変身!!転生架空馬 チョコエクレール!! 作:よみびとしらず
新第二章の最初のエピソードはチョコちゃん達のオーナーさんが登場する話です。
インフルエンザ予防接種の副作用で魘され意識が朦朧とする中、謎の衝動に突き動かされて書いたら27,000文字を越えたため、分割投稿します。ちなみにまだ完結していません、書いている途中です。ワクチン副作用発症時の時しかまともに執筆できないのはどうかなと思います。頑張って書きます。
読んで頂けたら幸いです。何か読んでみて気になる事ありましたら感想欄や活動報告欄にご自由にどうぞ!
第1話 「新しい日々」
「お疲れ様、
朝の調教を終えて厩舎に戻ってくると鞍上の
「さぁ、こっちへおいで。身体を洗ってあげよう」
ほとんど力の入ってない形だけ手が添えられた引き綱がお父さんの手から落ちないように歩幅とペースを合わせて洗い場に入る。
以前より少し勢いの落ちたシャワーを浴び、お父さんの手が私の
「千代子、湯加減はどうだ?熱くは無いか?温くは無いか」
――大丈夫だよ、お父さん。
「そうか、そうか、それは良かった」
とても優しい顔をして私の馬体を洗ってくれていた。
私は競走馬チョコエクレール号。美浦トレセン御手洗厩舎に所属する3歳の牡馬。そして調教師
前世は人間で、人間時代の記憶は全部戻ってないけど、何かがあって命を落とし、何かがあって競走馬として生まれ変わり、大好きなお父さんの元へ帰ってきた、真夜中だけウマ耳と尻尾の生えた
「テキ、馬房の寝藁を整え終えました」
じっくりと時間をかけてお父さんが私を洗ってくれてる間に一足先にボスを洗って厩舎に連れて帰っていた厩務員の国崎さんが声をかけて来る。
「ああ、わかった。さぁ、行こうか千代子」
お父さんにエスコートされて私は自分の馬房へと向かう。
「テキ、最近ずっとチョコばかり構ってませんか?偶には俺とコタロウの世話代わってくださいよ~」
コタロウに小突かれながらくたびれた表情を浮かべる厩舎所属騎手の
テキを入れて三人しかスタッフの居ない厩舎に三頭だけの管理馬、誰かが一頭に付きっ切りで仕事をすると必然的に一人一頭の専属状態になる。私にはお父さん、ボスには国崎さん、コタロウには浦木さんが付いて朝の調教から馬房の清掃と洗い場での作業をこなしていく。
「文句を言うな。コタロウはお前しか扱えないだろう。それと同じでチョコはテキにしか扱えないんだ」
不満げな浦木さんに国崎さんが厳しく言う。
「何ですかそれ……。前までチョコ達の世話はほぼ俺と国崎さんでやったじゃないですか。最近のテキ、ちょっと変ですよ?」
「すまない浦木、チョコの世話は暫く俺にやらせてくれないか」
深々と頭を下げて頼み込むテキに、思わずたじろく浦木さん。
「ううっ……、テキにそんな顔して言われたら文句言い返し辛いじゃないですか……」
そんな浦木さんと国崎さんとお父さんのやり取りを眺めながら「コタロウのお世話押し付けてすみません」と私は心の中で謝るのであった。
「さぁ、千代子。朝ご飯だ」
国崎さんとお父さんが私達のご飯がが入ったバケツを持ってくる。馬房の入り口の閂に引っ掛けられたバケツに頭を入れて食べる。
変身し始めた頃は人間の時の癖と馬の時の癖が混ざったりして混乱したこともあったけど今では頭を切り替える事が出来るようになった。
人間の時には食べられない飼料も馬の時にはご馳走だ。国崎さんの作るご飯はブレンドが絶妙な塩梅でとても美味しい。
私が食べている間、ずっとお父さんがそばで見つめて来てるのが少し恥ずかしいけど「千代子が美味しそうに食べている姿を見たいんだ」と言われたので、とても幸せそうなお父さんの顔を見ながら食べるゴハンも悪くはないかなと思うようになっていた。
「テキ!!大変です!!」
別厩舎でのお仕事ある浦木さんが帰ったあと突然、一足先に厩舎の事務所へ戻ったはずの国崎さんが勢いよく駆け込んできたので、私はびっくりしてバケツをひっくり返してしまいそうになった。
「どうした国崎、そんな血相変えて駆けこんで来て。千代子が驚いてしまったじゃないか」
「す、すみませんテキ。千代子お嬢様もお食事の邪魔をして申し訳ありません」
お父さんと私に頭を下げて謝る国崎さん。馬が大きな物音に敏感で弱いのを知ってて普段はとても気を付けている国崎さんがそれを忘れるなんて――、何かあったのだろうか?
