変身!!転生架空馬 チョコエクレール!!   作:よみびとしらず

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怖い怖い主人公達の馬主である湯原オーナーが登場します。

この回は前半と後半で物語の視点が変わります。視点の切り替えシーンでは分かりやすいように注意書きしてますが見落とす可能性もあります。ご注意ください。

※全体的に暴言や感情的な激しいセリフの応酬が含まれている所謂ギスギス回です。苦手の方は十分ご注意の上、ご覧ください。


第2話 「オーナー」

(※ここから三人称視点になります。)

 

 

 

 フゥーっと吐き出された紫煙がゆったりと厩舎事務所の天井へと広がり上っていく。

 厩舎事務所の来客用ソファーには煙草を吹かす上品な服装の高齢の老婆が居た。彼女が手に持った煙草を灰皿の端で叩くのと事務所のドアのノックの音がするのはほぼ同時だった。

 

 「お待たせしました。湯原オーナー」

 

 ドアを開けて入ってきたテキと厩務員の国崎が深々と頭を下げる。そんな二人にソファーに座る老婆――ブルドッグヘッド号・コタロウ号・チョコエクレール号の所有者で馬主の湯原オーナーこと湯原 和子(ゆはら かずこ)は威圧的な鋭い視線を向けるのであった。

 

 「寒空の下、大事な来客である馬主をほったらかし、揚げ句に自分でドアを開けさせ、事務所に入ってみれば空調も茶菓子も煙草も灰皿も全く何も用意していない。こんな厩舎があって良いのかしら?」

 

 「申し訳ございません。オーナーがお見えになられると事前にご連絡いただければ前もって準備できていたのですが――」

 

 「はぁ?どうして馬のエサやり係ごときに私の予定を教えないといけないの?そもそも、何故一々私が、貴重な時間と電話代を割いてまであなた達に自分の行動予定を知らせなきゃならないの??調教師はいつから馬主まで管理するようになったのかしら?だいたい、馬主がいつ来ても対応できるように常に準備しておくのが厩舎の常識でしょう?」

 

 「申し訳ございません。すべては私の配慮不足でございます」

 

 何度も頭を下げ謝罪を口にするテキ。隣で同じように頭を下げる国崎厩務員の手は悔しさで強く握られ震えていた。

 

 「で、いつまでそこに突っ立っているのかしら?」

 

 鋭い声と視線で顔を上げれば、顎でさっさと座れとジェスチャーする湯原和子に促されもう一度深く頭を下げてテキと国崎厩務員がソファーに掛ける。

 

 「ところでオーナー、今日はどのようなご用件で?」

 

 テキの問いかけに湯原和子は目も合わせず、灰皿に煙草を押し付け火を消すと、隣に置いてあった高級欧米ブランド鞄から黄色の蛇革で作られた大きな財布を取り出し、中から皺一つない一万円札を一枚取り出すと国崎厩務員へと突き付けた。

 

 「国崎さん、ちょっと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「――っ!」

 

 煙草を買うだけならトレセンの外へまで行かなくも良い、そもそもトレセン内にはたばこの自販機も売店も小さなコンビニもあるのにわざわざトレセンの敷地外まで行けと言う。要は「大事な話だから部外者(余所者)は席をはずせ」そう言う意味の当てつけである。

 勿論、国崎厩務員はその意図を分かっていた。しかし、ここでテキとオーナーを二人っきりにするのはマズイ。そう直感を受けたのだが。

 

 「……国崎」

 

 テキが見つめて来る。その目は「俺なら大丈夫。ここはオーナーの指示通り席を外してくれ」と訴えかけていた。テキにそう言われると従うしかない。渋々国崎厩務員は席を外すことにした。

 

 「……わかりました。湯原オーナー、ご希望の煙草の銘柄は御座いましょうか?」

 

 「ピースの10本入りよ。馬のエサの配合憶えるヒマあるならいい加減、オーナーの愛用煙草の銘柄くらい憶えなさいな。私はコレしか吸わないのよ」

 

 「申し訳ありません。では行ってまいります」

 

 一万円札を両手で受け取り、湯原和子とテキに頭を下げると足早に国崎厩務員が事務所を出て行く。

 ドアが閉まり足音が遠ざかると、やがて辺りが静寂に包まれる。

 それを確認すると湯原和子は徐にテーブルに置いてあった金細工の装飾が入ったアルミ製のシガレットケースを手に取り開けて中から新しい煙草を出すと口に咥えてテキを睨みつける。

