「こうやってお話するのは初めてだよね?改めて僕の名前はユーノ・スクライア。少しの間だけど、よろしくね」
最初は見た目と雰囲気からユーリみたいな人だと思った……けど、それはあっていて、ちょっと違った。ユーノはユーリみたいな優しさを持っていたけど、イリスみたいに無理しながら笑って嘘を言える人だった。
♢
「無限書庫を見学してみたい?」
「うん!」
レヴィにそう訊ねられたのは、彼女達の事情聴取が終わって比較的自由に行動できる事が増えた直後だった。
「フェイトやはやてに聞いたんだ!ココには迷路みたいに広い所があって、ユーノはそこでお仕事してるって!」
「いやまぁ、多分無限書庫の見学自体は別にいいんだけど……」
僕はそう言って付き添いに来てたクロノに目線を逸らすと、クロノは頷きながら念話を繋げてきた。
『お前が一緒に同伴して〝監視〟してくれるなら管理局側としては何も言う必要はない。お前は少し自分が管理局に信頼される事も覚えろ』
『そりゃどうも』
「ん〜?どうしたんだユーノ?」
「いや、なんでもないよ。とりあえず見学は平気だよ。でも僕から離れない事が約束…レヴィは守れるかな?」
「うん!」
「そっか、それじゃあ行こっか」
『お疲れ様クロノ』
『あぁ、レヴィは小さくてもかなりパワフルだから目を離すなよ』
『ははは、気をつける』
レヴィの手を繋いでそのまま僕らは無限書庫に向かった。
「レヴィは無限書庫の事を迷路みたいって言ってたけど、違うからね?」
「さすがにわかってるよ!本がいっぱいあって勉強する所でしょ!」
「いやまぁそんな感じだけどさ」
「それよりもさ、見学する時ボクら以外周りに人が居ない所で見学できない?」
人が居ない所?
「できるけど、どうして?」
「え?あぁいや〜そのぅ……そう!やっぱり、お仕事してる人のジャマはしちゃダメだと思うんだよね。うんうん、ネコじだいの時もよくソレでイリスとかにおこられた気がするし」
「それなら分かったよっと、着いたよ」
無限書庫に入ると初めての無重力空間にレヴィは大はしゃぎしながら、それでもしっかりとユーノの手を握っていた。
♢
「ここの区画なら整理も終わってるし、仕事が急に来ない限り司書も来ないからいくら騒いでも平気だよ」
「ヤッター!」
レヴィはそういうと僕が渡した地図には目もくれず、ずんずんと迷路のようなここを迷いなく進んで行った……流石に僕は怖いので地図と通路見比べながら現在位置は把握し続けた。
迷路のように入り組んだ本棚の通路、その奥の奥。行き止まりまで来た所でレヴィは立ち止まった。
「ここなら、いいかな……ねぇユーノ!ちょっとこっち来て!」
「うーん?なに、レヴィ」
「いいからはやくはやく」
そう急かしながら手招きするものだったから、僕は仕方なく言う通りに近づいた。そしたらおもむろにレヴィが僕の手を握り、足元にいきなり魔法陣を展開しだした。
「な?!れ、レヴィ!何するつもり!」
「ダイジョウブダイジョウブ、それよりも少しだまってて。コレけっこうむずかしいんだから」
「いやだから何をッ!」
レヴィはそのまま眩い光に包まれた、おもわず目を閉じて光がおさまった時目の前にいたのは──
「どうよ、パーフェクトレヴィサマ復活」
僕と同じくらい背丈の…事件当時の姿でいるレヴィが居た。
「え?いや…なんで?!」
「ふっふーん、魔力を切り詰めに切りつめた結果見た目だけなら変えれる位には魔力が溜まったんだ」
「いやだからってなんでこんなっ?!」
所でやるのと言おうとしたらレヴィがいきなり僕の頭を自分の胸に抱き始めた。
「なっなっなにしてるのレヴィ!とにかく離れて」
「いいんだよ」
「何もよくなんか」
「泣いて、いいんだよ」
「え?」
さっきから突然の連続で訳が分からないけどコレは本当に分からない、泣いていい?どういう事だ?
