私のHSSが強力すぎて女の子にも効いちゃってるんだけど!? 作:緋弾リコリス
「ほらいつまでもしょぼくれた顔してないで笑顔笑顔! 接客の基本だよー?」
「うう……なんでこんな事に」
わたしは今、殺し屋さんの働く喫茶店でバイトする事になりました。昨日受ける予定だったバイトは結局駄目だったけど、捨てる神ありゃ拾う神ありって感じ! やったねかないちゃん! ………なんてなるか!?
政府の汚れ仕事を請け負う人達がいる中で笑顔になんてなれる筈がない。
どうしてこんなヒトデナシの巣窟で働く事になったのかを説明すると昨日まで遡る。
「だからわたしは偶々あそこに居合わせただけなんですって!」
「そんな虚言通る筈がないだろう。テロリストの主犯と思われる人物と一緒に出てきたと目撃者に報告を受けている」
「だからそれは偶然巻き込まれたわたしを助けてくれた恩人と一緒にいることは必然でーーー」
「話にならないな。相手はテロリスト、一般人を助けることなどする筈がない。仲間なんだろう? 主犯の居場所を吐け、そうすれば楽に死なせてやろう」
な、なんて横暴なおばさんなの!? こんなに必死に訴えかけてるのに! テロリストなんかよりあなた達の方がよっぽど冷徹で嫌な奴だよ!
いつものように取り囲んだ女子達の言い合いが喧嘩に発展しかけた時にヒステリアモードの効果が切れ、冷静さを取り戻した女の子達にわたしは連行された。
ヒステリア・サヴァン・シンドロームその頭文字をとってHSS。それがわたしを悩ます遠山家共通の体質だ。
わたしがヒステリアモードと呼んでいるそれは性的興奮によってβエンドルフィンが一定以上分泌されてうんたらかんたらして思考力・判断力・反射神経・視力・聴力などが通常の30倍にまで向上するーーー要するに映画俳優が演じるようなスーパーヒーローになれるらしい。
らしいというのはそうなれるのは遠山の男限定で、女は逆に
男なら「女を守るために強く」なり、逆に女なら「男が守りたくなるような女になり、男心をくすぐるような仕草をするようになる」。つまり男はより強くなるが、女は格段に弱くなってしまうのだ。
わたしはその中でもかなり特殊で同性もわたしのことを守って上げたいと思ってしまうっぽいのだ。それが原因でちょっと気になる子が出来てもちょっとしたことでヒステリアモードが発動し、女の子達がその男子を追っ払ってしまう。結果その光景を見た男子達はわたしに近づかなくなるといった具合だ。
ヒステリアモード発動、男と一緒に地下から出る、心配になった女の子が駆け寄ってくる。それがわたしの身に起こったこと。
なんで女の子だけが過干渉になるのかは不明。心配で周りが見えてなくて良かった、わたしが真島さんに声を掛けた日には女の子達がどんな行動に出るのか分からないから。その前にその場から居なくなってくれてよかったよ。
「黙秘……か。お前は自分が居場所を吐くまで殺されることはないと鷹を括っているようだが……」
わたしが考え混んでいた事をただ黙り込んでいたのだと勘違いをし、ペンチを取り出すおばさん。もしかして剝ぐ気!? そんなに歯茎を見せて剝ぐ気なの!? こんなに歯茎を見せてこの人本気だ!
「ほう……そんなに血相をかいて、ようやく自分の置かれた状況に恐怖を覚えたか」
そりゃそんなダブルミーニングをかまされたらね。わたしも身構えちゃうよ。これはとっておきをださざるを得ないようだね……
「放って逃走、一時退却法廷闘争!」
「やるか」
「はい」
「ちょっと待って!?」
わたしのとっておきのライムから一才の間もなくおばさんの命令によってペンチが親指にかけられた。淀みなさ過ぎでしょ!
「これはただ韻を踏むだけじゃなくて逃げる方の逃走と戦う方の闘争、放ってと法廷をかけたとてもクリティカルなもので」
「私はラップを披露しろとも解説を入れろとも言ってない。主犯の居場所を吐露しろと言っているんだ」
「む、またさり気なく韻踏んでるし、やるねおばさん。放ってと法廷はちょっと苦しかったのは認めるよ」
「……ふざけてるのか貴様」
はい、ふざけてます。人を人とも思わない、話もちゃんと聞こうとしない相手に対してまともに取り合うなとお父様はよくおっしゃっております故。
「もういい、お前を相手にしていると頭が痛くなる。やってしまえ」
「ほう……誰の目の前で何をやると言うんだ楠木」
「け、警視総監!?」
楠木? の命令で部下らしき人に拳銃を向けられるとわたしのいる取り調べ室らしき部屋に厳かな雰囲気の人物が入ってきた。
「あ、お父さん」
「お父さんだと!?」
クール気取った人が慌てふためく様は見ていて滑稽で愉しい。
そうこの人こそ警察官トップ中のトップで二児の子を持つ『遠山
☆☆☆
「お偉方の娘の姿も記憶せず益々危険に晒した挙句、犯人の仲間だと勘違いをするなどDAの所長ともあろうものが聞いて呆れるな」
「申し訳ございません……」
「謝る相手が違うだろう」
「ぐっ、申し訳ありませんでした」
年が一回りも二回りもしたの小娘に頭を下げるのってどんな気持ちって今めちゃくちゃ問いただしてみたい。けど先程の狼狽振りをみて溜飲が下がったので言わないでおく。
「ねぇお父さんDAって何?」
「簡単に言えば警察と別系統の治安維持部隊だ。政府と繋がりがあって事件を未然に防ぐ為にリコリスと呼ばれる抹殺部隊を派遣する組織がDAだ」
「へーつまり殺し屋を派遣する組織って事か………」
なんか納得。てか納得しかない。銃撃戦をしてた子達の制服と一瞬で取り囲んで連れてきた子達の制服おんなじだったし。
まあいいや、兎に角誤解は解けたようだし早く帰ろう。もう二度とこんな殺し屋集団に関わりたくない。
「それでどう責任を取るつもりだ。謝るだけで済む話ではない事は理解しているな?」
「勿論です。責任を持って警護にあたる所存です」
………いやな予感がする。二人の話だした内容がわたしに警報を鳴らしていた。
「生半可な奴には任せられんぞ」
「はい、弊社最強のリコリスに警護を任せましょう。そのリコリスに送り迎えと放課後はDA支部の喫茶店にバイトという形をとって警護というのはどうでしょう?」
「さーて、わたしバイトの面接があるんだった! もう合格は無理だと思うけど礼儀として謝りに行かなきゃ!」
こんな殺し屋の巣窟になんていられるか! わたしは一刻も早く帰らせてもらう!