 一瞬、意図が理解できずにいたテキだがすぐにテーブルに無造作に投げてあったライターを手に取り湯原和子が咥える煙草へと火をつける。

 じっくりと味わうように吸うと顔を上げてひときわ大きく紫煙を吐き出す湯原和子。事務所の天井に大きく広がる紫煙を見つめゆっくりと顔を下ろして前を向くと、

 

 「()()()、今年は千代と千代子の命日に来なかったわね。どうしたのかしら?」

 

 とテキに問いかける。

 

 「申し訳ありません。4月はブルドッグヘッド号の3勝クラス挑戦、チョコエクレール号とコタロウ号の未勝利戦への準備と調教に追われていました」

 

 「そう言えばそうだったわね。――では、8月のお盆に来なかったのはどうしてかしら?」

 

 「チョコエクレール号の未勝利戦突破のための準備と調教に追われてました。オーナーから一刻も早く未勝利脱出せよと厳命を受けていましたので」

 

 「そう言えばそんな事もあったわね。ズブ馬ばかりで忘れていたわ」

 

 「オーナーにはご心配とお手間を掛けさせてしまい申し訳ありませんでした」

 

 「じゃあ、最後に聞くわ。9月のお彼岸に来なかったのはどうしてかしら?

 

 「――っ」

 

 「チョコエクレール号は9月の最初の未勝利戦で勝って未勝利脱出したわよね。その後時間がたっぷりあったはずよ。私、あなたに確かこう言ったと思うの、『暫くはレースに出さなくて良い。馬達をゆっくり休まなさい』ってね。まさかアレ、そのままの意味で受け取ったんじゃないわよね?」

 

 「…………」 

 

 テキの顔から表情が消え青ざめ俯く。もちろんそんなつもりはなかった。しかし9月の未勝利戦後、厩舎ではいろんな出来事が起きていたのだ。きっと他人には、常人には理解できない、人知の理解の範囲を超えた事件の数々が――。しかしそれをオーナーに伝える術が無かった。

 無言のままのテキを図星で反論できないと見えたのか、湯原和子は呆れたように紫煙混じりのため息を吐き、まだ火のついたばかりの煙草を灰皿に乱暴に押し付け消すと、

 

 「…………そう、あなたの考えはよくわかったわ。死んだ人間にはもう用も興味もない、死んだ妻や娘よりも碌に稼ぎもしない駄馬の方が大事なのね。最愛なんて嘘ついて、人間の家族よりも馬を優先する――、競馬村の人間らしいわね」

 

 怒りを滲ませ腕を振るわせながら言い放つ。その言葉に思わず項垂れていたテキが顔を上げて叫ぶ。

 

 「違うんです!俺は――、俺は――、()()()さんっ!!」

 

 「誰かお義母さんですって!!あなた如きに義母呼ばわりされる筋合いなんてないわ!!!千代と千代子を散々誑かして死に追いやり、死んだらあっさり捨てて馬に没頭する!!他人の金で競走馬を調教する(お馬さん遊びする)のはさぞ楽しいでしょね!!あなたが国崎と馬で遊んでる頃の私は最愛の娘とたった一人の孫娘を奪われ地獄に叩き落され藻掻き苦しんでいたと言うのに!!!!!」

 

 「違う!!俺はどんな時だって千代と千代子の事を忘れた事は一度も無い!!今でも愛してるんです!!!本当なんですっ!!!信じてくださいっ!!!お義母さんッ!!!」

 

 「お黙りっ!!!」

 

 ダァンッ!!と80代後半の老婆とは思えない腕力でテーブルを叩く。衝撃で跳ね上がった重量級のガラス製灰皿が宙を舞い灰をまき散らして床に転がり落ちる。そのままテーブルに乗り出しテキを胸倉を掴み持ち上げる。

 

