ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE 作:虎武士
ポケットモンスター……略して、ポケモン。
この世界には、ポケモンと呼ばれる不思議な生物が存在している。
大地、緑、海、そして大空に生息している。
その数は100……200……300、400、500、600、700……数知れず、多く存在しているのかも知れない。
人間とポケモンはお互い助け合い、時には共に競い合う事で友好関係を深めている。
そして、人は10歳になるとポケモンを受け取り、ポケモントレーナーとして旅立つ事を許される。
ポケモンブリーダー、ポケモンウォッチャー、ポケモンコーディネーター、ポケモンパフォーマー……目指す夢は人それぞれ、今日もポケモンと人間は仲良く暮らしている。
──だが、誰しもがポケモンと絆で結ばれているわけではない。
──怒り、憎しみ、妬み、悲しみ、苦しみ。
──喜び、笑い合い。
──互いにある友情、そして愛を育む。
──人間は勿論のこと、ポケモンにも感情はある。
そして善と悪、光と闇、相反する全ての事象の果てにあるのは──
これは──旅路を歩き続ける少年と仲間達の、最後の旅路の果てを記した──終幕の物語である。
──その少年は生まれながら、天性の才能を持ち合わせていた。
ポケモンの育成、バトルの技術、トレーナーとしての技能。
凡ゆる事に置いても、紛れもなく──本物の恵まれた天才だった。
だが、天才であるあまり──周囲から疎まれた。
学友、教師、更には両親からも──
ザァザァと窓から雨が降り続ける光景が見える、装飾された豪華な広間の中で少年両親と言っても片親は実父、母は義母である。実母は物心がつく前に亡くしており、彼は“ある感情“が欠如したまま育った。
鮮やかな黒髪、全てを飲み込むような黒色の瞳、その表情は────何もかも絶望させるかのような無表情を貫いていた。
「…今、何と言った…?」
信じられない、とばかりに彼は眉間を皺を寄せて目の前の両親を見据える。彼は両親と思っておらず、氷の如く冷たい眼差しを向ける。
実父は「何度でも言おう」と鼻で笑い、下卑た笑みを滲ませる。
「お前を追放してやると言ったのだ」
何故、と言う疑問など言うまでもない。
「私達はな、世間から認められた栄光ある者だ! なのにお前は何だ!? 下民の血が混ざった穀潰しではないか!」
「貴方は我が家の恥晒しよ……」
嘆かわしい、と額に手を添える母親。
「ポケモンなど我々にとって家畜も同然、私達を栄光に導く道具に過ぎない。貴様なぞ唯の足手纏いだ」
「……ッ!!」
ギリリと歯軋りを立て、眉間を更に険しくしていった。
「まぁ良い、これでやっと肩の荷がおりた気分だよ。学園にも退学届を既に出しておいた。さっさと出て行って野垂れ死ぬがいい、何処で死のうが構わんがな」
二人は揃って嘲笑を高らかに上げる。
この瞬間、彼の中で何かが崩れ去った音がした。
「……そうか……分かった」
「あぁそうだ、最後に言いたい事はないか?」
父親はニヤつきながら彼に問う。
すると彼は顔を上げて、今まで見せたことのない笑顔を浮かべた。
「ヒッ……!?」
「……!?」
ドス黒く、澱んだ濁りのある笑み──まるで人間のものとは思えない表情だった。
その証拠に歪んだ、禍々しくて黒いオーラが滲み出る。
これは一体何だ、二人は目の前の少年に言い表せない恐怖を覚えた。
夫婦は気付きもしなかった──自分達が
「……クク、クククク……」
ゆらりと立ち上がり、不気味に笑い声を上げる。
「クハハハハ、ハハハハハ…!」
「な……何が可笑しい」
「……なぁに、
「どういう、ことだ?」
少年はモンスターボールを出し、ボールが開口すると一体のポケモンが顕現する。
背中に四本の羽根を生え揃え、鎌のような両腕を持つライトグリーンの存在──ストライクだ。
「こういう事だ」
ストライクの腕の鎌が男性に向かって振り下される、同時に男性の腹部から赤い水飛沫が上がった。
「ぐああああ!」
「きゃああああ! あなたああ!」
血を流す夫に女性は悲鳴を上げる、直ぐさま近くにあった受話器に手を掛ける。
「だっ誰か! 誰か来て! 主人が──」
使用人を呼ぼうとした彼女だったが、それは突然の銃声と共に潰えた。
頭を撃ち抜かれ、女性はそのまま倒れる。
その場には赤い水溜りが出来上がった。
「ヒ、ヒイィィィィッ!!?」
床に伏せた妻の変わり果てた姿に男は悲鳴を上げて腰を抜かし、銃を構えて近付いてくる息子を畏れ逃げようとするも身体が動かない。
「前々から目障りだった…妾腹の子たる俺をこの家に迎えたと思えば私腹を肥やす為に利用し、その上で追放する…それなら構わない」
ストライクをボールに戻し、少年は男に右手を翳すと掌を中心にドス黒い光が収集していく。
「だが俺が最も許せんのは──母を死に追い遣った事、そしてこの世界の現実だ」
今まさにその光は、実父の命を奪わんとしようとしている。
「や、止め──」
「俺は──闇だ」
正義だの仲間だの信じる気など、少年には最早ない。
彼が信じるのは────
「どんな事があろうと、俺は鬼の道を往く」
黒い閃光は父親諸共屋敷を飲み込み、爆ぜた。
木材が崩れる音を背景にして、数多の悲鳴が響き渡る。
その炎は、多くの命をほんの一瞬で葬っていった。
冷たい豪雨の下、森の中で少年は大股で座した。
洋服は血で汚れ、どんな色だったのかも原形を留めていない。
自分の相棒もこの行為に賛同しており、自身も後戻り出来ない状況にあった。
そんな時だった。
「──こんな所にいると風邪を引いてしまうよ」
彼の運命が動き出したのは──
黒髪の…恐らく30代程の男性は持っていた傘を少年の真上に差し、彼と視線を合わせる為に屈み込む。
「…?」
「通りすがりのお節介と思って構わない…先程近くの町で放火事件が起ったと小耳に挟んだんだが──あれを起こしたのは、君か?」
目を大きく見開き、明らかに普通ではないこの男を見る。
「それも普通ではない力を使って引き起こした…カマを掛けてみたが、図星のようだね」
不敵に微笑み、男は少年に問い質す。
「私と来ないか」
意味が分からず、思わず首を傾げた。
「私は間違いだらけのこの世界に疑問を持っている。暴力、差別、怒り、憎しみ、妬み…理由はそれぞれだ。そんな世界を変えようと思わないか?」
その勧誘を断われる筈もない、答えは既に決まっている。
「今直ぐにとは言わない、考える時間は与え──」
「──俺が欲するのは、力だ」
静かな口調で語り掛け、黒紅色の瞳に意志が宿った気がする。
「何者にも脅かされぬ圧倒的な力…それを手にする為には、あんたからの勧誘は好都合且つ合理的だ」
「…もう後戻りは出来ないが、それでもいいんだね」
言われるまでもなく、彼は承諾した。
その後、この夜に起った放火事件は──
屋敷は全焼、死者は100名を越え、犯人も分からないままやがて闇に葬られた。
──たった一人の生存者を知らずに。
そして数年後、物語は始まりを告げる。