「それで何があったんだ?」
「――湯原オーナーがお見えになっています」
「オーナーが?」
「はい、テキに大事な話があると」
「…………わかった直ぐに行く」
いつの間にかお父さんからは優しい笑顔が消えていて強張った少し暗い表情になっていた。「すまん、またな千代子」私の鼻先を軽く撫でてそう言い残すとお父さんは国崎さんと共に足早に厩舎から出て行った。
『ねぇ、ボス。何があったの?ユハラオーナーって何?』
何か胸騒ぎを覚えて不安になった私は隣の馬房に居る競走馬――厩舎のボス馬であるブルドッグヘッドに尋ねる。ブルドッグヘッド――通称:ボスは人間界や競馬界にとても詳しくて何でも知ってる私の尊敬する
『湯原オーナーは俺達の
『ウマヌシってなぁに?』
『馬主は俺達の所有者でテキ達よりも偉い、遥か上に立つ存在だ。俺達は馬主のモノで生きるのも死ぬのも馬主――オーナー次第だ。オーナーに走れと言われたら嫌なレースでも走るしかない。オーナーが辞めろと言えば騎手もテキも厩務員も厩舎すらも変えられる。レースに勝てずにオーナーに要らないと見捨てられたら俺達はもう死ぬしか無いんだ。走るのも生きるも死ぬもオーナーの胸先次第。それぐらい絶対的な存在なんだ』
『そんな……』
私達はそんなモノ扱いだなんて……。
『俺、アイツ嫌い』
ボスの馬房のさらに隣の馬房に居る私と同い年で幼馴染の競走馬――コタロウが呟く。
コタロウは耳をギュッと絞り、お父さんたちが出て行った方を睨み続けていた。
『アイツって湯原オーナーの事?』
『そうだよ!あの鬼ババアだよ!』
『鬼ババア……?』
『チョコ、憶えてないの?アイツ、俺達が生まれて住んでた
『えっ?そうなの?』
コタロウに言われて衝撃を受ける。私にはそんな記憶が無かった。
私は
でもコタロウの言う住んでた家なんて思い出せなかった。私の中の一番古い記憶は育成牧場と呼ばれる大きな施設に居た頃で、大勢の競走馬を目指す同い年の仔達と暮らして施設の人間達と訓練してる風景しか思い出せなかった。
駄々をこねて人間達を困らせるコタロウに寄り添って励ましたり説得したりする賑やかで楽しかった日々。コタロウが言うような家をメチャクチャにされて連れ去られる様子など記憶には無かった。
『チョコぉ……何で覚えてないのさ』
『ごめんねコタロウ』
『コタロウ、無理に掘り返してやるな。忘れる事は悪い事では無い。辛い過去なら尚更だ』
『ううっ……』
ボスに釘を刺されてしょげるコタロウ。私も不安が増し厩舎の事務所の方向を見つめていた。
『大丈夫だ。チョコもコタロウも未勝利を脱せれた。俺も前走は賞金圏内に何とか入れた。何も問題はないはずだ。テキ達を信じるんだ』
ボスがそう励ましてくれていた。それでも私の中に広がる暗くて重く冷たい暗雲は晴れる事は無かった――。
(つづく)
恐怖のオーナー来襲の巻き。次回は馬主vsテキをお送りします。