山奥の吹雪が吹き荒れるコテージで殺人事件が起こり、一人引きこもる次殺される人物の気分でドアノブに手をかける。
「まあ待てかない」
「離してお父さん! どうせテロリストに顔を見られたわたしの警護をその人にさせるとかいうんでしょあり得ないから!」
「よく分かってるじゃないか。バイトという形だから給料も出るぞ? 良かったな、高校生になって念願のバイトが出来るじゃないか」
「ならお父さんの部下の人に警護を任せたらいいじゃん!」
なんでわざわざ殺し屋に警護を任せるってなるの!?
「大の大人が何人もお前に着くのはかないがいやだろう?」
「それは! そうだけど……じゃあお兄ちゃんは? お兄ちゃんなら童顔で違和感ないし、強いし!」
「残念ながらお兄ちゃんは明後日から海外出張だ。あと兄に対して地味に酷いな」
なにそれ初耳なんだけど!? わたし何も聞いてない!
「周囲に違和感なく、テロリストが警戒して襲ってこないようにするには女だけのリコリスが適任なんだ。男版のリコリス『リリベル』を付けるのもあるがそれは却って危険だ。そうだろう?」
「酷いよぉお兄ちゃん、妹のわたしにひと言ぐらいあってもいいじゃん……」
「聞いてないし……」
お父さんが何やら言ってるが思った以上にショックで聞き取れなかった。
☆☆☆
と言うわけで昨日は気疲れでお兄ちゃんを問い詰める前に寝てしまい、お兄ちゃんは朝も早いので起きた時にはもうおらず、学校へ行く準備をして玄関を出る。
「あ、おはよう! 君がかないちゃんだね! あたしは錦木千束、君の護衛を任せられたリコリスだよよろしくね!」
「……」
すると門前で自分たちの学生服を着た金髪ボブの女の子に出待ちをされていた。
いやいや昨日の今日で仕事早すぎぃ! 対応が早すぎて思わず過ぎて黙っちゃったよ。
それから挨拶も程々に並んで学校へ歩き出す。そこで色々質問をされた。何が好きだの放課後よく食べ歩くものとか家で何してるのか色々受け答えをしていくうちに人当たりの良さそうなのが窺える。
でも油断してはいけない、表面上はそう見えても殺し屋なのだから。
「かないさん……?」
「あ、里菜ちゃんおはよー」
後ろからわたしの名前を呼ぶ声が聞こえ振り返ると里菜ちゃんがわたしと隣の錦木さんを交互に見て訝しんでいる。まあそうだよね、今まで一緒にいた事ない知らない人とわたしが登校してるんだから。
「何々? かないちゃんのお友達?」
「はいまあ……」
「かないさん、隣の方は?」
なんて答えよう……わたしの護衛なんだって素直に答えて余計な心配かけたくないし。
「この人はーーー」
「かないちゃんが昨日面接した場所で働いてて、それで知り合ったんだよ! 偶然見かけたから一緒になったんだー」
「ああそうだったんですね。かないさん、ちゃんと面接場所行けたのですね」
「あはは……」
いえ、そのバイト面接には辿り着く事すら出来なかったとは今の状況で言えるはずもなく乾いた笑いになる。
「何々どういうこと?」
「実はかないさんは極度の方向音痴で、この間なんてあんなことがあって」
「何それヤバいね!」
「やめてよ里菜ちゃん、恥ずかしいからやめーて!」
わたしの恥ずかしいエピソードを暴露するのを必死に止めていると気がつけば学校にたどり着いて錦木さんと別れ、里菜ちゃんと一緒に教室入った。
「かないさん今日は一緒にーーー」
「ごめん里菜ちゃん、今日バイト初日なんだ」
「そうですか……」
「ホントごめんね! じゃあまた明日ね!」
「はいまた明日……」
わたしは里菜ちゃんに挨拶をした後、今朝錦木さんに小声で「放課後、校門前で待ってる」と言われたので下駄箱で下靴に履き替え、校門で待っている錦木さんと合流した。
「………」
教室の窓からその光景を見て歯痒い顔をしていた人物にわたしは気付くなどあり得る筈もなく、錦木さんが所属している喫茶『リコリコ』への道のりを案内され、店内に足を踏み入れるのだった。
遠山かない
高校一年生。誕生日は4月2日。
五つ上の兄がいる。ブラコン(よくベタベタするがあくまで兄妹愛)
母親のゆかりは既に他界。茨城県出身。