「モスラを小笠原怪獣ランドに引っ越ししてみないか、ですって?」
太平洋の南洋諸島にある島、インファント島。
その島に住む妖精、小美人は日本の小笠原怪獣ランドからの手紙を読んでいる。その内容は、モスラを小笠原怪獣ランドに引っ越ししてはどうか、というものだ。
「怪獣ランドと言うと、あの……」
「えぇ、世界中の怪獣を平和に管理するという……」
「色んな怪獣が既にいるみたいで、どうやらあのゴジラとラドンもいるようです」
「あの二体も……」
怪獣ランドからの手紙に小美人は大きく悩んでいる。
懸念事項としてモスラはインファント島の守り神故に、島を守る上でモスラは欠かせない存在だ。そのモスラを違う島に移すというのは少し抵抗感がある。島民達も反対する人がいるだろう。以前ロリシカの核実験により島の緑が減った際は外部の者を敵視していた。最近は大分改善されたが、この一件を受け入れてくれるかどうか……
「ゴジラとラドンは先代モスラがキングギドラを倒す為に共闘しましたけど、他の怪獣達と仲良くなれるかしら?」
モスラの引っ越しに当たってのもう一つの懸念事項。
それは、他の怪獣達だ。
既に怪獣ランドでは10体近くの怪獣が住んでいる。ゴジラとラドンはかつて先代モスラがキングギドラを倒す為に共闘したので問題無いが、その他の怪獣であるアンギラスやマンダ・クモンガといった怪獣達と仲良くなれるか不安なのだ。
「断った方が良いのでは……」
「一先ず島民達とモスラに聞いてみましょう。それで提案を受け入れるか考えましょう」
自分達だけで決めるのは良くないだろう。インファント島の島民達、そしてモスラに聞かなくては。小美人達はテレパシーを使って島民達とモスラを呼ぶ事にした。怪獣ランドからの提案が島にどんな影響を与えるのか、小美人には見当もつかない。
「怪獣ランドに行ってみたいです」
モスラに話してみた結果、いの一番に出た言葉がこれだった。
「良いのですか?」
「はい。色んな怪獣と触れ合ってみたいのです」
「それって……」
「怪獣のお友達を作りたいのです」
やはりか。
小美人は心の中でそう思った。
このインファント島に住む怪獣はモスラしかおらず、他の怪獣はいない。即ち、友達や仲間と言える怪獣が住んでいないのだ。まだ幼いモスラからすれば他の怪獣がいる怪獣ランドは是非とも行ってみたい場所だろう。このモスラの親である先代モスラは生まれた当初双子だったが、一方は病気で亡くなってしまった。そのモスラも今のモスラを産んだ後に亡くなった。こうして現在のモスラは1体だけ。そう考えると他の怪獣のいる場所が羨ましく思うのも無理は無い。
「ゴジラとラドンがいますし、アンギラスやゴロザウルスといった怪獣達も是非見てみたいです」
「そうですか。島の民達はどう思っているのでしょう?」
モスラは行く気がある。では島民の方はどうだろうか? かつてロリシカ共和国の核実験により此処インファント島は大きな被害を受けた。島の緑は激減し、島民達は赤いジュースを体に塗らなければならなかった。そんな事もあり島の外の者を敵視していた時期があった。今は大分改善されたが、この提案を受け入れるのだろうか。
「ワシらは、その提案を受け入れようと思う」
「「っ!!」」
島民達も怪獣ランドの提案に賛成している。これは少し意外だった。警戒すると思っていたのだが…… 理由は何だろうか。
「以前は島の外の者を警戒しとった。だが、赤い竹に攫われた時に助けてくれる者もおった。決して悪い者ばかりではないと知ったのだ」
赤い竹。
かつてレッチ島に潜んでいた謎の秘密結社。島周辺に住む怪獣、エビラが苦手な黄色い汁の製作の強制労働されたのだ。あの時は島にやって来た人達と協力してくれたおかげで助かった。その時の経験によるもののようだ。
「モスラのためになります。わしらは彼らを信じたいのだ」
「「…………」」
「お願いします。私を怪獣ランドに行かせて下さい」
島民とモスラは怪獣ランドの提案を引き受けようとしている。モスラにとっても友達を多く作る機会にもなるし、島民達からしても外部の者との信頼を取り戻す良い機会になるだろう。この島やモスラを見守る小美人にとっても悪い事ではない。
「分かりました。モスラを怪獣ランドに行かせましょう」
「えぇ、きっと良い思い出になる事を信じましょう」