「な、なんの事?僕別に怪我なんかしてないよ」
「いや、してる。ユーノはそれに気づいてるはずだよ」
レヴィは一旦僕を離すと、僕の胸に手を当てた。
「ユーノのここ、もうとっくに限界なんでしょ?」
「ッ?!」
「フェイトとか色んな人に聞いたよ、ふたりの事…ユーノはなのはに魔法って力を渡しちゃった。その力のせいで今、なのはが寝込んでるのがどうしても許せない事も」
なんで、そこまでわかってて、どうして──
「どうしてソレで僕が泣いていい事になるんだよ!ダメだろ!そんなの!」
「どうして?」
「どうしてって、だって!僕のせいでなのはが傷ついて、ソレで僕が泣いたらまた彼女に背負わせちゃうじゃないか!それなのに、どの面下げて僕が泣けるんだよ……」
「そっか、本当にユーノは優しいんだね」
「違う、優しいのは彼女だ。僕はそんな彼女の邪魔をしたくないだけなんだ」
「そっか……でもさ、そんなんだと何時かなのはにも気づかれちゃうよ」
「それは」
「そんなのはユーノも望んでないでしょ?おあつらえ向きにここは他に誰も居ないからさ…ね?」
そう言って彼女はまた、僕を優しく抱いた。
「僕は、僕を許せないよ」
「大丈夫、そんな君を代わりにボクが許すさ。何処までも優しい、嘘つきなキミを」
「…………ごめん」
「こういう時はありがとうって言ってほしいな」
「そうだね、うん。ありがとう」
僕は彼女に断りを入れて背中に手を回した。その日僕はようやく、泣く事を許された。
♢
あの後ユーノはしばらく泣いて、泣き終えてもしばらくはそのままレヴィと抱き合っていた。だがそれも一分程したら離れ、いつも通りに戻った。
レヴィは、ここ数日ユーノと一緒に居ることが多くなった。それはユーノの事が心配であったのもあるが、単純にユーノと一緒に居ると楽しいからである。自分の知らない事を沢山知っており教えてくれる、無限書庫にも連れてってくれる。そんなこんなでレヴィは割とユーノの事について想う時間が増えた。
「うーん、なんなんだろ」
「どうしたのレヴィ」
今日はシュテルんと王さまみんなですずかのお家にお邪魔していた。ボクは庭にあるベンチで空を見上げながら寝ていた。
「すずか……いや、ちょっとユーノのこと考えてたんだ」
「ユーノくんの事?」
「うん、最近いつもユーノのこと考えてる。今何してるのかなーとか、ちゃんと休んでるのかなーとか、そんなん」
「そうなんだ、レヴィはユーノくんの事好きなんだね」
「うん……」
ユーノが好き、すずかが言う言葉に〝そうだ〟と言うボクと〝ちがうよ〟と言うボクが居る。ボクはシュテルんや王さまみたいにユーノが好きなんだ、なのにソレに納得しない、納得しきれないボクが居る。だからボクはずっとユーノの事を考えている。
ふと、すずかはよく本を読んでいて物知りだとユーノが言っていたのを思い出し、相談してみた。すると少し悩んだ後ボクに言った。
「……それはね、きっと恋だよ」
「コイ?」
「そう、恋。誰かを特別好きになるって意味、レヴィにとってシュテルやディアーチェ達はすごく大事で大好きな人。だけどユーノくんにはまた違う特別な想いがあるんだよ、きっと」
「シュテルん達に向けてるのとは違う……〝特別な好き〟……」
そう口にすると、自分の中で燻っていた炎のようなナニカに色が付いた気がした。そんな感覚がしたと思える程に〝納得〟した。
「うん、ボクはきっと……いや、本当にユーノが好きだ。ありがとうすずか!おかげでやりたい事が分かった気がする!」
「どういたしまして」
その後ボクはシュテルんと王様、他にアミタとキリエにそれぞれある事を相談した。
──そして、その時がきた。ボクらが故郷エルトリアに帰る、その日が。
♢
「レヴィ、とうとう今日でお別れだね」
「そうだね、でも寂しくはないよ。この数日、みんなで遊んだ時間はとっても楽しかったからね!」
ボクはフェイトと別れの挨拶をしていた。
「うん、そうだね。私も楽しかったよ、またいつか遊ぼ」
「うん!それでさフェイト、聞きたい事があるんだけどさ…」
「ん?なにかな」
「ユーノって、何処にいるかな?ちょっと会って渡したいのがあるんだけど」
「ユーノ?どうだったかな……何時だったかは覚えてないけど数日前に用事があるって無限書庫に行ったきりだったから……多分まだ本局だと思うよ」
「え?!」
「渡したい物があるなら、良かったら私の方から届けておくよ?」
「…………いや、辞めておくよ。コレはちゃんとボク自身の手で渡したいから、また今度にするよ」
そうだ、コレは……コレだけはちゃんとボクから届けなきゃ、誰かを通してなんてダメだ。