 「忘れたことが無い?今でも愛してる??――いったいどの口が言ってるのかしら?千代が茨城(ド田舎)の産婦人科の分娩台で血の池に沈んでいた時、あんたは何をしていたの?府中で勝てもしない重賞レースに挑んでいたんでしょ?無理して出走させた馬は粉砕骨折で競争中止なり予後不良でしたっけ?笑わせてくれるわっ!!千代子が大学の薄汚い男共(クズ)輪姦(まわ)され切り刻まれゴミ袋に詰められたあげく夜の冷たい霞ヶ浦に沈められている時、あんたは何してたの?阪神で身の程知らずに格上戦へ挑んでいたんでしょう?愛娘の死と引き替えに得たのが最下位18着のタイムオーバー殿負けですって?なんて素晴らしい父親なのかしら?そもそもあんたが千代子を誑かしさえしなければ、MARCH(あんなところ)に入れる事も無く、こんな酷い目(強姦殺人)には合わなかったのよ!!!娘を死んだ妻の身代わりにして欲情する父親なんて最悪だわ!!!あんたは私から大切な物を何もかも奪い去り湯原家を滅亡に追い込む疫病神よ!!死神よ!!このろくでなしっ!!!」

 

 一気に捲し立て吠える湯原和子。さすがに体力の限界を超えたのか、掴んでいたテキの胸倉を放すとソファーに倒れ込むように沈む。

 

 「違う…違うんだ……違うんです……許してください……許してください……」

 

 床に蹲り子供の様に泣きじゃくるテキ。

 

 「50代後半のいい歳した男がめそめそ泣くなんて女々しいったらありゃしないわ……。いつまで泣いてるのよ、顔を上げなさい」

 

 ゆっくりを上体を起こしてテキを睨みつける湯原和子。震えながら涙でぐちゃぐちゃの顔を上げるテキを見る。

 

 「今日来たのは今後のレースの事よ。あなた、いつまで馬達を遊ばせてるつもりなのかしら?まさか本当に愛玩動物(ペット)のエサやり係になったつもりじゃないでしょうね?」

 

 「違います……」

 

 「じゃぁさっさと3頭の駄馬どもを働かせなさい。一体毎月預託料でいくらか掛かってるか分かってるの?預託料だけじゃないわ。たった三頭しかいないこの厩舎を維持するのに私がどれだけお金を出してるか、わかっているのかしら?」

 

 「……十分存じてます」

 

 「なら早く馬を動かせなさい。G1を勝てとは言わないわ。私がつぎ込んだお金の分しっかり回収できるようにレースへ出すのよ。優勝できないなら優勝賞金と同じ金額だけ出走費で稼ぎなさい。スケジュールを詰めるだけ詰めるのよ、毎月、毎週、土日連続でもレースに出しなさい。それで馬が壊れても私は一向に構わないわ」

 

 湯原和子のテキを見つめるその瞳は金欲のどす黒いオーラが渦巻いていた。

 

 

 

 


(※ここから再び一人称[チョコちゃん]視点になります)

 

 

 

 

 

 不安と恐怖の胸騒ぎで落ち着けなかった。

 

 人間の女の人の叫び声、大きな物音、お父さんの悲痛な声――。壁越しに聞こえ伝わってくる声はくぐもっていて鋭い聴覚を持つ馬の耳でも言葉の内容は聞き取れないけど異様な雰囲気を感じる事が出来た。

 

 ――お父さんっっ!!お父さんっ!!!

 

 今すぐここを抜け出して走りたかった。お父さんの元へ走り抱きしめ守りたかった。でもそれが出来ない。真夜中じゃないと私は変身できないから。()の私ではお父さんに駆け寄るどころか目の前の鉄の棒すら躱せず馬房内をオロオロと歩き回るしかなかった。

 

 『あっ!出て来たっ!!鬼ババアだっ!!』

 

 コタロウが叫んでいる。私も見ようと首を伸ばすけどもう少し外へ出て来てくれないと私の馬房の位置からは見る事が出来ない。

 

 「湯原オーナー。折角来たんです、愛馬達の様子でも見て行きませんか?」

 

 「ふんっ、どうして私があんな草と藁の匂いが立ち込め糞尿塗れの臭くて汚い獣の小屋に足を向けないといけないのかしら?トレセンの獣臭い空気を吸うのも馬糞(ボロ)が落ちてる土の上を歩くのすら不愉快だと言うのに……」

 

 声が聞こえてくる。お父さんの声と知らない人間の女の人の声。この女の人が私達のオーナーさんなんだろうか?

