私のHSSが強力すぎて女の子にも効いちゃってるんだけど!? 作:緋弾リコリス
プロローグ
「大丈夫だよカナちゃんはあたしが守ってあげるからね?」
「待ってください。ファーストたる千束は犯人を追ってください。かないは
「……最もらしいこと言って、たきなはただカナちゃんの側にいたいだけなんじゃないの?」
「それは千束が思っていることなのでは? 思っているからこそそんな私利私欲な発言が飛び出したんじゃないのですか?」
極度の方向音痴によって銃撃戦に巻き込まれたのが運の尽き。未だ首謀者は逃亡中にも関わらず、赤い制服を着た少女と黒い制服を着た少女がわたしを巡って合い争っている。もしわたしが男であれば見目麗しい美少女達が自分を取り合う状況に面倒くさいと思いつつも悪くないと思うかもしれない。
けれどわたしは女で同性愛者と言うわけでもない。普通に男の子が恋愛対象のある体質を除けば至って普通の16歳女子高生だ。
そのある体質こそわたしを悩ませる原因であり、今この状況を作り出した元凶だった。
「ああもういい加減拉致があきません。ここは公平に私と千束、どちらに護られたいかかないに聞きましょう」
「いいよ別に? 結果は決まってるし、強い方に護られる方が心強い筈だもん。ね?」
「あはは………」
激しい銃撃戦後、倒れ伏すリコリスとテロリスト達と電車の窓ガラスが飛び散る中、千束さんに振られて乾いた笑いを返し、思わず天を見上げる。
何でこうも上手くいかないんだろう、そう嘆かずには居られなかった。
ーーーーーー真島さん、今頃どうしてるかな。
わたしは今回のテロの主犯格であり、この国に於いて最重要人物の男性の顔を思い浮かべる。
わたし『遠山かない』は最低で、最悪で、けれどいつだってわたしの事を助けてくれるわたしが今恋焦がれている男性に想いを馳せるのだった。
☆☆☆
「かないさんおはようございます」
「うんおはよー里菜ちゃん」
学校への登校中後ろから声が掛かり、隣り合って歩く。
黒髪ロングで清楚なお嬢様然としたこの子は篠崎里菜ちゃん。中学の頃からの友達で、美人で物腰柔らかくて気遣い上手なこれぞ大和撫子を体現している人物。それでいていついかなる時でも変わらず普通に優しい女の子だ。それがわたしにとってどれだけ貴重な存在か。この子がいなければわたしはとっくに壊れていただろう。本当に大事な親友だ。
「かないさん? どうかされました? 私の顔をじっと見て」
「なんでもー、里菜ちゃんは相変わらず美人さんだなって再確認しただけー!」
「もう……かないさんったら」
里菜ちゃんは困ったように苦笑いを浮かべた。
「かないさんもしよければ放課後はデニーズに寄りませんか?」
「あ、ごめん里菜ちゃん。今日の放課後はバイトの面接あるから無理だ」
「そうですか……残念です」
「ホントごめんねー、次はわたしから誘うからまた一緒に遊ぼうね!」
「……かな………か………い」
わたしが満面の笑みを浮かべると里菜ちゃんはわたしから顔を背けて小さい声で何かを呟いていた。里菜ちゃんがよくする仕草。その度どうしたのと聞くけれど教えてくれた事は一度もない。
「里菜ちゃん?」
「え、あ何でもないですよ。それは兎も角私はは少し心配です」
「何が?」
「かないさん超が付くほど方向音痴じゃないですか。バイト先にちゃんと辿り着けるのかなと」
「うぐっ……!?」
里菜ちゃんの思わぬ一撃がわたしの胸を貫く。
里菜ちゃんの言う通りわたしは方向音痴だ。初めて行く場所は必ず迷う。通い慣れた場所なら問題はないんだけど……
「あはは大丈夫だって! 何度も地図アプリを見て行き先シミュレートしたし!」
「それでどうにかなるならかないさんは方向音痴じゃないですよ。私もバイト先まで付いて行ってーーー」
「大丈夫大丈夫! 今度こそ迷わないって!」
心配症な里菜の言葉を遮るように前に出て自信満々に告げた後、反論させないように小走りで先に行った。
今度は本当に大丈夫。商店街を突っ切って信号3つ超えた先のたばこ屋を左に曲がって住宅街にある公園の右手を行けば辿り着く。ほら完璧、わたしだって同じ間違いを繰り返さないんだからーーー
「ここ、どこぉ……?」
放課後、わたしは絶賛迷子中だった。
うう……何でこんな時に限って工事中なのよぉ……それも三個も!