「分かった、それじゃあユーノには私の方から遅いよこのバカとでも伝えとくよ」
「お、それイイネ。よろしく頼むよフェイト」
みんなとの別れの言葉、イリスとキリエの仲直り……ソレらが終わってもユーノは姿を見せなかった。
(まぁ、ユーノとボクって元から仲が良い訳じゃなかったし……しょうがないかな)
「それじゃあ挨拶もここまでにして、そろそろ行きますよ。皆さん近くに寄って」
アミタの声に導かれ、転移術式が展開しようとした……その時だった。
「待って!」
「ッ!?」
ボクが欲しかった、ボクが待ってた声が耳に届いた。その声にアミタは術式を止めた。
そこには息をからして、転移魔法で魔力を使い過ぎたのか、結構シャレにならない位には顔色が悪そうなアイツが居た。そんな姿に、そんな必死になってまで会いに来てくれた〝ユーノ〟に、ボクの胸は燃えるように熱くなった。
「ちょっとユーノ、バイバイの挨拶に遅刻するなんて酷いじゃないか」
「ご、ごめん……無限書庫でやらなきゃいけない事ができちゃって」
「そんな言い訳……何これ?」
ユーノはボクに結構な量の紙の束が入った袋を渡してきた。
「アミタさんにはこちらを」
「コレは?」
次にユーノは、手のひらサイズのデバイスをアミタに渡した。
「死んだ星を蘇生しようとした人達は、管理世界にも居ました。ソレにはボクが集めきれる情報を纏め、エルトリア語に翻訳させたモノが入っています」
「えっ!そんな凄い物を!?それにエルトリア語なんて、どうやって」
「それには、其方の素直じゃないお方に相談した所〝快く〟協力してくださいました」
「ちょ!?言わないって約束は?!」
「はて、なんのことでしょうか。レヴィには、同じように、キミやシュテル達が好きそうなこっちの冒険譚とかをエルトリア語に訳した奴を纏めたんだ。アミタさん達も楽しめると思うよ」
「ユーノ、なんでこっちは紙なの?」
「一つのデバイスに纏めたら取り合いになりそうなのと、後は僕の趣味かな」
「趣味かい、まぁソコはいいや。ありがとう」
「どういたしまして」
ボクから渡そうと思ってたのに、凄いの貰っちゃったな……
「ねぇユーノ、ボクからも渡したい物があるんだ。受け取って、貰えるかな?」
「え、ほんと?もちろん!」
その言葉を貰って、ボクはあの時と同じように魔法を使いユーノと同じ位の背丈になった。
「わ、またその魔法使える位魔力回復してたんだ。凄いね」
「ふっふーん、凄いでしょ!」
ホントはシュテルんや王様に頼み込んで魔力分けてもらったんだけどね。
「それでさ、渡したいって言ったのはコレ」
「コレは、イヤリング?」
レヴィがポケットから取り出したのは、ハートの下に水色の雫の結晶が取り付けられていたイヤリングだ。
「そう、ボクの魔力で精製させた百%ボクオリジナルのアクセサリーさ!ありがた〜く付けるんだな」
「ふふふ、うん…ありがとう」
「ヨシ!ボクが付けてやるから〝目を閉じて〟じっとしてて」
「?分かった」
ユーノが目を閉じたのを確認したら、ボクは彼の左耳にイヤリングを付けながら〝彼の右手を引っ張り体を、唇を重ねた〟。
「へ?」
「ユーノくん!?」
「ちょっと?!」
周りからは突然の出来事に驚愕の声が響く、そして当の本人はと言うと──
「え、な……な!」
顔を紅くして、可愛く狼狽えていた。
「好きです、友達じゃなくて恋としてユーノがボクは好き。さっき受け取るって言ったんだから逃げんなよォ?」
そしてボクは返事を聞く前にもう一度彼の唇を奪った。放心してる内にアミタの手を引っ張って皆の所に戻った。
「じゃあねユーノ!返事は次会った時に聞くから〜!さっさと君を呼べるようにエルトリアの復興頑張るね〜!」
「圧倒的不純な復興理由にお姉ちゃん不安です」
「いやぁ、私はかなり純粋だと思うよお姉ちゃん」
「レヴィ、いつの間にか色を知るお年頃に……ほろり」
「我は貴様がそんな語彙になるような本を読み漁ってた事に心配を覚えるぞ」
「ハイハイ帰るよ帰るよみんな!早く帰るよ!」
ダメだ、告った後すぐ帰れると思ってたからグダリ初めて顔が熱くなってきた。そうこうしてると〝戻ってきた〟ユーノが話しかけてきた。
「レヴィ!」
「う、なに!」
「答えはまだ言えないけど、次会う時に必ず返事を伝える。だから、だから……それ迄、待ってて貰えますか」
「っ……!うん!」
その表情が、とっても〝ボクに似ていた〟から、まだ答えを聞いてないのに嬉しくなってしまった。
そんなこんなでお別れ会は終わり、転移術式を再開した。その後二人は友人らにこの事を数週間いじられ続けられたのは語るまでもない。