小美人達も怪獣ランドの提案を受ける事に決めた。モスラと同じ怪獣が沢山住んでいる島。今では一体だけ住んでいるモスラが明るく暮らせるようになると信じよう。
こうして、モスラが怪獣ランドに移住する事に決まった。
「わぁ…… 此処が怪獣ランドなんですね!」
モスラは怪獣ランドに移住し、その大地に降り立った。緑溢れ、綺麗な海が広がるこの島はインファント島よりも美しく感じる。この島にかつて戦ったゴジラとラドンが住んでいるのだ。
すると、足音が聞こえてくる。何か重たい物が歩くような音だ。木々を搔きわけるような音も聞こえてくる。別の方向からは飛行音も聞こえてくる。これはもしや。モスラは確信している。あの二体であるという事を。
「おぉ、モスラか!」
「あぁ、懐かしいなぁ!」
「ゴジラさん! ラドンさん!」
近付いてくる影は予想通りゴジラとラドンだった。かつてキングギドラが地球を襲った時に、先代のモスラが共闘した仲間だ。当初2体は人間から攻撃された経験から共闘を拒否していたが、モスラが単身で立ち向かう様子を見て助けるように共闘したのだ。この頃からゴジラとラドンは人間に味方するようになった。
「お前もこの島に来る事になったのか!」
「この島は良いぞ~ 魚が美味いから飯に困る事はが無いぜ!」
「あら、そうなのですか? それは凄い島なのですね!」
モスラとゴジラ・ラドンは会話で花を咲かせている。元々共闘した仲という事もあり気が合うような会話をしている。まるで仲良しな同級生の雑談を話しているような様子だ。
そこに、ある怪獣が近づいている。背中に棘が沢山生えている怪獣だ。あれは…… 確か怪獣ランドから来た手紙に描かれていた怪獣だ。
「あれ? 君は誰だい?」
「おや、あなたは?」
「あ、こいつはアンギラスって言うんだ!」
アンギラス。
かつてゴジラと最初に戦ったという怪獣だ。アンキロサウルスという生物が変異した、らしい。今ではゴジラと仲が良い怪獣だそうだ。実際に近付いて来るアンギラスは何処か愛嬌を感じさせるような表情をしている。
「初めまして。私はモスラと言います」
「あ~! 君があのモスラだね! ゴジラとラドンから聞いてるよ! 何でも、昔キングギドラって言う強い怪獣を倒したって!」
「あぁ、それはゴジラさんとラドンさんが協力してくれたおかげです。私だけでは間違い無く倒せなかったです」
「それでも凄い事だよ! 誇っても良いんじゃないかな?」
「いやぁ、それは……」
アンギラスはモスラの事を褒めている。怪獣の世界でもキングギドラの強さは伝わっているらしく、それを撃退したゴジラ・ラドン・モスラの名前は多くの怪獣に知れ渡っているのだ。
「まぁまぁ、アンギラス。そろそろモスラに怪獣ランドを案内しようよ」
「そうだな、アンギラス。モスラを背中に乗せて怪獣ランドを案内するか!」
「えぇと、アンギラスさんの背中にはトゲが生えてますので……」
「僕の背中に乗せられるのはトゲが生えてるもの位だよ……」
「あ、一応載せられる物はあるのですね……」
そんなこんなで、ゴジラ達は怪獣ランドの各所をモスラに紹介する事になった。
「へぇ、君がゴジラとラドンから聞いてたモスラって子だね」
「はい。そうです」
怪獣ランドのとある場所に、ゴジラのような恐竜体型の怪獣がいる。見たところゴジラと比べれば体色は灰色で、背中の背鰭はかなり小さい。
「俺の名前はゴロザウルスって言うんだ! ゴジラとは時々遊んでいるんだ!」
その怪獣の名はゴロザウルスと言うようだ。明るい表情で答えており、その話し方からゴロザウルスの優しさが窺える。
「こいつはキックが得意なんだ。どんな岩だって壊しちゃうんだぜ?」
「そんなに言われると照れるなぁ…… 大した事無いって~」
「まぁ、俺でも出来るしそうかもしれんな」
「「納得」」
「いやいやいや、何でそうなる!? 確かにゴジラは強いけどさ!?」
ゴロザウルスとゴジラ達の漫才のようなやり取りを見てモスラは笑ってしまいそうになる。本当に仲が良いんだと思ってしまう。自分もこの中に入るのだろうと考えると、凄く楽しみに感じるのだ。ゴジラ達と楽しく話すのが凄く楽しみだ。
すると、近くの岩から何かが近付いて来る音がする。ガッ、ガッ、とせわしなく足音が何度も鳴っている。気になって顔を向けると、そこには大きなクモが現れた。