 

 『帰れっ!帰れっ!二度と来んなっ!鬼ババアっ!!』

 

 コタロウが吠え、ガシガシと馬房の閂や壁を叩く。

 

 「煩いわね、どこの馬が騒いでのかしら?」

 

 「申し訳ありません。うちのコタロウ号が興奮してるようで」

 

 「コタロウ?ああ、あのチビで痩せこけたまともに走れない駄馬ね。吠えて暴れ続けるなんて、あなたは馬の躾もロクに出来ないの?それでも調教師?――はぁーっ……ホント、うちの小太郎(コタロウ)の方がよほど躾ができていたわ」

 

 酷い、いくら何でも言い過ぎだと思う。コタロウだって一生懸命生きてるのに――。オーナーさんって私達の事、本当にモノとしてしか見て無いんだ。

 悲しくて思わず俯きかけて、その時、物陰から私の視界にオーナーさんの姿が入って来て、振り返った()()()()()()()()()()()()

 

 

――ドクンッッ!!

 

 『えっ――!?』

 

 「――っ!?」

 

 驚き目を見開いたオーナーさんと目が合った瞬間、私の馬体に、心に、衝動が走る。

 この感覚を私は知っている――!!

 

――ドクンッッ!!

 

 初めて私のウマ娘の絵を見た時――。

 

――ドクンッッ!!

 

 初めて人間の姿に変身した時――。

 

――ドクンッッ!!

 

 あの夜、忍び込んだ事務所でお父さんに捕らえられ押し倒された時――。

 

――ドクンッッ!!

 

 あの日、テキが私のお父さんだと知った時、忘れていた私の前世を思い出した時――。

 

――ドクンッッ!!

 

 あの時と同じ衝動を感じる。湯原オーナー。貴方は一体――?

 

 「……あの、湯原オーナー?どうかされましたか?」

 

 「っ!?いえ……何でもないわ。獣臭さに滅入っていただけよ」

 

 目を見開き固まって居たオーナーが我に返り頭を数回振る。さっきの衝動は完全に霧散していた。

 そのまま厩舎の敷地の入り口に止めてあった黒い自動車の後ろの席に乗るとオーナーは走り去っていってしまった。

 

 

 

(つづく)

 




☆登場人物の紹介☆

・湯原和子(ゆはら かずこ)

 御手洗千代の母で御手洗千代子の祖母。80代後半女性だが見た目は60代に見える元気なお婆ちゃんでチョコエクレール・コタロウの名付け親兼馬主でブルドッグヘッドの2代目馬主でもある。
 一見どこにでも居る普通の年金暮らしのお婆ちゃんに見えて実は東京都内をはじめ関東首都圏の一等地に数多くの不動産を持ち、毎月数千万円の現金収入がある大金持ちで普段は都内の高級住宅地にある真っ赤な絨毯が敷き詰められた白亜の豪邸に住んでいる。守銭奴でお金と自分の利益の為なら平気で他人を踏み躙れる性根の持ち主。バブル経済時代には子飼いの若い衆を使い犯罪紛いの地上げ屋行為を繰り返し莫大な資産を築く。また高利貸しもやっていて法外な利息を吹っ掛けて激しい取り立てもやっていた。その様子から「吸血鬼」「湯婆婆」と呼ばれる。彼女の家の赤い絨毯は債務者や土地や建物を奪われた人達の血で染まっているとも言われている。かなりのヘビースモーカーで愛用の煙草をシガレットケースに入れて持ち歩いている。


・小太郎(コタロウ)

 湯原オーナーが飼っていた豆柴と言う小柄な柴犬の一種。とても愛くるしくて可愛い犬だった。我儘で散歩に行こうとすると全力拒否、いざ散歩に出て家に帰ろうとすると帰宅を全力拒否するなどかなり勝手気ままだったもののオーナーには大変懐いていており、オーナーも可愛がっていた。馬主になった仔馬の一頭が育成牧場で頻繁にゲート訓練など馴致を拒否してゴネて居る様子がこの愛犬に大変似ていたため飼い犬から「コタロウ」と名付けた。コタロウ君の馬名の元ネタである。
 チョコちゃんが未勝利戦を突破する一ヶ月前に散歩中にスマホわき見運転の大学生(無免許・無保険・車検切れ)の自動車によってオーナーの目の前で轢かれて死亡する。
 夫と娘と孫娘を相次いで失いさらに愛犬まで失う事になったこの事件がオーナーの性格をさらに荒んだものにしていく事なった。
 ちなみに轢いた大学生は「うっせーババァ」と謝罪どころか反省する素振りをみせなかったため、東京湾で魚の餌(意味深)になり、慰謝料支払い拒否した大学生の実家は火事(夏なのに灯油ストーブの異常燃焼が原因)になって家族全員焼死してしましたとさ。おお、怖い怖い……。
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