔を覗いてくる。

 

 「私は大丈夫だよ。馬主さんだと聞いたら緊張しちゃって……。競走馬(わたしたち)にとって、馬主さんは絶対的な人間だからって思い出しちゃっただけだから」

 

 「そうだったの。大丈夫よ、千代子。今のあなたは人間なんだから、馬主だからって委縮しなくて良いのよ」

 

 「うん……そうだね。ありがとうおばあちゃん」

 

 おばあちゃんが気を遣って私を慰めてくれる。そうすると私の中の緊張と僅かな恐怖感は消えて行った。その後も何人かの馬主さんが来ておばあちゃんと挨拶を交わして、私もお辞儀をして挨拶をしながら進んで行く。

 

 

 

 「うわぁ~~!!!」

 

 馬主エリアと呼ばれる部屋を抜けて外にある馬主席へと行くと目の前に見た事もない景色が広がっていた。

 

 「おばあちゃん!!おばあちゃん!!すごい!!すごいよ!!競馬場が全部見えるよっ!!」

 

 つい私は興奮してピョンピョンと飛び跳ねる。

 目の前に広がる眺望、遥かに広い東京競馬場の場内馬場がすべて見渡せて、さらに視線を上げると遥か向こうに競馬場の外の世界が広がり遠くには横に長い雄大な山々が見えている。

 

 「わぁっ!!おばあちゃん!!見て見て!!人がっ!!人間がいっぱい居るよっ!!」

 

 視線を下に向ければ地上に無数の人々が居る。よく見れば競馬場の中央部分にも建物や芝生広場があってそこにも数えきれない人間達が居た。あんな場所にも人間が居るなんて知らなかった。

 

 「私、こんなに人間が競馬場に居るの見た事無い!!すごい!!ねぇおばあちゃん!!今いったいどのくらいの数の人間が居るの?」

 

 「国際G1レースだからね。入場者数は確か大体10万人くらいかしら?」

 

 「じゅ、じゅうまんにん……」

 

 10万人もと言われても全く想像が付かない。でも眼下に広がる数えきれない――数える気力も湧かないくらいの人間達を見ると何となく納得してしまう。

 

 「どう?気に入ったかしら?」

 

 「うん!うんうん!!すごい!すごくすごいよおばあちゃん!!!」

 

 「ふふふっ、千代子ったら年甲斐も無く燥いじゃって……、ほら千代子、皆さんが見てるから少し落ち着きなさい」 

 

 「っ!?……あぅぅ……ごめんなさい」

 

 気が付いたら周りの馬主さん達が私を不思議そうな目で見ていて、そこで初めて私がとても周りから浮いて目立っている事に気づき、恥ずかしさの余りに小さくなりそのまま座席へと座る。大きな白いテーブルに二人ずつゆったりと座れる席だ。

 私達の席はかなり前の方にある為に座席に座っても場内馬場の外側になる芝コースも見える特等席になる。ふと目線を上げると人間と馬達が見えて来た。

 

 「あっ、誘導馬さん達が出て来た!」

 

 「あら、丁度レースの時間だったのね。タイミング良かったわね」

 

 「うん!」

 

 誘導馬さんとその後ろに「2」番のゼッケンをつけた青鹿毛の馬さんが地下馬道から出て来て、馬場へと脚を踏み入れだすと私が出走したレースの時とは違う聞きなれない音楽が流れ始めた。

 

 『東京競馬場、今日のメインレース。出走メンバーの登場です。12レース、ジャパン・オータムレース、ロンギン賞第41回ジャパンカップGⅠ国際招待、芝の2400m。出走メンバー18頭です!』

 

 場内のアナウンスが出走する競走馬さんとその鞍上の騎手さん達の名前を次々と読み上げて行く。馬も人も聞いた事無い名前ばかりで、一頭一頭(ひとりひとり)にカッコイイ紹介文も付けられていて、改めて私の居る世界とは別次元なんだなと感じだ。

 

 「そうそう、何でもこのレースには現役のダービー馬が4頭も出走していて、日本競馬史上初めての事だそうよ。千代子、あなたは凄いレースを見ているのよ」

 

 テーブルの上に用意されていたパンフレットと競馬新聞を見ながらおばあちゃんが言う。

 

 「ダ、ダービー馬が4頭も……??」

 

 ダービー馬――、私達が一生に一度だけしか挑戦できない、同世代で遥か上のレベルのG1クラスの競走馬でもレース自体に出る事すら難しいと言われる名誉あるレース――東京優駿(日本ダービー)の優勝馬さんの示す称号。そんな想像もできないレベルの世界を勝ち抜いた馬さんが同じレースに4頭(よにん)も集まるなんて……。

 自分がとんでもないレースに観戦で来ている事に驚きながら、おばあちゃんから渡してもらった競馬新聞を読んでいく。そこに紹介されている競走馬さん達は誰もが戦歴凄まじい強者ばかりで写真からでも伝わってくるオーラに身震いしながら読み進めていると、紹介されているダービー馬さんの中にひとりの競走馬さんに目が釘付けになる。

 

 「コントレイルさん……?」

 

 「おや?千代子、気になる馬でも居たのかい?」

 

 「うん……この(ひと)なんだけど……」

 

 おばあちゃんが覗き込んで来るので私はその写真に指を指し示す。4頭(よにん)の中で一番若そうな青鹿毛の(ひと)だ。

 

 「この馬はね――」

 

 おばあちゃんが丁寧に説明してくれる。

 コントレイルさんはデビューしてから一度も負ける事もなくダービーを含め私達の憧れのクラシックのG1レースを3つ獲った無敗三冠馬と呼ばれる(ひと)だそうだ。私なんてデビューから何度も負けてやっと2つしか勝ち星あげてないのにコントレイルさんは一度も負けずに走り抜けるんなんて――。そんな凄いひともここ数戦は負けが続いていてこのレースで引退するそうだ。

 

 「たった3回しか負けて無いのに引退しないといけないの……?」

 

 「G1馬にはG1馬の評価や事情があるの。負けが込んで怪我したり種牡馬の価値が落ちないうちに引退しなさいってことなの」

 

 G1馬まで上り詰めれば安心――じゃないんだ。私は知らなかったこの世界を垣間見てしまったような気分になる。

 

 「最後のレースで勝って終わればそれで良いのだけど…、なかなか難しいからねぇ……」

 

 おばあちゃんが言うには一度負け始めるとそのままズルズルと行ってしまい、最後まで勝てずに終わってしまう馬も多く、引退レースを勝てて終われる馬もとても少ないそうだ。

 

 「私、コントレイルさんに勝って欲しい。勝って無事走り抜けて欲しい」

 

 「千代子、コントレイル号を応援したいんだね」

 

 「うん!私、コントレイルさんを応援したい!彼に勝ってほしい」

 

 「じゃあ、私達で応援してあげましょう」

 

 「えっ――!?」

 

 そう言うとおばあちゃんは「千代子はここで待ってなさい」と言い席を立つとどこかへ歩いて行った。

 

 (つづく)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。