それであてもなくさまよい続けること十数分、完全にバイトの面接に遅れることが確定した。
遅刻の連絡はしたけどこれは絶対落ちたよ……自分の運のなさに辟易する。
「もういっそのことバックれちゃおうかな、どうせ面接に受からないだろうし」
ちょうど駅が見えてそう考え、改札をくぐって地下に出たところでわたしはいやいややっぱり行くだけ行こうと踵を返す。するとーーー
ーーードゴーン!! ず、ズダドドドド!!!! バンッ、バンバン!!
「え……?」
考え事をしていて周囲に気を配ることが疎かになっていたのが運の尽き、突如マシンガンのような銃声が響き、思わず振り返ると男たちと少女達の銃撃戦が繰り広げられていた。
戦況は電車に乗り込んでいる少女たち側が優勢、男たちは次々と倒れ伏す。
それを見てわたしは嫌でも思い出す。十年前に自分の身に起こった事件を。恐怖で泣きじゃくったこと、それとーーー
「ッ!?」
過去のことに気を取られて頭上に瓦礫が降り注いだ事を気付くのが遅れたわたしは咄嗟に頭を腕で庇って目を瞑る。次の瞬間起こる痛みはしかし訪れない。
「ったく、今回に関しては一般人巻き込むつもりじゃなかったんだが、平等じゃねぇから」
「え……」
目を開けるとわたしは緑のパーマでスーツの人の腕の中にいた。そうあの時もこんな風にわたしは抱き抱えられていてーーー
ーーードクン。
電波塔で友達とはぐれたわたしがどんぱちに巻き込まれ殺されかけた時、助け出してくれた初恋の人と似たこの人に目を奪われる。体が熱い、血流がドクドクとうるさいくらい活性化する。
あ、まずい。これはなってしまう。
☆☆☆
真島side
この国は平和だ。他国に比べて日本という国家は何十倍も安全な国……上部だけ見ればそう見える。けれど実際は国家に買われた身寄りのない犬どもーーーリコリスやリリベルによって犯罪者……いや犯罪者予備軍をAIによって犯罪を引き起こす前に未然に防がれ殺される。
それによって齎された自称クリーンな国という称号は清廉さなんてかけらもない血と硝煙によって積み上げられた強烈な殺菌効果のある塩素の白に覆われた黒……それが日本という国家の現状である。
何と為政者に都合の良いバランスの狂った国だろうか。それを俺は正す為再びこの国に戻ってきた。それには先ず邪魔な犬っころを始末する。その為の
それは成功した、成功したのだがーーー思った以上にリコリスの戦闘力は高かった。
次々にやられる仲間に撤退を余儀なくされる、しかしただではやられない。事前に仕掛けておいた爆弾を作動させて生き埋めにする。
地下鉄が完全に崩れ落ちる前に立ち去ろうとした俺の目に入ったのは呆然と立ち尽くすリコリスとは違う制服を着た少女だった。
別種の応援か? それにしては間抜けずらを晒しているから一般人か。思わぬ事に遭遇して頭がショートしたんだろうな。っとさっさとずらからねえと。
その時、女の頭上にコンクリートの塊が降り注ぐ、それを見た俺は女を抱えて飛び出した。
何も俺はコイツを助ける為に飛び込んだ訳じゃない。地下鉄の出口を塞がれる事を危惧しただけだ。その為にも出入り口に突っ立っていたコイツを退かした。結果コイツが助かったのは俺の意図した事じゃない。
抱きとめられたコイツは俺の顔を心ここに非ずといった様子で見ていた。これは惚れさせちまったか? だからといってこんなちんちくりんをどうこうする気はないんだが。
「あ、ありがとうございます。助けてくれてーーー」
「ッ」
