……なんて。昔のことを思い出す、暑い夏の夕方。
じゃあねウタちゃん。
ばいばいまたね。
そう言って部活に向かっていく友人たちへと手を振ってから、わたしは教室を後にして下駄箱へと向かった。みんなとは違って、わたしは帰宅部なのだ。音楽配信をやっているから。
上履きからローファーに履き替えながら、思う。
確かあの町で夏祭りが行われるのは、今日だったっけ?
トントンとローファーのつま先を地面に当てる。
彼は元気にしているだろうか。
疎遠になってしまった親友の顔を思い浮かべる。
……もし今日、配信をすっぽかして、新幹線であの町に行けば、もしかしたらあいつと逢えるのかな。
なんて。
「おーいウタ!」
後ろから聞こえる、男子の声。
聞き馴染みのあるその声に、わたしは振り返らずに応える。
「なに?」
「今から帰りなんだろ? 一緒に帰ろう!」
いつも通りの言葉を掛けられ、わたしはいつも通り、何気なしに返答する。
「あんた部活は?」
「入ってねェ」
「あんた運動神経いいんだから、何か入んなよ。もったいないよ?」
「だって引っ越してきたばっかだし」
「はァ? ルフィなに言って────???」
名前を言葉に出して、わたしはようやく誰と喋っているのかに気が付いた。
慌てて振り返る。
幻覚幻聴聞き違い……?
違う。
その声を聞き違えるはずがない。だって──。
「ウタ、ひっさしぶりだなァー!」
この町にいないはずのルフィが、何故かこの高校の制服を着て、何故か笑顔で立っている。
「…………なんで??」
「言ったろ? 引っ越してきたんだ、昨日」
「どうして?」
「父ちゃんの仕事の都合で」
あっけらかんとルフィは言う。
「…………そういうのは、ちゃんと連絡してよね!!」
「だっておれ、スマホとか持ってねェし、今のウタの連絡先知らねェ」
「──でも一言声かけるとかさァ!!」
「今かけてるじゃねェか」
ああ言えば、こう言う。
…………いや、別にルフィが悪いわけではない。
だってルフィが言っているのは全部事実だし。
わたしが、事前に知らなかったのがなんとなく気に入らなくて、そしてさっき驚いてしまったことが気に喰わないだけ。
ルフィがわたしの隣まで来て、「帰ろう」と言う。
「ウタ、お前家どっちだ?」
「〇×地区。ルフィは?」
「おれも! なんだ家近いのか! 遊び行っていいか?」
「いいけどさ」
そんな会話をしながら、高校を後にする。
そういえば、とウタはルフィに尋ねた。
「よくわたしだってわかったね。別人だったらどうするつもりだったの?」
はァ? とルフィが首を傾げた。
「おれがウタを間違えるわけねェだろ」
ルフィのその言い方がなんだか面白くって。
わたしは思わず笑ってしまった。
──でもそうか。私が引っ越してから三年も経ったけど、ちゃんと覚えていてくれたんだ。
ふと思い出したような顔をして、ルフィが「あ、そうだ」と言う。
「約束、ちゃんと守ったからな!」
「約束?」
「ちゃんと見つけただろ?」
一瞬だけ、わたしの思考が
あの夏祭りの何気ない約束を、まさかルフィが──。
恥ずかしいやら照れくさいやらで、わたしは思考を取り戻す前に、ルフィの右肩を左拳で殴っていた。
「痛ェ!! なんで殴るんだよ!?」
「うるさい! 知らない! ありがとう!!」
「お前言ってることもやってることもムチャクチャだぞ!!?」
昔みたいにじゃれ合いの言い争いをして、涙が出るくらいまで笑う。
ああ、きっと。
明日はきっといい日になりそうだ。
以上蛇足でした。
お読みいただきありがとうございました