「おや、見ない奴がいるなぁ」
「お、クモンガか」
その巨大なクモはクモンガと呼ばれているようだ。モスラと同じく虫系統の怪獣だ。何度も足音が鳴っていたのも足が8本もあるからのようだ。クモンガの目はモスラと同じく赤い。
「お、私と同じく虫の怪獣ですね。私も怪獣ランドに来たのは最近なので分からない事が多いですがよろしくお願いします」
「はい! こちらもよろしくお願いします!」
「あ~、俺も来たのはクモンガさんと同じく最近なんですよね……」
どうやらクモンガとゴロザウルスもこの怪獣ランドに来たのは最近のようだ。自分と同じだ。何だか親近感が湧いてきそうだ。この怪獣達と仲良くなれそうだ。
「あ、向こうでマンダさん達がおりますから、挨拶した方が良いですよ」
「そうだね。まだモスラに紹介していない怪獣がいるしね」
「そうなんですか? 是非とも会いたいです!」
「あぁ、そういえば俺の息子もそっちで遊びに行ってるな」
「え? ゴジラさんって息子がいるんですか?」
「あぁ、まだ話してなかったな」
まさかゴジラに子供がいるなんて思ってなかった。一体どんな子なのだろうか? それにまだ会っていない怪獣も気になる。
「私、その怪獣達と会ってみたいです!」
「分かった! それじゃあ案内するぞ!」
「「じゃあね~!」」
ゴロザウルスとクモンガと分かれ、モスラ達はマンダやミニラ達の場所に向かう事にした。
岩や土が少し多い場所。
この地に着くと、2体の怪獣と出会った。その内の一体は体が細長い、ヘビのような怪獣。もう一体は少し体に丸みのある、灰色の人型に見える怪獣だ。
「お、マンダにミニラか!」
「おや? そこにいる芋虫のような怪獣は…… もしやあなたがモスラですか?」
「はい! そうです! 今日から入ったモスラと言います!」
「ワシはマンダじゃ」
「わ、初めまして! 僕はミニラと言います!」
その怪獣達の名はマンダとミニラ。前者はムウ帝国の守護神である怪獣で、後者はゴジラの息子であるミニラ。マンダは人生ならぬ怪獣生が豊富なおじいさん、ミニラは活発な感じの少年といったところか。モスラは幼い方であるがミニラもモスラと同じく幼いようだ。ゴジラの息子なので当然だろう。
「ミニラ、バラゴンとバランはどうしたんだ?」
「バラゴンさんは綺麗な石を探しに行って、バランさんは周辺を飛んでる筈だよ」
「是非ともお会いしたかったのですが……」
「ん、あの土の盛り上がりとその飛行物体はもしや……」
ラドンは何かに気付いたようだ。よく見ると近くの土が盛り上がるように動いており、その上空には何か人型のような物体が浮遊している。近付いて来るにつれてその輪郭が分かってきた。その姿はムササビのような見た目だ。その怪獣が着地すると同時に森がっている地面から怪獣は出てきた。その怪獣は大きな耳と角を持つ、少し可愛らしさのある怪獣だ。
「お、バランとバラゴンじゃん」
「あ~! やっぱり空を飛ぶのは気持ち良かったよ!」
「う~ん、今日は綺麗な石を見つけられなかったなぁ~」
「あ、この方達がバランさんとバラゴンさんですか?」
どうやら空を飛んでいた怪獣がバラン、地面から出てきた怪獣がバラゴンのようだ。
「あ、君が最近怪獣ランドに来たって言うモスラだね?」
「初めまして! 僕はバラゴン! こっちがバランだよ! 名前が似てるけど間違えないでね! たまに間違われるんだ」
「はい! モスラと言います!」
バランとバラゴンが元気な様子で自己紹介をする。名前が一文字違いという事もあり間違えやすいようだ。確かに一文字違いだけでなく姿も「棘が生えている茶色の怪獣」だから何となく間違えてしまう…… かもしれない。
「怪獣ランドに来たばかりのラドンとゴロザウルスが間違えちゃってね…… 気にしてるんだよ」
「あー…… あの時は面目無い」
「やれやれ、若いもんはこれじゃのう……」
「それを言うなら僕やミニラとかはどうなのさ…… モスラもそうかもしれないけど」
「私も若いですよ」
「僕も…… アンギラス兄ちゃんもモスラ姉ちゃんも若いし、ゴジラ兄ちゃんも若い方だよ」
「あ~…… おぬしらは若いが大丈夫な方じゃ」
そんなこんなもあってモスラは怪獣ランドに暮らしている怪獣と全員会う事になった。皆個性豊かな怪獣達だ。彼らと友達になるのが楽しみだ。この島での暮らしは絶対に楽しくなる。そう確信するモスラであった。