なんだこれは……上目遣いで涙を滲ませながら感謝を述べるこの女に言い当てのない感情が湧き上がる。
俺はこの女のことを何が何でも守らなければならないーーーその為なら自分の命だって惜しくない。なんて俺が考える得る筈がない事を心の底から思う自分がいた。
それがどうも気持ち悪くて俺は抱きとめる手を離して距離を取る。
「あ……」
「ッ!」
まるで名残惜しく思ってるかのような声が漏れ、俺の裾を掴んで上目遣いで見つめる仕草にコイツはヤバいと俺の本能は警告を鳴らしていた。
時間が経つ度にコイツに向ける愛しさとかいう俺に残ってる筈のないものが呼び起こされて強くなっている。それがとても気持ち悪い。
一刻も早くコイツから離れなければ取り返しのつかない事になる。そう思ってるのに何故か出来ない。まるでコイツに捕まれたシャツの裾が縫い付けられたかのように動けない。
魔性の女、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。背も小さく、胸も真っ平ら、おおよそ男にとって魅力に映らない身体つきな筈なのにだ。
「ちっ、取り敢えず外に出るぞ。離れるなよ」
「うん……」
その証拠にほら離れるなとは言ったがゼロ距離じゃなくてもいいってのにコイツは馬鹿正直に俺の体へ密着して歩きやがる。男心を揺さぶる能力はわざとなのか天然なのか……まあ後者だろうな。こんなちんちくりんが男誑かしまくるなんて世も末もいいところだ。
太陽の光が差す。先にはキープアウトのテープが貼られていた。
やっぱり一般人が入らないように封鎖してやがる。コイツは多分俺らのすぐ後ろに続いたせいで、駅への入り口が封鎖される前に構内に入っちまった訳だ。不運な奴。
………そういや俺以外が生き残ったのは初めてだなーーーいや二回目か。あれは確か………
「あの……」
「ああ?」
「お名前……」
「あん? 名前?」
過去を振り返ろうとしたがコイツの呼びかけによって中断される。
「助けてくれた恩人のお名前が聞きたくて……あ、お名前を聞くときは先に名乗るのが礼儀ですよね? わたしは遠山かないです。遠くの山、後はひらがなで書いて遠山かないです」
「はっ、恩人、ね……」
そもそもの話オマエが巻き込まれた原因である俺に感謝するなんて、何も知らないというのはおめでたいもんだ。その矛盾がちゃんちゃら可笑しい。余りにも笑っちまうからーーー
「真島だ。
「真島……さん……」
俺の名前を心に留めるようにコイツ……かないは胸に手を置いてつぶやいた。
「真島さん……外に出たら一目散に逃げてください」
「あん? それってどういうーーーな!?」
テープを外して外に出るかないの後に俺は続く。すると次の瞬間リコリスらしき奴らの大群が俺たちに襲い掛かってきた。考えなかった訳ではない入り口は封鎖されたとはいえ見張りもいて、ついでに言うなら帰宅ラッシュなのだから地下鉄に続く場所に一般人がいない訳が無かった。だというのに所かまわず襲い掛かってきた事に慄く。
そして目の前の光景に目を疑った。どう見ても怪しい俺ではなく、リコリス全員がかないの方に飛び込んできたのだ。まるで俺の姿がアイツらには見えてないかのようだった。
それにかないを取り囲むリコリスどもの顔がどう見ても正気じゃない。凄く甘い蜜を出す花に釣られる蜜蜂の如く群がっている。
なんだこりゃ……そう思わずにはいられない。
これが国家転覆を起こしかねない重要人物遠山かないとテロリスト真島、二人の出逢いだった。