良く晴れたある日。
雲が少ない青空は太陽の光を地上に通し、光が怪獣ランドに燦燦と降り注いでいる。日に照らされて淡い緑色となった木々の中、モスラは地面を這いながらとある場所に移動している。その表情は何かを楽しみにしているような、明るい表情だ。すると、近くにゴロザウルスが歩いている。
「モスラか。嬉しそうだけど何処に行くんだ?」
「クモンガさんの所です! 一緒に糸を吐く練習をしに行きます!」
「へぇ、そういえばモスラもクモンガと同じく糸を吐ける者同士だったっけ…… 怪獣との戦いだと動きを止めるために使ったって」
「はい。キングギドラもそれで首の動きを封じました!」
「おぉ、凄いじゃん! クモンガもそれでカマキラスって怪獣を拘束したって言ってたんだ。二人同時だったら手も足も出ないだろうね」
「とはいえ連携も大事です。強力な武器があっても使いどころを見極めなければ意味がありませんから」
「使いどころかぁ…… 確かにそうだね俺のキックも空振りだったら大きな隙が出来るしねぇ……」
「大丈夫です! ゴロさんならきっちり決める時に決められますよ!」
「おぉ、そう言われると嬉しいなぁ……」
モスラはゴロザウルスと仲良く会話している。怪獣ランドで暮らすようになってから色んな怪獣と話すようになった。かつてキングギドラと戦う為に共闘したゴジラとラドン、糸を吐く怪獣同士としてクモンガ、そして住む場所が近いゴロザウルス、彼らとは特に話をする機会が多い。そんな事もあり彼らとはすっかりご近所付き合いのように話す機会が多い。
「よ~し、蹴りの特訓をするか! ありがとう! モスラ!」
「いえいえ、お役に立てたのならそれで……」
ゴロザウルスからお礼を言われてモスラは頬を少し赤くして照れてしまう。モスラは何となく自覚しているが、ゴロザウルスとは随分と仲良くなったなぁと思う。もしかしたら恋だったりして…… と冗談ながらに思ってしまう。
「あ、そろそろ行きますね」
「行ってらっしゃい~」
モスラはゴロザウルスと分かれてクモンガの所へと向かう。帰りに練習の成果を話してみようかな、心の中でそう思うのであった。
「中々糸を吐くのが上手いですね、モスラさん」
「いえ、クモンガさんも結構上手いです!」
谷の方でモスラはクモンガと共に糸を吐く練習をしていた。相手に正確に糸を吐く練習と二人で糸を吐いて相手を短時間で拘束する練習である。二体同時に糸を吐けば相手を素早く拘束出来ると考えて二体同時に糸を吐く練習をしているのだ。
「私には毒針があるのですが射程距離が凄く短いのです。だか糸で相手を拘束してその相手に刺す必要があるのですが、モスラさんと協力すれば直ぐに拘束出来そうです」
「そうなんですね、私は糸を吐くか噛みつく位しか出来ないので皆さんの戦力になるのか少し不安でしたが、そう言われると嬉しいです!」
モスラもクモンガもすっかり打ち解けて意気投合している。同じ虫の怪獣同士・糸を吐ける怪獣同士という事もありよく話し合いをするようになった。
「そういえばモスラさんは成虫になれば空を飛べるって本当ですか?」
「はい。私のお母さんも綺麗な羽を使ってラドンさんみたいに大空を飛んだと言われています」
「羨ましいですねぇ。私はラドンさんみたいな羽を持たないので飛べないんですよ」
「あ、確か一部のクモは糸を使って空を飛ぶと聞いた事があります」
「えっ!? 本当ですか!?」
モスラの発言にクモンガはびっくりしたような表情を浮かべる。確かにモスラの言うようにセスジアカムネグモなど一部のクモは糸を使って空高く飛ぶ「バルーニング」を行う種がいる。これを行う事で生息地を拡大するのだ。
「私も試してみようかな……」
「あ、危険なので気を付けて下さいね」
「分かっています」
モスラとクモンガは仲良く談笑している。クモンガは何時か空を飛びたいと夢見ている。過去にモスラの幼虫はラドンの背中に乗って飛んだ事があった。今の世代のモスラも親のように空を飛びたいと思っている。その時はクモンガと共に飛んだら楽しい思い出になるだろう。
モスラはそう思った。
怪獣ランドって見学とかで一度行ってみたい場所です。
後編は2023年1月8日19時00分に投稿予定です。